「出す薬」はどれだ?―機序で見抜く薬剤性便秘
第107回医師国家試験 H問題 第6問
国試問題にチャレンジ
便秘の原因となりにくいのはどれか。
- a.オピオイド
- b.抗コリン薬
- c.ラクツロース
- d.三環系抗うつ薬
- e.ドパミン作動薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
薬剤性便秘は、腸管の蠕動運動や腸液分泌を抑える薬で起こり、代表はオピオイド(μ受容体刺激)、抗コリン薬と抗コリン作用をもつ三環系抗うつ薬、ドパミン作動薬などのParkinson病治療薬です。オピオイドの便秘には耐性がつきにくいため、開始時から下剤を併用するのが原則です。一方、ラクツロースは非吸収性の合成二糖類で、大腸で有機酸に分解されて浸透圧性下剤として働き、主な副作用は下痢であるため便秘の原因にはなりにくく、腸内pH低下によるアンモニア吸収抑制から肝性脳症の治療にも用いられます。カルシウム拮抗薬や鉄剤なども含めて原因薬を機序で整理しておくと、便秘を訴える患者で下剤を追加する前に処方を見直すという臨床判断につながります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
薬剤性便秘の原因薬を問う問題である。便秘は、腸管の蠕動運動が弱まる、腸液分泌が減って便が硬くなる、といった機序で生じる。薬剤が便秘を起こす代表的な経路は次のとおりである。 ・腸管のμオピオイド受容体を刺激して蠕動と腸液分泌を抑える(オピオイド) ・ムスカリン受容体を遮断して副交感神経による腸管運動を抑える(抗コリン薬、および抗コリン作用をもつ薬:三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬など) ・ドパミン受容体刺激による消化管運動の抑制(ドパミン作動薬) このほか、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂、ビンカアルカロイド系抗癌薬なども便秘の原因として知られる。
正解を導く考え方
選択肢の中で一つだけ、逆に便を軟らかくする方向に働く薬剤が含まれている。ラクツロースは浸透圧性下剤として働き、主な副作用はむしろ下痢であるため、便秘の原因にはなりにくい。
選択肢考察
- ×a. オピオイド
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどのオピオイドは、腸管神経叢のμオピオイド受容体に作用して蠕動運動と腸液の分泌を抑え、肛門括約筋の緊張も高めるため、便秘を高率に起こす(オピオイド誘発性便秘症)。悪心・嘔吐や眠気と異なり、便秘には耐性がほとんどできず投与中は持続するため、オピオイド開始時から下剤を併用するのが原則である。末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンも治療薬として用いられる。なお、中止や減量に伴う退薬症状として下痢がみられることがある。その他の副作用には悪心・嘔吐、眠気、せん妄、呼吸抑制、依存などがある。
- ×b. 抗コリン薬
アセチルコリンは副交感神経の伝達物質であり、ムスカリン受容体を介して腸管の蠕動運動や腸液分泌を促進する。抗コリン薬はこれを遮断するため消化管運動が低下し、便秘をきたす。高齢者では麻痺性イレウスに至ることもある。ほかの抗コリン作用による副作用として、口渇、尿閉(特に前立腺肥大症の患者)、頻脈、散瞳による視調節障害、閉塞隅角緑内障の悪化、高齢者のせん妄・認知機能低下などがある。
- ○c. ラクツロース
ラクツロースはガラクトースとフルクトースからなる合成二糖類で、ヒトの小腸には分解酵素がないためほとんど吸収されずに大腸へ届く。大腸内で腸内細菌により乳酸・酢酸などの有機酸に分解され、浸透圧の作用で腸管内に水分を引き込むとともに、有機酸が腸管の蠕動を刺激する。このため便は軟らかくなり排便が促される。主な副作用は下痢、腹痛、腹部膨満、悪心などであり、便秘の原因にはなりにくい。したがって本問の正解である。
- ×d. 三環系抗うつ薬
アミトリプチリン、イミプラミンなどの三環系抗うつ薬は、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害に加え、ムスカリン受容体・ヒスタミンH1受容体・α1受容体の遮断作用を併せもつ。特に強い抗コリン作用により、便秘、口渇、尿閉、視調節障害などが生じやすい。その他、α1遮断による起立性低血圧、H1遮断による眠気、QT延長を含む心伝導障害などに注意が必要で、過量服薬では致死的不整脈を起こしうる。抗コリン作用が弱いSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが第一選択とされることが多いのはこのためである。
- ×e. ドパミン作動薬
Parkinson病などに用いられるドパミン作動薬(ドパミン受容体刺激薬やレボドパなど)は、消化管のドパミン受容体を介して消化管運動を抑制する方向に働き、便秘をきたしうる。Parkinson病自体も自律神経障害により便秘を起こしやすく、両者が重なって便秘が問題となることが多い。その他の副作用として、悪心・嘔吐、食欲不振、起立性低血圧、幻覚・妄想、ジスキネジア(不随意運動)、突発的睡眠、衝動制御障害などがある。また、急な中止により悪性症候群を起こすことがある。
ラクツロースの臨床的な使い方
・肝性脳症(高アンモニア血症):大腸内で生じた有機酸により腸内のpHが下がると、アンモニア(NH3)はイオン化したアンモニウムイオン(NH4+)となり吸収されにくくなる。また、酸性環境ではアンモニアを産生する腸内細菌の増殖が抑えられ、緩下作用で腸内容の排出も促される。これらにより血中アンモニア濃度を下げ、肝性脳症の治療・予防に用いられる。同様の目的でラクチトールや、腸管非吸収性抗菌薬のリファキシミンも使われる。 ・慢性便秘症:以前は便秘への使用は適応外とされていたが、現在では慢性便秘症を効能とするラクツロース製剤も承認されており、浸透圧性下剤の一つとして用いられている。
薬剤性便秘の主な原因薬
・オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、コデインなど) ・抗コリン作用をもつ薬(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、第一世代抗ヒスタミン薬、抗Parkinson病薬の一部など) ・Parkinson病治療薬(ドパミン作動薬など) ・カルシウム拮抗薬(特にベラパミル) ・鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂 ・ビンカアルカロイド(ビンクリスチンなど):自律神経障害による ・5-HT3受容体拮抗薬(制吐薬)
便秘薬の分類(主なもの)
・浸透圧性下剤:酸化マグネシウム、ラクツロース、ポリエチレングリコール ・刺激性下剤:センノシド、ピコスルファート ・上皮機能変容薬:ルビプロストン、リナクロチド ・胆汁酸トランスポーター阻害薬:エロビキシバット ・末梢性μオピオイド受容体拮抗薬:ナルデメジン(オピオイド誘発性便秘症)
POINT
・薬剤性便秘の代表:オピオイド、抗コリン薬、抗コリン作用をもつ薬(三環系抗うつ薬など)、ドパミン作動薬などのParkinson病治療薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤。 ・オピオイドの便秘には耐性がつきにくく、開始時から下剤を併用する。 ・ラクツロースは非吸収性の合成二糖類で、浸透圧性下剤として働く。副作用は下痢であり便秘の原因にはならない。 ・ラクツロースは腸内pHを下げてアンモニアの産生・吸収を抑え、肝性脳症の治療に用いられる。
