StudyMed医師国家試験

「出す薬」はどれだ?―機序で見抜く薬剤性便秘

第107回医師国家試験 H問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第6問

便秘の原因となりにくいのはどれか。

  1. a.オピオイド
  2. b.抗コリン薬
  3. c.ラクツロース
  4. d.三環系抗うつ薬
  5. e.ドパミン作動薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は薬剤性便秘の問題だよ。選択肢を一つずつ暗記で片づけるより、「腸の動きを止める薬」と「腸の動きを助ける薬」に分けて考えるのが着眼点だ。まず、便秘はどんな仕組みで起こると思う?
医学生医学生
腸の蠕動運動が弱くなるか、水分が吸われすぎて便が硬くなるか、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。蠕動の低下と腸液分泌の減少、この2つが主な経路だ。では、腸の蠕動を促しているのはどの自律神経かな。
医学生医学生
副交感神経です。生理学の講義で、アセチルコリンがムスカリン受容体を介して腸を動かすと習いました。
ドクタードクター
いいね。だから抗コリン薬はこのブレーキを踏むことになり、便秘を起こす。口渇、尿閉、散瞳による見えにくさ、閉塞隅角緑内障の悪化などとセットで覚えておこう。高齢者では麻痺性イレウスまで進むこともある。
医学生医学生
三環系抗うつ薬も便秘が多いと聞きますが、抗うつ薬なのにどうしてですか。
ドクタードクター
三環系はセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害に加えて、ムスカリン受容体、H1受容体、α1受容体まで遮断してしまう。特に抗コリン作用が強いから、便秘や口渇、尿閉が出やすいんだ。このため抗コリン作用の弱いSSRIなどが選ばれることが多い。
医学生医学生
オピオイドは緩和ケアの講義で「必ず下剤をセットで」と強調されていました。
ドクタードクター
そう、オピオイドは腸管神経叢のμオピオイド受容体に作用して蠕動と腸液分泌を抑えるので、便秘を高率に起こす。悪心や眠気には耐性ができやすいけれど、便秘にはほとんど耐性がつかない。だから開始時から下剤を併用するのが原則で、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンという選択肢もある。
医学生医学生
ドパミン作動薬も便秘の原因になるんですね。Parkinson病の治療薬という印象しかありませんでした。
ドクタードクター
ドパミン受容体刺激は消化管運動を抑える方向に働くんだ。しかもParkinson病自体が自律神経障害で便秘を起こしやすいから、両方が重なって便秘が大きな問題になる。神経内科の外来では、便秘の相談はとても多いよ。
医学生医学生
そうすると、残るラクツロースは逆に下剤側ということですか。肝性脳症の薬だと思っていました。
ドクタードクター
正解はラクツロースだ。ガラクトースとフルクトースからなる合成二糖類で、小腸には分解酵素がないため吸収されずに大腸へ届く。そこで腸内細菌が乳酸や酢酸などの有機酸に分解し、浸透圧で水分を腸管内に引き込み、蠕動も刺激する。主な副作用はむしろ下痢や腹部膨満なんだ。
医学生医学生
肝性脳症に効くのも、同じ有機酸の働きなんでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。腸内のpHが下がると、アンモニアはイオン化したアンモニウムイオンになって吸収されにくくなる。酸性環境ではアンモニア産生菌も増えにくく、緩下作用で腸内容の排出も進む。これで血中アンモニアを下げるわけだ。現在は慢性便秘症を効能とするラクツロース製剤も承認されていて、浸透圧性下剤の一つとして使われているよ。
医学生医学生
下剤と便秘の原因薬が並ぶと、機序で考えれば迷わないですね。ほかに便秘を起こす薬はありますか。
ドクタードクター
カルシウム拮抗薬、特にベラパミル、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂、ビンクリスチンのようなビンカアルカロイド、制吐薬の5-HT3受容体拮抗薬などがある。臨床では、高齢者が便秘を訴えたら、まずお薬手帳を確認して原因薬がないかを見る習慣をつけてほしい。下剤を足す前に、原因薬の減量や変更ができないか考えることが大切なんだ。
医学生医学生
病棟実習で、多剤併用の患者さんに下剤ばかり追加されていたのを思い出しました。原因から見直す視点が必要ですね。
ドクタードクター
その通り。便秘薬の分類も、浸透圧性下剤、刺激性下剤、上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬、と機序で整理しておくと、処方の場面で役に立つよ。

まとめ

薬剤性便秘は、腸管の蠕動運動や腸液分泌を抑える薬で起こり、代表はオピオイド(μ受容体刺激)、抗コリン薬と抗コリン作用をもつ三環系抗うつ薬、ドパミン作動薬などのParkinson病治療薬です。オピオイドの便秘には耐性がつきにくいため、開始時から下剤を併用するのが原則です。一方、ラクツロースは非吸収性の合成二糖類で、大腸で有機酸に分解されて浸透圧性下剤として働き、主な副作用は下痢であるため便秘の原因にはなりにくく、腸内pH低下によるアンモニア吸収抑制から肝性脳症の治療にも用いられます。カルシウム拮抗薬や鉄剤なども含めて原因薬を機序で整理しておくと、便秘を訴える患者で下剤を追加する前に処方を見直すという臨床判断につながります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

薬剤性便秘の原因薬を問う問題である。便秘は、腸管の蠕動運動が弱まる、腸液分泌が減って便が硬くなる、といった機序で生じる。薬剤が便秘を起こす代表的な経路は次のとおりである。 ・腸管のμオピオイド受容体を刺激して蠕動と腸液分泌を抑える(オピオイド) ・ムスカリン受容体を遮断して副交感神経による腸管運動を抑える(抗コリン薬、および抗コリン作用をもつ薬:三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬など) ・ドパミン受容体刺激による消化管運動の抑制(ドパミン作動薬) このほか、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂、ビンカアルカロイド系抗癌薬なども便秘の原因として知られる。

正解を導く考え方

選択肢の中で一つだけ、逆に便を軟らかくする方向に働く薬剤が含まれている。ラクツロースは浸透圧性下剤として働き、主な副作用はむしろ下痢であるため、便秘の原因にはなりにくい。

選択肢考察

  1. ×a.  オピオイド

    モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどのオピオイドは、腸管神経叢のμオピオイド受容体に作用して蠕動運動と腸液の分泌を抑え、肛門括約筋の緊張も高めるため、便秘を高率に起こす(オピオイド誘発性便秘症)。悪心・嘔吐や眠気と異なり、便秘には耐性がほとんどできず投与中は持続するため、オピオイド開始時から下剤を併用するのが原則である。末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンも治療薬として用いられる。なお、中止や減量に伴う退薬症状として下痢がみられることがある。その他の副作用には悪心・嘔吐、眠気、せん妄、呼吸抑制、依存などがある。

  2. ×b.  抗コリン薬

    アセチルコリンは副交感神経の伝達物質であり、ムスカリン受容体を介して腸管の蠕動運動や腸液分泌を促進する。抗コリン薬はこれを遮断するため消化管運動が低下し、便秘をきたす。高齢者では麻痺性イレウスに至ることもある。ほかの抗コリン作用による副作用として、口渇、尿閉(特に前立腺肥大症の患者)、頻脈、散瞳による視調節障害、閉塞隅角緑内障の悪化、高齢者のせん妄・認知機能低下などがある。

  3. ○c.  ラクツロース

    ラクツロースはガラクトースとフルクトースからなる合成二糖類で、ヒトの小腸には分解酵素がないためほとんど吸収されずに大腸へ届く。大腸内で腸内細菌により乳酸・酢酸などの有機酸に分解され、浸透圧の作用で腸管内に水分を引き込むとともに、有機酸が腸管の蠕動を刺激する。このため便は軟らかくなり排便が促される。主な副作用は下痢、腹痛、腹部膨満、悪心などであり、便秘の原因にはなりにくい。したがって本問の正解である。

  4. ×d.  三環系抗うつ薬

    アミトリプチリン、イミプラミンなどの三環系抗うつ薬は、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害に加え、ムスカリン受容体・ヒスタミンH1受容体・α1受容体の遮断作用を併せもつ。特に強い抗コリン作用により、便秘、口渇、尿閉、視調節障害などが生じやすい。その他、α1遮断による起立性低血圧、H1遮断による眠気、QT延長を含む心伝導障害などに注意が必要で、過量服薬では致死的不整脈を起こしうる。抗コリン作用が弱いSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが第一選択とされることが多いのはこのためである。

  5. ×e.  ドパミン作動薬

    Parkinson病などに用いられるドパミン作動薬(ドパミン受容体刺激薬やレボドパなど)は、消化管のドパミン受容体を介して消化管運動を抑制する方向に働き、便秘をきたしうる。Parkinson病自体も自律神経障害により便秘を起こしやすく、両者が重なって便秘が問題となることが多い。その他の副作用として、悪心・嘔吐、食欲不振、起立性低血圧、幻覚・妄想、ジスキネジア(不随意運動)、突発的睡眠、衝動制御障害などがある。また、急な中止により悪性症候群を起こすことがある。

ラクツロースの臨床的な使い方

・肝性脳症(高アンモニア血症):大腸内で生じた有機酸により腸内のpHが下がると、アンモニア(NH3)はイオン化したアンモニウムイオン(NH4+)となり吸収されにくくなる。また、酸性環境ではアンモニアを産生する腸内細菌の増殖が抑えられ、緩下作用で腸内容の排出も促される。これらにより血中アンモニア濃度を下げ、肝性脳症の治療・予防に用いられる。同様の目的でラクチトールや、腸管非吸収性抗菌薬のリファキシミンも使われる。 ・慢性便秘症:以前は便秘への使用は適応外とされていたが、現在では慢性便秘症を効能とするラクツロース製剤も承認されており、浸透圧性下剤の一つとして用いられている。

薬剤性便秘の主な原因薬

・オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、コデインなど) ・抗コリン作用をもつ薬(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、第一世代抗ヒスタミン薬、抗Parkinson病薬の一部など) ・Parkinson病治療薬(ドパミン作動薬など) ・カルシウム拮抗薬(特にベラパミル) ・鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂 ・ビンカアルカロイド(ビンクリスチンなど):自律神経障害による ・5-HT3受容体拮抗薬(制吐薬)

便秘薬の分類(主なもの)

・浸透圧性下剤:酸化マグネシウム、ラクツロース、ポリエチレングリコール ・刺激性下剤:センノシド、ピコスルファート ・上皮機能変容薬:ルビプロストン、リナクロチド ・胆汁酸トランスポーター阻害薬:エロビキシバット ・末梢性μオピオイド受容体拮抗薬:ナルデメジン(オピオイド誘発性便秘症)

POINT

・薬剤性便秘の代表:オピオイド、抗コリン薬、抗コリン作用をもつ薬(三環系抗うつ薬など)、ドパミン作動薬などのParkinson病治療薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤。 ・オピオイドの便秘には耐性がつきにくく、開始時から下剤を併用する。 ・ラクツロースは非吸収性の合成二糖類で、浸透圧性下剤として働く。副作用は下痢であり便秘の原因にはならない。 ・ラクツロースは腸内pHを下げてアンモニアの産生・吸収を抑え、肝性脳症の治療に用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。