座ったまま膝を胸へ―股関節屈曲の主役「腸腰筋」を徒手筋力テストで見抜く
第107回医師国家試験 H問題 第10問
国試問題にチャレンジ
徒手筋力テストの図を別に示す。矢印の方向に左下肢を動かしている。 主に働く筋はどれか。

- a.腹直筋
- b.腸腰筋
- c.中殿筋
- d.縫工筋
- e.大腿四頭筋
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
坐位で大腿を座面から持ち上げる徒手筋力テストは股関節屈曲の評価であり、その主動作筋は大腰筋と腸骨筋からなる腸腰筋です。腸腰筋は腰椎と腸骨窩から起こって大腿骨小転子に停止し、腰神経叢の枝と大腿神経(おおむねL1〜L3)の支配を受けます。大腿直筋や縫工筋も股関節屈曲を補助しますが、股関節が深く曲がった肢位では主役になりにくく、中殿筋は外転、大腿四頭筋は膝伸展、腹直筋は体幹前屈を担います。股関節の各運動とMMTの肢位、主動作筋を対応させて覚えておくと、神経障害の高位診断やpsoas signなど腹部の診察にも応用できます。
解答・解説
正解はbです
図の読み取り
図は、被検者が診察台の端に腰かけた坐位で、左大腿を座面から持ち上げる(膝を胸の方へ引き上げる)方向に動かしている様子である。すなわち股関節屈曲の筋力を評価する徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)の肢位である。検者は大腿遠位部の前面に抵抗を加え、被検者は体幹を安定させたまま大腿をさらに持ち上げるよう指示される。
考え方
股関節屈曲の主動作筋は、大腰筋と腸骨筋からなる腸腰筋である。大腿直筋や縫工筋、大腿筋膜張筋なども股関節屈曲を補助するが、坐位ですでに股関節が約90°屈曲した状態から、さらに大腿を持ち上げる(90°を超えて屈曲する)範囲では、これらの二関節筋・補助筋は十分な張力を発揮しにくく、腸腰筋が主役となる。したがって本図で主に働く筋は腸腰筋である。
解剖の要点
・大腰筋:第12胸椎〜第4腰椎の椎体側面および腰椎横突起から起こる。 ・腸骨筋:骨盤内面の腸骨窩から起こる。 ・両筋は合流して鼠径靱帯の下を通り、大腿骨の小転子に停止する。 ・支配神経は腰神経叢の枝および大腿神経(おおむねL1〜L3)である。
選択肢考察
- ×a. 腹直筋
腹直筋は恥骨(恥骨稜・恥骨結合)から起こり、第5〜7肋軟骨と剣状突起に停止する体幹の筋で、肋間神経(T7〜T12)の支配を受ける。体幹の前屈や腹圧の上昇に働くが、大腿骨には付着しないため股関節を動かすことはできない。図の運動の主動作筋ではない。
- ○b. 腸腰筋
腸腰筋は大腰筋(腰椎から起こる)と腸骨筋(腸骨窩から起こる)が合わさった筋で、ともに大腿骨小転子に停止する。股関節屈曲の主動作筋であり、坐位で大腿を座面からさらに持ち上げる図の運動で最も強く働く。よって正しい。
- ×c. 中殿筋
中殿筋は腸骨翼の外面から起こり大腿骨大転子に停止し、上殿神経(L4〜S1)の支配を受ける。主作用は股関節の外転で、立脚期に骨盤を水平に保つ役割がある(麻痺するとTrendelenburg徴候が陽性となる)。MMTでは側臥位で下肢を外転させて評価する筋であり、図の屈曲運動の主動作筋ではない。
- ×d. 縫工筋
縫工筋は上前腸骨棘から起こり、大腿前面を斜めに横切って脛骨粗面の内側(鵞足)に停止する、人体で最も長い筋である。大腿神経の支配で、股関節の屈曲・外転・外旋と膝関節の屈曲に働く。股関節屈曲では補助筋にとどまり、MMTでは坐位で踵を反対側の膝に乗せるような屈曲・外転・外旋の複合運動で評価する。図のような単純な大腿挙上の主動作筋ではない。
- ×e. 大腿四頭筋
大腿四頭筋は大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋の4頭からなり、大腿神経(L2〜L4)の支配で、合して膝蓋腱(膝蓋靱帯)を介し脛骨粗面に停止する。主作用は膝関節の伸展である。このうち大腿直筋のみが下前腸骨棘から起こる二関節筋で股関節屈曲も補助するが、股関節が深く屈曲した肢位では短縮して力を出しにくい。MMTでは坐位で下腿を伸ばす運動で評価する筋であり、図の運動の主動作筋ではない。
股関節の運動と主動作筋(MMTの肢位)
・屈曲:腸腰筋(坐位で大腿を持ち上げる) ・伸展:大殿筋・ハムストリングス(腹臥位で下肢を後方へ挙上する。大殿筋は膝屈曲位で単独評価) ・外転:中殿筋(側臥位で上側の下肢を持ち上げる) ・内転:大内転筋・長内転筋など(側臥位で下側の下肢を持ち上げる) ・屈曲・外転・外旋の複合:縫工筋
徒手筋力テストの段階
5(normal):強い抵抗に抗して全可動域を動かせる。 4(good):ある程度の抵抗に抗して全可動域を動かせる。 3(fair):重力に抗して全可動域を動かせるが、抵抗には抗せない。 2(poor):重力を除けば全可動域を動かせる。 1(trace):筋収縮は触知できるが関節運動はない。 0(zero):筋収縮もみられない。
腸腰筋の臨床的な関連事項
腸腰筋膿瘍や虫垂炎などで腸腰筋が刺激されると、股関節を伸展させたときに痛みが出る(腸腰筋徴候:psoas sign)。
POINT
・坐位で大腿を座面から持ち上げるMMTは股関節屈曲の検査であり、主動作筋は腸腰筋である。 ・腸腰筋=大腰筋+腸骨筋、ともに小転子に停止する。 ・縫工筋・大腿直筋は股関節屈曲の補助筋にすぎない。 ・中殿筋は外転、大腿四頭筋は膝伸展、腹直筋は体幹前屈の筋である。
