340の謎を解く―「2Na+血糖/18+BUN/2.8」の係数に込められた意味
第107回医師国家試験 E問題 第69問
国試問題にチャレンジ
意識障害がある患者の血液生化学所見を示す。 Na 150 mEq/L,血糖540 mg/dL,尿素窒素28 mg/dL。 この患者の血漿浸透圧の推定値を求めよ。 ただし,ブドウ糖の分子量は180であり,計算式におけるNaの係数は2とする。 解答:①②③ mOsm/kgH2O
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血漿浸透圧は「2×Na+血糖÷18+尿素窒素÷2.8」で推定でき、本問では300+30+10=340 mOsm/kgH2Oと、基準値(約275〜295)を大きく上回る高浸透圧状態です。Naを2倍するのは随伴する陰イオンを数えるため、18はブドウ糖の分子量180を単位換算したもの、2.8は尿素1分子中の窒素2原子分(28)を換算したもので、尿素の分子量60ではない点が要注意です。尿素は細胞膜を通過しやすいため、水の移動を左右する有効浸透圧(張度)は尿素を除いた「2×Na+血糖÷18」で評価し、本例のような高血糖・高Na血症・意識障害では高浸透圧高血糖状態を念頭に、緩徐な補正を伴う補液中心の治療を行います。実測値との差である浸透圧ギャップはアルコール類などの中毒を示唆するため、係数の意味まで理解しておくことが臨床での応用力につながります。
解答・解説
正解は340 mOsm/kgH2Oです
考え方
血漿浸透圧は、血漿1kgの水に溶けている粒子(溶質)の総数を表し、単位はmOsm/kgH2Oである。血漿中の溶質のほとんどは、Na+とそれに伴う陰イオン(Cl−、HCO3−など)、ブドウ糖、尿素で占められるため、これら3成分から浸透圧を推定できる。 推定式:血漿浸透圧 ≒ 2×Na(mEq/L)+ 血糖(mg/dL)÷18 + 尿素窒素(mg/dL)÷2.8
各項の意味
(1) Naの項(2×Na):Na+は電気的中性を保つために必ず同量の陰イオンを伴うため、Na濃度を2倍して陽イオンと陰イオンの粒子数を合わせて見積もる(K+などの影響はここにまとめて近似している)。Naは1価なので1mEq/L=1mmol/Lである。 (2) ブドウ糖の項(血糖÷18):血糖はmg/dLで測定される。mmol/Lに直すには、dLをLにするため10倍し、分子量180で割る。すなわち mg/dL ×10 ÷180 = mg/dL ÷18 となる。 (3) 尿素窒素の項(尿素窒素÷2.8):尿素窒素(BUN:blood urea nitrogen)は尿素そのものではなく、尿素に含まれる窒素の重さとして表した値である。尿素 CO(NH2)2 は1分子に窒素原子を2個含み、窒素の原子量は14なので、尿素1mmolあたりの窒素は28mgになる。したがって mg/dL ×10 ÷28 = mg/dL ÷2.8 でmmol/L(=尿素の粒子数)に換算できる。なお尿素そのものの分子量は60である。
計算過程
・Naの項:2 × 150 = 300 ・ブドウ糖の項:540 ÷ 18 = 30 ・尿素窒素の項:28 ÷ 2.8 = 10 ・合計:300 + 30 + 10 = 340 よって血漿浸透圧の推定値は 340 mOsm/kgH2O である。基準値(おおむね275〜295 mOsm/kgH2O)を大きく上回る高浸透圧状態である。
有効浸透圧(張度)
尿素は細胞膜を比較的自由に通過するため、細胞内外の水の移動にはほとんど関与しない。そこで、水の移動を起こす実質的な浸透圧として、尿素を除いた「有効浸透圧(張度)=2×Na+血糖÷18」が用いられる。本例では 300+30=330 mOsm/kgH2O となり、細胞内から細胞外への水の移動によって脳細胞が脱水状態に陥り、意識障害の原因となりうる。
高浸透圧高血糖状態(HHS:hyperosmolar hyperglycemic state)
主に高齢の2型糖尿病患者で、感染症、脱水、高カロリー輸液、ステロイドや利尿薬の使用などを契機に発症する。著しい高血糖(一般に600 mg/dL以上)、高浸透圧(有効浸透圧で320 mOsm/kgH2O以上が目安)、高度の脱水を呈し、ケトアシドーシスは軽度かみられない。浸透圧利尿による水分喪失がNa喪失を上回るため高Na血症を伴いやすく、意識障害やけいれん、片麻痺などの神経症状を呈する。治療は大量の生理食塩水による補液を中心に、インスリン持続静注、電解質(特にK)補正を行う。急激な血糖・浸透圧の低下は脳浮腫の危険があるため、緩徐に補正する。本例は高血糖・高Na血症・高浸透圧と意識障害を伴っており、HHSに近い病態が想定される。
浸透圧ギャップ
実測の血漿浸透圧(氷点降下法で測定)と計算値との差を浸透圧ギャップといい、通常は10 mOsm/kgH2O程度以内である。ギャップが大きい場合は、エタノール、メタノール、エチレングリコール、マンニトールなど、式に含まれない浸透圧物質の存在を疑う。
POINT
・血漿浸透圧 ≒ 2×Na + 血糖/18 + BUN/2.8(mOsm/kgH2O) ・18はブドウ糖の分子量180を10で割った値、2.8は尿素1分子中の窒素2原子分(14×2=28)を10で割った値。 ・基準値はおおむね275〜295 mOsm/kgH2O。 ・有効浸透圧(張度)は尿素を除いた 2×Na + 血糖/18 で、HHSでは320以上が目安となる。 ・本問:300+30+10=340 mOsm/kgH2O。
