狭くて硬い門ほど危ない―ヘルニア嵌頓のリスクは「出口の形」で決まる
第107回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
嵌頓しやすいのはどれか。
- a.大腿ヘルニア
- b.内鼠径ヘルニア
- c.乳児臍ヘルニア
- d.腹壁瘢痕ヘルニア
- e.Morgagni孔ヘルニア
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ヘルニアの嵌頓のしやすさは、ヘルニア門の大きさと硬さで決まり、狭く伸びにくい門ほど脱出した腸管が戻れなくなって嵌頓しやすくなります。大腿ヘルニアは鼠径靱帯、Cooper靱帯、裂孔靱帯、大腿静脈に囲まれた狭く硬い大腿輪から脱出するため最も嵌頓しやすく、やせた高齢女性に多いことから、発見したら待機的にでも手術を勧めます。門が広い内鼠径ヘルニアや腹壁瘢痕ヘルニア、自然閉鎖が期待できる乳児臍ヘルニア、大網の脱出が多いMorgagni孔ヘルニアは嵌頓しにくい一方、閉鎖孔ヘルニアは大腿ヘルニアと同様に嵌頓しやすく、Howship-Romberg徴候が手がかりになります。嵌頓は静脈還流障害から動脈血流途絶、腸管壊死へと進むため、壊死所見の有無で用手還納か緊急手術かを判断します。門の解剖から嵌頓リスクを推論する視点は、高齢者の腸閉塞を見逃さない臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はaです
嵌頓とは
ヘルニアとは、臓器や組織が本来の位置から、腹壁などの弱い部分(ヘルニア門)を通って外へ脱出した状態である。脱出した内容(ヘルニア内容)が門で締め付けられて腹腔内に戻らなくなった状態を嵌頓という。締め付けが続くと静脈還流が障害されて浮腫が進み、さらに動脈血流も途絶えて腸管の壊死(絞扼)に至るため、緊急手術の対象となる。
嵌頓のしやすさを決める要因
嵌頓のしやすさは主にヘルニア門の大きさと硬さで決まる。 ・門が小さく、周囲が靱帯や骨などの伸びにくい構造で囲まれている → 腸管は入り込めても戻りにくく、嵌頓しやすい。 ・門が大きい → 腸管が自由に出入りでき、嵌頓しにくい。 ・門が非常に小さい、あるいは脱出するのが腸管ではなく大網などである → 腸管自体が入り込みにくく、嵌頓は少ない。 この考え方で各選択肢のヘルニア門の性状を思い浮かべると、狭く硬い大腿輪を門とする大腿ヘルニアが最も嵌頓しやすいと判断できる。
選択肢考察
- ○a. 大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下方、大腿静脈の内側にある大腿輪から大腿管を通って脱出するヘルニアである。大腿輪は前方を鼠径靱帯、後方を恥骨筋膜・Cooper靱帯(恥骨櫛靱帯)、内側を裂孔靱帯、外側を大腿静脈に囲まれた狭く硬い門であり、ほとんど伸展しない。そのため脱出した腸管が戻りにくく、鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓を起こしやすい。やせた高齢女性(特に経産婦)に多く、診断時にすでに嵌頓していることも少なくないため、発見したら待機的にでも手術を勧める。
- ×b. 内鼠径ヘルニア
内鼠径ヘルニアは、下腹壁動静脈の内側にある鼠径管後壁(Hesselbach三角)の脆弱化により、腹壁を直接押し出すように膨隆するヘルニアである。中高年男性に多い。ヘルニア門が広く浅いことが多いため脱出した内容は容易に還納し、嵌頓は起こしにくい。なお鼠径ヘルニアのうち嵌頓しやすいのは、内鼠径輪という比較的狭い門を通る外鼠径ヘルニアのほうである。
- ×c. 乳児臍ヘルニア
乳児臍ヘルニア(いわゆる「でべそ」)は、出生後に臍輪(臍帯が通っていた孔)の閉鎖が不完全なために生じる。泣いたりいきんだりすると膨らむが、軟らかく容易に還納し、嵌頓はまれである。多くは1〜2歳ごろまでに臍輪が自然に閉じて治癒するため、基本は経過観察(施設により圧迫療法)とし、自然閉鎖しない例に手術を検討する。
- ×d. 腹壁瘢痕ヘルニア
腹壁瘢痕ヘルニアは開腹手術の創部で筋膜の癒合が不十分となった部分から生じる。創感染、肥満、低栄養、ステロイド使用などが危険因子である。ヘルニア門は大きいことが多く、内容は容易に出入りするため、一般に嵌頓は起こしにくい。ただし門が小さい例や、内容が門の周囲で癒着している例では嵌頓することがある。
- ×e. Morgagni孔ヘルニア
Morgagni孔ヘルニアは、横隔膜の胸骨後方(前方正中付近)にある胸肋三角の欠損部から、腹腔内容が胸腔側へ脱出する先天性横隔膜ヘルニアで、右側に多い。脱出するのは大網が多く、横行結腸などが含まれることもあるが、無症状で胸部X線写真により偶然発見されることが多い。嵌頓はまれである。
鼠径部ヘルニアの比較
・外鼠径ヘルニア(間接型): 内鼠径輪から鼠径管を通って脱出する。下腹壁動静脈の外側。小児(腹膜鞘状突起の開存)と成人男性に多い。鼠径部ヘルニアで最も頻度が高い。嵌頓も起こりうる。 ・内鼠径ヘルニア(直接型): Hesselbach三角から直接脱出する。下腹壁動静脈の内側。中高年男性。嵌頓しにくい。 ・大腿ヘルニア: 大腿輪から脱出する。鼠径靱帯の下方。高齢女性。嵌頓しやすい。
その他の嵌頓しやすいヘルニア
閉鎖孔ヘルニアも、骨盤の閉鎖孔という狭く硬い門を通るため嵌頓しやすい。やせた高齢の経産婦に多く、閉鎖神経の圧迫による大腿内側から膝への放散痛(Howship-Romberg徴候)が特徴である。外から膨隆が見えにくく、原因不明の腸閉塞としてCTで診断されることが多い。
嵌頓時の対応
発症から時間が短く、腸管壊死を疑う所見(腹膜刺激症状、発赤、発熱、血液検査での炎症反応上昇やアシドーシスなど)がなければ用手還納を試みることがある。壊死が疑われる場合や還納できない場合は緊急手術とし、壊死腸管があれば切除する。
横隔膜ヘルニアの比較
・Bochdalek孔ヘルニア: 横隔膜の後外側(左側に多い)。新生児期に肺低形成と呼吸不全で発症することが多い。 ・Morgagni孔ヘルニア: 胸骨後方の前方正中付近(右側に多い)。成人で偶然発見されることが多い。
POINT
・嵌頓のしやすさはヘルニア門の大きさと硬さで決まる。狭く硬い門ほど嵌頓しやすい。 ・大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下、大腿静脈の内側の大腿輪から脱出し、高齢女性に多く、嵌頓しやすい。 ・閉鎖孔ヘルニアも嵌頓しやすい(やせた高齢女性、Howship-Romberg徴候)。 ・内鼠径ヘルニアと腹壁瘢痕ヘルニアは門が広く、嵌頓しにくい。 ・乳児臍ヘルニアは嵌頓がまれで、多くは自然治癒する。
