StudyMed医師国家試験

たばこが「悪者」にならない病気―潰瘍性大腸炎に見る喫煙の逆相関

第107回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第12問

喫煙によって発症のリスクが増大しない疾患はどれか。

  1. a.大動脈瘤
  2. b.冠動脈疾患
  3. c.潰瘍性大腸炎
  4. d.閉塞性動脈硬化症
  5. e.慢性閉塞性肺疾患

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、喫煙によって発症リスクが増えない疾患を選ぶ問題だ。喫煙は数多くの病気の危険因子だけれど、疫学的に喫煙者のほうがむしろ発症が少ないという例外がいくつか知られている。その例外を知っているかどうかが問われているんだ。
医学生医学生
たばこは何でも悪くするイメージがあるので、「増えない」と言われると少し戸惑います。
ドクタードクター
そう感じるのが自然だね。まずは選択肢をグループ分けして考えよう。大動脈瘤、冠動脈疾患、閉塞性動脈硬化症の3つに共通するものは何かな。
医学生医学生
どれも動脈硬化が土台にある病気です。喫煙は動脈硬化の危険因子なので、全部リスクが上がると思います。
ドクタードクター
その通り。喫煙は血管内皮障害、酸化ストレス、LDLの酸化、HDLの低下、血小板の活性化などを通じて動脈硬化を進める。冠動脈疾患では喫煙者のリスクは非喫煙者の2倍以上とされ、受動喫煙でも上がる。さらに冠攣縮や血栓形成を起こしやすくして急性冠症候群の引き金にもなるんだ。
医学生医学生
大動脈瘤は高血圧のイメージが強かったんですが、喫煙も関係が深いんですか。
ドクタードクター
実は腹部大動脈瘤は喫煙との関連が特に強くて、高血圧や糖尿病以上に強く関連するという報告もあるほどだ。発生だけでなく、瘤の拡大や破裂のリスクも高める。だから欧米では喫煙歴のある高齢男性に腹部エコーでのスクリーニングが推奨されているよ。
医学生医学生
閉塞性動脈硬化症は、心臓血管外科の実習で間欠性跛行の患者さんを診たとき、まず禁煙を指導されていました。
ドクタードクター
よく見ているね。下肢の末梢動脈疾患では喫煙と糖尿病が特に強い危険因子で、禁煙は治療の基本だ。症状の進行や下肢切断のリスクを減らす。若年男性喫煙者に多い閉塞性血栓血管炎、いわゆるBuerger病も喫煙との関連が極めて強いので、合わせて覚えておこう。
医学生医学生
慢性閉塞性肺疾患は、もう喫煙そのものが原因と言っていいくらいですよね。
ドクタードクター
そう、患者の大多数が喫煙者で、喫煙は最大の危険因子だ。たばこ煙による気道や肺胞の慢性炎症が本態で、禁煙は1秒量の低下速度を抑える最も有効な介入とされている。ここまでで4つが喫煙で増える疾患だと分かった。残るのが潰瘍性大腸炎だ。
医学生医学生
炎症性腸疾患は喫煙で悪化すると覚えていた気がするんですが……。
ドクタードクター
そこが混同しやすいポイントだ。喫煙で発症・再燃・術後再発が増えるのはCrohn病のほう。潰瘍性大腸炎は逆で、喫煙者では発症リスクが低く、禁煙した元喫煙者でかえって発症リスクが高いことが疫学的に示されている。禁煙後に発症したり再燃したりする例も報告されているんだ。
医学生医学生
同じ炎症性腸疾患なのに、喫煙との関係が正反対なんですね。CBTの勉強のときに区別できていませんでした。
ドクタードクター
機序は完全には分かっていないけれど、ニコチンによる腸管粘液産生の増加や免疫調節作用などが推定されていて、ニコチン製剤の治療効果を検討した研究もある。ただし、喫煙はCrohn病や心血管疾患、悪性腫瘍のリスクを高めるから、潰瘍性大腸炎の患者さんに喫煙を勧めることは決してない。そこは誤解しないでほしい。
医学生医学生
あくまで疫学上の逆相関であって、たばこが体に良いという意味ではないということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、喫煙者で発症が少ないとされる疾患をまとめておこう。潰瘍性大腸炎のほかに、夏型過敏性肺炎などの過敏性肺炎、サルコイドーシス、Parkinson病、そしてエストロゲン作用の低下と関連して子宮内膜症や子宮体癌が挙げられる。
医学生医学生
逆に喫煙で増える病気も、肺癌や膀胱癌、消化性潰瘍、骨粗鬆症、歯周病と幅広いですよね。
ドクタードクター
そうだね。妊娠中なら早産や低出生体重児、常位胎盤早期剥離のリスクも上がる。国試では「増える疾患」と「例外的に少ない疾患」の両方が問われるから、例外側のリストを短く確実に覚えておくのが効率的だ。臨床では、潰瘍性大腸炎の既往がある人が禁煙を始めたら、症状の変化に少し気を配っておくといいね。

まとめ

喫煙は動脈硬化を促進するため、冠動脈疾患、大動脈瘤(特に腹部大動脈瘤)、閉塞性動脈硬化症の確立した危険因子であり、慢性閉塞性肺疾患では最大の危険因子です。一方、潰瘍性大腸炎は喫煙者で発症が少なく、禁煙後に発症・再燃が増えるという逆相関を示す代表的疾患で、喫煙が発症・再燃の危険因子となるCrohn病とは方向が正反対です。喫煙者で少ない疾患としては、ほかに過敏性肺炎、サルコイドーシス、Parkinson病、子宮内膜症なども知られています。これらはあくまで疫学的な関連であり、喫煙が全体として健康を大きく損なう事実は変わらないため、例外を正しく理解したうえで禁煙指導を行う姿勢が重要です。

解答・解説

正解はcです

喫煙は多くの疾患の危険因子であり、「喫煙で増える疾患」を問う問題は頻出である。一方で、疫学的に喫煙者のほうがむしろ発症が少ないという例外的な疾患がいくつか知られており、本問はその代表である潰瘍性大腸炎を選ばせる問題である。 整理のしかたとして、選択肢を次の2群に分けて考えるとよい。 ・動脈硬化性疾患:大動脈瘤、冠動脈疾患、閉塞性動脈硬化症。喫煙は血管内皮障害、酸化ストレス、血小板活性化、LDLの酸化、HDLの低下などを通じて動脈硬化を促進する。 ・呼吸器疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD)。たばこ煙の吸入による気道・肺胞の慢性炎症が本態である。 これらはいずれも喫煙が確立した危険因子である。残る潰瘍性大腸炎は、喫煙者で発症リスクが低く、禁煙後にかえって発症・再燃が増えることが報告されている「逆相関」の疾患である。同じ炎症性腸疾患でもCrohn病では喫煙が発症・再燃・術後再発の危険因子となり、両者で方向が逆である点が重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  大動脈瘤

    大動脈瘤の主因は動脈硬化であり、喫煙、高血圧、脂質異常症、加齢、男性、家族歴が危険因子となる。特に腹部大動脈瘤では喫煙との関連が非常に強く、高血圧や糖尿病以上に強く関連するという報告もある。喫煙は瘤の発生だけでなく拡大速度や破裂リスクも高める。欧米では喫煙歴のある高齢男性を対象に腹部エコーによるスクリーニングが推奨されている。喫煙でリスクが増大する疾患であり、誤りである。

  2. ×b.  冠動脈疾患

    狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患は、喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病、加齢、男性、家族歴、肥満などが危険因子である。喫煙者の冠動脈疾患リスクは非喫煙者の2倍以上とされ、受動喫煙でもリスクは上昇する。喫煙は動脈硬化を促進するほか、冠攣縮の誘発や血栓形成傾向(血小板凝集亢進)を通じて急性冠症候群を起こしやすくする。喫煙でリスクが増大する疾患であり、誤りである。

  3. ○c.  潰瘍性大腸炎

    潰瘍性大腸炎は、喫煙者で発症リスクが低く、元喫煙者(禁煙した人)で発症リスクが高いことが疫学的に示されている。喫煙者が禁煙した後に発症・再燃する例も報告されている。機序は完全には解明されていないが、ニコチンによる腸管粘液産生の増加や免疫調節作用などが推定されており、ニコチン製剤の治療効果を検討した研究もある。したがって「喫煙で発症リスクが増大しない疾患」に該当する。ただし喫煙はCrohn病、心血管疾患、悪性腫瘍などのリスクを高めるため、潰瘍性大腸炎の患者に喫煙を勧めることはない。

  4. ×d.  閉塞性動脈硬化症

    閉塞性動脈硬化症(ASO、現在は末梢動脈疾患〈PAD〉と呼ばれることが多い)は、主に下肢の動脈が動脈硬化で狭窄・閉塞し、間欠性跛行などを起こす疾患である。50歳以上の男性に多く、喫煙と糖尿病が特に強い危険因子である。禁煙は治療の基本であり、症状の進行や下肢切断のリスクを減らす。喫煙でリスクが増大する疾患であり、誤りである。なお若年男性喫煙者に多い閉塞性血栓血管炎(Buerger病)も喫煙との関連が極めて強い。

  5. ×e.  慢性閉塞性肺疾患

    慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、たばこ煙を主とする有害物質の長期吸入による肺の炎症性疾患で、不可逆的な気流閉塞を示す。患者の大多数(90%以上とされる)が喫煙者であり、喫煙は最大の危険因子である。禁煙は呼吸機能(1秒量)の低下速度を抑える最も有効な介入である。喫煙でリスクが増大する疾患であり、誤りである。

喫煙が危険因子となる主な疾患

・悪性腫瘍:肺癌(特に扁平上皮癌・小細胞癌)、喉頭癌、口腔・咽頭癌、食道癌(扁平上皮癌)、胃癌、膵癌、肝癌、膀胱癌、腎盂・尿管癌、子宮頸癌など ・循環器疾患:冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎(Buerger病) ・呼吸器疾患:COPD、気胸、特発性肺線維症、Langerhans細胞組織球症、剥離性間質性肺炎 ・消化器疾患:Crohn病、消化性潰瘍 ・その他:2型糖尿病、骨粗鬆症、歯周病、妊娠時の早産・低出生体重児・常位胎盤早期剥離

喫煙者で発症が少ないとされる疾患

・潰瘍性大腸炎 ・過敏性肺炎(夏型過敏性肺炎など) ・サルコイドーシス ・Parkinson病 ・子宮内膜症・子宮体癌(エストロゲン作用の低下による) これらは疫学的な逆相関であり、喫煙が総合的に健康に悪影響を与えることに変わりはない。

潰瘍性大腸炎とCrohn病の比較

潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に口側へ広がる大腸粘膜の炎症で、血便・下痢を主症状とする。Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも非連続性(skip lesion)に全層性炎症を起こす。喫煙との関係は、潰瘍性大腸炎では発症予防的、Crohn病では増悪因子と正反対である。

POINT

・喫煙で発症リスクが「低下」する代表的疾患は潰瘍性大腸炎である(禁煙後に発症・再燃することがある)。 ・Crohn病は逆に喫煙が危険因子であり、区別して覚える。 ・動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症)とCOPDは喫煙が主要な危険因子である。 ・喫煙者で少ない疾患として、過敏性肺炎、サルコイドーシス、Parkinson病、子宮内膜症なども押さえておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。