薬剤師は処方箋を書けるか―脳卒中チーム医療で問われる「業務範囲」と「医師の指示」
第107回医師国家試験 C問題 第24問
国試問題にチャレンジ
76歳の女性。急に発症した左上下肢の麻痺を主訴に救急外来を受診した。医師の指示により,看護師が静脈路を確保した(①)。初診時の診察で脳卒中が疑われたため,医師の指示により,診療放射線技師が頭部単純MRIを撮影し(②),医師が右中大脳動脈領域の脳梗塞と診断し入院させた。その後,薬物療法とリハビリテーションにより患者は順調に回復していったが,嚥下機能に問題を認めたため,医師の指示により,言語聴覚士による嚥下訓練(③)と管理栄養士による食事形態の調節(④)とが追加された。入院中,患者が不眠を訴えたため,過去に交付された処方箋を参照して,薬剤師が睡眠導入薬の処方箋を交付し(⑤),患者への投薬が行われた。 下線部のそれぞれの医療専門職の行為として適切でないのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療専門職の行為の適否は、その行為が各資格法で定められた業務範囲に含まれるか、医師の指示(または指導)が必要な行為にその指示があるかの2点で判断します。看護師の静脈路確保、診療放射線技師のMRI撮影、言語聴覚士の嚥下訓練はいずれも医師の指示のもとで行える診療の補助であり、管理栄養士による傷病者の栄養指導・食形態の調整も主治医の指導のもとで行えます。一方、処方箋を交付できるのは医師・歯科医師・獣医師に限られ、薬剤師の役割は処方箋に基づく調剤と疑義照会であって、過去の処方箋を参照しても自ら処方箋を交付することは認められません。医薬分業による二重チェックや無診察治療の禁止の意味を理解しておくことは、法規問題への対応だけでなく、安全なチーム医療を実践するうえでも重要です。
解答・解説
正解はeです
症例の流れ
76歳女性が突然の左上下肢麻痺で救急搬送され、頭部MRIで右中大脳動脈領域の脳梗塞と診断されて入院した。薬物療法とリハビリテーションで回復に向かう途中、嚥下障害に対する訓練と食形態の調整が加わり、さらに不眠に対して睡眠導入薬が投与されている。脳卒中診療ではこのように多職種がチームとして関わるが、各職種が行える業務の範囲は、それぞれの資格法(身分法)で定められている。
考え方
本問は医学的判断ではなく、各医療専門職の業務範囲を問う法規の問題である。確認すべき点は次の2つである。 (1) その行為が、その職種の法律上の業務範囲に含まれるか。 (2) 医師の指示(または指導)のもとで行うことが求められている行為の場合、その指示があるか。 ①〜④はいずれも「医師の指示により」と明記され、しかも各職種の業務範囲に入る行為である。一方、⑤は薬剤師が自分の判断で処方箋を交付している。処方箋を交付できるのは医師(および歯科医師、獣医師)だけであり、薬剤師の業務はその処方箋にもとづく「調剤」である。過去に交付された処方箋を参考にしたとしても、新しい処方箋を薬剤師が作成・交付することは認められない。したがって⑤が適切でない。
選択肢考察
- ×a. ①
適切な行為である。静脈路の確保(末梢静脈への留置針の挿入)は、保健師助産師看護師法でいう「診療の補助」にあたる。同法第37条は、医師の指示がない限り、医師が行わなければ衛生上危害を生じるおそれのある行為を看護師がしてはならないとしている。逆にいえば、医師の指示があれば看護師は静脈路確保や静脈注射を行える。かつては静脈注射は看護師の業務範囲外とする行政解釈があったが、2002年の通知で診療の補助の範囲内と改められている。本例は医師の指示にもとづいており問題ない。
- ×b. ②
適切な行為である。診療放射線技師法では、診療放射線技師は医師または歯科医師の指示のもとで放射線を人体に照射すること(X線撮影やCTなど)を業とする。さらに1993年(平成5年)の法改正により、診療の補助として、医師・歯科医師の指示のもとで磁気共鳴画像診断装置(MRI)、超音波診断装置、眼底写真撮影装置(散瞳薬を投与した人を撮影するものを除く)を用いた検査も行えるようになった。MRIは放射線を使わない検査であるが、この規定によって診療放射線技師が撮影できる。本例は医師の指示による単純MRIであり問題ない。
- ×c. ③
適切な行為である。言語聴覚士法第42条は、言語聴覚士が診療の補助として、医師または歯科医師の指示のもとで嚥下訓練、人工内耳の調整などを行えると定めている。嚥下訓練は本来、看護師などに限られる診療の補助行為であるが、同条によって保健師助産師看護師法の規定にかかわらず言語聴覚士にも認められている。脳梗塞後の嚥下障害(口腔期・咽頭期の障害)に対して言語聴覚士が間接訓練(食物を用いない訓練)や直接訓練(実際に食物を用いる訓練)を行うのは標準的な対応である。
- ×d. ④
適切な行為である。管理栄養士は、傷病者の療養に必要な栄養指導や、個人の身体状況・栄養状態に応じた高度な専門知識を要する給食管理などを行う資格である。栄養士法第5条の5は、傷病者の療養のための栄養指導を行う際には主治医の指導を受けなければならないと定めている。本例では医師の指示のもとで、嚥下機能に合わせて食形態(とろみ付け、ペースト食、きざみ食など)を調節しており、業務範囲に含まれる。
- ○e. ⑤
適切でない行為であり、これが正解である。処方箋の交付は医師(歯科医師、獣医師)にしか認められていない。医師法第22条は、治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合に、医師が患者等に処方箋を交付しなければならないと定めている。一方、薬剤師法第23条は、薬剤師は医師・歯科医師・獣医師の処方箋によらなければ販売・授与の目的で調剤してはならないと定めており、薬剤師の役割は処方箋にもとづく調剤と、処方内容に疑問があるときの疑義照会(同法第24条)である。過去の処方箋を参照しても、それは新たな処方の根拠にはならない。不眠を訴える患者に対しては、医師が診察して原因(疼痛、夜間頻尿、せん妄、抑うつなど)を評価したうえで処方を判断すべきである。なお、①〜④に「医師の指示により」とあるのに対し、⑤だけにはその記載がない点も手がかりとなる。
主な医療専門職と医師の関与
・看護師:療養上の世話と診療の補助。診療の補助は医師の指示が必要(保健師助産師看護師法)。 ・診療放射線技師:医師・歯科医師の指示のもとで放射線照射、MRI・超音波・眼底写真撮影などの検査を行う(診療放射線技師法)。 ・臨床検査技師:医師・歯科医師の指示のもとで検体検査や一部の生理学的検査を行う。 ・理学療法士・作業療法士:医師の指示のもとで理学療法・作業療法を行う。 ・言語聴覚士:言語・聴覚・嚥下の訓練を行い、嚥下訓練や人工内耳の調整は医師・歯科医師の指示のもとで行う。 ・管理栄養士:傷病者の栄養指導は主治医の指導を受けて行う。 ・薬剤師:処方箋にもとづく調剤、服薬指導、疑義照会を行う。処方箋は交付できない。
処方と調剤の分担(医薬分業)
医師が診察にもとづいて「処方」し(処方箋の交付)、薬剤師がそれを確認して「調剤」する。処方と調剤を別の専門職が担うことで、重複投与・相互作用・用量誤りなどを二重にチェックできる。2022年から導入されたリフィル処方箋(一定期間内に同じ処方箋で繰り返し調剤を受けられる仕組み)も医師が交付するものであり、薬剤師が処方を行うわけではない。また、医師法第20条により、医師は自ら診察しないで治療をしたり処方箋を交付したりしてはならない(無診察治療の禁止)。
脳卒中診療のチーム医療
急性期には医師・看護師・診療放射線技師などが迅速な診断と治療にあたり、回復期には理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士・医療ソーシャルワーカーなどが関わって、機能回復と誤嚥性肺炎の予防、社会復帰を支援する。
POINT
・処方箋を交付できるのは医師・歯科医師・獣医師のみで、薬剤師は処方箋にもとづいて調剤する。 ・看護師の静脈路確保、診療放射線技師のMRI撮影、言語聴覚士の嚥下訓練は、いずれも医師の指示があれば行える。 ・管理栄養士による傷病者の栄養指導は主治医の指導を受けて行う。 ・多職種の業務は「その職種の業務範囲か」「医師の指示があるか」の2点で判断する。
