StudyMed医師国家試験

訓練室の外にゴールがある―頸髄損傷のリハビリが目指す「その人らしい生活」

第107回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第107回 C問題 第2問

頸髄損傷による四肢麻痺患者のリハビリテーションで正しいのはどれか。

  1. a.障害が固定した後に開始する。
  2. b.実生活の場での援助が重要である。
  3. c.到達目標は医療者によって決められる。
  4. d.ノーマライゼーションの理念とは相いれない。
  5. e.自立が期待できない重度障害者は対象とならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は頸髄損傷による四肢麻痺を題材にしているけれど、実は問われているのは頸髄損傷に特有の知識というより、リハビリテーションそのものの基本理念なんだ。いつ始めるのか、目標は誰が決めるのか、誰が対象なのか、そして最終的に何を目指すのか。この4つを軸に考えてみよう。
医学生医学生
正直、リハビリというと「麻痺した手足を動かす訓練」というイメージが強いです。
ドクタードクター
多くの人がそう思っているね。でも語源をたどると、ラテン語のre(再び)とhabilis(適した)で、「人間らしく生きる権利の回復」、いわゆる全人間的復権を意味する言葉なんだ。機能訓練はその手段の一つにすぎない。
医学生医学生
だとすると、ゴールは病院の中ではなく、患者さんが帰っていく生活の場ということですか。
ドクタードクター
その通り。それが正解の「実生活の場での援助が重要である」につながる。訓練室で車椅子への移乗ができても、自宅のベッドの高さや段差、トイレの広さが違えば同じようにはできないことも多い。だから住宅改修、車椅子や自助具の選定、家族への介助方法の指導、訪問リハや福祉サービスの導入まで含めて支援するんだ。
医学生医学生
整形外科の実習で、退院前に作業療法士さんが患者さんの自宅を訪問して、手すりの位置を相談していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが生活の場での支援だね。では開始時期はどうだろう。障害が固定してから始める、という考え方は?
医学生医学生
脊髄ショックの時期は状態が不安定なので、落ち着いてからのほうが安全かな、と一瞬思いました。
ドクタードクター
そう考えたくなる気持ちはわかる。でも原則は、全身状態が許す限り急性期から始めることだ。頸髄損傷で寝たきりが続くと、関節拘縮、筋萎縮、褥瘡、起立性低血圧、深部静脈血栓症、排痰困難による肺炎、骨粗鬆症といった廃用症候群や合併症が次々に起こる。体位変換や関節可動域訓練、呼吸理学療法、ティルトテーブルを使った段階的な起立訓練を早期から行うことで、こうした二次的障害を防ぐんだ。
医学生医学生
固定を待っていたら、麻痺そのものより二次的な障害のほうが生活を妨げてしまうんですね。
ドクタードクター
いいまとめだね。次に、到達目標を医療者が決める、という考え方はどうかな。
医学生医学生
医療者のほうが予後を正確に見通せるので、決めてあげたほうがいい気もしますが……。
ドクタードクター
予後の見通しを伝えるのは医療者の大切な役割だ。ただ、目標そのものは患者本人と家族が十分な説明を受けて理解したうえで、医療者と話し合って合意して決める。いわゆる共同意思決定だね。本人が望む生活像が反映された目標でなければ、長いリハビリを続ける意欲も保てないし、実生活での成果にもつながりにくい。
医学生医学生
医療面接の講義で習った患者中心の考え方が、ここでも生きてくるわけですね。ノーマライゼーションとの関係はどうですか。
ドクタードクター
ノーマライゼーションは、障害の有無にかかわらず誰もが地域社会で普通の生活を送れる社会を目指す理念で、1950年代にデンマークのバンク-ミケルセンが提唱した。障害者が社会の一員として生活に戻ることを目指すリハビリとは方向性が同じで、相いれないどころか補い合う関係なんだ。
医学生医学生
最後の、自立が期待できない重度障害者は対象外というのも、ここまでの話からすると明らかに違いますね。
ドクタードクター
そう、障害の程度にかかわらずすべての障害者が対象だ。完全な自立が難しくても、残存機能を引き出せば介助量の軽減や合併症予防、QOLの向上が期待できる。高位頸髄損傷の人でも、車椅子で座位を保てるようになるだけで活動範囲は大きく広がるし、顎で操作する電動車椅子や環境制御装置を使えば、自分でできることが増えることもある。
医学生医学生
損傷高位によって目指せるレベルが違う、とCBTの勉強で覚えた気がします。
ドクタードクター
発展として押さえておこう。完全損傷の目安として、C4では横隔膜は動くけれど上肢はほぼ使えず、電動車椅子が目標になる。C5で肘の屈曲、C6で手関節背屈が可能になり、背屈を利用したテノデーシス作用でつまみ動作ができる。C7で肘伸展が加わるとプッシュアップで移乗しやすくなり、車椅子レベルでの日常生活自立が見込める。C6とC7は自立度を大きく左右する境目なんだ。
医学生医学生
臨床で気をつけるべき合併症はありますか。
ドクタードクター
呼吸障害、起立性低血圧に加えて、第6胸髄より高位の損傷で起こる自律神経過反射は必ず覚えておきたい。膀胱充満や便秘などの刺激をきっかけに発作性の高血圧、徐脈、頭痛、損傷部より上の発汗や顔面紅潮が起こる。原因となる刺激を取り除くことがまず大切だ。生活の場で起こりうる問題だから、本人や介護者への指導も欠かせないよ。

まとめ

リハビリテーションは単なる機能訓練ではなく「全人間的復権」を目指すものであり、最終的なゴールは患者が家庭や地域・職場といった実生活の場へ戻り、その人らしく暮らすことです。そのため住環境の整備、福祉用具の導入、介護者への指導、社会資源の活用など、生活の場での支援が重要になります。開始は障害の固定を待たず急性期からで、廃用症候群を防ぎます。目標は患者本人と医療者が話し合って合意して決め、重度障害者も対象に含まれ、ノーマライゼーションの理念とも合致します。頸髄損傷では損傷高位によって獲得できる動作の目安が異なり、C6・C7が自立度の分かれ目となることや、自律神経過反射などの合併症もあわせて理解しておくと、臨床での目標設定や患者支援に役立ちます。

解答・解説

正解はbです

問われていること

頸髄損傷による四肢麻痺は、重度の身体障害の代表例である。本問は頸髄損傷に特有の知識というより、リハビリテーション全体の基本理念(いつ始めるか、目標を誰が決めるか、誰が対象か、最終的に何を目指すか)を理解しているかを問うている。

リハビリテーションの基本的な考え方

・語源はラテン語の re(再び)+ habilis(適した)で、「人間らしく生きる権利の回復(全人間的復権)」を意味する。単なる機能訓練ではなく、障害をもつ人が家庭や社会で自分らしい生活を取り戻すことを目的とする。 ・開始時期:廃用症候群などの二次的障害を防ぐため、全身状態が許す限り急性期から早期に開始する。 ・目標設定:患者本人(および家族)が十分な説明を受けて理解したうえで、医療者と話し合い合意して決める(患者中心、自己決定の尊重)。 ・対象:障害の重さにかかわらず、すべての障害者が対象となる。自立が難しい場合でも、残存機能を最大限に引き出し、介助量の軽減や生活の質(QOL)の向上を目指す。 ・場:病院や訓練室の中だけで完結せず、自宅や職場など実際の生活の場で、動作の工夫、住環境の整備、福祉用具の導入、介護者への指導、社会資源の活用を通して支援する。 以上から、正しいのは「実生活の場での援助が重要である」である。

選択肢考察

  1. ×a.  障害が固定した後に開始する。

    誤り。リハビリテーションは障害の固定を待たず、受傷直後の急性期から開始するのが原則である。頸髄損傷では長期臥床により、関節拘縮、筋萎縮、褥瘡、起立性低血圧、深部静脈血栓症、肺炎(排痰困難による)、骨粗鬆症などの廃用症候群や合併症が生じやすい。急性期から体位変換、関節可動域訓練、呼吸理学療法、段階的な座位・起立訓練(ティルトテーブルなど)を行うことで、これらの二次的障害を予防し、その後の機能獲得を促す。

  2. ○b.  実生活の場での援助が重要である。

    正しい。リハビリテーションの最終目標は、残存機能を最大限に活用して、患者が元の生活の場(家庭・地域・職場)へ戻り、その人らしく暮らせるようにすることである。訓練室で獲得した動作がそのまま自宅で実行できるとは限らないため、実際の生活環境に合わせた動作練習、住宅改修(段差解消、手すりや昇降機の設置など)、車椅子や自助具などの福祉用具の選定、家族・介護者への介助方法の指導、訪問リハビリテーションや介護・福祉サービスの導入といった生活の場での支援が欠かせない。

  3. ×c.  到達目標は医療者によって決められる。

    誤り。リハビリテーションの到達目標は医療者が一方的に決めるものではない。患者本人が障害の状態、予後、訓練の内容と見通しについて十分な説明を受けて理解し、自らの意思と価値観に基づいて医療者と話し合い、合意して設定する(インフォームド・コンセント、共同意思決定)。本人が望む生活像を反映した目標であることが、訓練への意欲を保ち、実生活での成果につなげるうえでも重要である。

  4. ×d.  ノーマライゼーションの理念とは相いれない。

    誤り。ノーマライゼーションとは、障害の有無にかかわらず、誰もが地域社会の中で普通(ノーマル)の生活を送れるような社会を目指すという社会福祉の理念であり、1950年代にデンマークのバンク-ミケルセンが提唱した。障害者が社会の一員として生活に復帰することを目指すリハビリテーションは、この理念と方向性を同じくし、互いに補い合う関係にある。

  5. ×e.  自立が期待できない重度障害者は対象とならない。

    誤り。リハビリテーションは障害の程度にかかわらずすべての障害者が対象である。完全な自立が見込めない場合でも、残存機能を最大限に引き出すことで、介助量の軽減、合併症予防、QOLの向上が期待できる。例えば高位頸髄損傷者でも、車椅子に座位を保てるようになるだけで活動範囲や社会参加の機会が大きく広がり、電動車椅子や環境制御装置を用いて一部の動作を自分で行えるようになることもある。

頸髄損傷の損傷高位と到達しうる機能の目安(完全損傷の場合)

最下位の機能残存髄節によって、獲得できる動作のおおよその目安が決まる。 ・C4:横隔膜は動く(横隔神経はC3~C5)が上肢はほぼ使えない。顎(チン)操作などによる電動車椅子の使用が目標。全介助が基本。 ・C5:肩の動きと肘の屈曲(上腕二頭筋)が可能。装具や自助具を用いて食事など一部の動作ができる。電動車椅子が中心。 ・C6:手関節の背屈(橈側手根伸筋)が可能。手関節背屈を利用したつまみ動作(テノデーシス作用)ができ、ハンドリムを工夫した車椅子の自走や、条件がそろえばベッドと車椅子の移乗も可能となる。生活の一部自立を目指せる境目の高位として重要である。 ・C7:肘の伸展(上腕三頭筋)が可能となり、プッシュアップによる移乗が行いやすく、車椅子レベルでの日常生活自立が見込める。 ・C8:手指の屈曲が可能となり、手の実用性が高まる。

頸髄損傷で注意すべき合併症

・呼吸障害(肋間筋・腹筋の麻痺による咳嗽力低下、C3~C5損傷では横隔膜麻痺による呼吸不全) ・起立性低血圧(交感神経の障害による) ・自律神経過反射(第6胸髄より高位の損傷で、膀胱充満や便秘などの刺激を契機に発作性高血圧、徐脈、頭痛、損傷部より上の発汗・顔面紅潮が生じる) ・神経因性膀胱・直腸障害、褥瘡、深部静脈血栓症、異所性骨化、関節拘縮

リハビリテーションの4分野

医学的リハビリテーション、教育的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、社会的リハビリテーションがあり、医療・教育・福祉が連携して全人間的復権を目指す。障害の捉え方としては、心身機能・身体構造、活動、参加の3つの次元と、環境因子・個人因子との相互作用で生活機能を理解する国際生活機能分類(ICF)が用いられる。

POINT

・リハビリテーションは障害の固定を待たず、急性期から開始して廃用症候群を予防する。 ・到達目標は患者本人と医療者が話し合い、合意して決める。 ・重度障害者も対象であり、自立が難しくても介助量軽減・QOL向上を目指す。 ・ノーマライゼーションの理念と合致し、最終目標は実生活の場への復帰である。そのため住環境整備や介護者指導など生活の場での支援が重要となる。 ・頸髄損傷ではC6(手関節背屈)、C7(肘伸展)が自立度を大きく左右する損傷高位である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。