アルコールが乾くまで待つ理由―採血の基本手技に潜む「3つの安全」
第107回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
採血手技について正しいのはどれか。
- a.血管の穿刺は消毒用アルコールが乾いてから行う。
- b.生化学検査の検体を採取するときは手袋は不要である。
- c.血液培養の検体を採取するときは鼠径部を第一選択とする。
- d.動脈血ガス分析の検体を採取後は穿刺部を10秒間圧迫する。
- e.血液の流出が少ないときは強い陰圧をかけて検体を採取する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
採血は「患者の安全」「採血者の安全」「検体の質」の3つを同時に満たすべき基本手技であり、消毒用アルコールは十分な接触時間を確保するため乾いてから穿刺します。乾く前の穿刺は疼痛や溶血の原因にもなります。標準予防策として検査の種類にかかわらず手袋を着用し、血液培養は汚染の少ない末梢静脈から2セット以上採取して鼠径部は避けます。動脈穿刺後は5分以上しっかり圧迫し、強い陰圧は溶血によるカリウムやLDの偽高値を招くため避けます。一つ一つの手順の理由を理解しておくことは、OSCEだけでなく臨床実習や研修医としての日常業務での安全な手技に直結します。
解答・解説
正解はaです
採血は、患者の安全(感染・神経損傷・止血不良の防止)、採血者の安全(針刺しによる血液媒介感染の防止)、検体の質(汚染・溶血・凝固の防止)の3つを同時に満たす必要がある基本手技である。本問の各選択肢は、この3つの観点のいずれかに関わっている。 ・皮膚消毒: 消毒用アルコール(70〜80%程度のエタノールやイソプロパノール)は、十分な接触時間を保ち、乾燥してから穿刺することで殺菌効果が得られる。 ・感染防止: 標準予防策(すべての血液・体液を感染性があるものとして扱う考え方)に基づき、検査の種類にかかわらず手袋を着用する。 ・検体の質: 血液培養では皮膚常在菌の混入(コンタミネーション)を防ぐため、汚染されにくい部位を選ぶ。採血時に強い陰圧をかけると赤血球が壊れて溶血し、検査値が不正確になる。 ・止血: 動脈は内圧が高いため、動脈穿刺後は静脈穿刺よりも十分長く圧迫する必要がある。 これらの原則に照らすと、アルコールの乾燥を待ってから穿刺するという記述が正しい。
選択肢考察
- ○a. 血管の穿刺は消毒用アルコールが乾いてから行う。
アルコールは微生物のタンパク質を変性させて殺菌するが、その効果を得るには皮膚に一定時間接触させる必要がある。塗布後に自然乾燥するまで待つことで、必要な接触時間が確保される(アルコールが揮発する過程で最も消毒効果が高いとも説明される)。さらに、乾く前に穿刺すると、アルコールが針とともに刺入されて穿刺時の痛み(しみる感じ)が強くなるほか、検体に混入して溶血の原因となりうる。したがって、消毒後はアルコールが乾いてから穿刺する。
- ×b. 生化学検査の検体を採取するときは手袋は不要である。
手袋は、検査項目に関係なく採血時に着用する。標準予防策では、患者の血液はすべて感染性があるものとして扱う。手袋は、針刺しや血液付着によるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVなどの採血者への感染を減らすとともに、採血者の手指を介した患者間の交差感染も防ぐ。手袋は患者ごとに交換する。
- ×c. 血液培養の検体を採取するときは鼠径部を第一選択とする。
鼠径部は湿潤で皮膚常在菌や腸内細菌による汚染を受けやすく、消毒しても検体に菌が混入するリスクが高い。血液培養は通常、肘窩などの末梢静脈から採取し、動脈・静脈のどちらから採っても検出率に大差はないとされる。鼠径部(大腿静脈・大腿動脈)は、ほかに穿刺できる部位がない場合に限って用いる。血液培養では、2セット以上を別の部位から採取することも重要である。
- ×d. 動脈血ガス分析の検体を採取後は穿刺部を10秒間圧迫する。
動脈は内圧が高いため、10秒程度の圧迫では止血できず、皮下血腫や仮性動脈瘤を生じるおそれがある。動脈穿刺後は少なくとも5分程度、一般に5〜10分程度しっかり圧迫し、止血を確認する。抗凝固薬を内服している患者や凝固異常のある患者では、さらに長い圧迫が必要である。なお、静脈採血後でも数分間の圧迫が推奨される。
- ×e. 血液の流出が少ないときは強い陰圧をかけて検体を採取する。
強い陰圧をかけると、細い針を通過する際に赤血球が物理的に壊れて溶血する。溶血すると赤血球内に多いカリウム、LD(乳酸脱水素酵素)、ASTなどが高値となり、正しい検査結果が得られない。また、陰圧で血管壁が針先に吸い付いてさらに流出が悪くなることもある。流出が少ない原因として、針先の位置ずれ、血管の虚脱、時間がかかって針内で血液が凝固したことなどが考えられるため、針先の位置を確認・調整するか、別の部位から採り直す。
標準的な静脈採血の流れ
1. 患者確認(氏名・生年月日など)と検体容器の照合。 2. 手指衛生と手袋の着用。 3. 駆血帯を巻き、穿刺する静脈を選ぶ(通常は肘窩の正中皮静脈など)。 4. アルコール綿で消毒し、乾燥を待つ。 5. 針の刃面を上にして、皮膚に対して浅い角度で刺入する。 6. 採血し、採血管の順序(血液培養ボトルなどを先に、抗凝固剤入りの管は後に、など施設基準に従う)に留意する。 7. 駆血帯を外してから抜針し、穿刺部を圧迫止血する。駆血帯を巻いたまま抜針すると出血・血腫の原因になる。 8. 針はリキャップせず、ただちに専用の廃棄容器に捨てる(針刺し事故防止)。
採血の合併症
・血管迷走神経反射(VVR): 痛みや緊張により迷走神経が亢進し、徐脈・血圧低下から気分不良や失神をきたす。既往のある患者はベッド上で臥位にして採血する。 ・末梢神経損傷: 肘窩の深い穿刺や、手関節の橈側(橈骨神経浅枝が走行する部位)の穿刺で起こりうる。穿刺時に放散する電撃痛やしびれを訴えたら直ちに抜針する。 ・皮下血腫: 圧迫不足、特に動脈穿刺後に多い。
その他の留意点
・国内の真空採血管は内部が滅菌されたものが用いられている。 ・アルコール綿は作り置きより単包化されたものが望ましい(作り置きは消毒効果の低下や汚染の原因となる)。 ・アルコール過敏の患者にはクロルヘキシジンなど別の消毒薬を用いる。 ・採血手技の標準的な手順は、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の標準採血法ガイドラインにまとめられている。
POINT
・消毒用アルコールは乾燥するまで待ってから穿刺する。 ・標準予防策として、検査の種類に関係なく手袋を着用する。 ・血液培養は汚染の少ない末梢静脈から採取し、鼠径部は避ける。2セット以上採取する。 ・動脈穿刺後は5分以上しっかり圧迫止血する。 ・強い陰圧は溶血の原因となり、カリウムやLDなどが偽高値になる。
