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「等張なのに水」―5%ブドウ糖液の正体と尿崩症

第107回医師国家試験 B問題 第28問

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第107回 B問題 第28問

5%ブドウ糖液の輸液が適応となる病態はどれか。

  1. a.尿崩症
  2. b.低張性脱水
  3. c.等張性脱水
  4. d.急性副腎不全
  5. e.ADH分泌不適合症候群〈SIADH〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は輸液製剤の性質を問う問題だ。5%ブドウ糖液が体の中で最終的に「何を補っていることになるのか」を考えると、答えは自然に決まる。まず、この液の浸透圧はどれくらいだと思う?
医学生医学生
血漿とほぼ同じ、約280 mOsm/Lと習いました。等張液だから、生理食塩液と同じように細胞外液を補えるのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。点滴した瞬間は確かに等張で、溶血も起こさない。でもブドウ糖は細胞に取り込まれて代謝され、最終的には二酸化炭素と水になる。浸透圧物質としては消えてしまうんだ。
医学生医学生
ということは、残るのは電解質を含まない水だけ、ということですか。
ドクタードクター
その通り。実質的には「自由水」を投与したのと同じになる。自由水は細胞膜を自由に通り抜けるから、細胞外液と細胞内液の比、およそ1対2に従って体全体に広がる。血管内に残るのはごくわずかだ。
医学生医学生
生理学の講義で、生理食塩液は細胞外液にとどまって、血管内に残るのは4分の1程度と習いました。ブドウ糖液はもっと少ないんですね。
ドクタードクター
そう、およそ12分の1と考えておくといい。だから5%ブドウ糖液は循環血漿量を増やす目的には向かず、「水が足りなくて体液が濃くなった状態」、つまり高張性脱水、高Na血症の補正に使う輸液なんだ。選択肢は血清Naが上がる病態か、下がる病態かで整理してみよう。
医学生医学生
尿崩症はADHが効かなくて薄い尿が大量に出る病気なので、水だけが失われて高Na血症になる方向ですね。
ドクタードクター
正解。中枢性ならADHの分泌低下、腎性なら腎の反応低下で集合管が水を再吸収できない。口渇中枢が保たれて自由に飲めればNaはほぼ正常に保たれるけれど、意識障害や術後、乳幼児・高齢者で飲水が追いつかないと高張性脱水になる。不足しているのは主に自由水だから、5%ブドウ糖液が適応になる。中枢性ならデスモプレシンの併用も忘れずに。
医学生医学生
低張性脱水はその逆で、Naのほうが多く失われているから、水を入れたらさらに薄まってしまいますね。
ドクタードクター
そう。低Na血症が悪化して、水が細胞内へ移動し脳浮腫を助長しうる。生理食塩液などNaを含む輸液で補うのが基本だ。では等張性脱水はどうかな。
医学生医学生
出血や下痢で水とNaが同じ割合で失われた状態なので、細胞外液と同じ組成の生理食塩液や乳酸リンゲル液ですね。ブドウ糖液だと血管内に残らないので役に立たない。
ドクタードクター
完璧だ。急性副腎不全はどうだろう。低血糖になることがあるから、ブドウ糖液を入れたくなる人もいるんだけど。
医学生医学生
CBTの勉強で、副腎クリーゼはヒドロコルチゾン静注と大量の生理食塩液と覚えました。でも低血糖があればブドウ糖も要りますよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。コルチゾールやアルドステロンが足りないと腎からNaが失われ、低Na血症とショックをきたす。だから補液の中心は生理食塩液で、低血糖を伴うならブドウ糖加生理食塩液のようにNaを含む形で糖を補う。Naを含まない5%ブドウ糖液単独では低Na血症が悪化してしまう。
医学生医学生
SIADHは水が過剰にたまっている希釈性の低Na血症なので、自由水を足すのは真逆の治療ですね。
ドクタードクター
その通り。SIADHの治療の基本は水分制限で、5%ブドウ糖液は病態を悪化させるため禁忌に近い。意識障害や痙攣を伴う重症例では3%食塩水で慎重に補正する。結局、血清Naが上がる病態だけが5%ブドウ糖液の適応で、残りはすべてNaを含む輸液か水分制限が必要な病態なんだ。
医学生医学生
臨床実習の病棟で、術後の点滴が3号液だったのを思い出しました。あれは中間の性質ということですか。
ドクタードクター
そう、維持液や開始液は生理食塩液とブドウ糖液の中間的な性質を持つ。最後に臨床での注意点を2つ。1つは補正速度で、慢性の高Na血症を急に下げると脳浮腫を起こしうるから、1日あたりおおむね10 mEq/L程度以内の低下を目安にゆっくり下げる。逆に慢性の低Na血症を急に補正すると浸透圧性脱髄症候群のリスクがある。もう1つは、5%ブドウ糖液は1 Lで約200 kcalしかなく、栄養補給としては不十分ということ。頭蓋内圧が問題になる患者への大量投与も避けたい。
医学生医学生
「等張でも中身は水」と覚えておけば、Naを含まない輸液をどこで使ってはいけないかも見えてきますね。
ドクタードクター
その感覚があれば、病棟で輸液を選ぶときに迷わなくなるよ。

まとめ

5%ブドウ糖液は投与時には血漿とほぼ等張ですが、ブドウ糖が代謝されて消えるため、実質的には電解質を含まない自由水の補充となり、細胞内外に広く分布して血管内にはほとんど残りません。そのため適応は水欠乏による高張性脱水(高Na血症)であり、飲水が追いつかない尿崩症がその代表です。等張性脱水・低張性脱水・急性副腎不全ではNaを含む生理食塩液やリンゲル液が基本で、SIADHは希釈性低Na血症のため水分制限が治療の柱となり、いずれも5%ブドウ糖液単独は病態を悪化させえます。高Na血症・低Na血症ともに急速な補正は脳浮腫や浸透圧性脱髄症候群の危険があるため緩徐に行います。輸液製剤を「体内で何として振る舞うか」で理解することは、病棟での輸液選択の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

本問を解く鍵は、5%ブドウ糖液が体内で実質的に「何を補う輸液なのか」を理解することである。

5%ブドウ糖液の性質

5%ブドウ糖液はブドウ糖を50 g/L含み、浸透圧は約280 mOsm/Lと血漿とほぼ等しい。そのため点滴した瞬間には溶血などを起こさない「等張液」として投与できる。しかし、ブドウ糖は体内に入ると細胞に取り込まれて速やかに代謝され(最終的に二酸化炭素と水になる)、浸透圧物質としては消えてしまう。結果として、電解質を含まない「自由水(free water)」を投与したのと同じ効果になる。 自由水は細胞膜を自由に通過するため、細胞外液と細胞内液の比(およそ1:2)に従って体液全体に分布し、血管内に残るのはわずかである。したがって5%ブドウ糖液は、循環血漿量を増やす目的には向かず、「水が不足して体液が濃縮した状態」、すなわち高張性脱水(水欠乏性脱水、高ナトリウム血症)の補正に用いる輸液である。

選択肢の考え方

各病態の血清ナトリウム(Na)濃度に注目すると整理しやすい。 ・水が主に失われて高Na血症となる病態 → 自由水の補充(5%ブドウ糖液)が適応 ・Naが相対的に多く失われる、あるいは水が過剰で低Na血症となる病態 → 自由水を入れるとNa濃度がさらに下がるので不適 ・Naと水が同じ割合で失われる病態 → 細胞外液と同組成のNa含有輸液(生理食塩液・乳酸リンゲル液)が適応 尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の作用不足により大量の低張尿(水利尿)が出る病態で、飲水が追いつかなければ高張性脱水となる。これが5%ブドウ糖液の適応となる。

選択肢考察

  1. ○a.  尿崩症

    尿崩症では、ADHの分泌低下(中枢性)または腎の反応低下(腎性)により集合管で水を再吸収できず、希釈された尿が大量に排泄される。口渇中枢が保たれ自由に飲水できれば血清Naはほぼ正常に保たれるが、意識障害や術後、乳幼児・高齢者などで飲水が不十分になると、水だけが失われて高張性脱水(高Na血症)となる。不足しているのは主に自由水なので、自由水を補う5%ブドウ糖液が適応となる。なお中枢性尿崩症ではデスモプレシン(ADHの類似体)による原因治療を併用する。慢性の高Na血症を急速に補正すると脳浮腫をきたすおそれがあるため、血清Naは緩徐に(1日あたりおおむね10 mEq/L程度以内の低下を目安に)下げる。

  2. ×b.  低張性脱水

    低張性脱水(Na欠乏性脱水)は、嘔吐・下痢などで体液を失った後に水やNaの少ない飲料だけを補った場合などに、水よりもNaが相対的に多く失われた状態で、血清Naは低下している。ここに自由水と同等の5%ブドウ糖液を入れると低Na血症をさらに悪化させ、細胞外液の浸透圧低下で水が細胞内へ移動して脳浮腫などを助長しうる。Naを含む生理食塩液などで細胞外液とNaを補うのが基本である。

  3. ×c.  等張性脱水

    等張性脱水は、出血や下痢、熱傷などで水とNaがほぼ同じ比率で失われ、血清Naは正常のまま細胞外液量が減少した状態である。細胞外液を補充するには、細胞外液に近い組成の生理食塩液や乳酸(酢酸)リンゲル液を用いる。5%ブドウ糖液は大部分が細胞内へ移行して血管内に残りにくく、循環血漿量の回復に役立たないうえ、低Na血症を生じさせるおそれがあるため適応ではない。

  4. ×d.  急性副腎不全

    急性副腎不全(副腎クリーゼ)では、コルチゾール(および原発性ではアルドステロン)の欠乏により、腎からのNa喪失、循環血漿量減少によるショック、低Na血症、高K血症、低血糖などをきたす。治療はヒドロコルチゾンの静注と、Naを含む生理食塩液による大量補液が中心である。低血糖を伴う場合はブドウ糖を補うが、その場合も生理食塩液にブドウ糖を加えた輸液(5%ブドウ糖加生理食塩液など)を用いるのであり、Naを含まない5%ブドウ糖液単独は低Na血症を悪化させるため適さない。

  5. ×e.  ADH分泌不適合症候群〈SIADH〉

    SIADHは、血漿浸透圧が低いにもかかわらずADHが分泌され続け、腎で水が過剰に再吸収される病態である。体内の水が過剰となり、体液量はほぼ正常(明らかな浮腫や脱水を伴わない)のまま希釈性の低Na血症を呈する。治療の基本は水分制限であり、自由水を負荷する5%ブドウ糖液は低Na血症を悪化させるため禁忌に近い。重症で症状(意識障害、痙攣など)がある場合には、高張食塩水(3%食塩水)を用いて慎重にNaを補正する。

脱水の分類と輸液の選択

・高張性脱水(水欠乏性):血清Na上昇。原因は飲水不足、尿崩症、不感蒸泄の増加(発熱、発汗)、浸透圧利尿など。口渇が強く、細胞内脱水が主体。→ 5%ブドウ糖液や低張の維持液で自由水を補う。 ・等張性脱水:血清Na正常。原因は出血、下痢、熱傷など。→ 生理食塩液、乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液。 ・低張性脱水(Na欠乏性):血清Na低下。原因は体液喪失後の水のみの補給、利尿薬、副腎不全など。循環不全症状が出やすい。→ 生理食塩液などNaを含む輸液。

輸液製剤の体内分布

・生理食塩液(Na 154 mEq/L)、リンゲル液:ほぼ細胞外液(血管内と間質)にとどまり、血管内に残るのは投与量の約1/4。 ・5%ブドウ糖液:自由水として全体液に分布し、細胞内に約2/3、細胞外に約1/3が分布する。血管内に残るのは約1/12とごくわずかである。 ・維持液(3号液など)・開始液(1号液):両者の中間の性質をもつ。

5%ブドウ糖液のその他の特徴

・1 Lあたりのブドウ糖は50 gで、エネルギーは約200 kcalにすぎず、単独では栄養補給として不十分である。 ・薬剤の溶解・希釈にも広く用いられる。 ・Naを含まないため、低Na血症の患者や頭蓋内圧が問題となる患者(脳浮腫を助長)への大量投与は避ける。

高Na血症・低Na血症の補正速度

慢性の高Na血症を急に補正すると脳浮腫を、慢性の低Na血症を急に補正すると浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)をきたしうる。いずれも急速な補正を避ける。

POINT

・5%ブドウ糖液は投与時は等張だが、ブドウ糖が代謝されるため実質的に自由水の補充となる。 ・適応は水欠乏による高張性脱水(高Na血症)であり、代表例が飲水不足を伴う尿崩症である。 ・等張性脱水・低張性脱水・急性副腎不全ではNaを含む輸液(生理食塩液など)を用いる。 ・SIADHは水分過剰の希釈性低Na血症であり、治療は水分制限。5%ブドウ糖液は病態を悪化させる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。