StudyMed医師国家試験

切れるのは「粘膜にとどまる癌」だけ―5枚の内視鏡像からESDの適応を見抜く

第107回医師国家試験 B問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第2問

消化管内視鏡像(①~⑤)を別に示す。  内視鏡的粘膜下層剝離術の適応となるのはどれか。

第107回 B問題 第2問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、5枚の消化管内視鏡像を見比べて、内視鏡的粘膜下層剝離術、つまりESDの適応となる病変を選ぶ問題だ。読影のポイントは、進行癌かどうか、早期癌でも深く浸潤していないか、そもそも腫瘍なのか、の3段階でふるいにかけること。まずESDがどんな治療か、説明できるかな。
医学生医学生
病変の周りの粘膜を切って、粘膜下層をナイフで剝がしながら一括で取る治療ですよね。消化器内科の実習で見学しましたが、想像以上に時間がかかっていました。
ドクタードクター
その通り。ここで大事なのは、ESDは病変そのものは取れても、リンパ節は取れないということ。だから適応になるのは、リンパ節転移の可能性がきわめて低く、一括切除できる病変、原則として粘膜内にとどまる早期癌や腺腫なんだ。
医学生医学生
ということは、癌なら全部早期であればいい、というわけではないんですね。
ドクタードクター
そう、早期癌の中でもさらに選別が必要になる。順に見ていこう。まず食道下部の病変。全周の約3分の1を占めて、周堤を伴う潰瘍がある。
医学生医学生
周堤を伴う潰瘍は、肉眼型分類で2型、潰瘍限局型ですよね。進行癌だと思います。
ドクタードクター
正解。周堤をもつ潰瘍性病変は進行癌の典型で、固有筋層以深に浸潤しリンパ節転移の頻度も高い。ESDではなく、病期と全身状態に応じて術前化学療法と食道切除術、あるいは根治的化学放射線療法などが選ばれる。同じ理由で、S状結腸の管腔の約3分の2周を占める周堤を伴った潰瘍性腫瘍も2型の進行大腸癌で、リンパ節郭清を伴うS状結腸切除術の対象だ。
医学生医学生
次は胃体部の、ひだが集まってくる陥凹性病変ですね。陥凹型の早期胃癌ならESDでいけそうな気がしたんですが。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。0-Ⅱc+Ⅲ型の早期胃癌を考えるけれど、中心に潰瘍を伴っていて、集中するひだの先端が癒合したり棍棒状に太くなったりしている。これは癌が粘膜下層の深部まで浸潤していることを示唆するサインなんだ。
医学生医学生
ひだの先端の形で深達度を推定するんですね。病理実習で粘膜下層に浸潤した癌の標本を見ましたが、表面から見てわかるのは驚きです。
ドクタードクター
癌が粘膜下層で塊をつくると、ひだが引き込まれる途中で硬く太くなったり途切れたりするんだ。ほかにも陥凹内の結節状隆起や、空気量を変えても伸展しない硬さも深部浸潤を疑う所見。こうなるとリンパ節転移の危険が無視できないので、リンパ節郭清を伴う胃切除術が必要になる。では胃体部のもう1つ、類円形で辺縁が整い、薄く均一な白苔に覆われた潰瘍は?
医学生医学生
辺縁が整っていて白苔が均一なら、良性潰瘍、それも活動期のA期でしょうか。
ドクタードクター
その通り。腫瘍ではないのでESDの対象ではない。治療はPPIなどの酸分泌抑制薬が中心で、Helicobacter pylori陽性なら除菌、NSAIDsが原因なら中止を検討する。残るは胃前庭部の病変だ。
医学生医学生
丈の低い平坦な隆起で、表面の一部が少しでこぼこしています。0-Ⅱa型、表面隆起型の早期胃癌でしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。周囲のひだ集中や潰瘍はなく、粘膜内にとどまる分化型癌が考えやすい。リンパ節転移の危険が低く、ESDによる一括切除で根治が期待できるから、これが正解になる。ただしこの像は正面からの観察ではないので、実臨床では色素内視鏡や拡大内視鏡、生検で組織型・範囲・深達度を確かめてから適応を決めるよ。
医学生医学生
まず進行癌を外し、次に深部浸潤のサインがある早期癌を外し、良性潰瘍を外して、残った粘膜内癌がESD、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として胃の絶対適応を整理しておこう。現行の胃癌治療ガイドラインでは、潰瘍を伴わない分化型の粘膜内癌は大きさを問わず、潰瘍瘢痕を伴う分化型粘膜内癌は3cm以下、潰瘍を伴わない未分化型粘膜内癌は2cm以下が絶対適応だ。かつては2cm以下・分化型・潰瘍なしだけだったけれど、臨床試験の結果を受けて広がってきた。
医学生医学生
CBTの問題集では2cm以下と覚えていたので、更新しておきます。EMRとはどう使い分けるんですか。
ドクタードクター
EMRは粘膜下層に生理食塩水などを注入して病変を持ち上げ、スネアで絞って切る方法で簡便だけど、一括切除できるのはおおむね2cm程度まで。ESDは大きな病変や瘢痕を伴う病変でも一括切除でき、深達度や脈管侵襲、断端を正確に病理評価できるのが強みだ。その分、穿孔や出血のリスクは高い。食道ではEPやLPMまでの癌がよい適応で、3/4周を超える切除では術後狭窄の予防にステロイドを使うことも覚えておこう。
医学生医学生
切除後の病理結果で深達度や脈管侵襲がわかって、追加手術が必要になることもあるんですよね。
ドクタードクター
その通り。ESDは治療であると同時に精密な診断でもある。切除標本の評価で根治性が不十分と判断されれば、リンパ節郭清を伴う追加の外科切除を検討する。内視鏡像から深達度を推定し、病理で確かめる、この往復が大切なんだ。

まとめ

ESDは病変周囲を切開し粘膜下層を剝離して一括切除する内視鏡治療で、リンパ節は切除できないため、リンパ節転移の可能性がきわめて低い粘膜内にとどまる早期癌や腺腫が適応となります。周堤を伴う潰瘍性病変は2型進行癌であり、陥凹型早期胃癌でも潰瘍合併やひだ先端の癒合・棍棒状肥大があれば粘膜下層深部浸潤を疑って外科手術を考え、辺縁整・均一な白苔の潰瘍は良性潰瘍としてPPIなどで治療します。潰瘍を伴わない0-Ⅱa型の平坦な隆起は分化型粘膜内癌が考えやすく、ESDの典型的な適応です。胃では現行ガイドラインで絶対適応が拡大しており、EMRとの使い分けや食道・大腸での基準もあわせて押さえておくと、内視鏡治療か外科手術かという臨床判断の土台になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)の適応となる病変を、5枚の内視鏡像から選ぶ問題である。

ESDの考え方

ESDは、病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を専用ナイフで剝離して病変を一括で切除する内視鏡治療である。リンパ節は切除できないため、適応となるのは「リンパ節転移の可能性がきわめて低く、かつ一括切除できる大きさ・部位の病変」、すなわち原則として粘膜内(胃ではT1a、食道では上皮内〜粘膜固有層)にとどまる早期癌や腺腫である。

各画像を見るときの着眼点

1. 進行癌の所見がないか:周堤を伴う潰瘍(2型など)、管腔の大部分を占める病変は進行癌であり、外科手術や化学放射線療法の対象となる。 2. 深部浸潤を疑う所見がないか:陥凹型早期癌でも、潰瘍(瘢痕)の合併、集中するひだの先端の癒合・棍棒状肥大・中断などがあれば粘膜下層深部(SM2以深)への浸潤が疑われ、ESDの適応外となりやすい。 3. そもそも腫瘍か:均一な白苔と整った辺縁をもつ潰瘍は良性潰瘍であり、薬物療法の対象である。 この観点で5つの像を見ると、進行食道癌(①)、深部浸潤を疑う潰瘍合併の陥凹型胃癌(②)、活動期の良性胃潰瘍(③)、進行S状結腸癌(⑤)はいずれもESDの対象ではない。残る④は胃前庭部の丈の低い平坦な隆起で、表面の一部に不整を伴う0-Ⅱa型(表面隆起型)早期胃癌を考える所見であり、潰瘍を伴わない粘膜内癌としてESDの適応と判断できる。なお④は病変を正面から捉えた像ではないため、この1枚だけで深達度まで確定することはできないが、選択肢の中でESDの対象となりうるのは④のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    食道下部に、全周の約1/3を占める、周堤を伴った潰瘍性病変(2型、潰瘍限局型)がみられ、進行食道癌である。進行癌は固有筋層以深に浸潤しておりリンパ節転移の頻度も高いため、ESDの適応とはならない。治療は病期と全身状態に応じて、術前化学療法+食道切除術、あるいは根治的化学放射線療法などが選択され、必ずしも手術になるとは限らない。

  2. ×b.  ②

    胃体部に、周囲からひだが集まる陥凹性病変があり、0-Ⅱc+Ⅲ型の早期胃癌を考える。しかし中心に潰瘍(Ⅲ)を伴い、集中するひだの先端が互いに癒合したり棍棒状に腫大したりしている。これらは粘膜下層の深部まで癌が浸潤していることを示唆する所見であり、リンパ節転移の危険が無視できないためESDの適応外である。治療はリンパ節郭清を伴う胃切除術となる(病変の位置によって幽門側胃切除か胃全摘かが決まるが、この画像だけでは部位の特定は難しい)。

  3. ×c.  ③

    胃体部に、類円形で辺縁が整い、薄く均一な白苔に覆われた潰瘍がみられ、活動期(A期)の良性胃潰瘍である。腫瘍ではないためESDの対象ではない。治療はプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬の投与が中心で、Helicobacter pylori陽性であれば除菌療法、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が原因であれば中止を検討する。手術の適応もない。

  4. ○d.  ④

    胃前庭部に、丈の低い扁平な隆起性病変があり、表面の一部に凹凸不整を伴う。0-Ⅱa型(表面隆起型)の早期胃癌として矛盾しない所見である。周囲ひだの集中や潰瘍はなく、粘膜内にとどまる分化型癌が考えやすいため、リンパ節転移の危険は低く、ESDによる一括切除で根治が期待できる。病変を正面から観察した像ではないので、実臨床では色素内視鏡や拡大内視鏡、生検で組織型・範囲・深達度を確認したうえで適応を決定するが、選択肢のうちESDの適応となるのはこの病変である。

  5. ×e.  ⑤

    S状結腸に、管腔の約2/3周を占める、周堤を伴った潰瘍性腫瘍(2型)がみられ、進行S状結腸癌である。深く浸潤しリンパ節転移の可能性も高いためESDの適応外であり、リンパ節郭清を伴うS状結腸切除術(腹腔鏡下または開腹)が標準治療となる。

内視鏡治療の種類

・内視鏡的粘膜切除術(EMR):粘膜下層に生理食塩水などを注入して病変を持ち上げ、スネア(金属の輪)で絞扼して切除する。簡便だが、一括で切除できる大きさはおおむね2cm程度までである。 ・内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD):病変周囲を全周切開し、粘膜下層を剝離して切除する。大きな病変や潰瘍瘢痕を伴う病変も一括切除でき、正確な病理評価(深達度・脈管侵襲・断端)が可能になる。一方、手技が難しく、穿孔や出血などの偶発症のリスクはEMRより高い。

臓器別のESD適応の目安

・胃:胃癌治療ガイドラインでは、リンパ節転移の可能性が1%未満と推定される病変を内視鏡治療の対象とする。現行版での絶対適応は、(1)潰瘍を伴わない分化型の粘膜内癌(cT1a)で大きさを問わないもの、(2)潰瘍(瘢痕)を伴う分化型cT1aで3cm以下のもの、(3)潰瘍を伴わない未分化型cT1aで2cm以下のもの、である。かつては「2cm以下・分化型・潰瘍なし」の粘膜内癌のみが絶対適応とされ、それ以外は適応拡大病変と位置づけられていたが、臨床試験の結果を受けて順次絶対適応へ組み込まれた。 ・食道:深達度が上皮(EP)または粘膜固有層(LPM)にとどまる癌はリンパ節転移がまれで、内視鏡治療のよい適応である。粘膜筋板(MM)や粘膜下層浅層(SM1)までの癌は転移の可能性があり相対適応となる。周在性が広く、特に3/4周を超える切除では術後に狭窄をきたしやすく、ステロイドの局注・内服などによる予防が必要となる。 ・大腸:リンパ節転移の可能性がほとんどない粘膜内癌〜粘膜下層軽度浸潤癌(SM浸潤距離1000μm未満)が内視鏡治療の対象で、EMRでは一括切除が難しい大きな病変(おおむね2cmを超えるもの)や、粘膜下局注で十分に持ち上がらない(non-lifting sign陽性)線維化を伴う病変などにESDが選択される。

早期胃癌の肉眼型(0型の亜分類)

0-Ⅰ(隆起型)、0-Ⅱa(表面隆起型)、0-Ⅱb(表面平坦型)、0-Ⅱc(表面陥凹型)、0-Ⅲ(陥凹型:潰瘍)。進行癌は1型(腫瘤型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能)に分けられる。

深部浸潤を疑う所見(陥凹型胃癌)

ひだ先端の棍棒状肥大・癒合・中断、陥凹内の結節状隆起、病変の台状挙上、空気量を変えても伸展しない硬さ、などはSM深部浸潤を疑わせる。

POINT

・ESDの適応は、リンパ節転移の可能性がきわめて低く一括切除可能な病変(原則として粘膜内にとどまる早期癌・腺腫)である。 ・周堤を伴う潰瘍(2型など)は進行癌であり、手術や化学放射線療法の対象で、ESDの対象外。 ・陥凹型早期胃癌でも、潰瘍合併やひだの癒合・棍棒状肥大があれば粘膜下層深部浸潤を疑い、外科手術を考える。 ・整った辺縁と均一な白苔をもつ潰瘍は良性潰瘍で、PPIなどの薬物療法を行う。 ・0-Ⅱa型の平坦な隆起で潰瘍を伴わない分化型粘膜内癌は、ESDの典型的な適応である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。