StudyMed医師国家試験

気づかれないまま骨盤へ―女性の淋菌感染症は「無症状の子宮頸管炎」から始まる

第107回医師国家試験 A問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第17問

淋菌感染症について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.子宮頸管炎として発症する。
  2. b.Gram陽性球菌が認められる。
  3. c.潜伏期間は4~6か月である。
  4. d.女性では骨盤内炎症性疾患〈PID〉に進展する。
  5. e.検査法としてのPCR法の感度はGram染色と同等である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は淋菌感染症の基本事項を問う知識問題だ。押さえるべき観点は4つ。病原体の染色性、潜伏期間、男女で異なる臨床像、そして検査法の感度。この4つを整理すれば、選択肢の正誤は自然に決まるよ。まずは病原体から。淋菌はGram染色でどう見えるかな。
医学生医学生
Neisseria属なので、Gram陰性双球菌だったと思います。微生物学の講義で、ソラマメが2つ向かい合ったような形と習いました。
ドクタードクター
その通り。腎臓形の球菌が2つ向かい合って並ぶGram陰性双球菌で、染色では赤く見える。膿性分泌物を染めると、好中球の細胞質の中に貪食された双球菌がたくさん見えるのが特徴的な所見だ。だから「Gram陽性球菌が認められる」という記述は誤り。Gram陽性球菌はブドウ球菌やレンサ球菌のほうだね。
医学生医学生
同じNeisseria属の髄膜炎菌もGram陰性双球菌でしたよね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。次は潜伏期間。4〜6か月という記述はどうだろう。
医学生医学生
性感染症って、症状が出るまで長いイメージがあって……少し迷います。
ドクタードクター
そこは疾患ごとに区別しておこう。淋菌の潜伏期間は2〜7日程度ととても短い。男性なら感染機会から数日で、強い排尿痛と黄白色の膿がどっと出る急性尿道炎で受診することが多い。クラミジアは1〜3週間程度とそれより長い。月単位の潜伏期間はB型肝炎などで考えるもので、淋菌には当てはまらないんだ。
医学生医学生
では残りの、女性の臨床像についての記述が正解ですね。子宮頸管炎として発症するというのは正しいと思います。
ドクタードクター
正しい。女性では子宮頸管の円柱上皮に感染して子宮頸管炎として始まるのが基本で、尿道炎を伴うこともある。ただし大事なのは、症状が帯下の増加や軽い排尿時の違和感程度にとどまり、半数前後は無症状とされる点だ。
医学生医学生
男性は痛くてすぐ受診するのに、女性は気づかないままになりやすいんですね。
ドクタードクター
そう。その結果、パートナーへの感染源になったり、治療されないまま上行感染したりする。これがもう一つの正解、骨盤内炎症性疾患〈PID〉への進展につながる。頸管から子宮内膜、卵管、卵巣、骨盤腹膜へと炎症が広がり、発熱や下腹部痛を起こすんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、卵管卵巣膿瘍の患者さんを担当したことがあります。不妊の原因にもなると聞きました。
ドクタードクター
大事な経験だね。炎症が治まっても卵管の癒着や閉塞が残ると、卵管性不妊症や異所性妊娠の原因になる。上腹部まで波及すると肝周囲炎、いわゆるFitz-Hugh-Curtis症候群を起こすこともある。これはクラミジアのほうが多いけれど、淋菌でもみられるよ。
医学生医学生
最後の検査法ですが、Gram染色で双球菌が見えれば十分なので、PCRと同じくらいの感度があるのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが誤りのポイントだ。Gram染色は症状のある男性の尿道分泌物ならかなり感度が高い。でも女性の子宮頸管検体や無症状例、咽頭検体では感度が低く、陰性でも感染は否定できない。PCR法などの核酸増幅法はごくわずかな菌の遺伝子でも検出できるので、Gram染色より感度が高く、現在の診断の中心になっている。初尿や腟ぬぐい液でも検査でき、クラミジアと同時に調べられるのも利点だね。
医学生医学生
PCRがあれば培養はもう要らないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。淋菌は薬剤耐性化が進んでいて、ペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系が効きにくい株が多い。薬剤感受性を調べるには培養が必要になる。治療はわが国ではセフトリアキソンの単回静注が第一選択として推奨されているよ。
医学生医学生
臨床で気をつけることはほかにありますか。
ドクタードクター
3つ挙げておこう。1つ目は、淋菌とクラミジアの合併感染が少なくないこと。片方を見つけたらもう片方の検査や治療も考える。2つ目は、パートナーの同時検査・治療。これを怠るとピンポン感染を繰り返す。3つ目は、咽頭感染は無症状が多く感染源になりやすいこと。さらに新生児では産道感染による膿漏眼が問題で、放置すると角膜穿孔から失明に至りうる。まれに血行性に広がって関節炎や皮疹を起こす播種性淋菌感染症もあるよ。
医学生医学生
男性は症状が強い尿道炎、女性は無症状の頸管炎からPIDへ、と男女差を軸に整理しておきます。
ドクタードクター
それが一番の要点だね。「症状がない」ことが「感染していない」ことを意味しない、という感覚を持っておこう。

まとめ

淋菌感染症はGram陰性双球菌であるNeisseria gonorrhoeaeによる性感染症で、潜伏期間は2〜7日程度と短いのが特徴です。男性では強い排尿痛と膿性分泌物を伴う急性尿道炎として発症しますが、女性では子宮頸管炎として始まり、無症状のことが多いため気づかれないまま上行感染して骨盤内炎症性疾患(PID)に進展し、卵管性不妊症や異所性妊娠の原因となりえます。診断ではPCR法などの核酸増幅法がGram染色より感度が高く中心的な役割を担い、薬剤感受性の評価には培養が必要です。治療はセフトリアキソンが第一選択で、クラミジアとの合併やパートナーの同時治療にも配慮します。病原体の性状と男女の臨床像の違いを結びつけて理解することは、性感染症全般の診療とその合併症予防の基礎になります。

解答・解説

正解はa, dです

淋菌感染症(淋病)は、Neisseria gonorrhoeae(淋菌)による性感染症(STI: sexually transmitted infection)である。淋菌は腎臓形の球菌が2つ向かい合って並ぶGram陰性双球菌で、乾燥や温度変化に弱く、主に性行為による粘膜同士の接触で感染する。 本問では、次の4つの観点を整理しておけば正誤を判断できる。 1. 病原体の性状: Gram陰性双球菌であり、好中球に貪食された像がみられる。 2. 経過: 潜伏期間は2~7日程度と短い。 3. 臨床像の男女差: 男性では急性尿道炎として排尿痛と多量の膿性分泌物で発症し、症状が強い。女性では子宮頸管炎として発症するが、帯下の増加程度で無症状のことが多く、気づかれないまま上行感染して骨盤内炎症性疾患(PID)を起こしうる。 4. 検査法: Gram染色は男性の尿道分泌物では有用だが、女性の子宮頸管検体では感度が低い。核酸増幅法(PCR法などのNAAT: nucleic acid amplification test)は感度・特異度ともに高く、現在の診断の中心である。 これらを踏まえ、発症部位・進展様式という女性の臨床像に関する記述が正しく、菌の染色性・潜伏期間・検査の感度に関する記述は誤りとなる。

選択肢考察

  1. ○a.  子宮頸管炎として発症する。

    正しい。女性の淋菌感染は、子宮頸管の円柱上皮に感染して子宮頸管炎として始まるのが基本である(尿道炎を伴うこともある)。ただし症状は膿性帯下の増加や軽い排尿時違和感程度にとどまり、半数前後は無症状とされる。このため女性は感染に気づかず、パートナーへの感染源となったり、治療されないまま上行感染したりしやすい。

  2. ×b.  Gram陽性球菌が認められる。

    誤り。淋菌はGram陰性双球菌であり、Gram染色では赤色に染まる。膿性分泌物のGram染色では、好中球の細胞質内に貪食されたGram陰性双球菌が多数みられる所見が特徴的である。同じNeisseria属の髄膜炎菌もGram陰性双球菌であり、Gram陽性球菌(ブドウ球菌、レンサ球菌など)とは異なる。

  3. ×c.  潜伏期間は4~6か月である。

    誤り。淋菌感染症の潜伏期間は2~7日程度と短く、男性では感染機会から数日で急激な排尿痛と膿性分泌物が出現する。クラミジア感染症の潜伏期間(1~3週間程度)よりも短い。月単位の潜伏期間は、B型肝炎(1~6か月)などではみられるが、淋菌感染症には当てはまらない。

  4. ○d.  女性では骨盤内炎症性疾患〈PID〉に進展する。

    正しい。子宮頸管の感染が治療されないまま上行すると、子宮内膜炎、卵管炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎といった骨盤内炎症性疾患(PID: pelvic inflammatory disease)に進展し、発熱や下腹部痛を呈する。炎症が治まった後も卵管の癒着・閉塞が残ると、卵管性不妊症や異所性妊娠の原因となる。さらに上腹部に波及すると肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こすことがあり、これはクラミジアでより多いが淋菌でもみられる。

  5. ×e.  検査法としてのPCR法の感度はGram染色と同等である。

    誤り。PCR法などの核酸増幅法は、ごく少量の菌の遺伝子でも検出できるため、Gram染色よりも感度が高い。Gram染色は男性の症状のある尿道炎では高い感度を示すが、女性の子宮頸管検体や無症状例、咽頭検体では感度が低く、陰性でも感染を否定できない。核酸増幅法は初尿や腟ぬぐい液でも検査でき、淋菌とクラミジアを同時に検出できる点でも有用である。ただし薬剤感受性を調べるには培養検査が必要となる。

淋菌感染症の臨床像

・男性: 急性尿道炎(強い排尿痛、多量の黄白色膿性分泌物)。上行すると精巣上体炎を起こし、男性不妊の原因となりうる。 ・女性: 子宮頸管炎、尿道炎。無症状が多く、上行感染でPIDに至る。 ・性行為の様式により咽頭炎や直腸炎も起こす。咽頭感染は無症状が多く、感染源として問題となる。 ・新生児: 産道感染による新生児結膜炎(膿漏眼)。放置すると角膜穿孔から失明に至りうる。 ・播種性淋菌感染症: まれに血行性に全身へ広がり、関節炎(化膿性関節炎、腱鞘炎)や皮疹を生じる。

淋菌とクラミジアの比較

・病原体: 淋菌はGram陰性双球菌、Chlamydia trachomatisは偏性細胞内寄生菌でGram染色では見えない。 ・潜伏期間: 淋菌は2~7日、クラミジアは1~3週間程度。 ・男性尿道炎の症状: 淋菌は急性で膿性分泌物が多い。クラミジアは比較的軽く漿液性の分泌物。 ・両者の合併感染は少なくないため、一方を検出した場合はもう一方の検査・治療も考慮する。

治療

淋菌はペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系などへの耐性化が進んでいる。わが国ではセフトリアキソンの単回静注が第一選択として推奨され、スペクチノマイシン筋注なども選択肢となる。パートナーの同時検査・治療が重要である。

POINT

・淋菌はGram陰性双球菌で、好中球内に貪食像がみられる。 ・潜伏期間は2~7日程度と短い。 ・男性は症状の強い急性尿道炎、女性は子宮頸管炎で発症するが無症状が多い。 ・女性では上行感染により骨盤内炎症性疾患(PID)に進展し、不妊症や異所性妊娠の原因となる。 ・核酸増幅法(PCR法など)はGram染色より感度が高い。薬剤感受性検査には培養が必要。 ・治療の第一選択はセフトリアキソン。キノロン耐性が多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。