StudyMed医師国家試験

ブレーキが外れるとあふれ出す―ドパミンで読み解く高プロラクチン血症

第107回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第15問

高プロラクチン血症をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.褐色細胞腫
  2. b.腎性尿崩症
  3. c.プロラクチノーマ
  4. d.甲状腺機能亢進症
  5. e.制吐薬(メトクロプラミド)の服用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高プロラクチン血症の原因を選ぶ問題だ。原因を丸暗記するより、プロラクチンの分泌がどう調節されているかを一度押さえてしまえば、選択肢は自然に整理できる。まずは基本から。下垂体前葉ホルモンの多くは視床下部ホルモンで「促進」されるけれど、プロラクチンはどうだったかな。
医学生医学生
生理学の講義で、プロラクチンだけは例外で、視床下部から「抑制」されていると習った記憶があります。抑制しているのはドパミンでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。視床下部から出たドパミンが下垂体門脈を通って下垂体に届き、D2受容体を介してプロラクチンの分泌を常にブレーキしている。一方、TRHやエストロゲンはアクセル側に働く。この構図から、高プロラクチン血症の原因は「腫瘍が自分で作る」「ドパミンのブレーキが外れる」「TRHが増える」「その他」の4つに整理できるんだ。
医学生医学生
腫瘍が自分で作る、というのはプロラクチノーマですね。これは迷わず選べました。
ドクタードクター
そうだね。プロラクチノーマは機能性下垂体腺腫のなかで最も多い。プロラクチンが増えるとGnRHの分泌が抑えられ、性腺機能が落ちる。だから女性では無月経・乳汁漏出・不妊、男性では性欲低下や勃起障害で見つかることが多い。
医学生医学生
男性は症状に気づきにくいから、腫瘍が大きくなって視野障害で見つかることもあると、脳外科の実習で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。大きな腺腫が視交叉を圧迫すると両耳側半盲や頭痛が出る。では、もう1つの正解はどれだろう。ドパミンのブレーキという視点で考えてみて。
医学生医学生
メトクロプラミドですか。消化器内科の実習で吐き気止めとしてよく処方されていましたが、薬理で「D2受容体遮断薬」と習いました。
ドクタードクター
正解。メトクロプラミドは消化管のD2受容体を遮断して制吐・消化管運動促進に働くけれど、下垂体のD2受容体も遮断してしまう。するとドパミンのブレーキが外れて、プロラクチンが上がるんだ。ドンペリドン、スルピリド、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬も同じ仕組みだね。
医学生医学生
精神科の実習で、抗精神病薬を飲んでいる女性患者さんが月経不順を訴えていたのは、これが原因だったのかもしれません。
ドクタードクター
十分ありうる話だね。薬剤性の高プロラクチン血症は頻度が高いから、高プロラクチン血症をみたらまず服薬歴と妊娠の有無を確認する、というのが鉄則なんだ。では残りの選択肢も確認しよう。甲状腺機能亢進症はどうかな。
医学生医学生
甲状腺と関係があった気はするんですが……亢進症だと代謝が上がるので、プロラクチンも上がるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがひっかけポイントだ。高プロラクチン血症を起こすのは原発性甲状腺機能「低下症」のほう。甲状腺ホルモンが減るとフィードバックでTRHが増え、TRHはTSHだけでなくプロラクチンの分泌も促すから上がる。亢進症では逆にTRHが抑えられるので、プロラクチンは上がらない。
医学生医学生
TRHがアクセル側だから、低下症のほうですね。向きを逆に覚えないよう気をつけます。褐色細胞腫はカテコールアミンを出す腫瘍なので、ドパミンも出すなら逆にプロラクチンは下がりそうに思えますが……。
ドクタードクター
理屈として考えたのはいいね。ただ褐色細胞腫は副腎髄質などのクロム親和性細胞の腫瘍で、高血圧、頭痛、動悸、発汗、高血糖などが主な問題になる。視床下部・下垂体によるプロラクチン調節とは直接関係がなく、高プロラクチン血症の原因としては挙げられないと理解しておこう。腎性尿崩症はどうだろう。
医学生医学生
集合管がバソプレシンに反応しない病気なので、問題は腎臓にあって下垂体は正常ですよね。プロラクチンとは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。先天性のV2受容体やアクアポリン2の異常、リチウムや高カルシウム血症などで起こるけれど、下垂体機能は保たれている。ちなみに腎臓がらみでいうと、慢性腎不全ではプロラクチンのクリアランスが落ちて上昇することがあるので、混同しないようにね。
医学生医学生
整理すると、プロラクチノーマは「自分で作る」、メトクロプラミドは「ブレーキが外れる」で、甲状腺はアクセルのTRHが増える低下症のほう、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識を。ドパミンの通り道である下垂体茎が、大きな非機能性腺腫や頭蓋咽頭腫などで圧迫されてもブレーキが外れて軽度の高プロラクチン血症になる。これを見てプロラクチノーマと決めつけないことが大事だ。また、プロラクチノーマの治療の第一選択はカベルゴリンなどのドパミン作動薬で、プロラクチンを下げるだけでなく腫瘍も縮小させる。
医学生医学生
ブレーキ役のドパミンを補う治療なんですね。原因も治療もドパミンでつながっていて、覚えやすいです。
ドクタードクター
そう、ひとつの調節機構を理解すれば、病態から治療まで一本の線でつながる。内分泌はこの考え方が強いんだ。

まとめ

プロラクチンは他の下垂体前葉ホルモンと異なり、視床下部からのドパミンによって主に抑制され、TRHやエストロゲンによって促進されます。この調節から、高プロラクチン血症の原因は、プロラクチノーマのような産生腫瘍、メトクロプラミドや抗精神病薬などのD2受容体遮断薬や下垂体茎障害によるドパミン作用の低下、原発性甲状腺機能低下症によるTRH増加、妊娠・授乳や慢性腎不全などに整理できます。甲状腺は「亢進症」ではなく「低下症」でプロラクチンが上がる点、褐色細胞腫や腎性尿崩症は無関係である点が鑑別のポイントです。臨床では高プロラクチン血症をみたら服薬歴と妊娠をまず確認し、プロラクチノーマにはドパミン作動薬が第一選択となります。ドパミンによる抑制という一つの仕組みを理解すれば、原因・症状・治療を一貫して説明できるようになります。

解答・解説

正解はc, eです

テーマ

高プロラクチン血症の原因を問う問題である。原因を考えるには、プロラクチン(PRL)の分泌がどう調節されているかを知っておく必要がある。

PRL分泌の調節

PRLは下垂体前葉の乳腺刺激ホルモン産生細胞から分泌される。ほかの下垂体前葉ホルモンの多くが視床下部ホルモンで「促進」されるのに対し、PRLは主に視床下部から出るドパミンによって「抑制」されている。ドパミンは下垂体門脈を通って下垂体に届き、D2受容体を介してPRLの分泌を抑える。一方、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)やエストロゲンはPRLの分泌を促す。

高PRL血症を起こす仕組み

この調節から、高PRL血症の原因は次のように整理できる。 1. PRLを自分で作る腫瘍:プロラクチノーマ。 2. ドパミンの作用が弱まる:ドパミンD2受容体を遮断する薬(メトクロプラミド、ドンペリドン、スルピリド、抗精神病薬など)やドパミンを減らす薬の使用、視床下部や下垂体茎(ドパミンの通り道)の障害(下垂体茎を圧迫する大きな非機能性腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、炎症・外傷など)。 3. TRHが増える:原発性甲状腺機能低下症。 4. そのほか:妊娠・授乳、慢性腎不全(PRLのクリアランス低下)、胸壁への刺激、ストレスなど。 選択肢のうち、1にあたるプロラクチノーマと、2にあたるメトクロプラミドの服用が正解である。

選択肢考察

  1. ×a.  褐色細胞腫

    褐色細胞腫は副腎髄質などのクロム親和性細胞からできるカテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン・ドパミン)産生腫瘍で、持続性または発作性の高血圧、頭痛、動悸、発汗、高血糖などを起こす。PRL分泌を調節する視床下部・下垂体の仕組みとは直接関係がなく、高PRL血症の原因としては挙げられない。

  2. ×b.  腎性尿崩症

    腎性尿崩症は、腎臓の集合管がバソプレシン(ADH:抗利尿ホルモン)に反応できず、尿を濃縮できないために多量の薄い尿が出る病気である。先天性のもの(V2受容体やアクアポリン2の遺伝子異常)と、リチウム製剤、高カルシウム血症、低カリウム血症などによる後天性のものがある。問題は腎臓にあり下垂体の機能は保たれているため、PRLの分泌とは関係しない。

  3. ○c.  プロラクチノーマ

    プロラクチノーマはPRLを産生する下垂体腺腫で、機能性下垂体腺腫のなかで最も多い。腫瘍がPRLを自分で分泌するため、高PRL血症を起こす。女性では無月経・乳汁漏出・不妊、男性では性欲低下・勃起障害で見つかり、大きな腫瘍では視野障害(両耳側半盲)や頭痛も起こる。高PRL血症はGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑えるため、性腺機能が低下する。治療の第一選択はドパミン作動薬(カベルゴリンなど)による薬物療法である。

  4. ×d.  甲状腺機能亢進症

    高PRL血症を起こすのは甲状腺機能「低下症」のほうである。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが減るとフィードバックでTRHが増える。TRHはTSH(甲状腺刺激ホルモン)だけでなくPRLの分泌も促すため、PRLが上がる。甲状腺機能亢進症では逆にTRHが抑えられるため、PRLは上がらない。

  5. ○e.  制吐薬(メトクロプラミド)の服用

    メトクロプラミドはドパミンD2受容体を遮断する制吐薬・消化管運動促進薬である。下垂体のD2受容体も遮断するため、ドパミンによるPRL分泌の抑制が外れ、高PRL血症を起こす。同じ仕組みの薬にドンペリドン、スルピリド、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬がある。そのほか、ドパミンを減らすレセルピンやメチルドパ、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤なども原因になる。薬剤性の高PRL血症は頻度が高いため、高PRL血症をみたら必ず服薬歴を確認する。

プロラクチンの基礎

・下垂体前葉から分泌される約200個のアミノ酸からなるポリペプチドホルモンで、成長ホルモンと構造が似ている。 ・主な作用は乳腺の発達と乳汁産生の促進である。妊娠中はエストロゲンの作用で増え、授乳時には乳頭への吸引刺激で分泌が高まる。 ・過剰になるとGnRHの分泌が抑えられ、ゴナドトロピン(LH・FSH)が減って性腺機能が低下する(無月経・排卵障害・不妊、男性の性欲低下・勃起障害)。

高プロラクチン血症の原因の整理

・生理的:妊娠、授乳、睡眠、ストレス、運動、乳頭刺激。 ・腫瘍性:プロラクチノーマ。 ・下垂体茎の障害(ドパミンが届かなくなる):非機能性下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、リンパ球性下垂体炎、サルコイドーシス、外傷などによる圧迫や障害。 ・薬剤性:ドパミンD2受容体遮断薬(メトクロプラミド、ドンペリドン、スルピリド、抗精神病薬)、三環系抗うつ薬、ドパミンを減らす薬(レセルピン、メチルドパ)、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤など。 ・その他:原発性甲状腺機能低下症(TRHの増加)、慢性腎不全、胸壁の外傷・帯状疱疹、マクロプロラクチン血症(見かけ上の上昇)。

プロラクチノーマの治療

ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)が第一選択で、PRLを下げるだけでなく腫瘍も小さくする。薬が効かない、または使えない場合は経蝶形骨洞手術を考える。

POINT

・PRLは視床下部のドパミンで抑制され、TRHとエストロゲンで促進される。 ・高PRL血症の原因:プロラクチノーマ、ドパミンD2受容体遮断薬(メトクロプラミド、スルピリド、抗精神病薬など)、下垂体茎の障害、原発性甲状腺機能低下症、妊娠・授乳。 ・甲状腺は「低下症」でPRLが上がる(TRHの増加)。亢進症では上がらない。 ・高PRL血症をみたら、まず服薬歴と妊娠を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。