ブレーキが外れるとあふれ出す―ドパミンで読み解く高プロラクチン血症
第107回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
高プロラクチン血症をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.褐色細胞腫
- b.腎性尿崩症
- c.プロラクチノーマ
- d.甲状腺機能亢進症
- e.制吐薬(メトクロプラミド)の服用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
プロラクチンは他の下垂体前葉ホルモンと異なり、視床下部からのドパミンによって主に抑制され、TRHやエストロゲンによって促進されます。この調節から、高プロラクチン血症の原因は、プロラクチノーマのような産生腫瘍、メトクロプラミドや抗精神病薬などのD2受容体遮断薬や下垂体茎障害によるドパミン作用の低下、原発性甲状腺機能低下症によるTRH増加、妊娠・授乳や慢性腎不全などに整理できます。甲状腺は「亢進症」ではなく「低下症」でプロラクチンが上がる点、褐色細胞腫や腎性尿崩症は無関係である点が鑑別のポイントです。臨床では高プロラクチン血症をみたら服薬歴と妊娠をまず確認し、プロラクチノーマにはドパミン作動薬が第一選択となります。ドパミンによる抑制という一つの仕組みを理解すれば、原因・症状・治療を一貫して説明できるようになります。
解答・解説
正解はc, eです
テーマ
高プロラクチン血症の原因を問う問題である。原因を考えるには、プロラクチン(PRL)の分泌がどう調節されているかを知っておく必要がある。
PRL分泌の調節
PRLは下垂体前葉の乳腺刺激ホルモン産生細胞から分泌される。ほかの下垂体前葉ホルモンの多くが視床下部ホルモンで「促進」されるのに対し、PRLは主に視床下部から出るドパミンによって「抑制」されている。ドパミンは下垂体門脈を通って下垂体に届き、D2受容体を介してPRLの分泌を抑える。一方、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)やエストロゲンはPRLの分泌を促す。
高PRL血症を起こす仕組み
この調節から、高PRL血症の原因は次のように整理できる。 1. PRLを自分で作る腫瘍:プロラクチノーマ。 2. ドパミンの作用が弱まる:ドパミンD2受容体を遮断する薬(メトクロプラミド、ドンペリドン、スルピリド、抗精神病薬など)やドパミンを減らす薬の使用、視床下部や下垂体茎(ドパミンの通り道)の障害(下垂体茎を圧迫する大きな非機能性腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、炎症・外傷など)。 3. TRHが増える:原発性甲状腺機能低下症。 4. そのほか:妊娠・授乳、慢性腎不全(PRLのクリアランス低下)、胸壁への刺激、ストレスなど。 選択肢のうち、1にあたるプロラクチノーマと、2にあたるメトクロプラミドの服用が正解である。
選択肢考察
- ×a. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質などのクロム親和性細胞からできるカテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン・ドパミン)産生腫瘍で、持続性または発作性の高血圧、頭痛、動悸、発汗、高血糖などを起こす。PRL分泌を調節する視床下部・下垂体の仕組みとは直接関係がなく、高PRL血症の原因としては挙げられない。
- ×b. 腎性尿崩症
腎性尿崩症は、腎臓の集合管がバソプレシン(ADH:抗利尿ホルモン)に反応できず、尿を濃縮できないために多量の薄い尿が出る病気である。先天性のもの(V2受容体やアクアポリン2の遺伝子異常)と、リチウム製剤、高カルシウム血症、低カリウム血症などによる後天性のものがある。問題は腎臓にあり下垂体の機能は保たれているため、PRLの分泌とは関係しない。
- ○c. プロラクチノーマ
プロラクチノーマはPRLを産生する下垂体腺腫で、機能性下垂体腺腫のなかで最も多い。腫瘍がPRLを自分で分泌するため、高PRL血症を起こす。女性では無月経・乳汁漏出・不妊、男性では性欲低下・勃起障害で見つかり、大きな腫瘍では視野障害(両耳側半盲)や頭痛も起こる。高PRL血症はGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑えるため、性腺機能が低下する。治療の第一選択はドパミン作動薬(カベルゴリンなど)による薬物療法である。
- ×d. 甲状腺機能亢進症
高PRL血症を起こすのは甲状腺機能「低下症」のほうである。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが減るとフィードバックでTRHが増える。TRHはTSH(甲状腺刺激ホルモン)だけでなくPRLの分泌も促すため、PRLが上がる。甲状腺機能亢進症では逆にTRHが抑えられるため、PRLは上がらない。
- ○e. 制吐薬(メトクロプラミド)の服用
メトクロプラミドはドパミンD2受容体を遮断する制吐薬・消化管運動促進薬である。下垂体のD2受容体も遮断するため、ドパミンによるPRL分泌の抑制が外れ、高PRL血症を起こす。同じ仕組みの薬にドンペリドン、スルピリド、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬がある。そのほか、ドパミンを減らすレセルピンやメチルドパ、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤なども原因になる。薬剤性の高PRL血症は頻度が高いため、高PRL血症をみたら必ず服薬歴を確認する。
プロラクチンの基礎
・下垂体前葉から分泌される約200個のアミノ酸からなるポリペプチドホルモンで、成長ホルモンと構造が似ている。 ・主な作用は乳腺の発達と乳汁産生の促進である。妊娠中はエストロゲンの作用で増え、授乳時には乳頭への吸引刺激で分泌が高まる。 ・過剰になるとGnRHの分泌が抑えられ、ゴナドトロピン(LH・FSH)が減って性腺機能が低下する(無月経・排卵障害・不妊、男性の性欲低下・勃起障害)。
高プロラクチン血症の原因の整理
・生理的:妊娠、授乳、睡眠、ストレス、運動、乳頭刺激。 ・腫瘍性:プロラクチノーマ。 ・下垂体茎の障害(ドパミンが届かなくなる):非機能性下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、リンパ球性下垂体炎、サルコイドーシス、外傷などによる圧迫や障害。 ・薬剤性:ドパミンD2受容体遮断薬(メトクロプラミド、ドンペリドン、スルピリド、抗精神病薬)、三環系抗うつ薬、ドパミンを減らす薬(レセルピン、メチルドパ)、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤など。 ・その他:原発性甲状腺機能低下症(TRHの増加)、慢性腎不全、胸壁の外傷・帯状疱疹、マクロプロラクチン血症(見かけ上の上昇)。
プロラクチノーマの治療
ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)が第一選択で、PRLを下げるだけでなく腫瘍も小さくする。薬が効かない、または使えない場合は経蝶形骨洞手術を考える。
POINT
・PRLは視床下部のドパミンで抑制され、TRHとエストロゲンで促進される。 ・高PRL血症の原因:プロラクチノーマ、ドパミンD2受容体遮断薬(メトクロプラミド、スルピリド、抗精神病薬など)、下垂体茎の障害、原発性甲状腺機能低下症、妊娠・授乳。 ・甲状腺は「低下症」でPRLが上がる(TRHの増加)。亢進症では上がらない。 ・高PRL血症をみたら、まず服薬歴と妊娠を確認する。
