ステロイドを塗るほど悪化する頭の膿疱―「菌が出ない膿」が指し示すCelsus禿瘡
第106回医師国家試験 I問題 第73問
国試問題にチャレンジ
62歳の男性。脱毛を主訴に来院した。6か月前から頭頂部に痒みを自覚するようになったため,市販の副腎皮質ステロイド外用薬を塗布していた。2か月前から同部位に膿疱を生じ,脱毛も認めるようになったため受診した。膿疱の細菌培養は陰性である。頭部の写真を別に示す。 診断として最も考えられるのはどれか。

- a.丹毒
- b.尋常性乾癬
- c.Celsus禿瘡
- d.尋常性天疱瘡
- e.伝染性膿痂疹
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ステロイド外用で改善しない、あるいは悪化する皮疹では、まず白癬やカンジダなどの真菌感染症を疑うことが重要です。頭部の境界明瞭な脱毛斑に隆起性紅斑と多数の膿疱を伴い、細菌培養が陰性であれば、頭部白癬が毛包深部に及んだCelsus禿瘡が最も考えられます。丹毒や伝染性膿痂疹は細菌が培養される急性感染症、尋常性乾癬はステロイドが奏効する鱗屑性疾患、尋常性天疱瘡は粘膜病変を伴う自己免疫性水疱症であり、いずれも本例の経過に合いません。診断はKOH直接鏡検と真菌培養で行い、治療は抗真菌薬の内服が必要で、放置すると瘢痕性脱毛を残すことがあります。「ステロイドで悪化したら真菌を疑う」という視点は、異型白癬の見逃しを防ぐ日常診療の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・62歳の男性。6か月前から頭頂部のかゆみがあり、自己判断で市販の副腎皮質ステロイド外用薬を塗り続けていた。 ・2か月前から同じ部位に膿疱と脱毛が出てきた。すなわちステロイドを塗っているのに改善せず、むしろ悪化している。 ・膿疱の細菌培養は陰性である。 ・頭部写真:頭頂部に境界のはっきりした脱毛斑があり、その内部は赤く盛り上がり、多数の膿疱と痂皮(かさぶた)を伴っている。
診断へのプロセス
「ステロイド外用で悪化する皮疹」をみたら、まず真菌(白癬・カンジダ)感染症を疑う。ステロイドは局所の免疫を抑えるため、真菌が増殖しやすくなるからである。頭部の白癬が毛包の奥まで入り込み、強い炎症反応を起こして膿疱・腫脹・脱毛を生じたものを Celsus 禿瘡(ケルスス禿瘡、ケルion)という。膿疱があっても細菌培養が陰性であること、つまり「無菌性の膿疱」である点が、細菌感染症との大きな違いであり、本症を強く示唆する。 鑑別すべき疾患として次がある。 ・癰(よう:複数の毛包が集まって化膿したもの):強い痛みと発熱などの全身症状を伴い、急性に進む。細菌培養は陽性となる。 ・慢性膿皮症、膿痂疹性湿疹:いずれも細菌培養で菌が検出されることが多い。膿痂疹性湿疹と誤診され、抗菌薬入りステロイド外用薬を処方されてさらに悪化する例が少なくない。 確定診断には、病変部の毛や鱗屑を採取し、水酸化カリウム(KOH)を用いた直接鏡検で菌糸や胞子を確認するとともに、真菌培養で菌種を同定する。本問は写真と経過から Celsus 禿瘡を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 丹毒
丹毒は主に A 群β溶血性連鎖球菌による真皮浅層の急性細菌感染症である。顔面や下腿に好発し、境界明瞭で光沢のある、痛みと熱感の強い浮腫性紅斑が急速に広がり、発熱や悪寒などの全身症状を伴う。6か月にわたる慢性経過、かゆみで始まったこと、膿疱と脱毛、細菌培養陰性のいずれも合わない。
- ×b. 尋常性乾癬
尋常性乾癬は、境界明瞭な紅斑の上に銀白色で雲母状の厚い鱗屑が付着する慢性炎症性疾患で、頭部・肘・膝・腰部などの刺激を受けやすい部位に好発する。ステロイド外用がむしろ治療の基本であり、塗って悪化する経過は合わない。また頭部に病変があっても通常は瘢痕性の脱毛を起こさず、本例のような多数の膿疱も生じない(膿疱性乾癬は別の病型で、全身症状を伴うことが多い)。
- ○c. Celsus禿瘡
頭部白癬が毛包深くに及んで強い炎症を起こした病型である。境界明瞭な脱毛斑に、扁平に盛り上がった紅斑、びらん、多数の膿疱、痂皮や鱗屑を伴う。膿疱は菌に対する炎症反応によるもので、細菌培養は陰性となる。ステロイド外用で局所免疫が抑えられると悪化しやすく、本例の経過と一致する。治療は抗真菌薬の内服(テルビナフィン、イトラコナゾールなど)が必要で、外用薬だけでは毛包内の菌に届かず治りにくい。
- ×d. 尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡は、表皮細胞どうしをつなぐデスモグレイン3(粘膜皮膚型ではデスモグレイン1も)に対する自己抗体によって表皮内に水疱ができる自己免疫性水疱症である。破れやすい弛緩性水疱とびらんが皮膚に多発し、口腔粘膜のびらんがほぼ必発で、一見正常な皮膚をこすると表皮がはがれる Nikolsky 現象が陽性となる。本例は頭頂部に限局した膿疱と脱毛であり、水疱や粘膜病変もなく、合わない。治療はステロイド全身投与が中心である。
- ×e. 伝染性膿痂疹
伝染性膿痂疹(とびひ)は黄色ブドウ球菌や A 群β溶血性連鎖球菌による表皮の細菌感染症で、小児に多い。水疱・膿疱・痂皮を作る点で本例の初期像と似るが、細菌感染症なので膿疱から原因菌が培養される。細菌培養陰性であること、62歳という年齢、脱毛を伴うことから否定的である。
白癬と頭部白癬
白癬は皮膚糸状菌(Trichophyton 属、Microsporum 属など)がケラチンを含む角質・毛・爪に感染する疾患である。部位により足白癬、爪白癬、体部白癬、股部白癬、頭部白癬などと呼ばれる。 頭部白癬は、毛に感染して毛が折れ、軽い鱗屑を伴う脱毛斑を作る「しらくも」が典型的である。これが毛包の深部に及び、強い炎症・膿疱・腫脹を伴ったものが Celsus 禿瘡である。原因菌として Microsporum canis(ペットのネコ・イヌから感染)、Trichophyton tonsurans(柔道・レスリングなど格闘技の接触で広がる)などが知られる。放置すると毛包が破壊され、瘢痕性の脱毛(永久脱毛)を残すことがある。
ステロイド外用と真菌感染
真菌感染症と気づかずにステロイドを塗ると、かゆみや赤みが一時的に和らぐ一方で菌は増え、病変が拡大したり典型像から外れたりする。このような修飾を受けた白癬を「異型白癬(tinea incognito)」と呼ぶ。「ステロイドで改善しない、あるいは悪化する皮疹」では、KOH 直接鏡検で真菌を確認する習慣が重要である。
Celsus 禿瘡の診断と治療
・診断:病変部の毛や鱗屑の KOH 直接鏡検、真菌培養。 ・治療:抗真菌薬の内服(テルビナフィン、イトラコナゾールなど)を数週間以上続ける。ステロイド外用は中止する。膿疱は無菌性なので切開排膿は通常不要である。
POINT
・ステロイド外用で悪化する皮疹 → 真菌感染症(白癬・カンジダ)を疑い、KOH 直接鏡検を行う。 ・頭部の境界明瞭な脱毛斑+膿疱・隆起性紅斑+細菌培養陰性 → Celsus 禿瘡(深在性の頭部白癬)。 ・Celsus 禿瘡の治療は抗真菌薬の内服であり、外用だけでは不十分である。 ・放置すると瘢痕性脱毛を残しうる。
