StudyMed医師国家試験

呼気でも割れるⅡ音―固定性分裂から導く心房中隔欠損症の聴診ポイント

第106回医師国家試験 I問題 第70問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第70問

 7歳の男児。学校の健康診断で心雑音を指摘されたため来院した。チアノーゼを認めない。胸部聴診上,吸気時と呼気時とでⅡ音が分裂し,収縮期雑音を聴取する。  これらの所見の聴診に最も適した部位はどれか。

  1. a.左鎖骨上窩
  2. b.胸骨右縁第2肋間
  3. c.胸骨左縁第2肋間
  4. d.胸骨左縁第5肋間
  5. e.左鎖骨中線上第5肋間

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、学校健診で心雑音を指摘された子どもについて、どこに聴診器を当てるのが最適かを問う問題だ。ポイントは2つ。Ⅱ音が呼吸のどのタイミングで分裂しているか、そしてその収縮期雑音がどこで生まれているか。まずはⅡ音の成り立ちから確認しよう。
医学生医学生
Ⅱ音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音でしたよね。
ドクタードクター
そう、大動脈成分のⅡAと肺動脈成分のⅡPだ。正常では、吸気時に胸腔内圧が下がって右心に戻る血液が増え、右室の駆出が長引くのでⅡPが遅れる。だから吸気時だけ分裂して、呼気時には一つに聞こえる。これが生理的呼吸性分裂だよ。
医学生医学生
今回は吸気でも呼気でも分裂しているので、正常とは違うということですね。
ドクタードクター
その通り。呼吸に関係なく分裂幅がほぼ一定の状態を固定性分裂といって、心房中隔欠損症に特徴的な所見なんだ。
医学生医学生
循環器の講義で習いましたが、なぜ固定されるのかがいまいち分かっていません。
ドクタードクター
心房中隔欠損症では、左房から右房へ常に血液が流れ込むので、右室は呼気時でも容量負荷がかかっていて肺動脈弁の閉鎖が遅れる。さらに、吸気で右房への静脈還流が増えても、左右の心房が欠損孔でつながっているので短絡量が相殺的に変化し、右室の駆出時間がほとんど変わらない。だから分裂幅が固定されるんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ収縮期雑音は、欠損孔を血液が通る音ですか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。心房どうしの圧較差は小さいので、欠損孔の血流自体はほとんど音を出さない。聞こえているのは、短絡で増えた大量の血液が正常な肺動脈弁を通るときの駆出性雑音で、相対的肺動脈弁狭窄による雑音と呼ばれる。
医学生医学生
肺動脈弁で音が生まれているなら、肺動脈弁領域、つまり胸骨左縁第2肋間が最適ですね。
ドクタードクター
正解。ⅡPも胸壁に近い肺動脈弁の音としてこの部位で一番よく聞こえるから、Ⅱ音の分裂を確認するにも最適だ。一つの場所で両方の所見をとらえられるわけだね。では他の部位も整理しておこう。胸骨右縁第2肋間は何の領域かな。
医学生医学生
大動脈弁領域です。大動脈弁狭窄症の雑音が頸部に放散するのを、OSCEの練習で聴診シミュレーターを使って聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。心房中隔欠損症の雑音は肺動脈弁の血流増加によるものだから、大動脈弁領域では最強にならないし、ⅡPもここでは聞こえにくい。次に胸骨左縁第5肋間はどうだろう。
医学生医学生
三尖弁領域ですね。三尖弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音で、吸気で増強するRivero-Carvallo徴候がありました。
ドクタードクター
その通り。ちなみに心房中隔欠損症でも短絡量が多いと、三尖弁を通る血流が増えて、この付近で拡張中期雑音が聞こえることがある。でも今回の収縮期雑音とⅡ音分裂を聞く場所ではない。心尖部にあたる左鎖骨中線上第5肋間は僧帽弁領域で、僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症、Ⅲ音・Ⅳ音を聞くところだ。
医学生医学生
左鎖骨上窩は弁の聴診部位ではないですよね。
ドクタードクター
そう。鎖骨上窩付近は小児の静脈コマ音を聞く場所で、右側に多く、座位で強く臥位や頸静脈の圧迫で消える無害性の連続性雑音だ。小児科では覚えておくと役に立つよ。
医学生医学生
小児の無害性雑音だった可能性はないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。小児の無害性駆出性雑音の多くも肺動脈弁領域で聞かれるから、答えは同じ胸骨左縁第2肋間になる。ただ、呼気時にも分裂していると明記されていることから、心房中隔欠損症を想定した出題と読むのが自然だ。
医学生医学生
7歳で初めて見つかるというのも、症状が乏しい心房中隔欠損症らしいですね。
ドクタードクター
その通り。チアノーゼもなく幼少期は無症状のことが多いので、学校健診で初めて見つかることがある。心電図では不完全右脚ブロックや右軸偏位が手がかりになり、診断は心エコーで行う。肺体血流比が1.5以上などの有意な短絡があれば閉鎖術の適応で、二次孔型で条件が合えばカテーテルによる閉鎖栓、それ以外は外科的閉鎖を考える。放置すると成人期に心房細動や右心不全、肺高血圧を来しうるから、見つけた段階できちんと専門医につなぐことが大切なんだ。

まとめ

Ⅱ音は大動脈弁成分と肺動脈弁成分からなり、正常では吸気時だけ分裂しますが、吸気・呼気を問わず分裂幅が一定の固定性分裂は心房中隔欠損症に特徴的です。心房中隔欠損症の収縮期雑音は欠損孔の音ではなく、左右短絡で増えた血流が肺動脈弁を通過する相対的肺動脈弁狭窄の駆出性雑音であるため、最強点は肺動脈弁領域の胸骨左縁第2肋間で、Ⅱ音分裂の確認もこの部位が最適です。聴診部位は、胸骨右縁第2肋間が大動脈弁、胸骨左縁第4〜5肋間が三尖弁、心尖部が僧帽弁と対応させて整理し、鎖骨上窩の静脈コマ音のような無害性雑音も区別しておきましょう。心房中隔欠損症は無症状で学校健診を契機に見つかることが多く、不完全右脚ブロックや心エコーで診断し、有意な短絡があれば閉鎖術を検討します。雑音の発生機序から聴診部位を導く考え方は、暗記に頼らず心疾患の身体診察を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・7歳男児。学校の健康診断で初めて心雑音を指摘された。乳幼児期の健診では見つかっていなかったと考えられ、心室中隔欠損症や動脈管開存症のような大きな雑音を出す疾患の可能性は低い。 ・チアノーゼはなく、Fallot四徴症などのチアノーゼ性心疾患は考えにくい。 ・Ⅱ音が吸気時にも呼気時にも分裂している。 ・収縮期雑音を聴取する。

Ⅱ音分裂の読み方

Ⅱ音は大動脈弁の閉鎖音(ⅡA)と肺動脈弁の閉鎖音(ⅡP)からなる。正常では、吸気時に胸腔内圧が下がって右心への静脈還流が増え、右室の駆出が長引いてⅡPが遅れるため、吸気時にだけⅡ音が分裂し、呼気時には一つに聞こえる(生理的呼吸性分裂)。 本例のように呼気時にも分裂し、吸気・呼気で分裂の幅がほとんど変わらない状態を固定性分裂という。これは心房中隔欠損症(ASD:atrial septal defect)に特徴的な所見である。ASDでは左房から右房へ常に血液が短絡して右室の容量負荷が続くため、呼気時でも肺動脈弁の閉鎖が遅れる。さらに呼吸で右房への静脈還流が変動しても、左右の心房が欠損孔でつながっているため短絡量が相殺的に変化し、右室の駆出時間がほぼ一定に保たれる。

収縮期雑音の由来と聴取部位

ASDの収縮期雑音は、欠損孔を通る血流そのものの音ではない(心房間の圧較差は小さく、音はほとんど生じない)。短絡により増加した大量の血液が正常な肺動脈弁を通過するために生じる駆出性雑音であり、相対的肺動脈弁狭窄による雑音と呼ばれる。したがって最強点は肺動脈弁領域、すなわち胸骨左縁第2肋間である。Ⅱ音の分裂も、ⅡPを最もよく聴取できる同じ部位で確認しやすい。 なお、所見を小児によくみられる生理的Ⅱ音分裂と無害性(機能性)雑音と解釈したとしても、小児の無害性駆出性雑音の多くは肺動脈弁領域で聴かれるため、答えは同じく胸骨左縁第2肋間となる。ただし「呼気時にも分裂している」と明記されている点と、健診で指摘されている点から、ASDを想定した出題と考えるのが自然である。

選択肢考察

  1. ×a.  左鎖骨上窩

    鎖骨上窩〜鎖骨下の付近は、小児で聴かれる静脈コマ音(venous hum:内頸静脈を流れる血流による、コマが回るような低調な連続性雑音)を聴取する部位である。静脈コマ音は右側で聴かれることが多く、座位で強く、臥位や頸静脈の圧迫で消えるのが特徴で、無害性雑音の一種である。心臓の弁を評価する聴診部位ではなく、Ⅱ音の分裂やASDの収縮期雑音を聴くのには適さない。

  2. ×b.  胸骨右縁第2肋間

    大動脈弁領域である。大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音(頸部へ放散する)の最強点となる。ASDの雑音は肺動脈弁を通る血流の増加によるものであり、大動脈弁領域では最強とならない。またⅡ音分裂の評価に必要な肺動脈成分(ⅡP)は、この部位ではⅡAに比べて聴こえにくい。

  3. ○c.  胸骨左縁第2肋間

    肺動脈弁領域である。ASDでは左右短絡で増えた血流が肺動脈弁を通過し、相対的肺動脈弁狭窄による収縮期駆出性雑音を生じるため、この部位が最強点となる。Ⅱ音の肺動脈成分(ⅡP)も胸壁に近い肺動脈弁の音としてこの部位で最もよく聴こえるため、Ⅱ音の分裂(ASDでは固定性分裂)を確認するのにも最適である。肺動脈弁狭窄症の雑音や、小児の無害性駆出性雑音もこの付近で聴取される。

  4. ×d.  胸骨左縁第5肋間

    胸骨左縁下部(第4〜5肋間)は三尖弁領域で、三尖弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音(吸気で増強するRivero-Carvallo徴候)が聴かれる。心室中隔欠損症の汎収縮期雑音は胸骨左縁第3〜4肋間が最強点となることが多い。ASDでも短絡量が多いと三尖弁を通る血流増加による拡張中期雑音(相対的三尖弁狭窄)がこの付近で聴かれることがあるが、設問の収縮期雑音とⅡ音分裂の聴取部位としては適さない。

  5. ×e.  左鎖骨中線上第5肋間

    心尖部にあたり、僧帽弁領域である。僧帽弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音(左腋窩へ放散)、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル、Ⅰ音の亢進やⅢ音・Ⅳ音などを聴取するのに適する。ASDの収縮期雑音やⅡ音の分裂を聴く部位ではない。

聴診の4領域

・大動脈弁領域:胸骨右縁第2肋間(大動脈弁狭窄症の駆出性雑音。大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音は胸骨左縁第3肋間〈Erb領域〉でよく聴かれる)。 ・肺動脈弁領域:胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁狭窄症、ASDの相対的肺動脈弁狭窄、Ⅱ音の分裂・ⅡP亢進)。 ・三尖弁領域:胸骨左縁第4〜5肋間(三尖弁閉鎖不全症)。 ・僧帽弁領域:心尖部=左第5肋間鎖骨中線付近(僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症)。

Ⅱ音分裂の種類

・生理的分裂:吸気時のみ分裂。正常。 ・分裂の拡大(幅広い呼吸性分裂):ⅡPの遅れ(右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症)やⅡAが早まる(僧帽弁閉鎖不全症)ことによる。呼吸性変動は保たれる。 ・固定性分裂:呼吸に関係なく分裂幅が一定。心房中隔欠損症に特徴的。 ・奇異性分裂(逆分裂):ⅡAが遅れて呼気時に分裂する。左脚ブロック、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症など。

心房中隔欠損症(ASD)

・最も多いのは二次孔欠損型。女性にやや多い。 ・左→右短絡により、右房・右室の容量負荷と肺血流量の増加を来す。 ・幼少期は無症状のことが多く、雑音も小さいため、学校健診などで初めて発見されることがある。 ・聴診:Ⅱ音の固定性分裂、胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)、短絡が多いと胸骨左縁下部で拡張中期雑音(相対的三尖弁狭窄)。 ・心電図:不完全右脚ブロック、右軸偏位(二次孔型)。一次孔型(不完全型房室中隔欠損)では左軸偏位。 ・胸部エックス線:右房・右室の拡大、肺動脈の拡張、肺血管陰影の増強。 ・診断:心エコー(経胸壁、必要に応じ経食道)。 ・治療:肺体血流比(Qp/Qs)が1.5以上などの有意な短絡があれば閉鎖術の適応。二次孔型で条件が合えばカテーテルによる閉鎖栓(Amplatzer閉鎖栓など)、それ以外は外科的閉鎖を行う。放置すると成人期に心房細動、右心不全、肺高血圧を来しうる。

小児の無害性雑音

・Still雑音:胸骨左縁下部〜心尖部の、弦を弾いたような楽音様の収縮期雑音。 ・肺動脈駆出性雑音:胸骨左縁第2肋間の柔らかい収縮期雑音。 ・静脈コマ音:鎖骨上窩付近(右側に多い)の連続性雑音。体位や頸静脈圧迫で変化・消失する。

POINT

・「吸気時と呼気時とでⅡ音が分裂」=固定性分裂 → 心房中隔欠損症を考える。 ・ASDの収縮期雑音は欠損孔の音ではなく、肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄の駆出性雑音。 ・したがって最強点は肺動脈弁領域=胸骨左縁第2肋間。Ⅱ音分裂の評価も同部位で行う。 ・聴診部位:胸骨右縁第2肋間=大動脈弁、胸骨左縁第2肋間=肺動脈弁、胸骨左縁第4〜5肋間=三尖弁、心尖部=僧帽弁。 ・ASDは無症状で学校健診で見つかることがある非チアノーゼ性心疾患。心電図は不完全右脚ブロック。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。