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なぜ「意識障害」なのか―インスリノーマを低血糖の症状から読み解く

第106回医師国家試験 I問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第16問

インスリノーマでみられやすいのはどれか。

  1. a.下痢
  2. b.胆石症
  3. c.意識障害
  4. d.色素沈着
  5. e.十二指腸潰瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、膵臓のホルモン産生腫瘍のひとつ、インスリノーマで起こる症状を問う問題だ。考え方はシンプルで、「どのホルモンが過剰になって、その作用で何が起こるか」を追えばいい。まず、インスリノーマはどの細胞から出る腫瘍で、何を分泌するかな。
医学生医学生
膵島のβ細胞由来で、インスリンを出す腫瘍です。
ドクタードクター
その通り。ポイントは、血糖値が下がってもインスリンを出し続けてしまうこと。普通なら血糖が下がればインスリン分泌は止まるのに、それが効かない。すると何が起こる?
医学生医学生
低血糖を繰り返します。でも低血糖の症状というと、冷や汗とか動悸とか手の震えを思い浮かべます。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。低血糖の症状は2系統に分けて考えると整理しやすい。ひとつは交感神経が活性化して出る自律神経症状で、発汗、動悸、振戦、空腹感、不安など。もうひとつは脳へのブドウ糖供給が足りなくなって出る中枢神経症状で、集中力低下、異常行動、錯乱、意識障害、けいれん、昏睡まで進みうる。
医学生医学生
脳はほとんどブドウ糖だけをエネルギー源にしているから、血糖が下がると真っ先に困るんですね。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。しかもインスリノーマでは低血糖を何度も繰り返すうちに自律神経症状が出にくくなる、いわゆる無自覚性低血糖になることがある。警告サインなしにいきなり意識障害や異常行動が起こるので、てんかんや精神疾患と誤診されることもあるんだ。だから正解は意識障害だ。
医学生医学生
診断の手がかりとして、Whippleの三徴がありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。空腹時や運動時に低血糖症状が出る、そのときの血糖値が実際に低い、ブドウ糖を投与するとすぐに症状が改善する、の3つだ。早朝空腹時や食事を抜いたとき、運動後に起こりやすい。患者さんは症状を避けようとこまめに食べるので、体重が増えることも多い。
医学生医学生
ほかの選択肢は、別の膵神経内分泌腫瘍の症状でしょうか。下痢はガストリノーマだった気がします。
ドクタードクター
半分正解。ガストリノーマでも、大量の胃酸で膵酵素が失活することなどにより下痢を伴うことが多い。ただ下痢の代表格といえばVIPomaだ。VIPは腸管からの水と電解質の分泌を促し、胃酸分泌は抑えるので、水様性下痢、低カリウム血症、無酸症の三徴、つまりWDHA症候群になる。
医学生医学生
十二指腸潰瘍はガストリノーマ、Zollinger-Ellison症候群ですね。難治性で、普段できないような場所にもできると。
ドクタードクター
その通り。ガストリンで胃酸が過剰に出るからね。MEN1に合併することが比較的多いのも大事なポイントだ。では胆石症は?
医学生医学生
うーん、糖尿病で胆石が多いという話は聞いたことがありますが……。
ドクタードクター
膵神経内分泌腫瘍との関連でいえば、ソマトスタチノーマを思い出してほしい。ソマトスタチンはコレシストキニンなどの働きを抑えて胆嚢の収縮を低下させるので、胆汁がうっ滞して胆石ができやすい。インスリン分泌抑制による糖尿病、膵外分泌抑制による脂肪便と合わせて三徴として覚えよう。
医学生医学生
色素沈着は膵臓の腫瘍とは別系統で、ACTH過剰ですよね。Addison病の患者さんの写真をCBTの勉強で見ました。
ドクタードクター
そう。ACTHは前駆体のPOMCから作られ、MSHと共通する配列を含むので、メラノサイトを刺激してメラニンを増やす。Addison病ではコルチゾールによる負のフィードバックがなくなってACTHが増えるんだ。ちなみに膵神経内分泌腫瘍の皮膚症状としては、グルカゴノーマの壊死性遊走性紅斑が有名だよ。
医学生医学生
ホルモンの作用から逆算すれば、どの腫瘍か区別できるんですね。インスリノーマの確定診断はどうするんですか。
ドクタードクター
低血糖のときに血中インスリンが不適切に高い、つまり低血糖なのにインスリン分泌が抑えられていないことを示すのが基本だ。最長72時間の絶食試験で低血糖を誘発して評価する。インスリンとCペプチドがともに高ければ、Cペプチドが抑制される外因性インスリンによる低血糖とも区別できる。
医学生医学生
腫瘍は小さいことが多いと聞きましたが、場所はどう探すんでしょう。
ドクタードクター
多くは単発・良性で2cm未満と小さい。造影CT、MRI、超音波内視鏡で探し、それでも見つからなければ選択的動脈内カルシウム注入試験で腫瘍を栄養する動脈の領域を特定する。治療は外科的切除が根治で、切除できない場合はジアゾキシドやソマトスタチンアナログを用いる。救急で原因不明の意識障害を診たら、まず血糖を測る習慣をつけておこう。

まとめ

インスリノーマは膵β細胞由来の腫瘍で、血糖値にかかわらずインスリンを分泌し続けるため、空腹時や運動後に低血糖を繰り返します。脳はエネルギーをほぼブドウ糖に依存するため、意識障害・異常行動・けいれんなどの中枢神経症状が出やすく、無自覚性低血糖ではてんかんや精神疾患と誤診されることもあります。診断はWhippleの三徴を手がかりに、絶食試験で低血糖時の不適切なインスリン高値を確認し、局在はCT・MRI・超音波内視鏡や選択的動脈内カルシウム注入試験で評価します。下痢はVIPoma(WDHA症候群)やガストリノーマ、十二指腸潰瘍はガストリノーマ、胆石症はソマトスタチノーマ、色素沈着はACTH過剰と、ホルモンの作用から症候を対応づけて整理することが鑑別の要です。原因不明の意識障害では必ず血糖を確認するという臨床の基本にもつながる知識です。

解答・解説

正解はcです

膵神経内分泌腫瘍(ホルモンを産生する膵臓の腫瘍)の一つであるインスリノーマの症候を問う問題である。 インスリノーマは膵β細胞由来の腫瘍で、血糖値に関係なくインスリンを分泌し続ける。そのため空腹時や運動後に低血糖を繰り返す。低血糖の症状は二つに分けて考えるとわかりやすい。 ・自律神経症状(交感神経が活性化して出る症状):発汗、動悸、振戦、空腹感、不安など ・中枢神経症状(脳へのブドウ糖供給不足で出る症状):集中力低下、異常行動、錯乱、意識障害、けいれん、昏睡など 低血糖を繰り返すうちに自律神経症状が出にくくなる(無自覚性低血糖)ことがあり、突然の意識障害や異常行動で見つかり、てんかんや精神疾患と誤診されることもある。 古典的には、Whippleの三徴(1. 空腹時や運動時に低血糖症状が出る、2. そのときの血糖値が低い、3. ブドウ糖を投与すると症状がすぐ改善する)が診断の手がかりになる。 選択肢に並ぶ他の症候は、ほかの消化管ホルモン産生腫瘍や内分泌疾患の特徴である。「どのホルモンが過剰になり、その作用で何が起こるか」を考えれば区別できる。

選択肢考察

  1. ×a.  下痢

    インスリノーマの特徴ではない。多量の水様性下痢はVIPoma(血管作動性腸管ポリペプチドvasoactive intestinal polypeptide[VIP]を産生する腫瘍)の代表的症状である。VIPは腸管からの水・電解質分泌を促し、胃酸分泌を抑えるため、水様性下痢(watery diarrhea)、低カリウム血症(hypokalemia)、無酸症(achlorhydria)の三徴を示す。頭文字からWDHA症候群と呼ばれる。ガストリノーマでも、大量の胃酸が膵酵素を失活させることなどにより下痢を伴うことが多い。

  2. ×b.  胆石症

    インスリノーマとは直接関係しない。胆石症を伴いやすい膵神経内分泌腫瘍はソマトスタチノーマである。ソマトスタチンはコレシストキニンなどの働きを抑え、胆嚢の収縮を低下させるため胆汁がうっ滞し、胆石ができやすい。ほかにインスリン分泌を抑えることによる糖尿病、膵外分泌を抑えることによる脂肪便を合わせた三徴が知られる。

  3. ○c.  意識障害

    インスリノーマで典型的にみられる。インスリンの過剰分泌によって低血糖となる。脳はエネルギー源のほとんどをブドウ糖に頼っているため、血糖が大きく下がると中枢神経症状が出て、意識障害、異常行動、けいれん、昏睡に至る。早朝空腹時や食事を抜いたとき、運動後に起こりやすく、ブドウ糖を投与するとすぐに回復するのが特徴である。患者は症状を避けるため頻回に食べるようになり、体重が増えることも多い。

  4. ×d.  色素沈着

    インスリノーマの特徴ではない。皮膚や粘膜の色素沈着は、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰なときに起こる。ACTHは前駆体のプロオピオメラノコルチン(POMC)からつくられ、メラノサイト刺激ホルモン(MSH)と同じアミノ酸配列を含むため、メラノサイトを刺激してメラニン産生を増やす。代表は原発性の慢性副腎皮質機能低下症(Addison病)であり、コルチゾールによる負のフィードバックがなくなってACTHが増える。異所性ACTH産生腫瘍やNelson症候群でもみられる。なお、膵神経内分泌腫瘍の皮膚症状としてはグルカゴノーマの壊死性遊走性紅斑が有名である。

  5. ×e.  十二指腸潰瘍

    インスリノーマの特徴ではない。十二指腸潰瘍、特に難治性・多発性の潰瘍や、十二指腸下行脚より先など通常みられない部位の潰瘍は、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)の特徴である。腫瘍が産生するガストリンにより胃酸が過剰に分泌されるためである。ガストリノーマは多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に合併することが比較的多い。

インスリノーマの概要

・膵神経内分泌腫瘍(膵NET)のうち機能性腫瘍として最も多い。 ・多くは単発・良性で、直径2cm未満の小さいものが多い。膵臓のどこにでも発生する。 ・一部はMEN1(副甲状腺・下垂体・膵消化管の腫瘍を合併する遺伝性疾患)に合併し、その場合は多発しやすい。

診断

・低血糖時の血中インスリンが不適切に高い(低血糖なのにインスリン分泌が抑制されていない)ことを証明する。低血糖時にインスリンとCペプチドがともに高いことで、外から投与したインスリンによる低血糖(Cペプチドは抑制される)と区別できる。 ・絶食試験(最長72時間)で低血糖を誘発して評価する。 ・局在診断には造影CT、MRI、超音波内視鏡(EUS)を用いる。小さく画像で見つけにくいときは、選択的動脈内カルシウム注入試験(SACIテスト)で、腫瘍を栄養する動脈領域を特定する。

治療

・外科的切除(核出術や膵部分切除)が根治治療である。 ・切除できない場合は、インスリン分泌を抑えるジアゾキシドの内服や、ソマトスタチンアナログなどを用いる。

主な膵消化管神経内分泌腫瘍と特徴的症候

・インスリノーマ:低血糖(Whippleの三徴)、意識障害、体重増加 ・ガストリノーマ:難治性消化性潰瘍、下痢(Zollinger-Ellison症候群) ・VIPoma:水様性下痢、低カリウム血症、無酸症(WDHA症候群) ・グルカゴノーマ:壊死性遊走性紅斑、耐糖能異常、体重減少 ・ソマトスタチノーマ:糖尿病、胆石症、脂肪便

POINT

・インスリノーマは空腹時・運動時の低血糖を起こし、意識障害や異常行動で見つかることがある ・Whippleの三徴:低血糖症状、低血糖値、ブドウ糖投与で改善 ・下痢はVIPoma(WDHA症候群)・ガストリノーマ、胆石はソマトスタチノーマ、十二指腸潰瘍はガストリノーマ、色素沈着はACTH過剰(Addison病など)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。