1日102回の期外収縮―「数」より「背景」で決めるPVCの治療適応
第106回医師国家試験 H問題 第24問
国試問題にチャレンジ
58歳の男性。職場の定期健康診断で初めて不整脈を指摘されたため来院した。自覚症状はない。7年前から高血圧症のため治療中である。家族歴に特記すべきことはない。脈拍64/分,整。血圧134/78 mmHg。身体診察所見,12誘導心電図および胸部エックス線写真に異常を認めない。心エコー検査で軽度の左室肥大を認める。24時間Holter心電図を別に示す。この心電図にみられる異常波形は1日102回あったが,自覚症状は認められなかった。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.抗不整脈薬の投与
- c.ジゴキシンの投与
- d.植え込み型除細動器の留置
- e.カテーテルアブレーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
P波を伴わない幅広いQRS波が早期に出現し、代償性休止期を伴う波形は心室性期外収縮(PVC)です。1日100回程度は総心拍数の約0.1%、Lown分類grade 1の散発性にすぎず、無症状で器質的心疾患がなければ予後良好なため経過観察が適切です。CAST試験が示したように、無症候性PVCを抗不整脈薬で抑えても予後は改善せず、むしろ悪化しうること、ジゴキシンはPVCを誘発しうることも押さえておきましょう。治療を考えるのは、症状が強い、器質的心疾患を伴う、連発・多形性・R on Tなどの危険な形態、頻度が多くPVC誘発性心筋症をきたす場合です。「波形の数」ではなく「症状・基礎心疾患・形態・負荷」で治療適応を判断する姿勢は、日常診療で出会う不整脈全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・58歳男性。健康診断で初めて不整脈を指摘されたが、自覚症状(動悸、失神、めまい、胸部不快感など)はない。 ・7年来の高血圧で治療中。家族歴に特記事項なし(突然死の家族歴なし)。 ・身体所見、12誘導心電図、胸部エックス線写真に異常なし。心エコーでは軽度の左室肥大のみ(高血圧によるものと考えられる)で、左室収縮能低下や弁膜症・心筋症を示す記載はない。
Holter心電図の読影
洞調律の中に1拍だけ、予定より早いタイミングで、先行するP波を伴わない幅の広い(0.12秒以上)変形したQRS波が出現し、そのあとにT波が逆向きに続いている。その後は代償性休止期(期外収縮をはさむRR間隔が、通常のRR間隔のほぼ2倍になる)を経て洞調律に戻る。これは心室性期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)の単発である。連発や、先行するT波の頂点付近に重なるR on T型ではない。
重症度の判断
・出現頻度は1日102回で、1時間あたり平均約4回と少ない。1日の総心拍数(約9万〜10万拍)に占める割合は約0.1%にすぎない。 ・単発・単形性で、連発や多形性の記載もない。Lown分類ではgrade 1(散発性:1時間30個未満)に相当する。 ・器質的心疾患(心筋梗塞、心不全、心筋症など)を示す所見がなく、無症状である。 以上から、治療を要しない良性のPVCと判断され、経過観察が適切である。高血圧の治療は引き続き継続し、動悸・失神などの症状出現や頻度の増加があれば再評価する。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
器質的心疾患を伴わない、無症状で出現頻度の少ない(1日102回、Lown分類grade 1)単発・単形性のPVCは予後良好であり、治療の必要はない。PVCは健常者でもHolter心電図で高頻度に検出される。高血圧の管理を継続しつつ、症状の出現や頻度の増加に注意して定期的に経過をみればよい。
- ×b. 抗不整脈薬の投与
抗不整脈薬には、それ自体が新たな不整脈を誘発する作用(催不整脈作用)や陰性変力作用がある。心筋梗塞後の無症候性PVCをⅠc群薬(フレカイニドなど)で抑制したCAST試験では、PVCは減ったにもかかわらず死亡率がかえって増加した。したがって、無症状で頻度の少ないPVCを抑える目的で抗不整脈薬を使うことはない。動悸などの症状が強い場合には、まずβ遮断薬などを検討する。
- ×c. ジゴキシンの投与
ジゴキシン(ジギタリス製剤)はNa+/K+-ATPaseを阻害して心筋収縮力を高め、房室結節の伝導を抑える薬で、心不全や心房細動の心拍数調節に用いられる。PVCの治療薬ではなく、むしろ細胞内Ca2+の過負荷により撃発活動を起こして心室の興奮性を高めるため、PVC(二段脈など)や心室頻拍を誘発することがある。ジギタリス中毒の代表的な不整脈がPVCであり、本例に投与すべきではない。
- ×d. 植え込み型除細動器の留置
植え込み型除細動器(ICD)は、心室細動や持続性心室頻拍による心臓突然死を予防する装置である。心停止からの蘇生後や持続性心室頻拍の既往(二次予防)、左室駆出率が著しく低下した心不全(一次予防)、心室細動の既往や失神を伴うBrugada症候群・QT延長症候群などが適応となる。器質的心疾患がなく、単発のPVCのみの本例に適応はない。
- ×e. カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションは、不整脈の起源や回路を高周波通電などで焼灼する治療で、発作性上室頻拍、心房粗動、心房細動、心室頻拍などが対象となる。PVCでも、症状が強く薬物治療が無効な場合や、出現頻度が非常に多く(総心拍数の約10%以上が目安)PVCによる心機能低下(PVC誘発性心筋症)をきたしている場合には適応となる。本例は無症状で頻度もごく少なく、適応はない。
心室性期外収縮(PVC)の心電図所見
・予定より早く出現する幅の広い(0.12秒以上)変形したQRS波。 ・先行するP波がない。 ・T波はQRS波と逆向きになる。 ・多くは完全な代償性休止期を伴う(洞結節のリズムがリセットされないため)。
Lown分類(PVCの重症度分類)
grade 0:PVCなし grade 1:散発性(1時間に30個未満) grade 2:多発性(1時間に30個以上) grade 3:多形性(多源性) grade 4a:2連発 grade 4b:3連発以上(心室頻拍) grade 5:R on T型 本来は急性心筋梗塞患者を対象に作られた分類で、grade が高いほど心室頻拍・心室細動に移行する危険が高いとされる。
PVCの治療を考慮する状況
・動悸などの症状が強く、生活の質を損なう場合。 ・器質的心疾患(心筋梗塞後、心不全、心筋症など)を伴う場合。 ・連発、多形性、R on T型など、心室頻拍・心室細動に移行しやすい形態の場合。 ・出現頻度が非常に多く、PVC誘発性心筋症(左室機能低下)をきたしている、またはそのおそれがある場合。 治療選択肢:原因の是正(電解質異常、甲状腺機能亢進症、カフェイン・飲酒・睡眠不足などの誘因の除去)、β遮断薬、抗不整脈薬、カテーテルアブレーション。
器質的心疾患の評価
PVCを認めたら、12誘導心電図、胸部エックス線、心エコー、Holter心電図などで基礎心疾患の有無と、PVCの頻度・形態を評価する。器質的心疾患がなく、単発・少数・無症状であれば予後は良好である。
POINT
・幅広いQRS、先行P波なし、代償性休止期 → 心室性期外収縮(PVC)。 ・無症状、器質的心疾患なし、単発・単形性、少数(Lown grade 1)→ 治療不要、経過観察。 ・無症状のPVCを抗不整脈薬で抑えても予後は改善せず、かえって悪化しうる(CAST試験)。 ・治療を考えるのは、症状が強い、器質的心疾患がある、連発・多形性・R on T、頻度が非常に多く心機能低下をきたす場合。 ・ジゴキシンはPVCを誘発しうる。
