StudyMed医師国家試験

舌圧子とペンライトで「どこまで見える?」―口腔・咽頭の解剖を診察の目で整理する

第106回医師国家試験 H問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第15問

成人の口腔内を舌圧子とペンライトとを用いて診察する際,視認できるのはどれか。

  1. a.喉頭蓋
  2. b.甲状腺
  3. c.舌小帯
  4. d.咽頭扁桃
  5. e.耳管咽頭口

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、特別な器具を使わずに舌圧子とペンライトだけで口の中を診たとき、どの構造まで見えるかを問う問題だ。着眼点は、それぞれの構造が口腔・中咽頭にあるのか、それとも上咽頭や喉頭、あるいは口の外にあるのかという位置関係。まず、口を開けて舌を押し下げたとき、何が見えるか思い浮かべてみよう。
医学生医学生
OSCEの練習で口腔内の診察をしたときは、口蓋垂や口蓋扁桃、咽頭の後ろの壁が見えました。
ドクタードクター
いいね。口を開けて照らすと、口唇、歯・歯肉、頬粘膜、舌、口腔底、硬口蓋といった口腔の構造と、その奥の中咽頭の一部、つまり軟口蓋、口蓋垂、口蓋弓、口蓋扁桃、咽頭後壁が観察できる。逆に言えば、この範囲を外れたものは基本的に見えないんだ。
医学生医学生
咽頭は上・中・下に分かれるんでしたよね。中咽頭までは見えて、上と下は見えないということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。上咽頭は頭蓋底から軟口蓋の高さまでの部分で、軟口蓋の裏側、つまり上方・後方に隠れているから口からは見えない。下咽頭や喉頭は舌根のさらに奥・下方にあって、成人では間接喉頭鏡や内視鏡、喉頭鏡による喉頭展開が必要になる。
医学生医学生
そうすると咽頭扁桃も見えるのかなと思ったんですが、扁桃なら口から見えるんじゃないでしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。口から見える扁桃は口蓋扁桃のほうだ。咽頭扁桃は上咽頭の後上壁にあるリンパ組織で、小児期に肥大したものをアデノイドとよぶ。軟口蓋の裏に隠れているから直接は見えず、後鼻鏡や鼻咽腔内視鏡、頸部側面X線写真などで評価するんだ。
医学生医学生
耳管咽頭口も上咽頭でしたよね。解剖実習で、鼻腔の奥の側壁に開いているのを確認しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。耳管咽頭口は中耳と咽頭をつなぐ耳管が上咽頭の側壁に開く部位だから、やはり口からは見えない。周囲には耳管扁桃や、上咽頭癌の好発部位であるローゼンミュラー窩がある。
医学生医学生
喉頭蓋はどうでしょう。舌をぐっと押し下げたら見えそうな気もします。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。喉頭蓋は舌根の後方にある喉頭の入口の蓋で、嚥下のときに入口を覆って誤嚥を防ぐ。成人では舌根に隠れるので、舌圧子で押し下げても通常は見えない。ただし小児は喉頭の位置が高いので、舌を強く押し下げると喉頭蓋の先端が見えることがある。今回は「成人」と限定されているのがポイントだね。
医学生医学生
甲状腺は前頸部にある臓器なので、そもそも口の中には出ていないですね。
ドクタードクター
そう。甲状腺は気管の前面から側面にかけて位置する内分泌臓器で、粘膜面には露出していない。診察は頸部の視診・触診や超音波検査で行う。例外として、発生の途中で甲状腺原基が下降できずに舌根にとどまる舌根甲状腺という病態はあるけれど、これは特殊な例だ。
医学生医学生
残る舌小帯は舌の裏側のヒダなので、口腔内の構造ですね。これが正解だと思います。
ドクタードクター
正解。舌小帯は舌下面の正中から口腔底へ伸びる粘膜のヒダで、患者に舌先を上あごへ向けて持ち上げてもらうか、舌圧子で舌を持ち上げれば、ペンライトの光で容易に見える。その両脇には顎下腺管の開口部である舌下小丘もあるよ。
医学生医学生
舌小帯が短いと、舌の動きが悪くなる病気がありましたよね。小児科の実習で聞いた気がします。
ドクタードクター
舌小帯短縮症、舌強直症ともいうね。舌の動きが制限されて、哺乳や構音に影響することがある。臨床で口腔内を診るときの注意点も押さえておこう。舌の下面や口腔底は、舌を持ち上げてもらわないと見落としやすい場所なんだ。
医学生医学生
舌癌は舌縁に多いと習いましたが、口腔底も見ないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。舌背・舌縁だけでなく、舌下面や口腔底、頬粘膜の耳下腺管開口部まで系統的に確認する習慣をつけたい。また、咽頭を取り囲むリンパ組織の輪であるワルダイエル咽頭輪のうち、直接見えるのは口蓋扁桃で、舌扁桃は舌根にあるため通常は見えにくい。見えない領域に症状があれば、ためらわず内視鏡につなげることが大切だよ。
医学生医学生
見える範囲と見えない範囲を解剖で区切っておけば、次にどの検査が必要か判断しやすくなりますね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の狙いだ。診察手技と解剖をセットで覚えておこう。

まとめ

舌圧子とペンライトで観察できるのは、口唇、歯・歯肉、頬粘膜、舌、舌下面・舌小帯、口腔底、硬口蓋などの口腔と、軟口蓋、口蓋垂、口蓋扁桃、咽頭後壁といった中咽頭の一部です。咽頭扁桃や耳管咽頭口がある上咽頭は軟口蓋の裏に隠れるため後鼻鏡や内視鏡が必要で、喉頭蓋などの喉頭・下咽頭は成人では喉頭鏡や内視鏡を用いないと観察できません。甲状腺は前頸部の臓器であり口腔内からは見えません。舌小帯は舌を挙上すれば容易に視認でき、舌小帯短縮症の評価や、見落としやすい舌下面・口腔底の病変の確認にもつながります。各構造の位置を咽頭の区分と結びつけて理解しておくことは、適切な診察手技や追加検査を選ぶうえでの土台になります。

解答・解説

正解はcです

本問は、特別な内視鏡や鏡を使わず、舌圧子とペンライトだけで口の中を観察したときにどこまで見えるかを問う、頭頸部の解剖の基本問題である。 口を開けてペンライトで照らし、舌圧子で舌を押し下げると、観察できるのは口腔(口唇、歯・歯肉、頬粘膜、舌、口腔底、硬口蓋)と、その奥の中咽頭の一部(軟口蓋、口蓋垂、前口蓋弓・後口蓋弓、口蓋扁桃、咽頭後壁)である。 咽頭は上から上咽頭(鼻咽腔)、中咽頭、下咽頭に分けられる。上咽頭は軟口蓋の裏側(上方・後方)に隠れているため口からは見えず、見るには後鼻鏡や内視鏡が必要である。下咽頭や喉頭は舌根の奥・下方にあり、成人では通常、間接喉頭鏡、喉頭内視鏡、あるいは喉頭鏡による喉頭展開を用いないと観察できない。 したがって、各選択肢の構造が「口腔・中咽頭」に属するのか、「上咽頭」「喉頭」あるいは口の外にあるのかを考えれば、口腔内の構造である舌小帯が正解と分かる。

選択肢考察

  1. ×a.  喉頭蓋

    喉頭蓋は舌根の後方に位置する喉頭の入口の蓋で、嚥下時に喉頭の入口を覆って誤嚥を防ぐ。成人では舌根に隠れるため、舌圧子で舌を押し下げても通常は見えない。観察には間接喉頭鏡、喉頭内視鏡(ファイバースコープ)、または気管挿管時の喉頭鏡による喉頭展開が必要である。なお、小児では喉頭の位置が高いため、舌を強く押し下げると喉頭蓋の先端が見えることがある。

  2. ×b.  甲状腺

    甲状腺は前頸部で気管の前面から側面にかけて位置する内分泌臓器であり、口腔や咽頭の粘膜面には露出していないため、口の中から見ることはできない。診察は頸部の視診・触診や超音波検査で行う。なお、発生の途中で甲状腺原基が下降できずに舌根部にとどまる舌根甲状腺(異所性甲状腺)という例外的な病態はある。

  3. ○c.  舌小帯

    舌小帯は舌の下面(舌の裏側)の正中から口腔底へ伸びるヒダ状の粘膜である。口腔内の構造であり、患者に舌先を上あごへ向けて持ち上げてもらう、あるいは舌圧子で舌を持ち上げれば、ペンライトの光で容易に視認できる。舌小帯の両脇には顎下腺管の開口部(舌下小丘)もみられる。舌小帯が短く舌の動きが制限される状態を舌小帯短縮症(舌強直症)という。

  4. ×d.  咽頭扁桃

    咽頭扁桃は上咽頭の後上壁にあるリンパ組織で、小児期に肥大したものをアデノイドとよぶ。軟口蓋の裏側に隠れているため、口から直接は見えない。観察には後鼻鏡(口から小さな鏡を入れて上方を映す)や鼻咽腔内視鏡、画像検査(頸部側面X線写真など)を用いる。口から見える扁桃は口蓋扁桃であり、混同しないよう注意する。

  5. ×e.  耳管咽頭口

    耳管咽頭口は中耳と咽頭をつなぐ耳管が上咽頭の側壁に開口する部位である。上咽頭にあるため軟口蓋に隠れて口からは見えず、観察には後鼻鏡や内視鏡が必要である。周囲には耳管扁桃や、上咽頭癌の好発部位であるローゼンミュラー窩(咽頭陥凹)がある。

咽頭の区分と主な構造

・上咽頭(鼻咽腔):頭蓋底から軟口蓋の高さまで。咽頭扁桃(アデノイド)、耳管咽頭口、耳管扁桃、ローゼンミュラー窩がある。口からは見えず、後鼻鏡・内視鏡で観察する。 ・中咽頭:軟口蓋の高さから喉頭蓋谷(舌骨の高さ)まで。軟口蓋、口蓋垂、口蓋扁桃、舌根(舌扁桃)、咽頭後壁などを含む。舌根を除く多くの部分は口から観察できる。 ・下咽頭:喉頭蓋谷の高さから輪状軟骨下縁(食道入口部)まで。梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁からなる。喉頭鏡や内視鏡が必要である。

ワルダイエル咽頭輪

咽頭を取り囲むリンパ組織の輪で、咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃などからなる。このうち舌圧子とペンライトで直接見えるのは口蓋扁桃である(舌扁桃は舌根にあり、通常は見えにくい)。

口腔内の診察で観察する主な部位

口唇、歯・歯肉、頬粘膜(耳下腺管開口部)、舌背・舌縁、舌下面・舌小帯・口腔底(顎下腺管開口部の舌下小丘)、硬口蓋、軟口蓋、口蓋垂、口蓋扁桃、咽頭後壁。

POINT

・舌圧子とペンライトで見えるのは口腔と中咽頭(軟口蓋、口蓋垂、口蓋扁桃、咽頭後壁)。 ・上咽頭(咽頭扁桃、耳管咽頭口)は軟口蓋の裏に隠れ、後鼻鏡や内視鏡が必要。 ・喉頭(喉頭蓋、声帯)は成人では喉頭鏡や内視鏡が必要。 ・舌小帯は舌を挙上すれば容易に見える口腔内の構造である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。