StudyMed医師国家試験

吸うときに鳴るか、吐くときに鳴るか―喘鳴のタイミングが教える狭窄の場所

第106回医師国家試験 H問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第1問

吸気時に最強となる喘鳴が聴取された場合に,病変部位と考えられるのはどれか。

  1. a.気管
  2. b.区域気管支
  3. c.終末細気管支
  4. d.呼吸細気管支
  5. e.肺胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、喘鳴が呼吸のどの相で強くなるかから、気道のどこに狭窄があるかを推定する問題だ。カギになるのは「気道の内側と外側の圧の差」。この考え方さえ押さえれば、暗記に頼らなくても答えにたどり着けるよ。まず、喘鳴と聞いて真っ先に思い浮かぶ病気は何かな。
医学生医学生
気管支喘息です。でも喘息の喘鳴って、吐くときにヒューヒュー鳴るイメージがあります。
ドクタードクター
その通り。喘息の喘鳴は呼気で目立つ。では、なぜ呼気で強くなるのか説明できるかな。
医学生医学生
呼吸生理の講義で、努力呼気では胸腔内圧が上がると習いました。それで気道が外から押されるから、でしょうか。
ドクタードクター
正解。胸郭の中にある気管支や細気管支は、呼気時に胸腔内圧の上昇で外側から圧迫されて細くなる。もともと炎症や攣縮で狭い気道がさらに狭まるから、呼気時に笛のような音、つまりwheezeが目立つわけだ。では逆に、胸郭の外にある気道、たとえば喉頭や頸部の気管ではどうなると思う?
医学生医学生
胸郭の外なら胸腔内圧の影響は受けないですよね。……吸気のときに何か起きるんでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。吸気時には気道の中が大気圧より陰圧になる。ところが胸郭外の気道の周りは大気圧のまま。すると気道の壁は内側に引き込まれて細くなるんだ。だから胸郭外の気道に狭窄があると吸気時に狭窄が増強して、吸気性喘鳴、いわゆるstridorが生じる。
医学生医学生
ストローを強く吸うと潰れるのと同じイメージですね。そうすると、選択肢の中で吸気時最強になるのは気管ということですか。
ドクタードクター
そう、正解は気管だ。選択肢の中で唯一の中枢気道で、とくに頸部気管やその上流の喉頭・声門下の狭窄で典型的なstridorが聞かれる。原因としては気管内腫瘍、甲状腺腫による圧排、挿管や気管切開後の瘢痕性狭窄、異物などがある。ほかの選択肢も確認しておこう。区域気管支はどうかな。
医学生医学生
区域気管支は胸郭内なので、狭窄すれば呼気で鳴るはずです。喘息発作や腫瘍による狭窄ですね。
ドクタードクター
その理解でいい。終末細気管支や呼吸細気管支も同じく胸郭内の末梢気道で、細気管支炎や喘息、COPDなどで狭くなると呼気の延長や呼気性喘鳴として現れる。呼吸細気管支は壁に肺胞が開口してガス交換が始まる部位だったね。
医学生医学生
組織学実習で、呼吸細気管支の壁にぽこぽこ肺胞が出ているのをスケッチしました。では肺胞はどうなりますか。肺胞にも何か音が出そうですが。
ドクタードクター
肺胞は気道ではないから、狭窄による連続性の喘鳴は生じない。肺胞や間質の病変で聞こえるのは断続性ラ音だ。間質性肺炎の吸気後半のfine crackles、肺水腫や肺炎のcoarse cracklesだね。
医学生医学生
連続性か断続性か、呼気か吸気か、で整理するとわかりやすいです。ただ、気管は胸郭内にも入っていますよね。そこが狭くなったらどうなるんでしょう。
ドクタードクター
鋭い質問だ。厳密には胸郭内の気管に可変性の狭窄があれば呼気で増強しうるし、高度で固定した狭窄なら吸気・呼気の両方で喘鳴が聞こえることもある。ただ、この問題では選択肢の中で中枢気道は気管だけなので、吸気時最強の喘鳴なら気管を選ぶのが妥当だ。この考え方はフローボリューム曲線にもつながる。胸郭外の可変性狭窄では吸気側が平坦化し、胸郭内の可変性狭窄では呼気側のピークが平坦化、固定性狭窄では両方が平坦化する。
医学生医学生
喘鳴の相と同じ理屈で曲線の形も説明できるんですね。臨床ではstridorを聞いたらどんな病気を考えればいいですか。
ドクタードクター
小児なら急性喉頭蓋炎と急性声門下喉頭炎、いわゆるクループが代表だ。喉頭蓋炎は流涎や嚥下痛、前傾座位が特徴で、気道確保が最優先になる。クループは犬吠様咳嗽と嗄声。ほかに気道異物、乳児の喉頭軟弱症、両側声帯麻痺、アナフィラキシーによる喉頭浮腫も忘れてはいけない。
医学生医学生
小児科の実習で、クループの子が夜間にケンケンという咳で救急外来に来ていました。stridorは聴診器なしでも聞こえることがあるんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。そして大事なのは、stridorは上気道の閉塞が切迫しているサインになりうること。喘息と決めつけて気管支拡張薬だけで様子を見るのではなく、上気道狭窄の可能性を考えて気道確保の準備を意識することが臨床では重要だよ。

まとめ

喘鳴が吸気・呼気のどちらで強くなるかは、気道内外の圧較差で説明できます。胸郭外の気道(喉頭・声門下・頸部気管)は吸気時に気道内陰圧で内側へ引き込まれて狭くなるため、ここに狭窄があると吸気性喘鳴(stridor)を生じ、選択肢では気管が該当します。一方、胸郭内の気管支や細気管支は呼気時に胸腔内圧上昇で圧迫されるため、喘息やCOPD、細気管支炎では呼気性喘鳴(wheeze)が目立ち、肺胞病変では喘鳴ではなく断続性ラ音(crackles)を聴取します。同じ理屈はフローボリューム曲線の平坦化パターンにも応用でき、stridorを認めたら急性喉頭蓋炎やクループ、異物、喉頭浮腫など気道確保を要する病態を念頭に置くことが大切です。

解答・解説

正解はaです

テーマ

喘鳴(気道の狭窄部を空気が通過するときに生じる連続性の笛様音)が呼吸周期のどの相で強くなるかによって、狭窄部位を推定する問題である。

考え方:気道内外の圧較差

気道の口径は、気道内の圧と気道周囲の圧の差によって吸気・呼気で変化する。 ・胸郭外の気道(喉頭、声門下、頸部気管などの上気道〜中枢気道):吸気時には気道内が大気圧より陰圧になる一方、周囲は大気圧のままなので、気道は内側へ引き込まれて狭くなる。したがって、この部位に狭窄があると吸気時に狭窄が増強し、吸気性喘鳴(stridor、ストライダー)が生じる。 ・胸郭内の気道(主に気管支以下):呼気時、特に努力呼気では胸腔内圧が上昇して気道が外から圧迫され、狭くなる。したがって、気管支以下の末梢側の狭窄では呼気時に喘鳴が目立ち、呼気性喘鳴(wheeze)となる。 以上より、吸気時に最強となる喘鳴は上気道〜中枢気道の病変を示し、選択肢の中では気管が該当する。気管支以下(区域気管支、終末細気管支、呼吸細気管支)は呼気性喘鳴を来す部位であり、肺胞は喘鳴を生じる部位ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  気管

    気管は選択肢中で唯一の中枢気道である。特に胸郭外にある頸部気管や、その上流の喉頭・声門下は、吸気時に気道内陰圧で内腔が狭まるため、狭窄があると吸気時に最も強い喘鳴(stridor)を生じる。気管狭窄の原因には気管内腫瘍、甲状腺腫による圧排、気管挿管・気管切開後の瘢痕性狭窄、異物などがある。なお狭窄の程度が固定している高度狭窄では、吸気・呼気の両相で喘鳴が聴取されることもある。

  2. ×b.  区域気管支

    区域気管支は胸郭内の気道であり、呼気時に胸腔内圧の上昇で外から圧迫されて狭くなる。このため区域気管支レベルの狭窄(気管支喘息発作時の攣縮・浮腫・分泌物貯留、腫瘍による狭窄など)では、主に呼気性喘鳴(wheeze)を生じる。吸気時最強の喘鳴の原因部位とは考えにくい。

  3. ×c.  終末細気管支

    終末細気管支はガス交換を行わない導管部の最末端で、胸郭内の末梢気道である。細気管支炎、気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで炎症や浮腫により狭くなると、呼気時の気道虚脱によって呼気の延長や呼気性喘鳴を来す。吸気時に最強となる喘鳴の部位ではない。

  4. ×d.  呼吸細気管支

    呼吸細気管支は壁の一部に肺胞が開口し、ガス交換が始まる部位である。極めて細い末梢気道で、その病変は呼気時の気流制限(呼気性の異常)として現れる。吸気性喘鳴の原因部位ではない。

  5. ×e.  肺胞

    肺胞はガス交換を行う袋状の構造で、気道ではないため狭窄による連続性の喘鳴は生じない。肺胞や間質の病変では、吸気時に聴かれる断続性ラ音(捻髪音 fine crackles:間質性肺炎など、水泡音 coarse crackles:肺水腫・肺炎など)が特徴である。

肺副雑音の分類

・連続性ラ音  wheezes(笛音):高調。比較的細い気管支の狭窄。気管支喘息、COPDなど。主に呼気で聴取。  rhonchi(いびき音):低調。太い気管支の狭窄や分泌物。  stridor(吸気性喘鳴):上気道〜中枢気道の狭窄。聴診器なしでも聞こえることが多い。 ・断続性ラ音  fine crackles(捻髪音):吸気後半。間質性肺炎、肺線維症。  coarse crackles(水泡音):吸気初期から。肺炎、肺水腫、気管支拡張症。

吸気性喘鳴(stridor)を来す代表的疾患

・急性喉頭蓋炎(主にインフルエンザ菌b型。流涎、嚥下痛、前傾座位。気道確保が最優先) ・急性声門下喉頭炎(クループ。犬吠様咳嗽、嗄声。主にパラインフルエンザウイルス) ・気道異物、喉頭軟弱症(乳児)、声帯麻痺(両側) ・喉頭浮腫(アナフィラキシー、血管性浮腫) ・気管狭窄(腫瘍、甲状腺腫、挿管後狭窄)

呼気性喘鳴を来す代表的疾患

・気管支喘息、COPDの増悪 ・急性細気管支炎(乳児。RSウイルスなど) ・心不全による心臓喘息(気管支壁の浮腫)

フローボリューム曲線との対応

胸郭外の可変性狭窄では吸気側の曲線が平坦化し、胸郭内の可変性狭窄では呼気側のピークが平坦化する。固定性狭窄では吸気・呼気の両方が平坦化する。喘鳴の相と同じく、気道内外の圧差で考えると理解しやすい。

POINT

・吸気性喘鳴(stridor)→ 上気道〜中枢気道(喉頭・声門下・気管、特に胸郭外部分)の狭窄 ・呼気性喘鳴(wheeze)→ 胸郭内の気管支・細気管支の狭窄(気管支喘息、COPD、細気管支炎) ・機序:胸郭外気道は吸気時に、胸郭内気道は呼気時に狭くなる ・肺胞病変では喘鳴でなく断続性ラ音(crackles)を聴取する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。