右を見ると像がずれる―複視から逆算する外眼筋と脳神経
第106回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
障害されると右方視の際に複視をきたすのはどれか。
- a.右視神経
- b.右三叉神経
- c.右外転神経
- d.左顔面神経
- e.左副神経
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両眼性の複視は左右の眼位がずれることで生じるため、原因は外眼筋かその支配神経である動眼神経・滑車神経・外転神経の障害に求めます。右方視では右眼の外直筋(右外転神経)と左眼の内直筋(左動眼神経)が働くため、右外転神経麻痺では右を見るほど増強する水平性複視が起こり、正面視で内斜視を伴うこともあります。視神経は視覚の伝達、三叉神経は顔面感覚と咀嚼、顔面神経は表情筋、副神経は胸鎖乳突筋と僧帽筋を担い、いずれも眼球運動には関与しません。外転神経は頭蓋内圧亢進で偽局在徴候として障害されやすく、散瞳を伴う動眼神経麻痺では動脈瘤を疑うなど、複視の方向と随伴所見から病変を推定する力は神経診察の基本となります。「LR6 SO4、残りは3」と、麻痺筋の作用方向で複視が最大になる原則をあわせて押さえておきましょう。
解答・解説
正解はcです
複視が起こる仕組み
複視(ものが二重に見えること)は、左右の眼球の向きがそろわず、同じ対象の像が両眼の網膜の対応しない位置に結ばれることで生じる。したがって複視の原因は、眼球を動かす外眼筋、またはそれを支配する神経(動眼神経・滑車神経・外転神経)の障害に求めるのが基本である。視覚そのものを伝える神経や、眼球運動に関与しない神経の障害では複視は起こらない。
右方視に関わる筋
右を見るとき、右眼は外側へ向く(外転)ため右外直筋が働き、左眼は内側へ向く(内転)ため左内直筋が働く。右外直筋は右外転神経(第Ⅵ脳神経)、左内直筋は左動眼神経(第Ⅲ脳神経)に支配される。 このどちらかが障害されると、右方視の際に両眼の動きにずれが生じて複視が出現する。麻痺した筋の作用方向を見たときに眼位のずれが最大となり、複視も最も強くなる。
設問の考え方
選択肢の中で眼球運動を担う神経は右外転神経のみであり、その麻痺はまさに右方視での複視を引き起こす。ほかの選択肢はいずれも外眼筋を支配しない神経であるため除外できる。
選択肢考察
- ×a. 右視神経
視神経(第Ⅱ脳神経)は網膜からの視覚情報を伝える感覚神経である。右視神経は右眼の網膜全体からの情報を運び、視交叉で鼻側網膜由来の線維が反対側へ交叉する。障害されると右眼の視力低下や視野欠損が生じ、右眼に光を当てたときに両眼の対光反射が減弱する(相対的求心路瞳孔障害:RAPD)。眼球運動には関与しないため、複視の原因とはならない。
- ×b. 右三叉神経
三叉神経(第Ⅴ脳神経)は顔面の感覚(眼神経・上顎神経・下顎神経の3枝)と、咬筋・側頭筋などの咀嚼筋の運動を担う。障害されると同側の顔面の感覚低下、角膜反射の求心路障害による角膜反射の消失、咀嚼力の低下などが起こる。外眼筋は支配しないので複視は生じない。
- ○c. 右外転神経
外転神経(第Ⅵ脳神経)は外直筋のみを支配し、眼球を外側へ向ける(外転させる)。右外転神経が麻痺すると右外直筋が働かず、右方視で右眼が十分に外転できない。一方で左眼は正常に内転するため両眼の視軸がずれ、右方視で水平方向の複視が生じる(右を見るほど像の間隔が広がる)。正面視でも拮抗筋である内直筋の作用が優位となり、右眼が内側に偏位する(内斜視)ことがある。
- ×d. 左顔面神経
顔面神経(第Ⅶ脳神経)は主に表情筋の運動を支配し、そのほか舌の前2/3の味覚、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌(副交感神経)、アブミ骨筋も担う。障害されると眼輪筋の麻痺により閉眼ができなくなり(兎眼)、角膜反射の遠心路も障害される。しかし眼球を動かす外眼筋は支配しないため、複視は起こらない。
- ×e. 左副神経
副神経(第Ⅺ脳神経)は運動神経で、胸鎖乳突筋と僧帽筋を支配する。障害されると首を反対側へ回す力や肩をすくめる力が弱くなり、肩の下垂がみられる。眼球運動とは無関係であり、複視の原因とはならない。
外眼筋と支配神経
・外直筋:外転 ― 外転神経(Ⅵ) ・内直筋:内転 ― 動眼神経(Ⅲ) ・上直筋:主に上転(内転位で最もよく働く) ― 動眼神経(Ⅲ) ・下直筋:主に下転(内転位で最もよく働く) ― 動眼神経(Ⅲ) ・下斜筋:主に上転(外転位で最もよく働く)・外旋 ― 動眼神経(Ⅲ) ・上斜筋:主に下転(内転位で最もよく働く)・内旋 ― 滑車神経(Ⅳ) 覚え方として「LR6 SO4、残りは3」(外直筋はⅥ、上斜筋はⅣ、その他はⅢ)がよく使われる。
各神経麻痺の特徴
・外転神経麻痺:患側眼の外転障害、正面視での内斜視、患側方向を見たときに増強する水平複視。外転神経は脳幹から出て頭蓋底を長く走行するため、頭蓋内圧亢進でも障害されやすい(偽局在徴候)。 ・動眼神経麻痺:眼瞼下垂、外下方への眼球偏位、内転・上転・下転障害、散瞳(瞳孔を収縮させる副交感線維も動眼神経を走るため)。散瞳を伴う場合は内頸動脈‐後交通動脈分岐部動脈瘤による圧迫を疑う。 ・滑車神経麻痺:垂直・回旋性の複視で、下方視(階段を下りる、読書など)で増強する。複視を軽減するため頭を健側へ傾ける。
右方視で複視をきたしうる病変の整理
右方視には右外直筋(右外転神経)と左内直筋(左動眼神経)が関わる。したがって右外転神経麻痺のほか、左動眼神経麻痺でも右方視で複視が生じる。また、内側縦束(MLF)の障害による核間性眼筋麻痺では、病変側の眼が内転できないため、反対側を見たときに複視が出る。
POINT
・複視は外眼筋または動眼・滑車・外転神経の障害で起こる。視神経・三叉神経・顔面神経・副神経は外眼筋を支配しない。 ・外転神経(Ⅵ)は外直筋のみを支配し、麻痺すると患側方向への注視で水平複視が出る。 ・右方視には右外直筋(右Ⅵ)と左内直筋(左Ⅲ)が働く。 ・麻痺筋の作用方向を見たときに複視は最大になる。
