産後3日目のお腹の痛みは正常?―子宮復古の「時間割」で読み解く産褥期
第106回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
産褥期の生理的変化と判断できるのはどれか。
- a.1日目に臍上3 cmに子宮底を触知する。
- b.3日目に後陣痛を認める。
- c.10日目に赤色悪露を認める。
- d.14日目に妊娠前の体重に戻る。
- e.1か月目に子宮が超手拳大である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
産褥期は分娩後約6〜8週間で母体が妊娠前の状態に戻る期間であり、正常か異常かは各変化の「時期」で判断します。子宮底は分娩後12時間頃に臍高で最も高くなり、以後1日約1横指ずつ下降して10〜14日で触れなくなります。後陣痛は子宮復古に伴う収縮痛で分娩後2〜3日間みられるのが正常で、授乳時のオキシトシン分泌で強まることもあります。悪露は赤色(〜3、4日)→褐色→黄色→白色と変化し、子宮は1か月でほぼ妊娠前の大きさに戻り、体重が戻るのは約6週以降が目安です。子宮底が高い、赤色悪露が長引く、子宮が大きいままといった所見は子宮復古不全のサインであり、正常経過の時間割を知ることが産褥期の異常を早期に見抜く土台になります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
産褥期とは、分娩が終わってから、妊娠・分娩によって変化した母体(主に性器)が妊娠前の状態に回復するまでの期間をいい、おおよそ6〜8週間である。この間に起こる正常な変化の代表が、子宮復古(子宮が収縮して元の大きさに戻ること)と悪露(子宮内膜の剥がれた面などからの分泌物)の変化である。本問は、それぞれの変化の「時期」を正しく覚えているかを問うている。
押さえるべき標準的な経過
・子宮底の高さ:分娩直後は臍下2〜3横指に触れる。その後、骨盤底筋の緊張の回復などにより一時的に上昇し、分娩後12時間頃には臍の高さ(臍高)付近となる。以後は1日におよそ1横指ずつ下がり、産褥3日頃に臍下3横指、産褥5日頃に恥骨結合上3横指程度となり、10〜14日頃には腹壁から触れなくなる。 ・後陣痛:分娩後の子宮収縮による痛みで、分娩後2〜3日間程度みられる。 ・悪露:赤色(産褥3〜4日頃まで)→ 褐色(1週間前後)→ 黄色(2〜3週頃)→ 白色(4〜6週頃)と変化し、その後消失する。 ・子宮の大きさ:産褥1か月でほぼ妊娠前の大きさ(鶏卵大程度)に戻り、子宮内膜の修復まで含めた完全な回復には約6週間を要する。 ・体重:分娩直後に胎児・胎盤・羊水の分で5〜6 kg程度減り、その後は利尿などで徐々に減少して、およそ6週間前後で妊娠前の体重に近づく(個人差が大きい)。
正解を導く考え方
各選択肢の「日数」と「所見」を上の標準経過と照らし合わせ、時期として合っているものを選ぶ。子宮底が高すぎる、赤色悪露が長く続く、子宮が大きいまま、などは子宮復古不全や遺残胎盤などを疑う異常所見となる。
選択肢考察
- ×a. 1日目に臍上3 cmに子宮底を触知する。
産褥期に子宮底が最も高くなるのは分娩後12時間頃で、その位置も臍の高さ付近(臍高)である。産褥1日目には通常、臍高から臍下1横指程度にある。臍より3 cmも上に子宮底を触れるのは高すぎ、子宮収縮が不良な状態(子宮復古不全)や、子宮内の血液貯留(凝血塊)、胎盤・卵膜の遺残、膀胱の充満による子宮の押し上げなどを疑う必要がある。したがって生理的変化とは判断できない。
- ○b. 3日目に後陣痛を認める。
後陣痛は、分娩後に子宮が収縮して元の大きさに戻っていく過程(子宮復古)で生じる、陣痛に似た周期的な下腹部痛である。子宮収縮は胎盤剥離面の血管を圧迫して止血する働きももつ。分娩後2〜3日間程度みられ、産褥3日目に後陣痛があるのは正常の範囲内である。経産婦では初産婦よりも強く感じやすい。また授乳で乳頭が刺激されると下垂体後葉からオキシトシンが分泌され、子宮収縮が促されるため、授乳中に後陣痛が強まることがある。これも子宮復古を進める生理的な反応である。
- ×c. 10日目に赤色悪露を認める。
悪露は、血液成分が多い赤色悪露から始まり、産褥3〜4日頃までで褐色悪露に変わる。その後は白血球や分泌物が主体になり、2〜3週頃に黄色悪露、4〜6週頃に白色悪露となって消失する。産褥10日目になっても赤色悪露(新鮮な出血に近い状態)が続くのは、子宮復古不全や胎盤・卵膜の遺残、子宮内感染(子宮内膜炎)などを疑う所見であり、生理的な変化とはいえない。
- ×d. 14日目に妊娠前の体重に戻る。
分娩時には胎児、胎盤、羊水、出血の分で5〜6 kg程度体重が減る。その後も妊娠中に増えた細胞外液が利尿や発汗で排出され、子宮も小さくなるため体重は徐々に減少するが、妊娠前の体重に戻るまでには通常6週間前後、あるいはそれ以上を要し、個人差も大きい。産褥14日目で妊娠前の体重に戻るのは典型的な経過ではなく、生理的変化の目安として適切でない。
- ×e. 1か月目に子宮が超手拳大である。
子宮は分娩直後にはおよそ1 kgあるが、産褥期に急速に小さくなり、産褥1か月の時点でほぼ妊娠前の大きさ(鶏卵大程度)に戻る。1か月健診で子宮が手拳大を超える大きさのままであれば、子宮復古不全が考えられ、遺残胎盤や子宮筋腫の合併、子宮内感染などを検索する必要がある。したがって生理的変化とは判断できない。
産褥期の全身・局所の変化のまとめ
・子宮:分娩直後に約1 kgあった子宮は、筋線維の縮小などにより急速に小さくなる。胎盤付着部の内膜は約6週間かけて再生する。子宮頸管も徐々に閉鎖していく。 ・悪露:総量はおよそ500〜1,000 mL程度とされる。赤色(血液主体)→ 褐色(血液成分の変性)→ 黄色(白血球が主体)→ 白色(子宮頸管や腟からの分泌物主体)と変化する。 ・乳汁分泌:分娩で胎盤が娩出されるとエストロゲン・プロゲステロンが急減し、プロラクチンの作用が発揮されて乳汁分泌が始まる。産褥2〜3日頃から分泌量が増え、最初は初乳(免疫グロブリンAを多く含む)が出る。乳頭吸啜刺激によるオキシトシン分泌は射乳を起こすとともに、子宮収縮を促す。 ・循環:分娩後は子宮から体循環へ血液が戻るため一時的に循環血液量が増えるが、その後の利尿により数週間で妊娠前の状態に近づく。 ・体温:分娩直後に一過性に軽度上昇することがあるが、38.0℃以上が続く場合は産褥熱(子宮内感染、乳腺炎、尿路感染など)を考える。 ・月経:授乳をしない場合は産褥6〜8週頃に再開することが多い。授乳中はプロラクチンにより排卵が抑えられ、再開が遅れやすい。
子宮復古不全
子宮の収縮・縮小が遅れる状態で、子宮底が高い、子宮が軟らかい、赤色悪露が長引く、悪露の量が多いなどの所見を示す。原因として胎盤・卵膜の遺残、子宮内感染、子宮筋腫、多胎や羊水過多による子宮の過伸展、膀胱・直腸の充満などがある。子宮収縮薬の投与、遺残物の除去、感染の治療などを行う。
POINT
・子宮底:分娩直後 臍下2〜3横指 → 12時間後 臍高 → 以後1日約1横指ずつ下降 → 10〜14日で触れなくなる。 ・後陣痛:分娩後2〜3日間の子宮収縮痛で正常。経産婦・授乳時(オキシトシン)で強い。 ・悪露:赤色(〜3、4日)→ 褐色(〜1週前後)→ 黄色(2〜3週)→ 白色(4〜6週)。 ・子宮は産褥1か月でほぼ妊娠前の大きさ、完全な回復は約6週。 ・体重は分娩直後に5〜6 kg減、妊娠前に戻るのは約6週以降。
