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ベクレル・グレイ・シーベルト―「どこを測るか」で読み解く放射線の単位

第106回医師国家試験 E問題 第18問

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第106回 E問題 第18問

放射線の職業被ばくや公衆被ばくの線量限度に用いる単位はどれか。

  1. a.キュリー〈Ci〉
  2. b.グレイ〈Gy〉
  3. c.シーベルト〈Sv〉
  4. d.ベクレル〈Bq〉
  5. e.レントゲン〈R〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線の単位を区別できるかを問う問題だ。放射線の単位はたくさんあって混乱しやすいけれど、「線源を見ているのか、空間を見ているのか、人体が受け取ったエネルギーを見ているのか、人体への影響を見ているのか」という視点で整理すると一気にすっきりする。線量限度が何を守るための数字なのかを意識しながら考えてみよう。
医学生医学生
放射線医学の講義で一通り習ったはずなのですが、正直グレイとシーベルトの違いがあいまいです。どちらも「線量」ですよね。
ドクタードクター
そこが一番の混同ポイントだね。まずは線源側から整理しよう。放射性物質が1秒間に何個崩壊するか、つまり放射能の強さを表すのがベクレルだ。1Bqは1秒に1個の原子核が崩壊することを意味する。
医学生医学生
震災のあと、食品中のセシウムがBq/kgで報道されていたのを覚えています。核医学の実習でも投与量がMBqで書かれていました。
ドクタードクター
その通り。ベクレルは「物質がどれだけ放射線を出しているか」であって、人がどれだけ浴びたかではない。キュリーはその旧単位で、ラジウム1gの放射能に由来し、1Ciは3.7×10^10Bqに相当する。だからこの2つは線量限度には使わないんだ。
医学生医学生
レントゲンも旧単位ですよね。X線写真の名前でもあるので、つい人体の線量のように感じてしまいます。
ドクタードクター
よくある誤解だね。レントゲンは照射線量の旧単位で、X線やγ線が空気をどれだけ電離させたかという、いわば空間側の量だ。現在はC/kgで表す。空気中の量だから、人体が吸収したエネルギーや影響を直接表すものではない。
医学生医学生
では人体に吸収された量がグレイですか。
ドクタードクター
そう。グレイは吸収線量の単位で、物質1kgあたりに吸収されたエネルギー、1Gy=1J/kgだ。放射線治療の処方線量や、皮膚障害・白内障といった確定的影響のしきい線量を議論するときに使う。
医学生医学生
吸収されたエネルギーがわかるなら、それで線量限度を決めればよさそうに思えますが…。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は同じ1Gyでも、放射線の種類によって生物学的影響が違う。α線は光子よりずっと影響が大きい。さらに、同じ線量でも被ばくした臓器によってがんの起こりやすさが違う。だからエネルギー量だけでは「人体へのリスク」を比べられないんだ。
医学生医学生
そこで重み付けをしたのがシーベルト、ということですね。
ドクタードクター
正解。臓器の吸収線量に放射線加重係数を掛けたのが等価線量で、X線・γ線・電子線は1、陽子線は2、α線は20だ。さらに各臓器の等価線量に組織加重係数を掛けて全身で合計したのが実効線量。どちらも単位はシーベルトで、種類や部位の違う被ばくを共通の尺度で比較・合算できる。線量限度は確率的影響のリスクを抑え、確定的影響を防ぐためのものだから、シーベルトで定められているんだ。
医学生医学生
線源ならベクレル、空気ならC/kg、吸収エネルギーならグレイ、人体への影響ならシーベルト、と段階で覚えればいいわけですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。具体的な数値も押さえておこう。職業被ばくの実効線量限度は5年間で100mSvかつ任意の1年間で50mSv、公衆被ばくは1年間で1mSvだ。眼の水晶体の等価線量限度は2021年の改正で引き下げられ、5年間で100mSvかつ1年間で50mSvになった。
医学生医学生
IVRを見学したとき、先生方が防護眼鏡をかけていたのはそのためだったんですね。患者さんにも線量限度はあるのですか。
ドクタードクター
そこは大事なポイントで、患者の医療被ばくには線量限度は設けられていない。検査や治療による利益が上回る場合にのみ行う「正当化」と、合理的に達成できる限り低くする「最適化」で管理し、診断参考レベルなどを活用する。必要な検査が線量限度で制限されてしまったら、かえって患者の不利益になるからね。
医学生医学生
医療者自身は時間・距離・遮蔽の三原則で身を守る、と臨床実習のオリエンテーションで教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。単位の意味がわかれば、防護の考え方も自然につながる。妊娠中の女性の職業被ばくについては腹部表面の等価線量で2mSvという限度もあるから、あわせて確認しておくといい。

まとめ

放射線の単位は、何を測るかによって区別されます。放射能はベクレル(旧単位キュリー)、照射線量はC/kg(旧単位レントゲン)、吸収線量はグレイ(1Gy=1J/kg)、そして放射線の種類や臓器の感受性で重み付けした等価線量・実効線量はシーベルトです。線量限度は人体への影響、とくに確率的影響のリスクを一定以下に抑えるためのものなので、異なる被ばくを共通の尺度で比較できるシーベルトで定められています。職業被ばくは5年100mSvかつ1年50mSv、公衆被ばくは1年1mSvが代表値で、患者の医療被ばくには線量限度がなく正当化と最適化で管理されます。単位の意味を段階的に理解しておくことは、日常診療での被ばく管理や患者への説明の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

放射線に関する各種の単位が、何を表す量の単位なのかを区別できるかを問う一般問題である。 放射線の量は、見ている段階によって別々の単位で表される。 1. 線源側: 放射性物質が1秒間に何回崩壊するか(放射能)→ ベクレル〈Bq〉。旧単位はキュリー〈Ci〉。 2. 空間側: X線・γ線が空気をどれだけ電離させるか(照射線量)→ クーロン毎キログラム〈C/kg〉。旧単位はレントゲン〈R〉。 3. 物質・人体側: 物質1kgがどれだけのエネルギーを吸収したか(吸収線量)→ グレイ〈Gy〉(1Gy=1J/kg)。 4. 人体への影響(リスク): 吸収線量に放射線の種類による違いや臓器ごとの感受性の違いを重み付けした量(等価線量・実効線量)→ シーベルト〈Sv〉。 線量限度は、職業被ばくや公衆被ばくによって生じる確率的影響(がん・遺伝性影響)のリスクを一定以下に抑え、確定的影響(組織反応)の発生を防ぐために定められている。したがって、放射線の種類や被ばくした臓器が違っても人体への影響を同じ尺度で比べられる量、すなわち実効線量や等価線量で表す必要があり、その単位はシーベルトである。

選択肢考察

  1. ×a.  キュリー〈Ci〉

    放射能(単位時間あたりに崩壊する原子核の数)の旧単位であり、線量限度には用いない。1Ciはラジウム1gの放射能に由来し、3.7×10^10Bqに相当する。現在はSI単位であるベクレルが用いられる。

  2. ×b.  グレイ〈Gy〉

    吸収線量の単位であり、物質1kgあたりに吸収された放射線のエネルギー(1Gy=1J/kg)を表す。放射線治療の処方線量や、確定的影響(皮膚障害、白内障、急性放射線症候群など)のしきい線量の議論に用いられる。しかし同じ吸収線量でも、放射線の種類(α線は光子より影響が大きいなど)や被ばくした臓器によって人体への影響が異なるため、防護のための線量限度はグレイではなくシーベルトで定められる。

  3. ○c.  シーベルト〈Sv〉

    線量限度に用いる単位である。シーベルトは等価線量と実効線量の単位である。等価線量は、臓器・組織の吸収線量に放射線加重係数(X線・γ線・電子線は1、陽子線は2、α線は20、中性子線はエネルギーにより変化)を掛けたもの、実効線量は各臓器の等価線量に組織加重係数(臓器ごとの放射線感受性を反映し、合計が1になる)を掛けて全身で合計したものである。これにより、異なる種類・部位の被ばくを人体への影響(確率的影響のリスク)という共通の尺度で比較・合算できるため、職業被ばくや公衆被ばくの線量限度はシーベルトで示される。

  4. ×d.  ベクレル〈Bq〉

    放射能の単位であり、1Bqは1秒間に1個の原子核が崩壊することを表す。放射性物質の量(例: 食品中の放射性セシウム濃度をBq/kgで示す、核医学検査の投与量をMBqで示す)を表すもので、人が受けた線量や影響を直接示すものではないため、線量限度には用いない。

  5. ×e.  レントゲン〈R〉

    照射線量の旧単位であり、X線・γ線が空気中でどれだけの電離(電荷)を生じさせるかを表す。1R=2.58×10^-4C/kgである。空気中での量であり人体の吸収や影響を表すものではなく、現在はSI単位のC/kgが用いられるため、線量限度には用いない。

放射線の単位の整理

・放射能: ベクレル〈Bq〉(旧単位 キュリー〈Ci〉、1Ci=3.7×10^10Bq) ・照射線量: C/kg(旧単位 レントゲン〈R〉、1R=2.58×10^-4C/kg) ・吸収線量: グレイ〈Gy〉=J/kg(旧単位 ラド〈rad〉、1Gy=100rad) ・等価線量・実効線量: シーベルト〈Sv〉(旧単位 レム〈rem〉、1Sv=100rem)

主な線量限度(日本の法令、ICRP勧告に基づく)

・職業被ばくの実効線量: 5年間で100mSv、かつ任意の1年間で50mSv ・妊娠可能な女性の職業被ばく: 3か月で5mSv ・妊娠中の女性: 妊娠と診断されてから出産までの間、腹部表面の等価線量で2mSv ・眼の水晶体の等価線量: 5年間で100mSv、かつ1年間で50mSv(2021年施行の改正で引き下げられた。以前は1年間150mSv) ・皮膚の等価線量: 1年間で500mSv ・公衆被ばくの実効線量: 1年間で1mSv なお、患者の医療被ばくには線量限度は設けられておらず、正当化と最適化(診断参考レベルの活用など)によって管理される。

放射線防護の三原則

正当化(利益が害を上回る場合のみ行う)、防護の最適化(合理的に達成できる限り低く: ALARAの原則)、線量限度の適用(医療被ばくを除く)。外部被ばく防護の三原則は、時間(短く)、距離(離れる)、遮蔽(遮る)である。

POINT

・放射能はベクレル〈Bq〉、照射線量はC/kg(旧レントゲン)、吸収線量はグレイ〈Gy〉、等価線量・実効線量はシーベルト〈Sv〉。 ・線量限度は人体への影響を表す等価線量・実効線量で定められるため、単位はシーベルト。 ・線量限度の代表値: 職業被ばく 5年100mSv かつ1年50mSv、公衆被ばく 1年1mSv。医療被ばくには線量限度はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。