StudyMed医師国家試験

「直後」ではなく「その後」に続く苦しみ―PTSDを急性ストレス反応と見分ける時間軸

第106回医師国家試験 C問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第5問

外傷後ストレス障害〈PTSD〉の特徴でないのはどれか。

  1. a.侵入的な回想
  2. b.持続的な過覚醒
  3. c.周囲への無反応
  4. d.外傷体験を回想させる状況の回避
  5. e.強いストレスを経験した直後の発症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はPTSDの特徴を問う問題だ。症状の中身だけでなく、「いつ発症し、どのくらい続くか」という時間の軸にも注目してほしい。まず、PTSDの中核症状を挙げられるかな。
医学生医学生
精神科の講義で習ったのは、フラッシュバック、回避、過覚醒……あと一つあった気がします。
ドクタードクター
いい線だね。DSM-5では4つの症状群にまとめられている。1つ目が侵入症状、つまり再体験。2つ目が回避。3つ目が認知と気分の陰性の変化。4つ目が覚醒度と反応性の変化、いわゆる過覚醒だ。
医学生医学生
侵入的な回想は1つ目の再体験そのものですね。悪夢も含まれるんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。本人の意思と関係なく外傷の記憶が繰り返し意識に入り込んでくる。まるでその場面に戻ったように感じるフラッシュバックや、外傷に関連した悪夢もここに入る。まさにPTSDの中核だよ。
医学生医学生
持続的な過覚醒は、危険が去っても体が警戒モードのまま、ということですか。
ドクタードクター
そう。交感神経系を中心とした覚醒が高いまま続くので、入眠困難や中途覚醒、いらいら、過度の警戒心、ちょっとした物音にも飛び上がるような驚愕反応、集中困難が出てくる。
医学生医学生
外傷体験を思い出させる状況の回避もわかります。事故現場に近づけない、ニュースを見られない、といった行動ですよね。
ドクタードクター
うん。回避は本人にとっては身を守る手段だけれど、続けば生活範囲がどんどん狭まって、仕事や社会生活に支障をきたす。では周囲への無反応はどうだろう。
医学生医学生
正直、ちょっと迷いました。PTSDって過敏になる病気のイメージなので、無反応というのは逆のような気がして。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだね。実はPTSDでは、感情が鈍くなる「情動の麻痺」もよくみられる。以前楽しめていたことに関心がなくなり、周囲の人や出来事に反応が乏しくなり、他人から切り離されたような疎隔感を抱く。耐えがたい体験から心を守る反応と考えられていて、3つ目の「認知と気分の陰性の変化」に含まれるんだ。
医学生医学生
過覚醒と麻痺が同じ人に同居しうる、ということですね。では、強いストレスを経験した直後の発症が特徴ではない、となりますか。
ドクタードクター
正解。外傷体験の直後、数分から数時間のうちに現れて、数時間から数日で収まっていく反応は急性ストレス反応と呼ばれる。DSM-5では外傷後3日から1か月の間に症状が続くものを急性ストレス障害とし、1か月を超えて症状が持続する場合にPTSDと診断する。
医学生医学生
PTSDは少し時間をおいて出てくることが多いんでしょうか。
ドクタードクター
そう、数週から数か月の潜伏期を経て明らかになることが多い。ただ、直後から始まった症状がそのまま1か月以上続いてPTSDと診断される例もあるから、「直後には絶対に発症しない」と覚えるのは行き過ぎだ。ポイントは、PTSDの本質が直後の一過性の反応ではなく、持続する障害だということ。DSM-5には、外傷から6か月以上たって基準を満たす「遅延顕症型」という特定用語もある。
医学生医学生
時間軸で整理すると、急性ストレス反応、急性ストレス障害、PTSDという順番ですね。
ドクタードクター
その整理でいい。治療も確認しておこう。精神療法では持続エクスポージャー療法などトラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDRが有効とされ、薬物療法ではパロキセチンやセルトラリンなどのSSRIが第一選択だ。ベンゾジアゼピン系薬は有効性の根拠が乏しく、長期使用は勧められない。
医学生医学生
不安が強いならベンゾジアゼピンかと思っていたので、意外です。
ドクタードクター
臨床ではそう考えがちなので注意してほしい。それから、虐待のように長期間繰り返された外傷の後には、自己評価の低下や対人関係の困難を伴う複雑性PTSDがあり、ICD-11で独立した診断になった。救急や災害の現場で外傷体験をした人に接したら、直後の反応だけで終わらせず、1か月後以降の症状にも目を向けることが大切だよ。

まとめ

PTSDは、生命の危険などの強い心的外傷体験の後に、侵入症状(フラッシュバック・悪夢)、回避、認知と気分の陰性の変化(感情の麻痺・周囲への無反応)、過覚醒の4症状群が1か月を超えて持続する障害です。外傷直後に出現して短期間で消退する反応は急性ストレス反応であり、DSM-5では外傷後3日〜1か月の病態を急性ストレス障害として区別するため、「直後の発症」はPTSDの特徴とはいえません。PTSDは数週〜数か月の潜伏期を経て顕在化することが多く、治療はトラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDR、薬物療法ではSSRIが第一選択です。過覚醒と情動の麻痺が同居しうること、そして発症時期と持続期間で病態を区別することを押さえておくと、災害や事故の後のメンタルケアで適切に介入できるようになります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)の特徴として当てはまらないものを選ぶ問題である。

PTSDの基本

PTSDは、生命の危険や重傷、性暴力など、誰にとっても強い恐怖となる出来事(心的外傷体験:災害、事故、犯罪被害、戦闘、虐待など)を直接体験または目撃した後に生じる精神障害である。中核症状は次の4群にまとめられる。 1. 侵入症状(再体験):外傷の記憶が意図せずよみがえる、フラッシュバック、悪夢 2. 回避:外傷を思い出させる場所・人・会話・思考を避ける 3. 認知と気分の陰性の変化:感情の麻痺、周囲との疎隔感、興味の喪失、自責感など 4. 覚醒度と反応性の変化(過覚醒):不眠、易刺激性、過剰な警戒、驚愕反応の亢進、集中困難

発症時期がポイント

PTSDでは、これらの症状が外傷体験から一定期間後に明らかになったり、1か月を超えて持続したりすることが特徴である。外傷体験の直後から現れ、短期間でおさまる反応は、急性ストレス反応(急性ストレス障害)として区別される。したがって「強いストレスを経験した直後の発症」はPTSDの特徴とはいえず、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  侵入的な回想

    PTSDの特徴である。外傷体験の記憶が本人の意思とは無関係に繰り返し意識に侵入してくる症状で、再体験症状とよばれる。その場面にいま再び身を置いているかのように感じるフラッシュバックや、外傷に関連した悪夢もこれに含まれる。PTSDの中核症状の一つである。

  2. ×b.  持続的な過覚醒

    PTSDの特徴である。危険が去った後も交感神経系を中心とした覚醒状態が高いまま続き、入眠困難・中途覚醒などの睡眠障害、いらいらや怒りの爆発、過度の警戒心、ちょっとした物音にも驚く過剰な驚愕反応、集中困難などを呈する。

  3. ×c.  周囲への無反応

    PTSDの特徴である。感情が鈍くなり(情動の麻痺・鈍化)、以前楽しめていたことへの関心が薄れ、周囲の人や出来事に対して反応が乏しくなる。他者から切り離されたような疎隔感を伴うこともある。これは耐えがたい体験から心を守るための反応と考えられ、「認知と気分の陰性の変化」に含まれる症状である。

  4. ×d.  外傷体験を回想させる状況の回避

    PTSDの特徴である。事故現場に近づけない、事故に関する話題を避ける、報道を見られないなど、外傷体験を思い出させる状況・人物・会話・思考を意識的に避けようとする。回避が続くと生活範囲が狭まり、社会生活や職業生活に支障をきたす。

  5. ○e.  強いストレスを経験した直後の発症

    PTSDの特徴ではない。外傷体験の直後から数日以内に生じ、比較的短期間でおさまる反応は急性ストレス反応であり、DSM-5では外傷後3日から1か月の間に症状が続くものを急性ストレス障害と定義している。PTSDは症状が1か月を超えて持続する場合に診断され、外傷体験から数週〜数か月の潜伏期間をおいて発症することが多い。DSM-5では、外傷後6か月以上経ってから診断基準を満たす場合を「遅延顕症型」と特定する。

急性ストレス反応(障害)とPTSDの比較

・急性ストレス反応(ICD-10):強いストレスの直後(数分〜数時間以内)に出現し、通常は数時間〜数日で消退する。呆然とした状態、意識野の狭窄、不安、抑うつ、焦燥、過活動、引きこもりなどがみられる。 ・急性ストレス障害(DSM-5):外傷後3日〜1か月の期間に、PTSDと類似した症状(侵入、陰性気分、解離、回避、覚醒亢進)がみられるもの。 ・PTSD:症状が1か月以上持続し、苦痛や社会的機能障害をもたらす。ICD-10では通常外傷後6か月以内に発症するとされる。

治療

・精神療法:トラウマに焦点を当てた認知行動療法(持続エクスポージャー療法など)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が有効とされる。 ・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:パロキセチン、セルトラリンなど)が第一選択となる。ベンゾジアゼピン系薬は有効性の根拠が乏しく、長期使用は推奨されない。

関連事項

繰り返される長期の外傷体験(虐待など)の後にみられる複雑性PTSDは、ICD-11で独立した診断として採用されている。

POINT

・PTSDの4症状群:侵入(再体験・フラッシュバック)、回避、認知と気分の陰性の変化(感情麻痺・周囲への無反応)、過覚醒。 ・PTSDは外傷後、数週〜数か月の潜伏期間を経て発症することが多く、症状は1か月以上持続する。 ・外傷直後に発症し短期間でおさまるものは急性ストレス反応(DSM-5では3日〜1か月は急性ストレス障害)。 ・薬物療法の第一選択はSSRI。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。