「直後」ではなく「その後」に続く苦しみ―PTSDを急性ストレス反応と見分ける時間軸
第106回医師国家試験 C問題 第5問
国試問題にチャレンジ
外傷後ストレス障害〈PTSD〉の特徴でないのはどれか。
- a.侵入的な回想
- b.持続的な過覚醒
- c.周囲への無反応
- d.外傷体験を回想させる状況の回避
- e.強いストレスを経験した直後の発症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
PTSDは、生命の危険などの強い心的外傷体験の後に、侵入症状(フラッシュバック・悪夢)、回避、認知と気分の陰性の変化(感情の麻痺・周囲への無反応)、過覚醒の4症状群が1か月を超えて持続する障害です。外傷直後に出現して短期間で消退する反応は急性ストレス反応であり、DSM-5では外傷後3日〜1か月の病態を急性ストレス障害として区別するため、「直後の発症」はPTSDの特徴とはいえません。PTSDは数週〜数か月の潜伏期を経て顕在化することが多く、治療はトラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDR、薬物療法ではSSRIが第一選択です。過覚醒と情動の麻痺が同居しうること、そして発症時期と持続期間で病態を区別することを押さえておくと、災害や事故の後のメンタルケアで適切に介入できるようになります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)の特徴として当てはまらないものを選ぶ問題である。
PTSDの基本
PTSDは、生命の危険や重傷、性暴力など、誰にとっても強い恐怖となる出来事(心的外傷体験:災害、事故、犯罪被害、戦闘、虐待など)を直接体験または目撃した後に生じる精神障害である。中核症状は次の4群にまとめられる。 1. 侵入症状(再体験):外傷の記憶が意図せずよみがえる、フラッシュバック、悪夢 2. 回避:外傷を思い出させる場所・人・会話・思考を避ける 3. 認知と気分の陰性の変化:感情の麻痺、周囲との疎隔感、興味の喪失、自責感など 4. 覚醒度と反応性の変化(過覚醒):不眠、易刺激性、過剰な警戒、驚愕反応の亢進、集中困難
発症時期がポイント
PTSDでは、これらの症状が外傷体験から一定期間後に明らかになったり、1か月を超えて持続したりすることが特徴である。外傷体験の直後から現れ、短期間でおさまる反応は、急性ストレス反応(急性ストレス障害)として区別される。したがって「強いストレスを経験した直後の発症」はPTSDの特徴とはいえず、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 侵入的な回想
PTSDの特徴である。外傷体験の記憶が本人の意思とは無関係に繰り返し意識に侵入してくる症状で、再体験症状とよばれる。その場面にいま再び身を置いているかのように感じるフラッシュバックや、外傷に関連した悪夢もこれに含まれる。PTSDの中核症状の一つである。
- ×b. 持続的な過覚醒
PTSDの特徴である。危険が去った後も交感神経系を中心とした覚醒状態が高いまま続き、入眠困難・中途覚醒などの睡眠障害、いらいらや怒りの爆発、過度の警戒心、ちょっとした物音にも驚く過剰な驚愕反応、集中困難などを呈する。
- ×c. 周囲への無反応
PTSDの特徴である。感情が鈍くなり(情動の麻痺・鈍化)、以前楽しめていたことへの関心が薄れ、周囲の人や出来事に対して反応が乏しくなる。他者から切り離されたような疎隔感を伴うこともある。これは耐えがたい体験から心を守るための反応と考えられ、「認知と気分の陰性の変化」に含まれる症状である。
- ×d. 外傷体験を回想させる状況の回避
PTSDの特徴である。事故現場に近づけない、事故に関する話題を避ける、報道を見られないなど、外傷体験を思い出させる状況・人物・会話・思考を意識的に避けようとする。回避が続くと生活範囲が狭まり、社会生活や職業生活に支障をきたす。
- ○e. 強いストレスを経験した直後の発症
PTSDの特徴ではない。外傷体験の直後から数日以内に生じ、比較的短期間でおさまる反応は急性ストレス反応であり、DSM-5では外傷後3日から1か月の間に症状が続くものを急性ストレス障害と定義している。PTSDは症状が1か月を超えて持続する場合に診断され、外傷体験から数週〜数か月の潜伏期間をおいて発症することが多い。DSM-5では、外傷後6か月以上経ってから診断基準を満たす場合を「遅延顕症型」と特定する。
急性ストレス反応(障害)とPTSDの比較
・急性ストレス反応(ICD-10):強いストレスの直後(数分〜数時間以内)に出現し、通常は数時間〜数日で消退する。呆然とした状態、意識野の狭窄、不安、抑うつ、焦燥、過活動、引きこもりなどがみられる。 ・急性ストレス障害(DSM-5):外傷後3日〜1か月の期間に、PTSDと類似した症状(侵入、陰性気分、解離、回避、覚醒亢進)がみられるもの。 ・PTSD:症状が1か月以上持続し、苦痛や社会的機能障害をもたらす。ICD-10では通常外傷後6か月以内に発症するとされる。
治療
・精神療法:トラウマに焦点を当てた認知行動療法(持続エクスポージャー療法など)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が有効とされる。 ・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:パロキセチン、セルトラリンなど)が第一選択となる。ベンゾジアゼピン系薬は有効性の根拠が乏しく、長期使用は推奨されない。
関連事項
繰り返される長期の外傷体験(虐待など)の後にみられる複雑性PTSDは、ICD-11で独立した診断として採用されている。
POINT
・PTSDの4症状群:侵入(再体験・フラッシュバック)、回避、認知と気分の陰性の変化(感情麻痺・周囲への無反応)、過覚醒。 ・PTSDは外傷後、数週〜数か月の潜伏期間を経て発症することが多く、症状は1か月以上持続する。 ・外傷直後に発症し短期間でおさまるものは急性ストレス反応(DSM-5では3日〜1か月は急性ストレス障害)。 ・薬物療法の第一選択はSSRI。
