StudyMed医師国家試験

声はかすれても息は止まらない―喉頭疾患を「気道を塞ぐか」で仕分ける

第106回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第1問

呼吸困難をきたしにくいのはどれか。

  1. a.声門癌
  2. b.喉頭肉芽腫
  3. c.急性喉頭蓋炎
  4. d.急性声門下喉頭炎
  5. e.両側反回神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は喉頭の病気を、呼吸困難を起こすものと起こしにくいものに分ける問題だ。ポイントは、喉頭が上気道でいちばん狭い場所だということ。どんな仕組みでそこが塞がるのかを考えれば、答えは自然に見えてくるよ。
医学生医学生
喉頭の病気というと、まず嗄声が思い浮かびます。嗄声が出る病気はみんな呼吸も苦しくなるんでしょうか。
ドクタードクター
そこを分けて考えるのが大事なんだ。嗄声は声帯がうまく振動しないことで起こるから、小さな病変でも出る。一方、呼吸困難は気道の断面積が大きく減ったときに起こる。喉頭で気道が塞がる仕組みは大きく3つ。腫瘍が大きくなる、急性炎症で強く腫れる、そして声帯を開く筋が麻痺する、だ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ癌は腫瘍が大きくなるパターンですね。でも声門癌は早期発見されやすいと講義で習ったので、呼吸困難は起こしにくいのかと思っていました。
ドクタードクター
鋭いところを突いたね。声門癌は声帯にできるから早くから嗄声が出て見つかりやすい、これは正しい。でも進行すれば腫瘍自体が声門を狭くし、声帯や披裂部に浸潤して声帯が固定されれば、さらに気道は狭まる。進行例では気管切開が必要になることもあるから、呼吸困難を起こしうる病気なんだ。
医学生医学生
炎症のパターンだと、急性喉頭蓋炎は救急の講義で「見逃すと窒息する」と強調されていました。
ドクタードクター
その通り。喉頭蓋が急激に腫れて声門上を塞ぎ、数時間で窒息に至ることもある。強い咽頭痛や嚥下痛があるのに口の中の所見は乏しい、含み声、よだれ、前かがみで顎を突き出す姿勢などが手がかりだ。気道確保の準備をしながら抗菌薬やステロイドで治療する。
医学生医学生
急性声門下喉頭炎は、小児科実習で見たクループですよね。犬が吠えるような咳をしていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。パラインフルエンザウイルスなどで声門下が全周性に腫れる。乳幼児では輪状軟骨に囲まれた声門下腔が最も狭く、しかも輪状軟骨は全周を囲んでいて外へ広がれない。だからわずかなむくみでも気道が大きく狭まり、吸気性喘鳴や陥没呼吸が出るんだ。
医学生医学生
反回神経麻痺は、片側だと嗄声と誤嚥がメインだったはずです。両側だとどうなるんですか。
ドクタードクター
反回神経は声帯を開く唯一の筋、後輪状披裂筋を支配している。両側が麻痺すると声帯が正中付近で固定され、声門が開かなくなる。声帯が閉じ気味だから声は意外と保たれることがあるのに、息は吸えない。甲状腺手術の後などに起こり、気管切開が必要になることが多いよ。
医学生医学生
声が出るのに呼吸が苦しい、というのは逆説的で印象に残ります。そうすると残る喉頭肉芽腫が、呼吸困難を起こしにくいものですね。
ドクタードクター
正解。喉頭肉芽腫は声帯後方の声帯突起付近にできる炎症性の良性病変だ。気管内挿管による粘膜損傷、強い発声や咳払いの癖、胃食道逆流による胃酸の刺激が原因になる。病変は限局していて声門の後ろ寄りにあるから、気道を塞ぐほどにはなりにくく、症状は嗄声や喉の違和感が中心なんだ。
医学生医学生
麻酔科実習で、挿管チューブが声帯の後ろのほうに当たると教わりました。それで声帯突起にできやすいんですね。
ドクタードクター
そういうこと。治療はまず原因を取り除くことで、逆流が関わっていればプロトンポンプ阻害薬、それに音声安静が基本だ。再発しやすく、大きいものや繰り返すものは切除も考える。同じ仲間として、声帯ポリープや声帯結節も主に嗄声の原因で、通常は呼吸困難を起こさないと整理しておこう。
医学生医学生
身体所見で上気道の狭窄を見分けるコツはありますか。
ドクタードクター
上気道狭窄では吸気時に狭い部分で気流が乱れて、吸気性喘鳴、いわゆるstridorが出る。胸骨上窩や鎖骨上窩、肋間が吸気時にへこむ陥没呼吸も特徴だ。喘息のような下気道の狭窄では呼気性の喘鳴と呼気延長が主体になるから、聴診で吸気か呼気かを意識するだけで鑑別がかなり進むよ。
医学生医学生
OSCEの聴診では呼気のwheezesばかり意識していましたが、吸気の音にも注意しないといけませんね。
ドクタードクター
そうだね。臨床では、喉頭の病気を見たら「声の問題」で終わるのか「気道の問題」に進みうるのかを必ず考えてほしい。後者なら、急変に備えて気管挿管や気管切開の準備を早めに整えておくことが命を守ることにつながる。

まとめ

喉頭は上気道で最も狭い部位であり、腫瘍の増大、急性炎症による浮腫、声帯を開く筋の麻痺が加わると呼吸困難を生じます。進行した声門癌、急性喉頭蓋炎、乳幼児の急性声門下喉頭炎(クループ)、声帯が正中付近で固定される両側反回神経麻痺はいずれも上気道狭窄を起こしうる代表疾患です。これに対し、喉頭肉芽腫は挿管・過剰な発声や咳払い・胃食道逆流などを原因として声帯突起付近にできる限局性の良性病変で、主症状は嗄声や違和感にとどまり、PPIや音声安静などの保存治療が基本です。上気道狭窄を疑うサインは吸気性喘鳴と陥没呼吸であり、呼気性喘鳴が主体の下気道狭窄と区別できます。喉頭疾患を「声の問題」と「気道の問題」に分けて捉える視点は、緊急の気道確保が必要な場面を見逃さないための基本になります。

解答・解説

正解はbです

問われているテーマ

喉頭は上気道の中で最も内腔が狭い部位であり、特に声門(左右の声帯に挟まれた空間)とその直下の声門下腔は、わずかな狭窄でも気流が大きく妨げられる。本問は、喉頭の疾患のうち「気道を狭めて呼吸困難を起こすもの」と「起こしにくいもの」を区別できるかを問うている。

正解を導く考え方

呼吸困難(上気道狭窄)が起こるのは、次のような機序がある場合である。 ・腫瘍の増大や声帯の固定によって声門が物理的に狭くなる(進行した喉頭癌) ・急性炎症による高度の浮腫で気道が塞がる(急性喉頭蓋炎、急性声門下喉頭炎) ・声帯を開く筋が麻痺し、声帯が正中付近で動かなくなる(両側反回神経麻痺) 一方、声帯ポリープ、声帯結節、喉頭肉芽腫などの良性・非腫瘍性の限局性病変は、主な症状が嗄声や咽喉頭異常感であり、気道を塞ぐほど大きくなることは通常ない。したがって、選択肢の中で呼吸困難をきたしにくいのは喉頭肉芽腫である。 上気道狭窄による呼吸困難では、吸気時に狭窄部で気流が乱れて生じる吸気性喘鳴(stridor)や、胸骨上窩・鎖骨上窩・肋間の陥凹(陥没呼吸)がみられることが特徴である。

選択肢考察

  1. ×a.  声門癌

    声門癌は喉頭癌の中で最も頻度が高い型で、声帯に発生するため早期から嗄声が出現し、比較的早く発見されやすい。しかし進行すると腫瘍そのものが声門を狭くし、さらに声帯や披裂部(声帯の後端を支える部分)への浸潤で声帯の可動性が低下・固定するため、気道が狭窄して呼吸困難をきたす。進行例では気管切開が必要になることもある。

  2. ○b.  喉頭肉芽腫

    喉頭肉芽腫は、声帯後方の披裂軟骨声帯突起付近に好発する炎症性の良性病変である。原因として、気管内挿管による粘膜損傷(挿管性肉芽腫)、強い発声や咳払いの習慣、胃食道逆流による胃酸の刺激などがある。病変は限局性で、声門の後方に位置することもあり気道を塞ぐほどにはなりにくく、主症状は嗄声や咽喉頭の違和感にとどまる。治療は原因の除去、プロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌を抑える薬)、音声安静などの保存的治療が基本で、再発を繰り返す例や大きい例では切除も行われる。呼吸困難をきたすことは少ない。

  3. ×c.  急性喉頭蓋炎

    急性喉頭蓋炎は喉頭蓋とその周囲(声門上部)の急性細菌感染症で、喉頭蓋が高度に腫れて気道を急速に閉塞させる。強い咽頭痛・嚥下痛があるのに口腔内所見が乏しい点、含み声、流涎、前かがみで顎を突き出す姿勢などが特徴である。数時間で窒息に至りうる緊急疾患であり、呼吸困難をきたす代表的な喉頭疾患である。気道確保(挿管や気管切開の準備)と抗菌薬・ステロイド投与が必要となる。

  4. ×d.  急性声門下喉頭炎

    急性声門下喉頭炎(クループ)は主に乳幼児にみられ、パラインフルエンザウイルスなどのウイルス感染により声門下腔の粘膜が全周性に腫れる疾患である。小児の声門下腔はもともと狭いため、わずかな浮腫でも気道が大きく狭まり、犬吠様咳嗽(犬が吠えるような咳)、嗄声、吸気性喘鳴、吸気性呼吸困難を生じる。治療はステロイドやアドレナリン吸入である。

  5. ×e.  両側反回神経麻痺

    反回神経は声帯を開く唯一の筋である後輪状披裂筋を支配している。両側が麻痺すると声帯を外側へ開けなくなり、声帯が正中位または正中寄りで固定する。その結果、声門が狭くなり吸気性喘鳴や呼吸困難を生じる。声帯が正中近くで閉じているため、声は比較的保たれることがあるのが特徴である。甲状腺手術後などにみられ、気管切開などの気道確保が必要になることが多い。なお、片側麻痺では嗄声や誤嚥が主症状で、呼吸困難はきたしにくい。

喉頭の構造と狭窄しやすい部位

喉頭は声門上部(喉頭蓋・仮声帯など)、声門(声帯)、声門下部の3部位に分けられる。成人では声門が気道の最狭部であり、乳幼児では輪状軟骨に囲まれた声門下腔が最狭部である。輪状軟骨は全周を囲む唯一の軟骨で外側へ広がれないため、粘膜浮腫の影響が大きく、小児のクループで呼吸困難が起こりやすい理由となっている。

喉頭由来の呼吸困難をきたしやすい疾患

・悪性腫瘍:進行喉頭癌(特に声門癌の進行例、声門下癌) ・急性炎症:急性喉頭蓋炎、急性声門下喉頭炎(クループ) ・神経:両側反回神経麻痺(正中固定) ・その他:喉頭けいれん、喉頭浮腫(アナフィラキシー、遺伝性血管性浮腫など)、瘢痕性喉頭狭窄、喉頭異物、喉頭乳頭腫(多発・再発例)

呼吸困難をきたしにくい喉頭疾患

声帯ポリープ、声帯結節、喉頭肉芽腫などの非腫瘍性の腫瘤性病変は、主に嗄声の原因となり、通常は呼吸困難をきたさない。片側反回神経麻痺も、嗄声・誤嚥が主体で呼吸困難はまれである。

喉頭肉芽腫の要点

好発部位は声帯突起部(声帯後方)。原因は挿管、発声・咳払いの過剰、胃食道逆流症など。保存治療が第一選択で、再発しやすい。

上気道狭窄の身体所見

吸気性喘鳴(stridor)、陥没呼吸、吸気延長が特徴である。気管支喘息など下気道の狭窄では呼気性喘鳴(wheezes)と呼気延長が主体となる点で区別できる。

POINT

・喉頭で呼吸困難をきたすもの:進行喉頭癌、急性喉頭蓋炎、急性声門下喉頭炎(クループ)、両側反回神経麻痺(正中固定)、喉頭浮腫、喉頭けいれんなど。 ・声帯ポリープ、声帯結節、喉頭肉芽腫などの良性・非腫瘍性病変は、主に嗄声をきたし、呼吸困難はきたしにくい。 ・喉頭肉芽腫の原因は気管内挿管、過剰な発声、胃食道逆流。治療はPPIなどの保存治療が基本。 ・上気道狭窄の徴候は吸気性喘鳴と陥没呼吸。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。