StudyMed医師国家試験

泣かせたら負け―乳幼児の診察は「頭から」ではなく「嫌がらない順」に

第106回医師国家試験 B問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第61問

乳幼児の身体診察の一般的な順序として正しいのはどれか。

  1. a.頭頸部 → 胸部 → 腹部
  2. b.頭頸部 → 腹部 → 胸部
  3. c.胸部 → 頭頸部 → 腹部
  4. d.胸部 → 腹部 → 頭頸部
  5. e.腹部 → 胸部 → 頭頸部
  6. f.腹部 → 頭頸部 → 胸部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳幼児の身体診察をどんな順番で進めるかという問題だ。カギは「子どもが泣き出すと取れなくなる所見は何か」という視点。成人の診察の常識をいったん脇に置いて考えてみよう。
医学生医学生
OSCEでは頭頸部から胸部、腹部と上から順に診るように練習したので、つい頭頸部からと答えたくなります。
ドクタードクター
成人ではそれで合っているんだ。でも乳幼児では部位の順番より、子どもが嫌がらない順番、言い換えれば泣かせない順番を優先する。では、泣かれていちばん困る診察は何だと思う?
医学生医学生
聴診でしょうか。泣き声で心音も呼吸音も聞こえなくなりそうです。
ドクタードクター
その通り。心雑音の有無や性状、呼吸音の副雑音、それに安静時の呼吸数や心拍数は、泣き出すとほとんど評価できない。だから保護者に抱っこしてもらったまま、機嫌のいいうちに胸部の視診と聴診を最初に済ませるんだ。
医学生医学生
では次は腹部ですか。それとも、ついでに首のリンパ節あたりを診てもいいんでしょうか。
ドクタードクター
次は腹部の触診だね。泣くと腹筋に力が入って、肝臓や脾臓の腫れ、しこり、押したときの痛みがわからなくなる。筋性防御との区別もつきにくくなる。だから落ち着いているうちに触っておきたい。ただ、寝かせて深く押す必要があるから、座ったままできる聴診よりは後になる。
医学生医学生
頭頸部が最後になるのは、耳鏡や舌圧子を嫌がるからですね。小児科実習で、咽頭を診た瞬間に大泣きした子がいました。
ドクタードクター
まさにそれ。耳鏡、舌圧子を使う咽頭の診察、眼の診察は乳幼児が最も嫌がるし、咽頭の診察では吐いてしまうこともある。一度泣くとその後の診察が成り立たなくなるので、最後に回すわけだ。つまり正解は胸部、腹部、頭頸部の順になる。
医学生医学生
頭頸部から始める並びは、どれも最初に泣かせてしまう点でアウトということですね。
ドクタードクター
そう。上から順の成人型はもちろん、頭頸部から腹部、胸部と進む順も、嫌がる診察を先にしたうえ聴診が最後になるので不適切だ。胸部から始めても、頭頸部を腹部より先にすると泣いて腹部の評価ができなくなる。
医学生医学生
腹部、胸部、頭頸部の順は、頭頸部を最後にしている点は合っていますよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。でも腹部の触診で泣かれると、次の聴診で心雑音や呼吸音の異常がわからなくなる。「聴診は触診より先」が原則だ。腹部、頭頸部、胸部の順は聴診が一番最後で、最も不適切な並びの一つだね。
医学生医学生
整理すると、刺激の少ない聴診から始めて、触診、最後に一番嫌がる耳や咽頭、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、実は診察は子どもに触れる前から始まっている。入室したときから顔色、表情、機嫌、活気、陥没呼吸や鼻翼呼吸の有無などを観察しておくことが大切だ。
医学生医学生
問診中に子どもの様子を見ておくということですね。聴診器を手で温めておく工夫も聞いたことがあります。
ドクタードクター
そういう小さな工夫が効くんだ。おもちゃで気をそらす、保護者の膝の上で診察する、といった方法もある。それから、大泉門や頸部リンパ節は腹部の後、発熱時の髄膜刺激症状の確認や股関節の診察も嫌がる手技なので後半に行う。
医学生医学生
診察の順番そのものが、正確な所見を取るための技術なんですね。
ドクタードクター
その通り。小児科では「泣かせずに必要な情報を取りきる」ことが、診断の精度に直結する。実習でもぜひ意識してみてほしい。

まとめ

乳幼児の身体診察では、成人のように頭から足へ部位順に進めるのではなく、子どもが嫌がらない刺激の少ない診察から始め、嫌がる診察を後に回すのが原則です。泣くと評価できなくなる心音・呼吸音の聴診や安静時の呼吸数・心拍数を最初に取り、次に腹筋の力が抜けているうちに腹部を触診し、耳鏡や舌圧子を使う頭頸部の診察は最後に行うため、一般的な順序は胸部→腹部→頭頸部となります。入室時からの全身の視診、保護者に抱いてもらったままの診察、聴診器を温めるなどの工夫も、正確な所見を得るうえで重要です。診察の順序自体が所見の質を左右するという考え方は、小児診療の基本として実習や臨床で必ず役立ちます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

乳幼児の診察で最も大事なのは、子どもが静かにしている間に、泣くと取れなくなる情報を先に取ることである。成人のように「頭から足へ」と上から順に進めるのではなく、刺激の少ない診察から始めて、子どもが嫌がる診察ほど後に回す。

考え方

・泣くと取れなくなる所見を最初に取る:心音(心雑音の有無や性状)、呼吸音(副雑音)、安静時の呼吸数・心拍数は、泣き出すとほとんど評価できない。そのため、子どもを保護者に抱いてもらったまま、機嫌のよいうちに胸部の視診と聴診を行う。 ・次に腹部:腹部の触診は、子どもが泣いて腹筋に力が入ると(筋性防御と区別しにくい緊張)、肝臓・脾臓の腫れやしこり、押したときの痛みがわからなくなる。落ち着いている間に行う必要がある。ただし、寝かせて深く押す必要があるので、座ったままできる胸部の聴診よりは後になる。 ・頭頸部は最後に:耳の診察(耳鏡)、舌圧子を使う咽頭の診察、眼の診察は、乳幼児が最も嫌がり、泣き出したり、咽頭の診察で吐いたりしやすい。いったん泣くと、その後の診察がうまくいかなくなるので、最後に回す。 したがって、一般的な順序は「胸部 → 腹部 → 頭頸部」となる。なお、顔色・表情・機嫌・活気・呼吸の様子などの全身の視診は、子どもに触れる前、入室したときから行っておく。

選択肢考察

  1. ×a.  頭頸部 → 胸部 → 腹部

    成人の診察と同じように、上から順に進める並びである。乳幼児では、最初に咽頭や耳を診ると泣き出してしまう。そうなると、その後の心音・呼吸音の聴診や腹部の触診で正確な所見が取れない。

  2. ×b.  頭頸部 → 腹部 → 胸部

    いちばん嫌がる頭頸部の診察を最初に行うので不適切である。さらに、泣いてしまいやすい腹部の触診を胸部の聴診より先に行うことになり、泣き声で心音・呼吸音が聞き取れなくなる。

  3. ×c.  胸部 → 頭頸部 → 腹部

    胸部の聴診を最初に行う点は正しい。しかし、咽頭や耳の診察を腹部の触診より先に行うと、泣いて腹筋に力が入ってしまう。そうなると、肝臓・脾臓の腫れやしこり、押したときの痛みを正しく評価できない。

  4. ○d.  胸部 → 腹部 → 頭頸部

    泣くと取れなくなる心音・呼吸音の聴診を、機嫌のよいうちに最初に行う。次に、力が抜けている間に腹部を触診する。最後に、子どもが最も嫌がり、吐くこともある咽頭・耳などの頭頸部の診察を行う。このように、刺激の少ない診察から順に進めるので、乳幼児の診察の一般的な順序として適切である。

  5. ×e.  腹部 → 胸部 → 頭頸部

    頭頸部を最後にする点は正しい。しかし、寝かせて深く押す腹部の触診を先に行うと、そこで泣き出すことがある。そうなると、次の胸部の聴診で心雑音や呼吸音の異常を評価できなくなる。聴診は、触診より先に済ませるのが原則である。

  6. ×f.  腹部 → 頭頸部 → 胸部

    胸部の聴診が最後になる。これでは、腹部の触診や咽頭・耳の診察で泣き出した後に聴診することになり、最も不適切な順序の一つである。

乳幼児を診察するときの工夫

・問診をしている間に、子どもの顔色・表情・機嫌・活気・姿勢・呼吸の様子(陥没呼吸、鼻翼呼吸、呼吸数など)をよく観察しておく。 ・可能であれば、保護者の膝の上に抱いてもらったまま診察し、子どもを安心させる。 ・聴診器をあらかじめ手で温めておくなど、冷たい刺激を避ける。 ・おもちゃを見せて気をそらすなど、子どもの注意をひく工夫をする。 ・呼吸数や心拍数は、泣いていない安静時に数える。

一般的な診察の流れ(乳児の例)

1. 全身の視診(活気、皮膚の色、発疹、脱水の有無など) 2. 胸部の聴診(心音・呼吸音) 3. 腹部の触診(肝臓・脾臓の腫れ、しこり、押したときの痛み)、そけい部や外陰部 4. 大泉門・頸部のリンパ節 5. 耳(耳鏡)、口の中・咽頭(舌圧子)、眼 ※熱が出たときの髄膜刺激症状の確認や、股関節の診察なども、嫌がる手技なので後半に行う。

成人との違い

成人では、一般に頭頸部 → 胸部 → 腹部 → 四肢と、上から順に診察することが多い。乳幼児では部位の順ではなく、子どもが嫌がらない順(泣かせない順)を優先する。

POINT

・乳幼児の診察は、子どもが嫌がらず、刺激の少ないものから行い、嫌がるものを後に回すのが原則である。 ・一般的な順序は、胸部(聴診)→ 腹部(触診)→ 頭頸部(耳・咽頭)である。 ・心音と呼吸音の聴診は、泣くと評価できなくなるので最初に行う。 ・舌圧子を使う咽頭の診察は吐き気を誘い、泣かせやすいので最後に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。