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血小板だけが突出して増える―脳梗塞の既往が語る本態性血小板血症

第106回医師国家試験 A問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第27問

70歳の男性。定期健康診断で検査値の異常を指摘されたため来院した。1年前に脳梗塞の既往がある。心音と呼吸音とに異常を認めない。肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9 g/dL,Ht 42%,白血球12,300(桿状核好中球30%,分葉核好中球45%,好酸球1%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球17%),血小板250万。骨髄検査では線維化を認めず,染色体は正常核型である。末梢血塗抹May-Giemsa染色標本(A)と骨髄生検のH-E染色標本(B)とを別に示す。  診断として最も考えられるのはどれか。

第106回 A問題 第27問の問題画像
  1. a.骨髄線維症
  2. b.慢性骨髄性白血病
  3. c.骨髄異形成症候群
  4. d.真性赤血球増加症
  5. e.本態性血小板血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健診で見つかった血球の異常から骨髄増殖性腫瘍を見分ける問題だ。ポイントは「どの血球系が増えているか」と「ほかの骨髄増殖性腫瘍をどう除外するか」。まず血算を眺めて、一番目立つ異常は何かな。
医学生医学生
血小板250万はものすごい数字です。基準値の10倍近いですよね。
ドクタードクター
そう、ここが主役だ。白血球も軽く増えているけれど、幼若な顆粒球は出ていないし、好塩基球も増えていない。赤血球、Hb、Htは正常範囲に収まっている。つまり、ほぼ血小板の一系統だけが突出して増えている状態だ。
医学生医学生
血小板が増えたときは、まず反応性のものを考えるように血液内科の講義で習いました。鉄欠乏や炎症、脾摘後などですよね。
ドクタードクター
その通り。反応性の血小板増加は多くが100万未満で、原因を取り除けば改善する。100万を大きく超える極端な増加は、骨髄の造血幹細胞がクローン性に増える骨髄増殖性腫瘍を強く疑わせる。画像も見てみよう。末梢血塗抹のMay-Giemsa染色では、赤血球の間に小さな血小板がびっしり散らばり、一部に大型の血小板も混じっている。
医学生医学生
骨髄生検のほうはどうでしょう。
ドクタードクター
H-E染色では細胞成分が多く、大型で核の分葉が目立つ成熟した巨核球が増え、集まって存在している。血小板をつくる巨核球そのものが腫瘍性に増えているわけだ。さらに1年前の脳梗塞。これをどう結びつける?
医学生医学生
血小板が多すぎて血栓ができやすくなった、ということですか。
ドクタードクター
そう考えられる。血栓症は本態性血小板血症の最も重要な合併症だ。血小板の著増、大型成熟巨核球の増生、血栓症の既往がそろえば、本態性血小板血症が最も考えやすい。ただ、この病気は除外診断の側面が強い。ほかの骨髄増殖性腫瘍を一つずつ消していこう。まず真性赤血球増加症は?
医学生医学生
JAK2変異で赤血球が増える病気で、白血球や血小板も増えることがありますよね。でもHbもHtも正常なので違うと思います。
ドクタードクター
正解。WHO分類では男性でHb16.5超またはHt49%超などの赤血球量の増加が大基準として必須だから、今回は満たさない。次は慢性骨髄性白血病。
医学生医学生
CBTの勉強で、Philadelphia染色体とBCR::ABL1と丸暗記しました。今回は正常核型なので否定できますか。
ドクタードクター
それが大きな根拠だね。加えて、慢性骨髄性白血病なら白血球が著しく増え、骨髄球や後骨髄球などあらゆる段階の顆粒球が末梢血に出て、好塩基球増加や脾腫を伴うのが典型だ。今回はどれもない。ただ、血小板増加が前面に出る例もまれにあるから、実臨床ではBCR::ABL1の遺伝子検査まで行って除外する。
医学生医学生
骨髄線維症も、最初は血小板が増えることがあると聞いた気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。線維化前の初期には血小板増加を示すこともある。でも本来は骨髄が線維化してdry tapになり、髄外造血で著明な脾腫が起こり、末梢血に涙滴赤血球や幼若な赤芽球・顆粒球が出る白赤芽球症が特徴だ。今回は線維化も脾腫もない。
医学生医学生
骨髄異形成症候群は、骨髄は細胞が多いのに末梢で血球が減る病気でしたね。
ドクタードクター
そう、無効造血による血球減少と形態異常が基本だ。5q-症候群では血小板が増えることもあるけれど、今回は血球減少がなく、正常核型で、形態異常も目立たない。だから本態性血小板血症が残るわけだ。
医学生医学生
つまり、増えている血球系で候補を挙げて、赤血球量、染色体、線維化、異形成で一つずつ消していく流れですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識。本態性血小板血症のドライバー変異はJAK2 V617Fが約半数、ほかにCALRやMPLがあり、どれも陰性のトリプルネガティブもある。注意したいのは、血小板が100万を超えるほど増えると、von Willebrand因子が吸着・分解されて減る後天性von Willebrand症候群になり、逆に出血しやすくなることだ。
医学生医学生
血栓も出血も起こりうるんですね。治療はどう考えますか。
ドクタードクター
60歳以上や血栓症の既往は血栓症の高リスク因子で、この方は両方に当てはまる。高リスクなら低用量アスピリンに加えて、ヒドロキシカルバミドなどの細胞減少療法で血小板数を下げるのが基本だ。ただし極端な血小板増加でアスピリンを使うときは、出血傾向に配慮する必要がある。長期的には二次性骨髄線維症や急性骨髄性白血病へ移行する例もあるので、定期的な経過観察が欠かせない。

まとめ

血小板が100万/μLを大きく超えて一系統だけ著明に増え、骨髄で大型・過分葉の成熟巨核球が増生している場合は、骨髄増殖性腫瘍の一つである本態性血小板血症を考えます。診断は除外診断の側面が強く、赤血球量の正常から真性赤血球増加症、線維化や脾腫の欠如から骨髄線維症、Philadelphia染色体やBCR::ABL1の陰性から慢性骨髄性白血病、血球減少や異形成の欠如から骨髄異形成症候群を否定し、反応性血小板増加症も除外します。ドライバー変異としてJAK2、CALR、MPLが知られ、主な合併症は脳梗塞などの血栓症ですが、極端な増加では後天性von Willebrand症候群による出血にも注意が必要です。60歳以上や血栓症既往は高リスクで、低用量アスピリンと細胞減少療法が勧められます。増えている血球系を手がかりに鑑別を進める考え方は、血液疾患全般の診断の基本になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・患者背景: 70歳の男性。健康診断で血液検査の異常を指摘された。1年前に脳梗塞を起こしている。 ・身体所見: 心音・呼吸音に異常はなく、肝臓・脾臓は触れない(肝脾腫なし)。 ・血液検査: 血小板250万/μLと著しく増えている(基準はおよそ15万〜35万/μL)。白血球12,300/μLと軽度増加し、桿状核好中球が30%とやや多いが、骨髄芽球や前骨髄球などの幼若な細胞は出ていない。好塩基球は1%で増えていない。赤血球468万、Hb 13.9 g/dL、Ht 42%は正常範囲である。 ・骨髄: 線維化はなく、染色体は正常核型である。 ・末梢血塗抹(A): 赤血球の間に小さな血小板が非常に多数散らばり、一部に大型の血小板もみられる。好中球の形態に目立つ異常はない。 ・骨髄生検(B): 細胞成分が多く、大型で核の分葉が目立つ成熟した巨核球が増え、集まって存在する。

診断へのプロセス

血小板だけが突出して増え、赤血球は増えていない。このように一系統の血球が持続的に増えるときは、骨髄の造血幹細胞のクローン性の増殖である骨髄増殖性腫瘍(MPN)と、炎症・鉄欠乏・脾摘後・悪性腫瘍などに伴う反応性(二次性)の血小板増加症を区別する。血小板が100万/μLを超える極端な増加、骨髄での大型成熟巨核球の増生、そして血栓症(脳梗塞)の既往は、MPNの一つである本態性血小板血症を強く示唆する。 次に、血小板増加をきたしうる他のMPNや関連疾患を除外する。 ・赤血球系が正常 → 真性赤血球増加症は否定的 ・骨髄に線維化がなく脾腫もない → 骨髄線維症は否定的 ・正常核型でPhiladelphia染色体がなく、幼若顆粒球や好塩基球の増加もない → 慢性骨髄性白血病は否定的 ・血球減少がなく、形態異常も目立たない → 骨髄異形成症候群は否定的 これらから、本態性血小板血症と診断するのが最も妥当である。脳梗塞の既往は、本症による血栓症と考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  骨髄線維症

    原発性骨髄線維症は、異常な巨核球などが放出するサイトカインによって骨髄に線維化が進む骨髄増殖性腫瘍である。骨髄穿刺で骨髄液が吸引できない(dry tap)、髄外造血による著明な脾腫、末梢血に涙滴赤血球や幼若な赤芽球・顆粒球が出現する(白赤芽球症)などの特徴をもつ。病初期(線維化前期)には血小板増加を示すこともあるが、本例は骨髄に線維化がなく、脾腫も涙滴赤血球もないため当てはまらない。

  2. ×b.  慢性骨髄性白血病

    慢性骨髄性白血病(CML)は、Philadelphia染色体 t(9;22) によって生じるBCR::ABL1融合遺伝子を原因とする骨髄増殖性腫瘍である。白血球が著しく増え、末梢血に骨髄球・後骨髄球などあらゆる成熟段階の顆粒球がみられ、好塩基球・好酸球の増加や脾腫を伴う。血小板が増えることもあるが、本例は染色体が正常核型で、白血球増加は軽度、幼若顆粒球や好塩基球増加もなく、脾腫もないので否定的である。なお、血小板増加が前面に出るCMLもまれにあるため、実際の診療では染色体検査に加えてBCR::ABL1の遺伝子検査で除外する。

  3. ×c.  骨髄異形成症候群

    骨髄異形成症候群(MDS)は、造血細胞の異常により骨髄は細胞に富むのに成熟した血球をうまく作れず(無効造血)、末梢血で血球減少をきたす疾患である。血球の形態異常(異形成)や染色体異常を伴うことが多い。5q-症候群などでは血小板が増えることもあるが、本例は血球減少がなく、正常核型で、形態異常も目立たないことから考えにくい。

  4. ×d.  真性赤血球増加症

    真性赤血球増加症(PV)は、主にJAK2遺伝子変異により赤血球が自律的に増える骨髄増殖性腫瘍で、白血球や血小板も増えることが多い。WHO分類(2016年改訂以降)の大基準では、男性でHb>16.5 g/dLまたはHt>49%などの赤血球量の増加が必須である(かつての2008年基準では男性Hb>18.5 g/dL)。本例はHb 13.9 g/dL、Ht 42%と正常範囲であり、PVの基準を満たさない。

  5. ○e.  本態性血小板血症

    本態性血小板血症(ET)は、骨髄で巨核球がクローン性に増殖し、血小板が持続的に増える骨髄増殖性腫瘍である。本例は、血小板250万/μLと著明な増加、骨髄での大型・過分葉の成熟巨核球の増生、他の骨髄増殖性腫瘍(PV、骨髄線維症、CML)やMDSを示唆する所見がないことから、ETの診断に合致する。ETは血栓症が主な合併症であり、1年前の脳梗塞も本症による動脈血栓症として説明できる。60歳以上で血栓症の既往もあるので血栓症の高リスク群に当たり、低用量アスピリンに加えてヒドロキシカルバミドなどの細胞減少療法が勧められる。

骨髄増殖性腫瘍(MPN)

造血幹細胞の遺伝子異常により、骨髄系の血球が自律的に増える腫瘍の総称である。代表的なものは以下の4つ。 ・慢性骨髄性白血病(CML): BCR::ABL1融合遺伝子(Philadelphia染色体)。顆粒球の増加が主体。治療はチロシンキナーゼ阻害薬。 ・真性赤血球増加症(PV): JAK2変異(V617Fが約95%、残りはexon 12変異)。赤血球増加が主体。 ・本態性血小板血症(ET): JAK2 V617F(約50〜60%)、CALR(約20〜25%)、MPL(数%)のいずれかの変異をもつことが多い。いずれも陰性のもの(トリプルネガティブ)もある。血小板増加が主体。 ・原発性骨髄線維症(PMF): 変異の頻度はETとほぼ同様。骨髄の線維化が主体。

本態性血小板血症の診断基準(WHO分類の要点)

大基準: ①血小板数45万/μL以上の持続 ②骨髄で大型・過分葉の成熟巨核球の増生(顆粒球系・赤芽球系の増加や線維化はほとんどない) ③CML、PV、PMF、MDSなど他の骨髄性腫瘍の基準を満たさない ④JAK2、CALR、MPLのいずれかの変異 小基準: クローン性マーカーの存在、または反応性血小板増加症の否定 大基準4つすべて、または大基準①〜③と小基準で診断する。

反応性(二次性)血小板増加症の原因

鉄欠乏性貧血、感染症や膠原病などの慢性炎症、出血、脾摘後、悪性腫瘍など。多くは100万/μL未満で、原因の除去で改善する。

ETの合併症と治療

・血栓症: 脳梗塞、心筋梗塞、肢端紅痛症(手足の灼熱痛と発赤)など。 ・出血: 血小板が100万/μLを超えるほど極端に増えると、von Willebrand因子が大型血小板に吸着・分解されて減り(後天性von Willebrand症候群)、逆に出血しやすくなる。 ・リスク分類: 60歳以上、血栓症の既往、JAK2変異陽性などが血栓症のリスク因子。高リスクでは低用量アスピリンに加えヒドロキシカルバミドやアナグレリドで血小板数を下げる。 ・長期経過: 一部は骨髄線維症(二次性)や急性骨髄性白血病へ移行することがあり、定期的な経過観察が必要である。PVも同様に二次性骨髄線維症へ移行しうる。

POINT

・血小板のみが著明に増加(100万/μL超)し、骨髄で大型成熟巨核球が増生 → 本態性血小板血症(ET)を考える。 ・ETの診断は除外診断の側面が強い: PV(Hb・Ht正常)、骨髄線維症(線維化なし・脾腫なし)、CML(Ph染色体・BCR::ABL1陰性)、MDS(血球減少・異形成なし)、反応性血小板増加症を除外する。 ・ETのドライバー変異: JAK2 V617F(約半数)、CALR、MPL。 ・主な合併症は血栓症(脳梗塞など)。極端な血小板増加では後天性von Willebrand症候群による出血にも注意。 ・60歳以上または血栓症既往は高リスク → 低用量アスピリン+ヒドロキシカルバミドなどの細胞減少療法。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。