StudyMed医師国家試験

健診の心雑音、正体は「めくれる弁」―心エコーで読み解く僧帽弁逸脱症候群

第106回医師国家試験 A問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第24問

52歳の男性。健康診断で心雑音を指摘されたため来院した。自覚症状はない。脈拍68/分,整。血圧142/84 mmHg。心エコー図(A)(B)を別に示す。  診断として考えられるのはどれか。

第106回 A問題 第24問の問題画像
  1. a.左房粘液腫
  2. b.僧帽弁狭窄症
  3. c.大動脈弁狭窄症
  4. d.心房中隔欠損症
  5. e.僧帽弁逸脱症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、無症状の中年男性が健診で心雑音を指摘され、心エコー図から弁膜症を診断する問題だ。注目してほしいのは2つ。収縮期に僧帽弁の弁尖がどこにあるか、そしてカラードプラで血液がどちら向きに流れているか。この2点を押さえれば答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
52歳で初めて心雑音を指摘されたなら、若い人によくある無害性雑音ではなさそうですね。何か器質的な病気を考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
いい出発点だね。中年以降に新しく見つかった心雑音は、基本的に器質的心疾患を念頭に置いて心エコーで確認する。では画像を見ていこう。傍胸骨左縁長軸像では、収縮期に僧帽弁の後尖が弁輪の面を越えて左房側へ落ち込み、前尖との噛み合わせがずれている。そしてカラードプラでは、収縮期に左室から左房へ向かう逆流ジェットが描出されている。
医学生医学生
収縮期に左房へ血液が戻っているなら僧帽弁逆流ですね。弁尖が左房側にめくれているので、僧帽弁逸脱症候群でしょうか。
ドクタードクター
正解。僧帽弁逸脱症候群は、収縮期に弁尖が弁輪を越えて左房側へ逸脱する病態で、長軸像で弁輪面より2 mmを超えて偏位することが目安とされる。弁尖と腱索の粘液腫様変性が主な原因で、特に後尖の中央部の逸脱が多いんだ。
医学生医学生
病理学の講義で、ムコ多糖が沈着して弁が分厚く伸びてしまう変化だと習いました。だから弁が支えきれずに左房側へ反り返るんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。まず左房粘液腫はどうかな。
医学生医学生
心臓原発腫瘍で一番多い良性腫瘍ですよね。でも、左房の中に塊が見えるはずだと思います。
ドクタードクター
その通り。粘液腫は多くが心房中隔の卵円窩付近に茎で付着し、拡張期には僧帽弁口へはまり込み、収縮期には左房へ戻る振り子のような動きを示す。聴診では腫瘍が弁口に当たる腫瘍落音が特徴的だ。今回の画像に左房内の腫瘤はないから否定できる。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症は同じ僧帽弁の病気なので、少し迷いました。
ドクタードクター
同じ弁でも、狭窄と逆流では見るべき時相が逆なんだ。狭窄症はリウマチ熱の後遺症が多く、弁尖が肥厚・石灰化して交連部が癒合し、拡張期に前尖がドーム状に膨らむ。異常血流も拡張期に弁口を通る加速血流になる。今回は収縮期の逆流が主体だから合わない。
医学生医学生
大動脈弁狭窄症も収縮期雑音ですけど、異常血流の向きが違いますよね。
ドクタードクター
そう。大動脈弁狭窄症なら、大動脈弁が肥厚・石灰化して開きが悪く、収縮期に大動脈弁口から上行大動脈へ向かう高速の乱流がみられる。左室の求心性肥大も伴う。今回の異常血流は左室から左房へ向かっているから、場所が違うね。
医学生医学生
心房中隔欠損症は大人になって見つかる先天性心疾患として、CBTでもよく出てきました。
ドクタードクター
成人で初めて見つかることが多いのは確かだ。ただ、心房中隔欠損症では左房から右房への短絡で右心系に容量負荷がかかり、右房・右室の拡大や心房中隔を横切る短絡血流が描出される。聴診ではII音の固定性分裂が特徴だね。今回は弁の逸脱と逆流が主役なので該当しない。
医学生医学生
収縮期か拡張期か、異常血流がどこからどこへ向かうか、この2つで鑑別が整理できるんですね。
ドクタードクター
まさにそれが心エコー読影の基本だ。発展知識も押さえておこう。僧帽弁逸脱症候群の聴診所見は、収縮中期クリックとそれに続く収縮後期雑音。弁尖が急に張り出して腱索がピンと張るときにクリックが生じるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、立たせると雑音の聞こえ方が変わると教わった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。立位やValsalva法で左室容積が小さくなると逸脱が早く起こり、クリックが収縮早期へ移って雑音が長くなる。逆にしゃがむと左室容積が増えて、クリックは遅れ雑音は短くなる。またMarfan症候群などの結合組織疾患に合併しやすいことも重要だ。
医学生医学生
治療はどうなりますか。無症状なら様子を見るだけでいいのでしょうか。
ドクタードクター
逆流が軽度で無症状なら経過観察が基本だ。ただし、腱索断裂で急に逆流が悪化して心不全になることや、心房細動、感染性心内膜炎を合併することがあるから、定期的な心エコーでの評価が欠かせない。高度の逆流で症状がある場合や、無症状でも左室機能低下や心房細動、肺高血圧を伴う場合は手術を考え、変性による逆流では自己弁を温存する僧帽弁形成術が第一に選ばれる。手術リスクが高い人にはカテーテル治療という選択肢もあるよ。
医学生医学生
健診の心雑音を軽く考えず、心エコーで弁の形と血流をきちんと確認することが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。無症状でも、将来の心不全や不整脈につながる芽を見つける大事な機会なんだ。

まとめ

無症状の中年者で健診時に初めて指摘された心雑音は、器質的心疾患を考えて心エコーで評価します。収縮期に僧帽弁の弁尖(多くは後尖)が弁輪を越えて左房側へ逸脱し、カラードプラで左室から左房への逆流ジェットを認めれば僧帽弁逸脱症候群と診断でき、原因は弁尖・腱索の粘液腫様変性です。聴診では収縮中期クリックと収縮後期雑音が典型で、立位やValsalva法でクリックが早まり雑音が長くなります。左房粘液腫は左房内の可動性腫瘤、僧帽弁狭窄症は弁肥厚と拡張期のドーム形成、大動脈弁狭窄症は大動脈弁の石灰化と開放制限、心房中隔欠損症は右心系拡大と心房間短絡で鑑別します。異常血流の時相と向きを読む姿勢は弁膜症診断の基本であり、腱索断裂や心房細動などの合併症を見据えた経過観察と、必要時の僧帽弁形成術という治療方針の理解にもつながります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・52歳男性、健康診断で心雑音を初めて指摘され、自覚症状はない。 ・脈拍68/分・整で頻脈や心房細動はなく、血圧は軽度高値。心不全を示唆する所見はない。 ・心エコー図(A):傍胸骨左縁長軸像で、収縮期に僧帽弁の後尖が弁輪を越えて左房側へ落ち込み(逸脱し)、前尖との接合がずれている。 ・心エコー図(B):カラードプラ法で、収縮期に左室から左房へ向かう逆流ジェット(僧帽弁逆流)が描出されている。

診断のプロセス

中年期になって初めて指摘された心雑音は、機能性(無害性)雑音よりも何らかの器質的心疾患を考えるべきである。心エコー図では収縮期に後尖が左房側へ逸脱し、それに伴う僧帽弁逆流が認められることから、僧帽弁逸脱症候群(MVP:mitral valve prolapse)と診断できる。 僧帽弁逆流をきたす疾患としては、僧帽弁逸脱症候群のほか、腱索断裂、感染性心内膜炎(弁の破壊や疣腫)、リウマチ性弁膜症、虚血性・機能性僧帽弁逆流(左室拡大や乳頭筋機能不全による弁の接合不全)などがある。腱索断裂は通常急性に発症して高度の逆流となり、心不全症状で受診することが多い。感染性心内膜炎では発熱などの全身症状があり、弁に疣腫(vegetation)が付着する。本例は無症状で、弁尖の肥厚・石灰化や疣腫、左房内腫瘤もなく、弁尖が収縮期に左房側へ逸脱していることが病態の中心であるため、僧帽弁逸脱症候群が最も考えられる。

聴診との対応

僧帽弁逸脱症候群では、収縮中期に弁尖が急に左房側へ張り出して腱索が緊張するときにクリック音(収縮中期クリック)が生じ、それに続いて逆流による収縮後期雑音を聴取するのが典型的である。本例の健診で指摘された心雑音も、この逆流によるものと考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  左房粘液腫

    誤り。左房粘液腫は心臓原発腫瘍で最も多い良性腫瘍で、多くは心房中隔(卵円窩付近)に茎をもって付着する。心エコー図では左房内に可動性の腫瘤エコーがみられ、拡張期に僧帽弁口へ嵌入し、収縮期に左房内へ戻る振り子様運動を示す。聴診では腫瘍が弁口に当たる際の腫瘍落音(tumor plop)や拡張期雑音を聴取する。本例の心エコー図には左房内腫瘤は描出されていない。

  2. ×b.  僧帽弁狭窄症

    誤り。僧帽弁狭窄症の多くはリウマチ熱の後遺症で、心エコー図では弁尖の肥厚・石灰化(輝度上昇)、交連部の癒合による弁口面積の縮小、拡張期に前尖がドーム状に膨らむ所見(doming)、左房拡大などを示す。カラードプラでは拡張期に弁口を通る加速血流がみられる。聴診ではⅠ音亢進、僧帽弁開放音、拡張期ランブルが特徴である。本例では収縮期の逆流が主体であり、弁狭窄の所見はない。

  3. ×c.  大動脈弁狭窄症

    誤り。大動脈弁狭窄症では、心エコー図で大動脈弁の肥厚・石灰化と開放制限、左室の求心性肥大を認め、カラードプラでは収縮期に大動脈弁口から上行大動脈へ向かう高速の乱流ジェットがみられる。聴診では胸骨右縁第2肋間を最強点とし頸部へ放散する収縮期駆出性雑音を聴取する。本例の心エコー図では大動脈弁は収縮期に正常に開放しており、異常血流は左室から左房への逆流である。

  4. ×d.  心房中隔欠損症

    誤り。心房中隔欠損症は成人で初めて発見されることの多い先天性心疾患で、左房から右房への短絡により右心系に容量負荷がかかる。心エコー図では右房・右室の拡大、心室中隔の奇異性運動、カラードプラで心房中隔を横切る短絡血流を認め、心尖部四腔像や剣状突起下像で評価する。聴診ではⅡ音の固定性分裂と、肺動脈弁の相対的狭窄による収縮期駆出性雑音が特徴である。本例では心房レベルの短絡は示されておらず、僧帽弁の逸脱と逆流が描出されている。

  5. ○e.  僧帽弁逸脱症候群

    正しい。心エコー図で、収縮期に僧帽弁後尖が弁輪の面を越えて左房側へ逸脱して前尖との接合が不良となり、カラードプラで収縮期に左房へ向かう逆流ジェットが確認される。無症状で健診時の心雑音を契機に見つかったという経過も、僧帽弁逸脱症候群に合致する。心エコー上は、傍胸骨長軸像で弁尖が弁輪面より2 mmを超えて左房側へ偏位することが診断の目安とされる。

僧帽弁逸脱症候群の概要

収縮期に僧帽弁の弁尖(前尖・後尖の一方または両方)が弁輪を越えて左房側へ逸脱する病態である。収縮期クリック症候群、Barlow症候群とも呼ばれる。弁尖や腱索の粘液腫様変性(ムコ多糖の沈着による弁組織の脆弱化・肥厚・延長)が主な原因で、後尖、特にその中央部(P2)の逸脱が多い。Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群などの結合組織疾患に合併しやすく、漏斗胸や脊柱の変形を伴うこともある。若年女性に多いとされるが、高度の逆流で治療対象となるのは中高年男性に多い。

症状・聴診

・多くは無症状。動悸、胸痛、不安感など非特異的な訴えを伴うことがある。 ・聴診:収縮中期クリックと、それに続く収縮後期雑音(心尖部)。 ・体位による変化:立位やValsalva法で左室容積が小さくなると、逸脱が早く起こりクリックが収縮早期へ移動し雑音が長くなる。蹲踞(しゃがむ姿勢)や下肢挙上で左室容積が増すと、クリックは遅れ雑音は短くなる。

合併症

・僧帽弁逆流の進行(腱索の延長・断裂による急性増悪を含む)と心不全 ・不整脈(心房細動、心室期外収縮など) ・感染性心内膜炎 ・まれに脳塞栓症、突然死

治療

・無症状で逆流が軽度なら経過観察する。 ・高度の僧帽弁逆流で症状がある場合、あるいは無症状でも左室機能低下(左室駆出率の低下、左室収縮末期径の拡大)や心房細動、肺高血圧を伴う場合は手術の適応となり、変性による逆流では弁置換よりも自己弁を温存する僧帽弁形成術が第一に選ばれる。手術リスクの高い例ではカテーテルによる経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip)も選択肢となる。 ・感染性心内膜炎の予防的抗菌薬投与は、現在のガイドラインでは逆流のみの僧帽弁逸脱には一律には推奨されず、人工弁置換後や感染性心内膜炎の既往など高リスク例に限られる。

POINT

・僧帽弁逸脱症候群:心エコーで収縮期に弁尖(多くは後尖)が左房側へ逸脱し、僧帽弁逆流を伴う。 ・聴診:収縮中期クリック+収縮後期雑音。立位・Valsalva法でクリックが早まり雑音が長くなる。 ・原因は粘液腫様変性。Marfan症候群などの結合組織疾患に合併しやすい。 ・高度逆流で手術適応となれば僧帽弁形成術が第一選択。 ・心エコーでの鑑別:左房粘液腫=左房内の可動性腫瘤、僧帽弁狭窄症=弁肥厚とdoming、大動脈弁狭窄症=大動脈弁の石灰化・開放制限、心房中隔欠損症=右心系拡大と心房間短絡。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。