短くなった22番染色体が語るもの―Philadelphia染色体とBCR-ABL1をめぐる白血病の地図
第106回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
Philadelphia染色体を認めるのはどれか。2つ選べ。
- a.急性前骨髄球性白血病
- b.急性リンパ性白血病
- c.成人T細胞白血病
- d.慢性骨髄性白血病
- e.慢性リンパ性白血病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Philadelphia染色体はt(9;22)(q34;q11)による短縮した22番染色体で、BCR-ABL1融合遺伝子を形成し、恒常的に活性化したチロシンキナーゼが造血細胞の増殖を促します。慢性骨髄性白血病ではほぼ全例で陽性となり診断に必須で、急性リンパ性白血病でも成人の約20〜30%にPh陽性例がみられます。急性前骨髄球性白血病はt(15;17)によるPML-RARA、成人T細胞白血病はHTLV-1感染、慢性リンパ性白血病は13q欠失や17p欠失などが特徴で、いずれもPh染色体は認めません。BCR-ABL1を標的とするイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬は慢性骨髄性白血病の予後を劇的に改善し、Ph陽性ALLの治療成績も向上させました。染色体異常と疾患・治療を結びつけて理解することは、分子標的治療の時代の血液診療の基本となります。
解答・解説
正解はb, dです
Philadelphia染色体(Ph染色体)は、9番染色体長腕(9q34)と22番染色体長腕(22q11)の相互転座 t(9;22)(q34;q11) によって生じる、短くなった22番染色体(派生22番染色体)のことである。1960年にフィラデルフィアで発見されたことから名付けられ、腫瘍に特異的な染色体異常として初めて見つかったものである。 この転座により、22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL1遺伝子がつながり、BCR-ABL1融合遺伝子が形成される。そこから作られるBCR-ABL1蛋白は、本来厳密に制御されているABLチロシンキナーゼが常に活性化した状態となっており、細胞増殖シグナルを出し続けて造血細胞を腫瘍化させる。 Ph染色体が認められる代表的な疾患は次の二つである。 ・慢性骨髄性白血病(CML):ほぼ全例(約95%)でPh染色体を認め、残りの多くも分子レベルでBCR-ABL1融合遺伝子が検出される。BCR-ABL1の存在が診断に必須である。 ・急性リンパ性白血病(ALL):一部の症例でPh染色体を認める(Ph陽性ALL)。成人ALLの約20〜30%、小児ALLの数%を占め、高齢になるほど頻度が高い。 したがって、本問では急性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病を選ぶ。その他の白血病については、それぞれに特徴的な遺伝子異常・病因と対応させて覚えておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 急性前骨髄球性白血病
急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類のM3)に特徴的なのは t(15;17)(q24;q21) であり、15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のレチノイン酸受容体α(RARA)遺伝子が融合したPML-RARA融合遺伝子が形成される。この融合蛋白が前骨髄球からの分化を止めるため、アズール顆粒に富む異常前骨髄球やAuer小体が束になったファゴット細胞が増加する。播種性血管内凝固(DIC)を高率に合併し、全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法や亜ヒ酸が有効である。Ph染色体は認めない。
- ○b. 急性リンパ性白血病
急性リンパ性白血病(ALL)の一部、主にB細胞性ALLでPh染色体(t(9;22))を認める。頻度は成人ALLの約20〜30%と成人で最も多い染色体異常であり、年齢とともに増加する。小児ALLでは数%と少ない。ALLでは、BCR遺伝子の切断点がCMLと異なることが多く、CMLで主にみられる210kDaの融合蛋白(p210)ではなく、より小さい190kDaの融合蛋白(p190)が産生されることが多い。Ph陽性ALLは従来の化学療法のみでは予後不良であったが、イマチニブ、ダサチニブ、ポナチニブなどのBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を化学療法に併用することで治療成績が大きく改善した。同種造血幹細胞移植も治療選択肢となる。
- ×c. 成人T細胞白血病
成人T細胞白血病(ATL、成人T細胞白血病・リンパ腫)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染を原因とするCD4陽性T細胞の腫瘍である。感染者の一部で数十年の潜伏期を経て発症し、九州・沖縄に多い。花びら状の核をもつ異常リンパ球(flower cell)、高カルシウム血症、皮膚病変、日和見感染などを特徴とする。腫瘍細胞にはHTLV-1プロウイルスが単クローン性に組み込まれているが、Ph染色体は認めない。染色体異常は症例ごとに多様で複雑な核型を示すことが多い。
- ○d. 慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞にPh染色体(BCR-ABL1融合遺伝子)が生じることで起こる骨髄増殖性腫瘍であり、ほぼ全例(約95%)でPh染色体を認める。染色体検査で見つからない例でも、FISH法やRT-PCR法でBCR-ABL1融合遺伝子が検出される。白血球(特に好中球とその前駆細胞のあらゆる成熟段階)の著増、好塩基球・好酸球の増加、血小板増加、脾腫を特徴とし、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアが低下する。病期は慢性期、移行期、急性転化期に分けられる。治療の第一選択はイマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなどのTKIであり、これにより大多数の患者が急性転化せずに長期生存し、日常生活を送れるようになった。治療効果はRT-PCR法によるBCR-ABL1 mRNA量で評価する。
- ×e. 慢性リンパ性白血病
慢性リンパ性白血病(CLL)は、CD5とCD23を発現する成熟した小型B細胞が末梢血・骨髄・リンパ節で緩徐に増殖する疾患で、欧米に多く日本では少ない。染色体異常としては13q14欠失(最も多く予後良好)、12番トリソミー、11q欠失、17p欠失(TP53の欠失で予後不良)などが知られているが、Ph染色体は認めない。塗抹標本では、壊れた腫瘍細胞であるsmudge cell(くすぶり細胞)がみられる。自己免疫性溶血性貧血や低γグロブリン血症を合併しやすい。
造血器腫瘍と代表的な染色体・遺伝子異常
・t(9;22)(q34;q11):BCR-ABL1 → CML(ほぼ全例)、Ph陽性ALL ・t(15;17)(q24;q21):PML-RARA → 急性前骨髄球性白血病(APL) ・t(8;21)(q22;q22):RUNX1-RUNX1T1(AML1-ETO)→ 分化型急性骨髄性白血病(FAB分類M2)の一部、予後良好群 ・inv(16) または t(16;16):CBFB-MYH11 → 異常好酸球を伴う急性骨髄単球性白血病(M4Eo)、予後良好群 ・t(8;14)(q24;q32):MYC-IGH → Burkittリンパ腫 ・t(14;18)(q32;q21):IGH-BCL2 → 濾胞性リンパ腫 ・t(11;14)(q13;q32):CCND1-IGH → マントル細胞リンパ腫 ・11q23転座:KMT2A(MLL)再構成 → 乳児ALL、治療関連白血病など(予後不良) ・JAK2 V617F変異 → 真性赤血球増加症(大部分)、本態性血小板血症・原発性骨髄線維症の一部
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)
BCR-ABL1のATP結合部位に作用してキナーゼ活性を阻害する分子標的薬である。第1世代のイマチニブ、第2世代のニロチニブ・ダサチニブ・ボスチニブ、第3世代のポナチニブ(T315I変異にも有効)などがある。CMLでは長期にわたり深い分子遺伝学的奏効が得られた一部の患者で、TKIの中止を試みる選択肢もある。
POINT
・Ph染色体 = t(9;22)(q34;q11) による短縮した22番染色体で、BCR-ABL1融合遺伝子を形成する。 ・CMLのほぼ全例、ALLの一部(成人ALLの約20〜30%)で陽性となる。 ・BCR-ABL1はチロシンキナーゼを恒常的に活性化させ、イマチニブなどのTKIが著効する。 ・APLは t(15;17)(PML-RARA)で、ATRAが有効、DICを合併しやすい。 ・ATLはHTLV-1、CLLは13q欠失・12トリソミー・17p欠失などが特徴で、いずれもPh染色体は認めない。
