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短くなった22番染色体が語るもの―Philadelphia染色体とBCR-ABL1をめぐる白血病の地図

第106回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第15問

Philadelphia染色体を認めるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.急性前骨髄球性白血病
  2. b.急性リンパ性白血病
  3. c.成人T細胞白血病
  4. d.慢性骨髄性白血病
  5. e.慢性リンパ性白血病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Philadelphia染色体、略してPh染色体がどの白血病でみられるかを問う問題だ。単なる暗記問題に見えるけれど、Ph染色体の正体を理解しておくと、診断や治療までつながる大事なテーマなんだ。まず、Ph染色体とは何か説明できるかな。
医学生医学生
t(9;22)の転座で、慢性骨髄性白血病の原因になるもの、と覚えています。
ドクタードクター
いいね。もう少し正確に言うと、9番染色体長腕と22番染色体長腕の相互転座で生じた、短くなった22番染色体のことをPh染色体と呼ぶ。1960年にフィラデルフィアで見つかった、腫瘍に特異的な染色体異常として最初のものなんだ。
医学生医学生
転座によって、遺伝子レベルでは何が起きているんですか。
ドクタードクター
22番のBCR遺伝子と9番のABL1遺伝子がつながって、BCR-ABL1融合遺伝子ができる。ABLはチロシンキナーゼで、本来は厳密に制御されているんだけど、融合蛋白になると常にスイッチが入った状態になってしまう。増殖のシグナルが出しっぱなしになり、造血細胞が腫瘍化するわけだ。
医学生医学生
分子生物学の講義で、がん遺伝子の活性化の代表例として習った気がします。では正解の一つは慢性骨髄性白血病ですね。
ドクタードクター
その通り。慢性骨髄性白血病はほぼ全例、約95%でPh染色体を認め、染色体検査で見つからない例でもFISH法やRT-PCR法でBCR-ABL1が検出される。つまりBCR-ABL1の存在が診断に必須なんだ。血液所見の特徴も言えるかな。
医学生医学生
白血球が著しく増えて、いろいろな成熟段階の顆粒球が出てくること、好塩基球が増えること、それから脾腫です。
ドクタードクター
よく覚えているね。血小板増加や好酸球増加もみられ、好中球アルカリホスファターゼ、いわゆるNAPスコアが低下するのも特徴だ。では、もう一つの正解は何だと思う?
医学生医学生
正直、Ph染色体は慢性骨髄性白血病だけだと思っていました。ほかにもあるんですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。急性リンパ性白血病の一部、主にB細胞性でもPh染色体を認め、Ph陽性ALLと呼ばれる。成人ALLでは約20〜30%と、成人で最も多い染色体異常なんだ。小児ALLでは数%と少なく、年齢とともに頻度が上がる。
医学生医学生
同じ転座なのに、骨髄性とリンパ性の両方で起こるんですね。違いはあるのでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。BCR遺伝子の切れる位置が違うことが多く、慢性骨髄性白血病では主に210kDaの融合蛋白、Ph陽性ALLでは190kDaの融合蛋白が作られることが多い。Ph陽性ALLは化学療法だけでは予後不良だったけれど、BCR-ABLを狙うチロシンキナーゼ阻害薬を併用することで成績が大きく改善した。同種造血幹細胞移植も選択肢になる。
医学生医学生
では残りの選択肢です。急性前骨髄球性白血病はt(15;17)でしたよね。CBTの勉強でPML-RARAとセットで覚えました。
ドクタードクター
その通り。PML-RARA融合遺伝子が前骨髄球からの分化を止めるので、異常前骨髄球やAuer小体が束になったファゴット細胞が増える。DICを高率に合併するのが臨床上の大きな注意点で、全トランス型レチノイン酸による分化誘導療法や亜ヒ酸が有効だ。Ph染色体はみられない。
医学生医学生
成人T細胞白血病はHTLV-1感染が原因なので、染色体の転座とは別の話ですよね。
ドクタードクター
そう。CD4陽性T細胞の腫瘍で、九州・沖縄に多く、花びら状の核をもつflower cellや高カルシウム血症が特徴だ。腫瘍細胞にはHTLV-1プロウイルスが単クローン性に組み込まれているけれど、Ph染色体はない。染色体異常は症例ごとに多様で複雑なことが多いんだ。
医学生医学生
慢性リンパ性白血病は日本では少ないと聞きました。こちらには特徴的な染色体異常はないのでしょうか。
ドクタードクター
Ph染色体はないけれど、異常がないわけではないよ。13q14欠失が最も多くて予後良好、ほかに12番トリソミー、11q欠失、TP53を含む17p欠失があり、17p欠失は予後不良の指標になる。CD5とCD23陽性の小型B細胞が緩徐に増え、塗抹標本ではsmudge cellがみられる。自己免疫性溶血性貧血や低γグロブリン血症の合併にも注意だ。
医学生医学生
血液内科を回ったとき、慢性骨髄性白血病の患者さんが外来で内服を続けながら普通に働いていて驚きました。
ドクタードクター
まさにチロシンキナーゼ阻害薬の恩恵だね。イマチニブの登場以降、ニロチニブ、ダサチニブなどが加わり、多くの患者さんが急性転化せずに長期生存できるようになった。効果はRT-PCR法でBCR-ABL1 mRNAの量を測って評価する。T315I変異のように耐性を生む変異もあって、その場合はポナチニブが選択肢になる。長く深い奏効が続いた一部の患者さんでは、薬の中止を試みる選択肢も検討されているよ。
医学生医学生
染色体異常が診断だけでなく、治療薬の標的や効果判定にもつながっているんですね。
ドクタードクター
その通り。造血器腫瘍は、t(15;17)とAPL、t(8;14)とBurkittリンパ腫、t(14;18)と濾胞性リンパ腫のように、染色体・遺伝子異常と疾患をセットで整理しておくと、診断から治療まで一本の線でつながる。Ph染色体はその代表例として、しっかり押さえておこう。

まとめ

Philadelphia染色体はt(9;22)(q34;q11)による短縮した22番染色体で、BCR-ABL1融合遺伝子を形成し、恒常的に活性化したチロシンキナーゼが造血細胞の増殖を促します。慢性骨髄性白血病ではほぼ全例で陽性となり診断に必須で、急性リンパ性白血病でも成人の約20〜30%にPh陽性例がみられます。急性前骨髄球性白血病はt(15;17)によるPML-RARA、成人T細胞白血病はHTLV-1感染、慢性リンパ性白血病は13q欠失や17p欠失などが特徴で、いずれもPh染色体は認めません。BCR-ABL1を標的とするイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬は慢性骨髄性白血病の予後を劇的に改善し、Ph陽性ALLの治療成績も向上させました。染色体異常と疾患・治療を結びつけて理解することは、分子標的治療の時代の血液診療の基本となります。

解答・解説

正解はb, dです

Philadelphia染色体(Ph染色体)は、9番染色体長腕(9q34)と22番染色体長腕(22q11)の相互転座 t(9;22)(q34;q11) によって生じる、短くなった22番染色体(派生22番染色体)のことである。1960年にフィラデルフィアで発見されたことから名付けられ、腫瘍に特異的な染色体異常として初めて見つかったものである。 この転座により、22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL1遺伝子がつながり、BCR-ABL1融合遺伝子が形成される。そこから作られるBCR-ABL1蛋白は、本来厳密に制御されているABLチロシンキナーゼが常に活性化した状態となっており、細胞増殖シグナルを出し続けて造血細胞を腫瘍化させる。 Ph染色体が認められる代表的な疾患は次の二つである。 ・慢性骨髄性白血病(CML):ほぼ全例(約95%)でPh染色体を認め、残りの多くも分子レベルでBCR-ABL1融合遺伝子が検出される。BCR-ABL1の存在が診断に必須である。 ・急性リンパ性白血病(ALL):一部の症例でPh染色体を認める(Ph陽性ALL)。成人ALLの約20〜30%、小児ALLの数%を占め、高齢になるほど頻度が高い。 したがって、本問では急性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病を選ぶ。その他の白血病については、それぞれに特徴的な遺伝子異常・病因と対応させて覚えておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  急性前骨髄球性白血病

    急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類のM3)に特徴的なのは t(15;17)(q24;q21) であり、15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のレチノイン酸受容体α(RARA)遺伝子が融合したPML-RARA融合遺伝子が形成される。この融合蛋白が前骨髄球からの分化を止めるため、アズール顆粒に富む異常前骨髄球やAuer小体が束になったファゴット細胞が増加する。播種性血管内凝固(DIC)を高率に合併し、全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法や亜ヒ酸が有効である。Ph染色体は認めない。

  2. ○b.  急性リンパ性白血病

    急性リンパ性白血病(ALL)の一部、主にB細胞性ALLでPh染色体(t(9;22))を認める。頻度は成人ALLの約20〜30%と成人で最も多い染色体異常であり、年齢とともに増加する。小児ALLでは数%と少ない。ALLでは、BCR遺伝子の切断点がCMLと異なることが多く、CMLで主にみられる210kDaの融合蛋白(p210)ではなく、より小さい190kDaの融合蛋白(p190)が産生されることが多い。Ph陽性ALLは従来の化学療法のみでは予後不良であったが、イマチニブ、ダサチニブ、ポナチニブなどのBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を化学療法に併用することで治療成績が大きく改善した。同種造血幹細胞移植も治療選択肢となる。

  3. ×c.  成人T細胞白血病

    成人T細胞白血病(ATL、成人T細胞白血病・リンパ腫)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染を原因とするCD4陽性T細胞の腫瘍である。感染者の一部で数十年の潜伏期を経て発症し、九州・沖縄に多い。花びら状の核をもつ異常リンパ球(flower cell)、高カルシウム血症、皮膚病変、日和見感染などを特徴とする。腫瘍細胞にはHTLV-1プロウイルスが単クローン性に組み込まれているが、Ph染色体は認めない。染色体異常は症例ごとに多様で複雑な核型を示すことが多い。

  4. ○d.  慢性骨髄性白血病

    慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞にPh染色体(BCR-ABL1融合遺伝子)が生じることで起こる骨髄増殖性腫瘍であり、ほぼ全例(約95%)でPh染色体を認める。染色体検査で見つからない例でも、FISH法やRT-PCR法でBCR-ABL1融合遺伝子が検出される。白血球(特に好中球とその前駆細胞のあらゆる成熟段階)の著増、好塩基球・好酸球の増加、血小板増加、脾腫を特徴とし、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアが低下する。病期は慢性期、移行期、急性転化期に分けられる。治療の第一選択はイマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなどのTKIであり、これにより大多数の患者が急性転化せずに長期生存し、日常生活を送れるようになった。治療効果はRT-PCR法によるBCR-ABL1 mRNA量で評価する。

  5. ×e.  慢性リンパ性白血病

    慢性リンパ性白血病(CLL)は、CD5とCD23を発現する成熟した小型B細胞が末梢血・骨髄・リンパ節で緩徐に増殖する疾患で、欧米に多く日本では少ない。染色体異常としては13q14欠失(最も多く予後良好)、12番トリソミー、11q欠失、17p欠失(TP53の欠失で予後不良)などが知られているが、Ph染色体は認めない。塗抹標本では、壊れた腫瘍細胞であるsmudge cell(くすぶり細胞)がみられる。自己免疫性溶血性貧血や低γグロブリン血症を合併しやすい。

造血器腫瘍と代表的な染色体・遺伝子異常

・t(9;22)(q34;q11):BCR-ABL1 → CML(ほぼ全例)、Ph陽性ALL ・t(15;17)(q24;q21):PML-RARA → 急性前骨髄球性白血病(APL) ・t(8;21)(q22;q22):RUNX1-RUNX1T1(AML1-ETO)→ 分化型急性骨髄性白血病(FAB分類M2)の一部、予後良好群 ・inv(16) または t(16;16):CBFB-MYH11 → 異常好酸球を伴う急性骨髄単球性白血病(M4Eo)、予後良好群 ・t(8;14)(q24;q32):MYC-IGH → Burkittリンパ腫 ・t(14;18)(q32;q21):IGH-BCL2 → 濾胞性リンパ腫 ・t(11;14)(q13;q32):CCND1-IGH → マントル細胞リンパ腫 ・11q23転座:KMT2A(MLL)再構成 → 乳児ALL、治療関連白血病など(予後不良) ・JAK2 V617F変異 → 真性赤血球増加症(大部分)、本態性血小板血症・原発性骨髄線維症の一部

チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)

BCR-ABL1のATP結合部位に作用してキナーゼ活性を阻害する分子標的薬である。第1世代のイマチニブ、第2世代のニロチニブ・ダサチニブ・ボスチニブ、第3世代のポナチニブ(T315I変異にも有効)などがある。CMLでは長期にわたり深い分子遺伝学的奏効が得られた一部の患者で、TKIの中止を試みる選択肢もある。

POINT

・Ph染色体 = t(9;22)(q34;q11) による短縮した22番染色体で、BCR-ABL1融合遺伝子を形成する。 ・CMLのほぼ全例、ALLの一部(成人ALLの約20〜30%)で陽性となる。 ・BCR-ABL1はチロシンキナーゼを恒常的に活性化させ、イマチニブなどのTKIが著効する。 ・APLは t(15;17)(PML-RARA)で、ATRAが有効、DICを合併しやすい。 ・ATLはHTLV-1、CLLは13q欠失・12トリソミー・17p欠失などが特徴で、いずれもPh染色体は認めない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。