除菌で治る病気、除菌で出てくる病気―ピロリ菌と胃食道逆流症の意外な関係
第105回医師国家試験 I問題 第25問
国試問題にチャレンジ
Helicobacter pylori除菌治療の適応でないのはどれか。
- a.胃潰瘍
- b.胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
- c.十二指腸潰瘍
- d.免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉
- e.胃MALT〈粘膜関連リンパ組織〉リンパ腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Helicobacter pyloriの除菌治療は、感染が発症や再発に関わり除菌で改善が期待できる疾患が適応となり、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、免疫性血小板減少性紫斑病、早期胃癌の内視鏡治療後の胃、ピロリ感染胃炎が含まれます。一方、胃食道逆流症はピロリ菌が原因ではなく、むしろ除菌で胃酸分泌が回復することで逆流性食道炎が出現・悪化することがあるため、除菌の適応ではありません。ただし除菌後の逆流性食道炎は多くが軽症で、他の適応による除菌を控える理由にはなりません。一次除菌はPPIまたはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシンで、失敗時はメトロニダゾールに替えて二次除菌を行い、除菌後も萎縮の強い例では内視鏡での経過観察が必要です。ピロリ菌が「胃酸を減らす」側面ももつことを理解すると、除菌の利益と注意点を一貫して説明できるようになります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ、以下H. pylori)の除菌治療がどの疾患に対して行われるか、つまり「除菌によって病態の改善・再発予防が期待できる疾患」を識別できるかを問う問題である。
考え方
H. pyloriは胃粘膜に持続感染して慢性活動性胃炎を起こし、その炎症を土台として消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)、胃MALTリンパ腫、胃癌など多くの上部消化管疾患を引き起こす。さらに胃以外の疾患として、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)でも除菌により血小板数が回復する例があることが知られている。したがって「H. pylori感染が発症や再発に関与し、除菌で改善が見込める疾患」が除菌の適応となる。 一方、胃食道逆流症(GERD)は胃酸が食道へ逆流して起こる疾患であり、H. pyloriが原因ではない。むしろ感染による胃体部優位の萎縮性胃炎は胃酸分泌を低下させるため、除菌して胃粘膜の炎症が改善すると胃酸分泌が回復し、逆流性食道炎が新たに出現したり悪化したりすることがある。このためGERDそのものは除菌治療の適応にはならない。
日本における保険適用の変遷
除菌治療は2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対して保険適用となり、2010年6月に胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃が追加された。さらに2013年2月には、内視鏡検査で確認されたH. pylori感染胃炎にも適用が拡大され、現在では感染者の大部分が除菌の対象となっている。
選択肢考察
- ×a. 胃潰瘍
除菌の適応である。H. pylori陽性の胃潰瘍では、酸分泌抑制薬だけで治しても感染が残るため高率に再発するが、除菌に成功すると再発率が著しく低下する。消化性潰瘍は最も早くから保険適用となった代表的な適応疾患である。
- ○b. 胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
除菌の適応ではない。GERDは下部食道括約筋の機能低下や食道裂孔ヘルニアなどにより胃酸が食道に逆流して生じる疾患で、H. pylori感染が原因ではない。むしろH. pylori感染に伴う萎縮性胃炎は胃酸分泌を低下させており、除菌後に胃粘膜の炎症が改善して酸分泌が回復すると、逆流性食道炎が新たに発症・増悪することが報告されている。したがってGERDの治療目的で除菌を行うことはない(治療の中心はプロトンポンプ阻害薬などによる酸分泌抑制である)。なお、除菌後の逆流性食道炎は多くが軽症であり、胃癌予防などの利益が上回るため、GERDがあることを理由に他の適応による除菌を控える必要はないと現在は考えられている。
- ×c. 十二指腸潰瘍
除菌の適応である。十二指腸潰瘍患者のH. pylori陽性率は非常に高く、除菌によって潰瘍の再発がほぼ抑えられる。胃潰瘍と同様、消化性潰瘍として最初期から除菌の対象とされてきた。
- ×d. 免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉
除菌の適応である。H. pylori陽性のITPでは、除菌によって約半数で血小板数の増加がみられる。菌体成分に対する抗体が血小板膜抗原と交差反応する分子相同性などが機序として想定されている。わが国では2010年6月に保険適用となり、H. pylori陽性のITPでは除菌がまず試みるべき治療の一つと位置づけられている。
- ×e. 胃MALT〈粘膜関連リンパ組織〉リンパ腫
除菌の適応である。胃MALTリンパ腫は、H. pylori感染による慢性炎症で胃粘膜に誘導されたリンパ組織から発生する低悪性度B細胞リンパ腫である。H. pylori陽性の限局期症例では除菌が第一選択の治療であり、多くの症例で除菌のみで寛解が得られる。API2-MALT1融合遺伝子〔t(11;18)転座〕をもつ例は除菌に反応しにくい。2010年6月に保険適用となった。
H. pylori除菌の保険適用疾患(現行)
1. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍(2000年) 2. 胃MALTリンパ腫(2010年) 3. 免疫性血小板減少性紫斑病(2010年) 4. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃(2010年):異時性(別の部位に新たに生じる)胃癌の発生を抑える目的 5. 内視鏡検査で確認されたH. pylori感染胃炎(2013年) いずれも感染診断(尿素呼気試験、便中抗原、血清抗体、迅速ウレアーゼ試験、鏡検、培養など)で陽性が確認されていることが前提である。
除菌レジメン
一次除菌はプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(ボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間投与する。失敗した場合の二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。クラリスロマイシン耐性菌の増加が一次除菌失敗の主因である。除菌判定は治療終了後4週以上あけて、尿素呼気試験や便中抗原検査で行う。
除菌後に注意すること
・逆流性食道炎の出現・増悪(胃酸分泌の回復による) ・除菌後も胃癌リスクはゼロにならないため、特に萎縮の強い例では定期的な内視鏡検査を続ける
POINT
・除菌の適応:胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌の内視鏡的治療後、H. pylori感染胃炎 ・GERDは除菌の適応ではなく、除菌後にかえって出現・増悪することがある(胃酸分泌の回復による) ・ITPのように胃以外の疾患も除菌の適応になりうる点を押さえる
