StudyMed医師国家試験

子どものインフルエンザ、熱さましは何を選ぶ?―Reye症候群とインフルエンザ脳症から考える解熱薬の鉄則

第105回医師国家試験 I問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第12問

15歳未満のインフルエンザ患者に使用する解熱薬として適しているのはどれか。

  1. a.アスピリン
  2. b.メフェナム酸
  3. c.インドメタシン
  4. d.アセトアミノフェン
  5. e.ジクロフェナクナトリウム

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児のインフルエンザで使ってよい解熱薬を選ぶ問題だ。ポイントは「なぜ子どものインフルエンザでは薬を選ばなければいけないのか」という背景を理解すること。選択肢に並ぶ薬の系統を思い浮かべながら考えてみよう。
医学生医学生
並んでいる薬は、ほとんどが非ステロイド性抗炎症薬、いわゆるNSAIDsですよね。薬理学の講義でまとめて習いました。
ドクタードクター
その通り。アスピリン、メフェナム酸、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウムはどれもNSAIDsだ。一方でアセトアミノフェンだけは系統が違う。ここに答えのヒントがある。
医学生医学生
アセトアミノフェンもNSAIDsの仲間だと思っていました。熱も痛みも下げますし。
ドクタードクター
よくある誤解だね。アセトアミノフェンは主に視床下部の体温調節中枢など中枢に作用して解熱・鎮痛効果を示す薬で、末梢でのCOX阻害作用は弱く、抗炎症作用はほとんどない。だからNSAIDsには分類されないんだ。胃腸障害や腎障害、出血傾向、NSAIDs過敏喘息の誘発も少ない。
医学生医学生
なるほど。それで小児のインフルエンザにはアセトアミノフェンが正解なんですね。でも、NSAIDsが避けられる理由は何でしょうか。
ドクタードクター
大きく2つある。1つ目はReye症候群だ。インフルエンザや水痘などのウイルス感染の回復期に、急性脳症と肝臓の小滴性脂肪沈着を伴う肝機能障害が起こる重篤な病態で、ミトコンドリア機能障害が本態と考えられている。アスピリンなどのサリチル酸系薬が危険因子であることが疫学的に示されているんだ。
医学生医学生
病理学の講義で、炎症細胞浸潤に乏しい肝臓の微小な脂肪滴の写真を見た気がします。黄疸は目立たないのに、アンモニアが上がって低血糖になるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。トランスアミナーゼ上昇、高アンモニア血症、低血糖、プロトロンビン時間延長が特徴だ。欧米で小児へのアスピリン使用を控えるようになってから、発症は激減した。だからアスピリンは15歳未満のインフルエンザ・水痘では原則として使わない。
医学生医学生
2つ目の理由は何ですか。
ドクタードクター
インフルエンザ脳症だ。わが国では特に乳幼児に多く、発熱後まもなく意識障害やけいれんで発症する予後不良の急性脳症だ。2000年前後の国内調査で、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸を使った例で死亡率が高い傾向が示され、小児のインフルエンザでは原則使わないよう注意喚起された。ジクロフェナクナトリウムはインフルエンザ脳症・脳炎の患者に禁忌とされている。
医学生医学生
つまり、アスピリンはReye症候群、ジクロフェナクとメフェナム酸はインフルエンザ脳症、と分けて覚えるんですね。全部まとめて「NSAIDsでReye症候群」と覚えていました。
ドクタードクター
そこは区別しておきたいところだね。Reye症候群との関連が確立しているのはサリチル酸系だ。では、インドメタシンはどう考える?
医学生医学生
インフルエンザとの特別な関連は聞いたことがないですが、NSAIDsなので避ける、という考え方でしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。インドメタシンは抗炎症・解熱鎮痛作用が強い反面、消化管障害や腎障害、頭痛・めまいが出やすく、そもそも小児の発熱には用いられない。小児領域での重要な用途は、早産児の動脈管開存症に対してプロスタグランジン合成を抑えて動脈管を閉じさせる治療だ。
医学生医学生
NICUの実習で聞きました。逆にアスピリンも、小児で積極的に使う場面がありますよね。
ドクタードクター
川崎病だね。急性期治療や冠動脈病変の予防に抗血小板作用を期待して使う。その経過中にインフルエンザや水痘にかかったときはReye症候群に注意が必要だ。
医学生医学生
アセトアミノフェンなら安心して使える、と考えてよいですか。
ドクタードクター
第一選択であることは確かだけど、注意点もある。小児では1回10〜15 mg/kgを、4〜6時間以上あけて使うのが一般的だ。過量投与では肝壊死を起こすので総量に気をつけ、中毒時にはN-アセチルシステインを用いる。市販の総合感冒薬にも含まれていることがあるから、重複にも注意したい。
医学生医学生
小児科の外来で、熱が何度以上なら坐薬を使えばいいかと保護者の方に聞かれていました。
ドクタードクター
大事な場面だね。発熱そのものは感染に対する生体防御反応で、解熱薬は病気を治す薬ではない。眠れない、水分がとれないなど、子どもがつらそうなときに苦痛を和らげる目的で使う、と説明するといい。熱の高さだけで機械的に使うものではないし、熱性けいれんの予防目的で使う有効性も示されていない。

まとめ

15歳未満のインフルエンザ患者の解熱には、NSAIDsではないアセトアミノフェンを用いるのが原則です。アスピリンなどのサリチル酸系薬はウイルス感染後に急性脳症と肝の小滴性脂肪沈着をきたすReye症候群の危険因子であり、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸はインフルエンザ脳症での死亡率上昇との関連が指摘されています(ジクロフェナクはインフルエンザ脳症・脳炎に禁忌)。インドメタシンも小児の解熱には用いず、小児では早産児の動脈管開存症の治療が主な用途です。アセトアミノフェンは中枢性に作用し抗炎症作用は弱く、過量では肝障害をきたすため用量管理が必要で、解毒薬はN-アセチルシステインです。薬ごとに避ける理由を区別して理解し、解熱薬を「苦痛緩和のための薬」として適切に使う姿勢は、小児診療の基本となります。

解答・解説

正解はdです

小児のインフルエンザでは、解熱薬の選び方に特別な注意が必要である。理由は大きく2つある。 1つ目はReye症候群(ライ症候群)である。インフルエンザや水痘などのウイルス感染の回復期に、急性脳症(意識障害、けいれん、脳浮腫)と肝臓の小滴性脂肪沈着を伴う肝機能障害(トランスアミナーゼ上昇、高アンモニア血症、低血糖)が起こる重篤な病態で、ミトコンドリア機能障害が本態と考えられている。アスピリンなどのサリチル酸系薬の服用が発症の危険因子であることが疫学的に示され、欧米で小児へのアスピリン使用を控えるようになってから発症は激減した。 2つ目はインフルエンザ脳症である。わが国では特に乳幼児に多い、発熱後まもなく意識障害やけいれんで発症する予後不良の急性脳症である。2000年前後の国内の調査で、インフルエンザ脳症の患者のうち、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸を使った例で死亡率が高い傾向が示され、これを受けて、インフルエンザの小児(15歳未満)にはこれらの薬を原則として使わないよう注意喚起が行われた。 こうした経緯から、15歳未満の小児のインフルエンザ(および水痘など他のウイルス感染症)の解熱には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を避け、アセトアミノフェンを用いるのが原則である。本問の選択肢ではアセトアミノフェンだけがNSAIDsではなく、小児科領域で推奨される解熱薬である。

選択肢考察

  1. ×a.  アスピリン

    適さない。アスピリン(アセチルサリチル酸)はサリチル酸系のNSAIDsで、インフルエンザや水痘の小児に投与するとReye症候群の危険が高まることが知られている。このため15歳未満の水痘・インフルエンザ患者への投与は原則として避けるべきとされる。なお小児でアスピリンを積極的に使うのは、川崎病の急性期治療や冠動脈病変の予防(抗血小板作用)など限られた場面であり、その経過中にインフルエンザや水痘にかかった場合はReye症候群に注意する。副作用としては他にアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)、消化性潰瘍、出血傾向などがある。

  2. ×b.  メフェナム酸

    適さない。メフェナム酸はフェナム酸系のNSAIDsで、鎮痛作用が強く、歯痛や術後痛、月経痛などによく使われる。一方、インフルエンザ脳症の患者で本剤を使用した例の死亡率が高い傾向を示した国内の報告があり、関与が否定できないことから、15歳未満のインフルエンザ患者の解熱目的での使用は原則として避けるべきとされている。

  3. ×c.  インドメタシン

    適さない。インドメタシンはインドール酢酸系のNSAIDsで、抗炎症・解熱鎮痛作用が強い反面、胃炎・消化性潰瘍などの消化管障害、腎障害、頭痛・めまいなどの副作用が出やすい。消化管障害を減らす目的で坐剤や外用剤も使われる。小児の発熱に対する解熱薬としては用いられず、インフルエンザの小児にNSAIDsを避けるという原則からも不適切である。小児領域での重要な用途は、早産児の動脈管開存症に対してプロスタグランジン合成を抑えて動脈管を閉じさせる治療(静注)である。

  4. ○d.  アセトアミノフェン

    正しい。アセトアミノフェンはアニリン系の解熱鎮痛薬で、主に中枢(視床下部の体温調節中枢など)に作用して解熱・鎮痛効果を示す。末梢でのシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用は弱く、抗炎症作用はほとんどないため、NSAIDsには分類されない。Reye症候群やインフルエンザ脳症の悪化との関連が示されておらず、胃腸障害、腎障害、出血傾向、NSAIDs過敏喘息の誘発も少ないため、小児のインフルエンザを含む感染症の解熱薬として第一に推奨される。小児では1回10〜15 mg/kgを4〜6時間以上あけて用いるのが一般的である。過量投与では肝障害(肝壊死)を起こすため、総量に注意し、中毒時の解毒薬としてN-アセチルシステインを用いる。

  5. ×e.  ジクロフェナクナトリウム

    適さない。ジクロフェナクナトリウムはフェニル酢酸系のNSAIDsで、解熱・鎮痛・抗炎症作用が非常に強い。消化管障害を起こしやすく、その軽減のため坐剤もよく使われる。インフルエンザ脳症の患者で本剤の使用例の死亡率が有意に高かったことが国内の調査で示され、インフルエンザ脳症・脳炎の患者への投与は禁忌とされている。小児のインフルエンザの解熱には使用しない。

小児の感染症と解熱薬の整理

・アスピリン(サリチル酸系):水痘・インフルエンザでReye症候群の危険 → 15歳未満では原則使用しない。 ・ジクロフェナクナトリウム:インフルエンザ脳症での死亡率上昇 → インフルエンザ脳症・脳炎患者に禁忌。 ・メフェナム酸:インフルエンザ脳症での予後悪化への関与が否定できない → 小児のインフルエンザでは原則使用しない。 ・アセトアミノフェン:小児の解熱薬の第一選択。

Reye症候群

・ウイルス感染(インフルエンザB型・A型、水痘など)の後に、急性脳症と肝の脂肪変性を起こす。 ・嘔吐に続いて意識障害、けいれんが出現し、脳浮腫により頭蓋内圧が亢進する。 ・検査ではAST・ALTの上昇、高アンモニア血症、低血糖、プロトロンビン時間の延長がみられるが、黄疸は通常目立たない。 ・肝では炎症細胞浸潤に乏しい小滴性脂肪沈着、ミトコンドリアの形態異常を認める。 ・サリチル酸系薬が危険因子。アスピリンの小児使用制限後、発症は著しく減少した。

インフルエンザ脳症

・乳幼児に多く、発熱から1〜2日以内に急速に意識障害、けいれん、異常言動・行動を呈する。 ・高サイトカイン血症(サイトカインストーム)が関与すると考えられ、致死率や後遺症の頻度が高い。 ・治療は全身管理に加え、ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン、抗インフルエンザ薬などが検討される。

解熱の考え方

発熱そのものは感染に対する生体防御反応であり、解熱薬は病気を治すものではない。子どもがつらそうで眠れない、水分がとれないといったときに、苦痛を和らげる目的で使う。熱の高さだけで機械的に使うものではない。また熱性けいれんの予防目的でアセトアミノフェンを使うことの有効性は示されていない。

POINT

・15歳未満のインフルエンザ(や水痘)患者の解熱にはアセトアミノフェンを用いる。 ・アスピリン(サリチル酸系)はReye症候群の危険因子であり、小児のインフルエンザ・水痘では使用しない。 ・ジクロフェナクナトリウムとメフェナム酸はインフルエンザ脳症の予後悪化との関連が指摘され、小児のインフルエンザでは使用しない(ジクロフェナクはインフルエンザ脳症・脳炎に禁忌)。 ・アセトアミノフェンは抗炎症作用が弱くNSAIDsではない。過量では肝障害に注意し、解毒薬はN-アセチルシステインである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。