内服15分後のショック―迷わず打つべき一本の注射
第105回医師国家試験 H問題 第24問
国試問題にチャレンジ
24歳の男性。呼吸困難と意識障害のため搬入された。本日,咽頭痛と高熱とを主訴に自宅近くの診療所を受診し,抗菌薬と解熱薬とを処方された。家に帰り処方薬を内服したところ,15分後に顔面の紅潮と呼吸困難とが出現し意識を失った。呼吸数24/分。脈拍120/分,整。血圧76/40 mmHg。吸気時に喘鳴を聴取する。 直ちに投与するのはどれか。
- a.アトロピン
- b.アドレナリン
- c.アミノフィリン
- d.プレドニゾロン
- e.プロプラノロール
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
薬剤や食物などへの曝露後に、皮膚症状に加えて呼吸器症状や血圧低下が急速に出現すればアナフィラキシーと診断し、血圧低下や意識障害を伴えばアナフィラキシーショックです。第一選択はアドレナリンで、α1・β1・β2作用により血圧低下、上気道浮腫、気管支攣縮のすべてに拮抗するため、成人では0.01 mg/kg(最大0.5 mg)を大腿前外側部に直ちに筋注し、必要に応じて反復します。ステロイド、抗ヒスタミン薬、気管支拡張薬は補助治療にすぎず、β遮断薬は病態を悪化させるため禁忌で、β遮断薬内服中のアドレナリン抵抗例ではグルカゴンを考慮します。吸気性喘鳴は上気道浮腫のサインであり、酸素投与・輸液とともに気道確保の準備を並行し、回復後も二相性反応に備えた観察と再発予防が必要です。投与の遅れが予後を左右するため、診断即アドレナリンという判断はどの診療科でも求められる基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・24歳男性。咽頭痛・高熱に対して処方された抗菌薬と解熱薬を内服した15分後に症状が出現した(薬剤曝露から短時間での急激な発症)。 ・皮膚症状:顔面の紅潮。 ・呼吸器症状:呼吸困難、呼吸数24/分、吸気時の喘鳴。吸気時に聴かれる喘鳴(stridor)は喉頭浮腫など上気道の狭窄を示唆し、窒息に至りうる危険な徴候である。 ・循環器症状:血圧76/40 mmHg、脈拍120/分の頻脈でショック状態にある。 ・神経症状:意識消失。脳灌流の低下や低酸素血症が考えられ、きわめて重篤である。
診断
原因となりうる物質(ここでは抗菌薬または解熱鎮痛薬)への曝露直後に、皮膚粘膜症状に加えて呼吸器症状と血圧低下が急速に出現しており、薬剤によるアナフィラキシーショックと診断できる。経口摂取では注射に比べ発症までにやや時間がかかるが、15分という経過は典型的である。鑑別として、皮膚症状を伴わない気管支喘息の重積発作、肥満細胞症(全身性に肥満細胞が増殖し、ヒスタミン放出で同様の症状を来す)、カルチノイド症候群(セロトニンなどによる顔面紅潮や喘鳴)などが挙げられるが、服薬との時間関係と症状の組み合わせからアナフィラキシーはほぼ確実である。
設問の考え方
アナフィラキシーは、肥満細胞・好塩基球からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が一斉に放出されることで、血管拡張・血管透過性亢進による血圧低下、気管支平滑筋の収縮、上気道の浮腫が起こる病態である。これらすべてに同時に拮抗できるのはアドレナリンのみであり、診断したら直ちに投与する第一選択薬である。投与の遅れは死亡の最大の危険因子とされる。アドレナリン投与と並行して、応援要請、仰臥位で下肢挙上、高流量酸素投与、太い静脈路の確保と細胞外液の急速輸液、気道確保の準備(上気道閉塞が進めば気管挿管や輪状甲状靱帯切開)を行う。
選択肢考察
- ×a. アトロピン
ムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬で、症候性徐脈の治療や麻酔前投薬、有機リン中毒の治療などに用いられる。本例は頻脈を伴うショックであり、アナフィラキシーの病態(血管拡張、気道浮腫、気管支攣縮)を改善する作用はないため適応とならない。
- ○b. アドレナリン
α1受容体刺激による末梢血管収縮で血圧を上げ、粘膜浮腫(上気道浮腫)を軽減する。β1受容体刺激で心収縮力を高め、β2受容体刺激で気管支を拡張させるとともに、肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑える。アナフィラキシーの主要な病態すべてに作用するため第一選択薬であり、診断した時点で直ちに投与する。成人では0.1%アドレナリン0.01 mg/kg(最大0.5 mg)を大腿前外側部に筋肉内注射するのが基本で、効果が不十分なら5〜15分ごとに反復する。心停止などに至った場合や筋注で反応しない重症例では、モニター監視下で静脈内投与を考慮する。
- ×c. アミノフィリン
テオフィリンを主成分とするキサンチン誘導体で、気管支拡張作用をもつ。アナフィラキシーの気管支攣縮に補助的に用いられた時期もあるが、血圧低下や上気道浮腫は改善せず、ショック状態で直ちに投与すべき薬ではない。現在のアナフィラキシーの治療指針でも標準的な初期治療薬としては位置づけられていない。気管支攣縮が残る場合の追加治療としては、β2刺激薬の吸入が用いられる。
- ×d. プレドニゾロン
副腎皮質ステロイドは炎症反応を抑えるが、効果発現までに数時間を要し、急性期の血圧低下や気道閉塞をすぐに改善する作用はない。アドレナリン投与後の補助治療として、遷延する症状や二相性反応(いったん改善した症状が数時間後に再燃する反応)の予防を期待して用いられることがあるが、その予防効果の根拠は十分でない。直ちに投与すべき第一選択薬ではない。
- ×e. プロプラノロール
非選択的β遮断薬であり、心拍数と心収縮力を低下させて血圧をさらに下げるほか、β2受容体遮断により気管支攣縮を増悪させる。アナフィラキシーショックではショックと気道症状の両方を悪化させるため禁忌である。なお、β遮断薬を常用している患者はアドレナリンが効きにくく、その場合にはグルカゴンの投与が考慮される。
アナフィラキシーの定義と診断
アナフィラキシーは、アレルゲンなどの侵入により複数の臓器に全身性のアレルギー症状が急速に出現し、生命に危険を与えうる過敏反応である。血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックという。次のいずれかを満たせばアナフィラキシーと診断する。 1. 皮膚・粘膜症状(全身の蕁麻疹、紅潮、口唇・舌の腫脹など)が急速に出現し、さらに呼吸器症状、循環器症状(血圧低下や失神・失禁などの臓器不全症状)、重度の消化器症状のうち少なくとも1つを伴う。 2. 典型的な皮膚症状がなくても、既知または可能性の高いアレルゲンに曝露した後、急速に血圧低下、気管支攣縮、喉頭症状のいずれかが出現する。
主な症状
・皮膚粘膜:瘙痒、紅潮、蕁麻疹、血管性浮腫、結膜充血 ・呼吸器:嗄声、咽喉頭の閉塞感、吸気性喘鳴(上気道浮腫)、呼気性喘鳴・咳嗽(気管支攣縮)、低酸素血症 ・循環器:頻脈、血圧低下、不整脈、心停止 ・消化器:腹痛、悪心・嘔吐、下痢 ・神経:不穏、めまい、意識障害、けいれん 症状は軽いものから順に進むとは限らず、数分で重症化することがある。
主な原因
薬剤(抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬、造影剤、筋弛緩薬など)、食物(小麦、鶏卵、牛乳、ピーナッツ、甲殻類など)、ハチ刺傷、ラテックスなど。IgEを介する機序が代表的であるが、IgEを介さずに肥満細胞が直接活性化される場合(造影剤、NSAIDsなど)も臨床的には同様に扱う。
初期対応の流れ
1. 原因物質の除去(投与中の薬剤中止など)と応援要請 2. アドレナリン0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)を大腿前外側部に筋注。必要に応じ5〜15分ごとに反復 3. 仰臥位・下肢挙上(呼吸困難が強ければ楽な体位、嘔吐時は側臥位)。急に立ち上がらせたり座らせたりしない 4. 高流量酸素投与、気道評価と気道確保の準備 5. 静脈路確保と生理食塩液などの急速輸液 6. 補助的治療:抗ヒスタミン薬(皮膚症状の軽減)、β2刺激薬吸入(残存する気管支攣縮)、副腎皮質ステロイド 7. 症状改善後も二相性反応に備えて経過観察を行う
再発予防
原因薬剤の特定と患者への情報提供(お薬手帳などへの記載)、必要に応じたアドレナリン自己注射薬の処方を行う。
POINT
・原因物質への曝露後、急速に皮膚症状+呼吸器症状+血圧低下が出現すればアナフィラキシー(ショック)。 ・第一選択はアドレナリン。0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg)を大腿前外側部に筋注し、遅らせずに投与する。 ・抗ヒスタミン薬、ステロイド、気管支拡張薬はあくまで補助治療。 ・β遮断薬はショック・気管支攣縮を悪化させるため禁忌。β遮断薬内服中でアドレナリン抵抗性ならグルカゴンを考慮する。 ・吸気性喘鳴は上気道浮腫のサインであり、気道確保の準備を並行して行う。
