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「どこにあるか」は決め手にならない―早期胃癌の内視鏡治療を決める本当の条件

第105回医師国家試験 G問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第15問

早期胃癌の内視鏡治療の適応決定に影響しないのはどれか。

  1. a.部位
  2. b.深達度
  3. c.組織型
  4. d.潰瘍形成
  5. e.リンパ節転移

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早期胃癌の内視鏡治療の適応を何で決めるのかを問う問題だ。考える出発点は一つ。内視鏡治療は病変部だけを切り取る局所治療で、リンパ節は郭清できない。だから、どの因子が「リンパ節転移のリスク」に関わるのかを軸に選択肢を見ていこう。
医学生医学生
リンパ節を取れないなら、リンパ節転移がある病変は内視鏡では治せないということですね。
ドクタードクター
その通り。だからリンパ節転移の有無は、適応を決める因子というより根本的な前提条件なんだ。内視鏡治療の対象は、リンパ節転移の可能性が極めて低く、一括切除できる病変に限られる。術前のCTなどで明らかなリンパ節腫大があれば、リンパ節郭清を伴う胃切除の適応になる。
医学生医学生
でも転移しているかどうかは、手術してみないと完全には分からないですよね。
ドクタードクター
鋭いね。だから外科切除例の病理を多数解析して、どんな病変ならリンパ節転移がほとんどないかが調べられてきた。その結果分かった予測因子が、深達度、組織型、潰瘍所見、腫瘍径、そして切除後に評価する脈管侵襲なんだ。
医学生医学生
深達度は、粘膜内か粘膜下層かで大きく変わると消化器内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
そう。粘膜内にとどまる癌、つまりcT1aならリンパ節転移率は低いけれど、粘膜下層に入ると、そこに豊富なリンパ管を介して転移の頻度が明らかに上がる。だから術前に粘膜内癌と診断されることが原則で、通常の内視鏡観察に加えて必要に応じて超音波内視鏡で深達度を評価する。
医学生医学生
組織型は、分化型のほうが内視鏡治療に向いているんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。未分化型癌は粘膜内でもリンパ節転移を起こしやすく、粘膜の下を這うように横へ広がるので範囲診断も難しい。そのため分化型は条件が広く、未分化型は2cm以下・潰瘍なし・粘膜内癌という狭い条件に限って適応とされている。
医学生医学生
潰瘍があるとダメ、と覚えていたんですが、それで合っていますか。
ドクタードクター
それは少し古い覚え方なんだ。潰瘍や潰瘍瘢痕があると粘膜下層に線維化が起き、リンパ節転移のリスクが上がるうえ、ESDで剥離しにくく穿孔も起こりやすい。ただ現行のガイドラインでは、分化型・粘膜内癌で潰瘍を伴うものは3cm以下ならESDの絶対適応になっている。潰瘍がなければ分化型は大きさを問わない。つまり潰瘍所見は、許容される大きさや組織型を左右する重要な因子というわけだ。
医学生医学生
そうすると残るのは部位ですね。噴門部や前庭部で治療しにくさは変わりそうですが、転移リスクとは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。病変が胃のどこにあるかは、適応基準には含まれていない。ただし実際の治療では大事な要素で、噴門部や幽門部で全周の4分の3程度以上を広く切除すると瘢痕狭窄を起こしやすいし、胃体上部の大彎や穹窿部は手技的に難しい。そこで予防的なバルーン拡張やステロイド局注といった工夫が行われる。
医学生医学生
部位は「適応になるかどうか」ではなく「どう安全にやるか」に関わる、ということですね。
ドクタードクター
きれいにまとまったね。もう一つ押さえておきたいのが、切除後の評価だ。切除した標本の病理で、一括切除できたか、断端が陰性か、脈管侵襲がないか、深達度は本当に粘膜内かを確認して根治度を判定する。条件を満たせば経過観察でよいけれど、脈管侵襲陽性や粘膜下層深部への浸潤、垂直断端陽性などがあれば、リンパ節郭清を伴う追加外科切除が原則になる。
医学生医学生
術前の診断で適応を決めて、切除後の病理でもう一度リスクを確かめる二段構えなんですね。臨床実習で内視鏡室を見学したとき、ESD後に標本をピンで板に貼って伸ばしていたのはそのためだったんだと分かりました。
ドクタードクター
いいところを見ていたね。標本を丁寧に伸ばして固定するのは、断端や深達度を正確に評価するためなんだ。それからESDはEMRと違って専用ナイフで粘膜下層を剥離するので、大きな病変や潰瘍瘢痕を伴う病変でも一括切除しやすい。適応が広がった背景には、この手技の進歩もあるんだよ。

まとめ

早期胃癌の内視鏡治療はリンパ節郭清を伴わない局所切除であるため、リンパ節転移の可能性が極めて低く一括切除できる病変が対象となり、リンパ節転移の有無はその前提条件です。転移リスクを予測する因子として、深達度(粘膜内癌cT1aが原則)、組織型(分化型か未分化型か)、潰瘍所見の有無、腫瘍径が適応基準を構成し、現行ガイドラインでは分化型の潰瘍なし病変は大きさを問わず、分化型の潰瘍あり病変は3cm以下、未分化型の潰瘍なし病変は2cm以下がESDの絶対適応です。一方、病変の部位は適応基準には含まれず、噴門部・幽門部の術後狭窄や手技の難易度といった治療上の注意点に関わるにとどまります。さらに切除後は病理で断端や脈管侵襲を評価し、根治度に応じて経過観察か追加外科切除かを判断します。「リンパ節転移リスク」を軸に因子を整理しておくと、適応判断と切除後の方針決定を一貫して理解できます。

解答・解説

正解はaです

【テーマ】早期胃癌に対する内視鏡治療(EMR・ESD)の適応を決める因子を問う問題である。

内視鏡治療の大原則

内視鏡的切除は胃を温存できる低侵襲な治療だが、切除範囲は病変部のみであり、所属リンパ節は郭清できない。したがって「リンパ節転移の可能性が極めて低く(1%未満と推定され)、かつ腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある」病変だけが対象となる。

リンパ節転移のリスクを予測する因子

多数の外科切除例の病理学的解析から、早期胃癌のリンパ節転移リスクは主に次の因子で規定されることがわかっている。 ・深達度:粘膜内(T1a、M)にとどまるか、粘膜下層(T1b、SM)まで及ぶか ・組織型:分化型(乳頭腺癌、高・中分化管状腺癌)か未分化型(低分化腺癌、印環細胞癌など)か ・潰瘍(瘢痕)所見の有無:UL0(なし)かUL1(あり)か ・腫瘍径(大きさ) ・脈管侵襲(リンパ管・静脈への侵襲)の有無(切除後の病理で評価) 胃癌治療ガイドラインはこれらの組み合わせで適応病変を定めている。

解き方

選択肢のうち深達度・組織型・潰瘍形成はいずれもリンパ節転移リスクを左右する因子であり、リンパ節転移の有無そのものは適応の前提条件である。これに対し、病変が胃のどこにあるか(部位)は、手技の難易度や術後狭窄の起こりやすさには関係するものの、リンパ節転移リスクを規定する因子ではなく、適応の基準には含まれない。よって適応決定に影響しないのは部位である。

選択肢考察

  1. ○a.  部位

    適応決定に影響しない因子であり、これが正解である。胃癌治療ガイドラインの適応基準は深達度・組織型・潰瘍所見・腫瘍径で構成され、病変の占居部位(噴門部、胃体部、前庭部など)は含まれない。ただし、噴門部や幽門部で広範囲(おおむね全周の3/4以上)を切除すると術後に瘢痕狭窄を来しやすく、また胃体上部大彎や穹窿部などは手技的に難しいため、治療の際には注意や工夫(予防的バルーン拡張、ステロイド局注など)が必要となる。つまり部位は『どう安全に行うか』には関わるが、『適応になるか否か』を決める因子ではない。

  2. ×b.  深達度

    深達度は最も重要な適応因子の一つである。癌が粘膜内(cT1a)にとどまればリンパ節転移率は低いが、粘膜下層に浸潤すると粘膜下層のリンパ管を介した転移の頻度が明らかに上昇する。このため、内視鏡治療の適応は原則として術前に粘膜内癌(cT1a)と診断される病変に限られる。深達度診断には通常内視鏡観察に加え、必要に応じて超音波内視鏡(EUS)を用いる。なお切除後の病理診断で粘膜下層浅層(SM1、粘膜筋板から500µm未満)の浸潤にとどまり、分化型・脈管侵襲陰性などの条件を満たせば治癒切除に準じた扱い(eCuraA)となりうるが、術前の適応判断はあくまでcT1aが前提である。

  3. ×c.  組織型

    組織型は適応に影響する。未分化型癌は分化型癌に比べて粘膜内にとどまっていてもリンパ節転移を起こしやすく、また側方へ粘膜下を這うように進展するため範囲診断が難しい。そのため分化型癌は条件が広く設定され、未分化型癌は2cm以下・UL0・cT1aという狭い条件に限って適応とされる。かつて未分化型癌は適応拡大病変(臨床研究的な位置づけ)とされていたが、長期成績が確認され、現行のガイドライン(第6版)ではこの条件を満たすものがESDの絶対適応病変に含められている。

  4. ×d.  潰瘍形成

    病変内の潰瘍(または潰瘍瘢痕、UL)の有無は適応に影響する。潰瘍があると粘膜下層に線維化が生じ、リンパ節転移のリスクが上がるとともに、ESDでの剥離が難しくなり一括切除率が低下し穿孔も起こりやすい。従来はUL陽性病変の多くが適応外(あるいは適応拡大)とされていたが、現行ガイドラインでは、分化型・cT1aでUL1の病変は3cm以下に限ってESDの絶対適応とされ、UL0であれば分化型は大きさを問わない。一方、未分化型はUL0のものに限られる。このように潰瘍所見は適応範囲(許容される大きさや組織型)を左右する重要な因子である。

  5. ×e.  リンパ節転移

    リンパ節転移の有無は内視鏡治療の適応を決める根本的な条件である。内視鏡治療は局所切除でありリンパ節郭清を伴わないため、リンパ節転移がある(あるいはその可能性が無視できない)病変では根治が得られない。深達度・組織型・潰瘍・大きさといった因子は、いずれも『リンパ節転移の可能性が極めて低い病変』を術前に選び出すための指標といえる。術前にCTなどで明らかなリンパ節腫大がある場合は外科手術(リンパ節郭清を伴う胃切除)の適応となる。

胃癌治療ガイドライン(第6版)における内視鏡的切除の適応

前提:リンパ節転移の可能性が極めて低く、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること。 ・EMR・ESDの絶対適応病変:2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)で、分化型癌、UL0(潰瘍所見なし)。 ・ESDの絶対適応病変:  ①2cmを超えるUL0の分化型cT1a癌(大きさの上限なし)  ②3cm以下のUL1の分化型cT1a癌  ③2cm以下のUL0の未分化型cT1a癌 ・適応拡大病変:初回の内視鏡切除で局所の遺残のみが問題となった(eCuraC-1)後の局所再発病変で、分化型・cT1aなどの条件を満たすもの。 ※EMR(内視鏡的粘膜切除術)はスネアで病変を絞扼して切除する方法で、一括切除できる大きさに限界がある。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は専用ナイフで粘膜下層を剥離するため、大きな病変や潰瘍瘢痕を伴う病変でも一括切除が可能である。

切除後の根治性評価(内視鏡的根治度 eCura)

・eCuraA:一括切除、断端陰性、脈管侵襲陰性で、上記適応条件の範囲内(または分化型・SM1・3cm以下)の病変。経過観察でよい。 ・eCuraB:一括切除、断端陰性、脈管侵襲陰性の未分化型等で一定の条件を満たすもの。経過観察に加えてCTなどで転移の検索を行う。 ・eCuraC-1:分化型で他の条件は満たすが、分割切除や水平断端陽性のみが問題となるもの。再ESDや経過観察などを検討する。 ・eCuraC-2:上記以外(脈管侵襲陽性、SM2以深、垂直断端陽性など)。原則としてリンパ節郭清を伴う追加外科切除を行う。

部位が問題となる場面

噴門部・幽門部の広範囲切除後の狭窄、胃体上部の手技的難易度などは、適応の可否ではなく、治療手技の選択や合併症対策の問題として扱われる。

POINT

・内視鏡治療の前提は『リンパ節転移の可能性が極めて低く、一括切除できること』。 ・適応を左右する因子:深達度(cT1a)、組織型(分化型/未分化型)、潰瘍所見(UL0/UL1)、腫瘍径。 ・部位は適応基準に含まれない(狭窄や手技難度に関わるのみ)。 ・現行ガイドラインでは、分化型UL0は大きさ不問、分化型UL1は3cm以下、未分化型UL0は2cm以下がESDの絶対適応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。