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腹部の静脈はどこへ帰る?―内腸骨静脈が門脈に入らない理由

第105回医師国家試験 E問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第6問

門脈に流入しない静脈はどれか。

  1. a.脾静脈
  2. b.左胃静脈
  3. c.内腸骨静脈
  4. d.上腸間膜静脈
  5. e.下腸間膜静脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、門脈系と体循環の静脈系をきちんと区別できるかを問う解剖の問題だ。名前だけで覚えるより、「門脈は何のためにあるのか」から考えると迷わなくなるよ。まず、門脈の役割を説明できるかな。
医学生医学生
消化管で吸収した栄養を、全身に回す前に肝臓へ運ぶ血管ですよね。
ドクタードクター
その通り。消化管で吸収された栄養素や薬物、脾臓で赤血球が壊されて生じたビリルビンなどを、いったん肝臓で処理させるための経路なんだ。だから門脈に集まるのは、食道下部から直腸上部までの消化管、脾臓、膵臓、胆嚢の静脈血ということになる。
医学生医学生
解剖実習で門脈を剖出したとき、膵臓の裏で太い静脈が合流していたのを覚えています。
ドクタードクター
いい記憶だね。門脈本幹は膵頸部の背側で、上腸間膜静脈と脾静脈が合流してつくられる。この2本が門脈の主要な構成静脈だ。上腸間膜静脈は小腸全体と、盲腸から横行結腸の右側までの血液を集め、脾静脈は脾門から膵臓の背側を右へ走りながら、膵臓や胃の一部からの静脈も受け取る。
医学生医学生
下腸間膜静脈は、上腸間膜静脈に入るんでしたっけ。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところだね。下腸間膜静脈は下行結腸、S状結腸、直腸上部の血液を集めて、多くは脾静脈に注ぐ。ただ個人差があって、上腸間膜静脈や両者の合流部に直接入る例もある。いずれにしても最終的には門脈へ流れ込むから、門脈系であることに変わりはないよ。
医学生医学生
左胃静脈はどうでしょう。胃の静脈だから門脈系だとは思うのですが。
ドクタードクター
正しい推論だ。左胃静脈は胃冠状静脈とも呼ばれ、胃小弯に沿って走り、胃と食道下部の血液を集めて門脈本幹に直接注ぐ。右胃静脈や胆嚢静脈も同じように門脈本幹に直接入るんだ。そうなると、残る内腸骨静脈はどうかな。
医学生医学生
骨盤の静脈なので、外腸骨静脈と合わさって総腸骨静脈になり、下大静脈へ行くはずです。だから門脈には入らない、これが答えですね。
ドクタードクター
正解。内腸骨静脈は膀胱、子宮や腟、前立腺、直腸下部といった骨盤内臓器に加えて、骨盤壁、殿部、会陰の血液を集める体循環系の静脈だ。覚え方としては、腹腔動脈・上腸間膜動脈・下腸間膜動脈が栄養する臓器の静脈は門脈系、それ以外の腎臓、副腎、骨盤壁、下肢などは下大静脈系、と動脈とセットで整理するとわかりやすい。
医学生医学生
でも直腸は消化管ですよね。直腸下部が内腸骨静脈系というのは少し意外です。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。直腸の静脈は上下で行き先が違う。上直腸静脈は下腸間膜静脈を経て門脈へ、中・下直腸静脈は内腸骨静脈系を経て下大静脈へ流れるんだ。つまり直腸は、門脈系と体循環系が出会う場所になっている。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんに食道静脈瘤がありました。それも同じような吻合と関係していますか。
ドクタードクター
まさにそうだ。門脈圧亢進症では、門脈系と体循環系の吻合部に血液が逃げ道を求めて流れ込み、静脈瘤ができる。食道では左胃静脈や短胃静脈から食道静脈叢を経て奇静脈へ流れて食道・胃静脈瘤に、臍周囲では臍傍静脈から腹壁の静脈へ流れてメドゥーサの頭に、直腸では上直腸静脈と中・下直腸静脈の吻合で直腸静脈瘤になる。後腹膜で脾腎シャントのような短絡路ができることもあるよ。
医学生医学生
今日の問題の左胃静脈は、食道静脈瘤の主な供給路でもあるわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから門脈系の解剖は、静脈瘤の内視鏡治療やIVRで側副血行路を評価するときにも直接役に立つ。肝臓は門脈から血流の約7割、肝動脈から約3割を受ける二重血流の臓器だということも、あわせて押さえておこう。

まとめ

門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が膵頸部の背側で合流してでき、腹部消化管、脾臓、膵臓、胆嚢の静脈血を肝臓へ運びます。下腸間膜静脈は主に脾静脈へ、左胃静脈は門脈本幹へ直接注ぐため、いずれも門脈系です。一方、内腸骨静脈は骨盤内臓器や骨盤壁の血液を集めて総腸骨静脈から下大静脈へ注ぐ体循環系の静脈であり、門脈には流入しません。腹腔動脈・上腸間膜動脈・下腸間膜動脈の支配臓器の静脈が門脈系と覚えると整理しやすくなります。門脈系と体循環系の吻合部(食道、臍周囲、直腸、後腹膜)は門脈圧亢進症で静脈瘤を形成するため、この解剖は肝硬変診療の理解にも直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

門脈系(消化管などの血液を肝臓へ運ぶ静脈系)と、体循環の静脈系(下大静脈系・上大静脈系)とを区別できるかを問う問題である。

考え方

門脈は、腹部の消化管(食道下部〜直腸上部)、脾臓、膵臓、胆嚢からの静脈血を集めて肝臓へ運ぶ血管である。消化管で吸収された栄養素や、脾臓で赤血球が壊されて生じたビリルビンなどを、全身循環に入る前にいったん肝臓で処理させる役割をもつ。 門脈本幹は膵頸部の背側で、上腸間膜静脈と脾静脈が合流して形成される。下腸間膜静脈は通常この脾静脈(あるいは上腸間膜静脈や合流部)に注ぐ。さらに左胃静脈・右胃静脈・胆嚢静脈などは門脈本幹へ直接流入する。 一方、骨盤内臓器・骨盤壁・殿部などの血液を集める内腸骨静脈は、外腸骨静脈と合して総腸骨静脈となり、下大静脈に注ぐ体循環系の静脈である。したがって門脈に流入しないのは内腸骨静脈である。 「支配する動脈が腹腔動脈・上腸間膜動脈・下腸間膜動脈の臓器(腹部消化管と脾臓・膵臓・肝胆道系)の静脈は門脈系、それ以外(腎臓・副腎・骨盤壁・下肢など)は下大静脈系」と覚えると判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  脾静脈

    脾静脈は脾門から出て膵臓の背側を右方へ走り、膵頸部の後方で上腸間膜静脈と合流して門脈本幹をつくる。途中で膵臓からの細い静脈(膵静脈)や短胃静脈、左胃大網静脈を受ける。門脈を構成する主要な静脈であり、門脈に流入する。

  2. ×b.  左胃静脈

    左胃静脈(胃冠状静脈とも呼ばれる)は胃小弯に沿って走り、胃と食道下部の血液を集めて門脈本幹(または脾静脈との合流部付近)に直接注ぐ。門脈圧亢進症では、左胃静脈から食道静脈叢を経て奇静脈(上大静脈系)へ向かう側副血行路が発達し、食道静脈瘤の原因となる。門脈に流入する静脈である。

  3. ○c.  内腸骨静脈

    内腸骨静脈は、骨盤内臓器(膀胱、子宮・膣、前立腺、直腸下部など)や骨盤壁、殿部、会陰部の血液を集め、仙腸関節の前方で外腸骨静脈と合流して総腸骨静脈となり、左右の総腸骨静脈が合して下大静脈に注ぐ。すなわち体循環系の静脈であり、門脈には流入しない。なお、直腸の静脈のうち上直腸静脈は下腸間膜静脈を経て門脈へ、中・下直腸静脈は内腸骨静脈系(下直腸静脈は内陰部静脈経由)を経て下大静脈へ流れる。この両者の吻合部は門脈大循環吻合の一つであり、門脈圧亢進症で直腸静脈瘤を生じうる。

  4. ×d.  上腸間膜静脈

    上腸間膜静脈は小腸全体と、盲腸・上行結腸・横行結腸(右側約2/3)、膵頭部、胃の一部(右胃大網静脈)などの血液を集める。膵頸部の背側で脾静脈と合流して門脈本幹を形成する、門脈の主要構成静脈である。

  5. ×e.  下腸間膜静脈

    下腸間膜静脈は横行結腸左側、下行結腸、S状結腸、直腸上部(上直腸静脈)の血液を集め、多くは脾静脈に合流する。上腸間膜静脈や、脾静脈と上腸間膜静脈の合流部に直接注ぐ例もある。いずれの場合も最終的に門脈へ流入する。

門脈系の構成

・門脈本幹: 上腸間膜静脈+脾静脈(膵頸部背側で合流) ・脾静脈に注ぐ: 下腸間膜静脈(多い)、短胃静脈、左胃大網静脈、膵静脈 ・上腸間膜静脈に注ぐ: 空腸・回腸静脈、回結腸静脈、右結腸静脈、中結腸静脈、右胃大網静脈、膵十二指腸静脈 ・門脈本幹に直接注ぐ: 左胃静脈、右胃静脈、胆嚢静脈、臍傍静脈(肝円索に沿う)など 門脈は肝門で左右枝に分かれ、肝内で類洞(毛細血管に相当)を経て肝静脈に集まり、下大静脈に注ぐ。肝臓は門脈(血流の約70〜75%)と肝動脈(約25〜30%)の二重の血液供給を受ける。

門脈大循環吻合(側副血行路)

門脈圧亢進症(肝硬変など)では、門脈系と体循環系の吻合部の血流が増え、静脈瘤を形成する。 ・食道・胃上部: 左胃静脈・短胃静脈 → 食道静脈叢 → 奇静脈(上大静脈系)…食道・胃静脈瘤 ・臍周囲: 臍傍静脈 → 腹壁の浅在静脈 → 上・下大静脈系…メドゥーサの頭(caput medusae) ・直腸: 上直腸静脈(門脈系)と中・下直腸静脈(内腸骨静脈系)…直腸静脈瘤 ・後腹膜: 腸間膜静脈と腎静脈・腰静脈など…脾腎シャントなど

体循環系(下大静脈系)の主な静脈

総腸骨静脈(外腸骨静脈+内腸骨静脈)、腰静脈、腎静脈、右精巣(卵巣)静脈、右副腎静脈、下横隔静脈、肝静脈。左精巣(卵巣)静脈と左副腎静脈は左腎静脈に注ぐ。

POINT

・門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が膵頸部背側で合流して形成される。 ・下腸間膜静脈は主に脾静脈に注ぎ、左・右胃静脈や胆嚢静脈は門脈本幹に直接注ぐ。 ・内腸骨静脈は外腸骨静脈と合して総腸骨静脈となり下大静脈へ注ぐ体循環系であり、門脈系ではない。 ・門脈大循環吻合(食道、臍周囲、直腸、後腹膜)は門脈圧亢進症の側副血行路として重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。