StudyMed医師国家試験

「壊れ具合」ではなく「働ける余力」を測れ―肝予備能を示す2つの検査値

第105回医師国家試験 E問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第34問

肝予備能を示す指標はどれか。2つ選べ。

  1. a.ALP
  2. b.ALT
  3. c.アルブミン
  4. d.γ-グロブリン
  5. e.総ビリルビン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、たくさんある肝機能検査のうち、どれが肝予備能、つまり肝臓に残っている働く余力を表すかを問う問題だ。ポイントは、検査値を「何を見ているか」で分類できるかどうか。まず、肝機能検査と聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
ASTやALTですね。健康診断でも真っ先に見る値なので、肝臓の機能そのものだと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるけれど、そこが最初の落とし穴なんだ。ASTやALTは肝細胞の中にある逸脱酵素で、細胞が壊れると血中に漏れ出してくる。つまり「今どれだけ壊れているか」を示す値で、「どれだけ働けるか」は示さないんだよ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ肝硬変が進んでいても、ALTは高くないこともあるんですか。
ドクタードクター
その通り。肝硬変が進んで肝細胞そのものが大きく減ると、壊れる細胞自体が少なくなるから、ALTは正常に近いこともある。ALTが低いから肝臓は大丈夫、とは言えないわけだ。だからALTは肝予備能の指標にはならない。
医学生医学生
ALPも肝胆道系酵素ですよね。生化学の講義で胆汁うっ滞のマーカーと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ALPは胆管上皮や骨などに多い酵素で、閉塞性黄疸や原発性胆汁性胆管炎のような胆汁うっ滞で上がる。胆汁の流れの障害を示すもので、残っている肝機能の量を示すものではない。ではγ-グロブリンはどうだろう。
医学生医学生
肝硬変ではA/G比が下がると習ったので、γ-グロブリンも肝予備能と関係がありそうな気がします。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。γ-グロブリンは肝臓ではなく形質細胞が作るものだ。慢性肝疾患では、腸管から門脈経由で入ってくる抗原を肝臓が処理しきれなくなることや慢性炎症のために、多クローン性に増える。炎症や線維化の程度を推し量る手がかりにはなるけれど、肝臓が働く力そのものを表す指標ではないんだ。
医学生医学生
では残るアルブミンと総ビリルビンが正解ですね。
ドクタードクター
正解。アルブミンは肝細胞だけで作られる蛋白だから、肝臓の合成能を反映する。肝予備能が落ちると低下して膠質浸透圧が下がり、腹水や浮腫の原因にもなる。総ビリルビンは、肝細胞が取り込んでグルクロン酸抱合し、胆汁へ排泄するという代謝・排泄能を反映する。どちらもChild-Pugh分類の評価項目に入っているんだ。
医学生医学生
Child-Pugh分類の項目は、CBTの前に語呂合わせで覚えました。脳症、腹水、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間の5つですよね。
ドクタードクター
完璧だ。それぞれを1〜3点で採点して、合計5〜6点がA、7〜9点がB、10点以上がCになる。プロトロンビン時間も合成能の指標で、凝固因子は半減期が数時間と短いから、急性肝不全の重症度を鋭く反映する。一方、アルブミンは半減期が約3週間と長いので、急な機能低下は反映しにくい点に注意してほしい。
医学生医学生
アルブミンは低栄養やネフローゼ症候群でも下がるし、ビリルビンは溶血や胆道閉塞でも上がりますよね。それだけで判断していいんでしょうか。
ドクタードクター
大事な指摘だね。だからこそ、ほかの原因を除外したうえで解釈する必要がある。臨床では複数の指標を組み合わせて評価するんだ。例えば肝細胞癌の治療方針を決めるときには、日本肝癌研究会の肝障害度も使う。こちらは肝性脳症の代わりにICG停滞率の15分値が入っているのが特徴だよ。
医学生医学生
消化器外科を回ったとき、肝切除の術前カンファレンスでICGの値をしきりに確認していました。
ドクタードクター
まさにその場面だね。ICGは注射した色素が15分後に血中にどれだけ残るかを見る検査で、正常は10%未満。肝切除でどこまで切れるかを決めるうえで重要になる。ほかにもコリンエステラーゼや総コレステロールは合成能を反映し、肝移植の優先度判定にはビリルビン、クレアチニン、PT-INRから計算するMELDスコアが使われる。
医学生医学生
「壊れ具合」の検査と「余力」の検査を分けて考えれば、どんな場面でも整理できそうです。
ドクタードクター
その姿勢が大切だ。肝細胞障害はAST・ALT、胆汁うっ滞はALP・γ-GTP、合成能はアルブミン・プロトロンビン時間・コリンエステラーゼ、代謝・排泄能はビリルビン・ICG、という4つの箱に分けておけば、検査結果を見たときに病態がすっと頭に入ってくるよ。

まとめ

肝予備能とは肝臓に残っている機能的な余力のことで、肝硬変の重症度判定や肝細胞癌の治療法選択、肝切除範囲の決定に欠かせません。肝予備能を表すのは合成能と代謝・排泄能の指標であり、選択肢の中ではアルブミンと総ビリルビンが該当し、いずれもChild-Pugh分類(脳症・腹水・ビリルビン・アルブミン・プロトロンビン時間)の項目です。ALTは肝細胞の壊れ具合、ALPは胆汁うっ滞を示し、γ-グロブリンは慢性炎症で増える形質細胞由来の蛋白なので、肝予備能の指標ではありません。臨床ではこれらに加え、プロトロンビン時間、ICG停滞率、コリンエステラーゼ、MELDスコアなどを組み合わせて評価します。検査値を「何を見ているか」で分類する習慣は、肝疾患の病態把握と治療判断の基礎になります。

解答・解説

正解はc, eです

テーマ

肝予備能とは、肝臓に残っている機能的な余力のことである。肝硬変の重症度判定、肝細胞癌の治療法(肝切除・ラジオ波焼灼療法・肝動脈化学塞栓療法など)の選択、肝切除の範囲の決定、肝移植の適応判断に欠かせない。

正解を導く考え方

肝機能検査は、何を見ているかで次のように分けて考える。 ・肝細胞の障害(壊れ具合)を示す:AST、ALT ・胆汁うっ滞を示す:ALP、γ-GTP ・肝臓の合成能を示す:アルブミン、プロトロンビン時間(凝固因子)、コリンエステラーゼ、総コレステロール ・肝臓の代謝・排泄能を示す:総ビリルビン、ICG(インドシアニングリーン)停滞率、アンモニア ・炎症や線維化に伴う免疫反応を示す:γ-グロブリン 肝予備能を表すのは、「どれだけ壊れているか」ではなく「どれだけ働けるか」を示す指標、つまり合成能と代謝・排泄能の指標である。代表的な重症度分類であるChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類には、血清アルブミンと血清総ビリルビンの二つが含まれている。したがって、選択肢のうちこの二つが肝予備能の指標となる。

選択肢考察

  1. ×a.  ALP

    ALP(アルカリホスファターゼ)は、胆管の上皮細胞や骨・小腸・胎盤に多く含まれる酵素である。肝胆道系では、胆汁うっ滞(閉塞性黄疸、原発性胆汁性胆管炎など)で上昇する。胆汁の流れの障害を示すが、残っている肝機能の量を示すものではない。Child-Pugh分類にも含まれず、肝予備能の指標ではない。

  2. ×b.  ALT

    ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は肝細胞の中に多い逸脱酵素である。肝細胞が壊れると血液中に漏れ出して上昇し、現在進んでいる肝細胞障害の強さを示す。しかし、残っている肝細胞の量や機能は示さない。たとえば肝硬変が進行して肝細胞が大きく減ると、壊れる細胞自体が少なくなるため、ALTは正常に近い値になることもある。したがって肝予備能の指標ではない。

  3. ○c.  アルブミン

    アルブミンは肝細胞だけで作られる血漿蛋白であり、肝臓の蛋白合成能を反映する。肝予備能が下がると血清アルブミンは低下し、膠質浸透圧が下がって腹水や浮腫の原因になる。Child-Pugh分類の評価項目の一つであり(3.5g/dL超で1点、2.8〜3.5g/dLで2点、2.8g/dL未満で3点)、肝予備能の指標として使われる。ただし、半減期が約3週間と長いため、急性肝障害での急な機能低下は反映しにくい。急性期の合成能の評価には、半減期の短い凝固因子を反映するプロトロンビン時間のほうが適している。また、低栄養やネフローゼ症候群などの蛋白喪失でも低下するため、解釈には注意が必要である。

  4. ×d.  γ-グロブリン

    γ-グロブリン(免疫グロブリン)は肝臓ではなく形質細胞で作られる。慢性肝炎や肝硬変では、腸管から門脈を通って入る抗原を肝臓で処理しきれなくなり、さらに慢性炎症もあるため、多クローン性に増加する。このためアルブミン/グロブリン比(A/G比)が低下する。自己免疫性肝炎ではIgGが著しく上昇する。肝臓の線維化や炎症の程度を推測する手がかりにはなるが、肝予備能の指標ではなく、Child-Pugh分類にも含まれない。

  5. ○e.  総ビリルビン

    ビリルビンは主にヘモグロビンが分解されてでき、肝細胞に取り込まれてグルクロン酸抱合を受け、胆汁中に排泄される。肝予備能が下がると取り込み・抱合・排泄の能力が落ちて血清総ビリルビンが上昇するため、肝臓の代謝・排泄能の指標となる。Child-Pugh分類の評価項目の一つであり(2.0mg/dL未満で1点、2.0〜3.0mg/dLで2点、3.0mg/dL超で3点)、肝予備能の判定に用いられる。ただし、閉塞性黄疸や溶血でも上昇するため、それらを除外したうえで評価する。

Child-Pugh分類

次の5項目を1〜3点で採点し、合計点で分類する。 ・肝性脳症:なし 1点/軽度(Ⅰ〜Ⅱ度)2点/昏睡(Ⅲ度以上)3点 ・腹水:なし 1点/軽度 2点/中等度以上 3点 ・血清ビリルビン(mg/dL):2.0未満 1点/2.0〜3.0 2点/3.0超 3点 ・血清アルブミン(g/dL):3.5超 1点/2.8〜3.5 2点/2.8未満 3点 ・プロトロンビン時間(活性値%):70超 1点/40〜70 2点/40未満 3点 合計5〜6点がA(代償性)、7〜9点がB、10〜15点がC(非代償性)である。

肝障害度(日本肝癌研究会)

肝細胞癌の治療方針の決定に用いられる分類である。腹水、血清ビリルビン、血清アルブミン、ICG停滞率(15分値:ICG R15)、プロトロンビン活性値の5項目で、A・B・Cに分ける。Child-Pugh分類と比べると、肝性脳症の代わりにICG R15が入っている点が特徴である。

その他の肝予備能の指標

・ICG停滞率(15分値):静脈に注射した色素が15分後に血中にどれだけ残っているかを測る。正常は10%未満である。肝血流と肝細胞の取り込み・排泄能を反映し、肝切除範囲の決定に重要である。 ・プロトロンビン時間:凝固因子(とくに第Ⅶ因子)の半減期は数時間と短いため、急性肝不全の重症度を鋭く反映する。 ・コリンエステラーゼ、総コレステロール:合成能を反映し、肝予備能が低下すると下がる。 ・アシアロ糖蛋白受容体シンチグラフィ(99mTc-GSA):働いている肝細胞の量を画像で評価する。 ・血小板数、血中アンモニア:門脈圧亢進や解毒能の低下を反映する補助的な指標である。 ・MELDスコア:血清ビリルビン、血清クレアチニン、PT-INRから計算し、肝移植の優先度判定などに用いる。

POINT

・肝予備能は合成能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼ)と代謝・排泄能(ビリルビン、ICG)で評価する。 ・Child-Pugh分類の5項目:脳症、腹水、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間。 ・肝障害度(肝癌の治療方針に使う)では、脳症の代わりにICG R15が入る。 ・AST・ALTは肝細胞の壊れ具合、ALP・γ-GTPは胆汁うっ滞を示し、肝予備能の指標ではない。 ・γ-グロブリンは慢性肝疾患で上昇するが、肝予備能の指標ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。