意識を奪うのは「脳に直接」か「心臓経由」か―電解質異常と意識障害の見分け方
第105回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
意識障害の直接の原因とならないのはどれか。
- a.高カリウム血症
- b.高ナトリウム血症
- c.低ナトリウム血症
- d.高カルシウム血症
- e.低カルシウム血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
電解質異常のうち、NaとCaの異常は高値でも低値でも中枢神経に直接作用し、意識障害の原因となります。Naは浸透圧の変化によって脳細胞を膨張・萎縮させ、Caは神経細胞の興奮性を変化させて、精神症状やけいれん、昏睡をきたします。一方、K異常の主症状は不整脈と筋力低下であり、高K血症で意識消失が起こるとしても、それは致死的不整脈による脳循環不全を介した二次的なものにすぎません。意識障害の診療では、電解質に加えて低血糖、肝性脳症、尿毒症、内分泌クリーゼ、薬物中毒などの代謝性原因も並行して検索します。「直接の原因か、二次的な結果か」を病態生理から区別して考える姿勢は、救急での鑑別を整理するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
電解質異常のうち、脳(中枢神経)そのものの機能に影響して意識障害を起こすものと、他の臓器の障害を介して二次的に意識障害に至るものを区別できるかを問う問題である。 中枢神経に直接作用する代表はナトリウム(Na)とカルシウム(Ca)の異常である。 ・Naは血漿浸透圧を決める主要な物質である。血清Naが大きく変化すると細胞内外の浸透圧差によって水が移動し、脳細胞が膨張(低Na血症)あるいは萎縮(高Na血症)して、脳機能が障害される。 ・Caは神経細胞の興奮性や神経伝達物質の放出を調節している。高値でも低値でも神経機能が乱れ、精神症状や意識障害、けいれんなどを生じる。 つまりNaとCaは、上昇でも低下でも意識障害の直接の原因になりうる。 一方、カリウム(K)の異常は主に心筋や骨格筋など興奮性の膜電位に影響する。高K血症で問題となるのは心室細動や心停止などの致死的不整脈や筋力低下であり、意識消失が起こるとしても、それは不整脈による脳血流の途絶を介した二次的なものである。したがって「直接の原因とならない」ものとして高K血症を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 高カリウム血症
高K血症では、細胞の静止膜電位が浅く(脱分極側に)なり、心筋の伝導障害(テント状T波、PR延長、QRS幅拡大など)から心室細動・心停止といった致死的不整脈に至りうる。また骨格筋の脱力やしびれもみられる。意識消失が起こるのは不整脈によって心拍出量が低下し脳が虚血に陥った結果であり、Kの異常が脳神経細胞に直接作用して意識障害を起こすわけではない。したがって意識障害の直接の原因とはならず、本問の正解である。
- ×b. 高ナトリウム血症
高Na血症では血漿浸透圧が上昇し、脳細胞から細胞外へ水が引き出されて細胞内脱水(脳細胞の萎縮)が起こる。その結果、口渇に加えて易刺激性、傾眠、けいれん、昏睡などの神経症状が出現する。急激な脳の縮小により架橋静脈が伸展・破綻し、頭蓋内出血を起こすこともある。脳への直接の影響による意識障害の原因となる。
- ×c. 低ナトリウム血症
低Na血症では血漿浸透圧が低下し、水が脳細胞内へ移動して脳浮腫をきたす。頭痛、悪心・嘔吐、倦怠感、錯乱から、進行するとけいれん、昏睡、脳ヘルニアに至る。特に急速に進行した場合に症状が強い。なお、慢性の低Na血症を急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)を起こすため、補正速度にも注意が必要である。脳への直接の影響による意識障害の原因となる。
- ×d. 高カルシウム血症
高Ca血症では神経・筋の興奮性が低下し、倦怠感、筋力低下、抑うつ、集中力低下などの精神症状から、傾眠、錯乱、昏睡へと進行する。ほかに多尿・口渇(腎性尿崩症様の病態)、便秘、悪心、QT短縮などもみられる。悪性腫瘍や原発性副甲状腺機能亢進症に伴う高Ca血症性クリーゼでは、意識障害が主要な症状となる。意識障害の直接の原因となる。
- ×e. 低カルシウム血症
低Ca血症では神経・筋の興奮性が亢進し、口周囲や手指のしびれ、テタニー(手足の筋の強直性けいれん)、Chvostek徴候・Trousseau徴候がみられる。重症では全身性けいれん発作を起こし、発作に伴って意識障害をきたすほか、錯乱やせん妄などの精神症状もみられる。心電図ではQT延長がみられる。意識障害の直接の原因となりうる。
意識障害をきたす代謝性の原因
意識障害の原因は、頭蓋内病変(脳血管障害、頭部外傷、脳炎など)と、全身性・代謝性の原因に大別される。代謝性の原因には、低血糖・高血糖(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態)、電解質異常(Na、Caの異常など)、肝性脳症、尿毒症、低酸素血症・CO2ナルコーシス、甲状腺クリーゼや粘液水腫性昏睡、副腎クリーゼ、ビタミンB1欠乏(Wernicke脳症)、薬物中毒などがある。
電解質と主な症状の整理
・Na:浸透圧の変化による脳細胞の容積変化 → 高値・低値とも中枢神経症状(意識障害、けいれん)。 ・Ca:神経の興奮性の変化 → 高値で意識低下・精神症状、低値でテタニー・けいれん。 ・K:心筋・骨格筋の膜電位の異常 → 高値・低値とも不整脈と筋力低下が中心。低K血症では四肢の脱力・麻痺、腸管麻痺、多尿なども起こるが、高K血症と同様に意識障害の直接の原因とはならない。 ・Mg:高Mg血症では深部腱反射低下、呼吸抑制、傾眠がみられ、低Mg血症では低Ca血症・低K血症を合併しやすく、けいれんや不整脈の原因となる。
POINT
・Na・Caの異常は、高値でも低値でも中枢神経に作用して意識障害の直接の原因となる。 ・Kの異常の主症状は不整脈と筋力低下であり、意識消失は不整脈による脳循環不全を介した二次的なものにすぎない。 ・「直接の原因か、二次的な結果か」を区別して読むことが本問の要点である。
