StudyMed医師国家試験

眠れないほどの痒みと柔らかい皮膚の丘疹―顕微鏡が暴くヒゼンダニ

第105回医師国家試験 D問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第33問

38歳の女性。看護師。全身の強い痒みを主訴に来院した。2か月前から全身に痒みがあり,この1週間は痒みのために夜も眠れないという。腋窩,乳房下,臍の周囲および陰部に赤い丘疹がみられる。夫と子どもとの3人暮らしで,ネコを室内で飼っている。丘疹部から採取した検体の顕微鏡写真を別に示す。  診断はどれか。

第105回 D問題 第33問の問題画像
  1. a.疥癬
  2. b.マダニ症
  3. c.ネコノミ症
  4. d.ケジラミ症
  5. e.コロモジラミ症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長引く強い痒みの原因を突き止める皮膚科の問題だ。注目してほしいのは3つ。痒みの性質、皮疹が出ている部位、そして患者さんの生活背景。最後に顕微鏡写真が決め手になる。まず、痒みの経過から何を感じるかな。
医学生医学生
2か月続いて、夜も眠れないほどというのはかなり強いですね。アトピー性皮膚炎や蕁麻疹も浮かびましたが、看護師という職業がわざわざ書いてあるのが気になります。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。夜間に増悪する激しい痒みが数週間以上続く、というのは疥癬の典型的な訴えなんだ。そして看護師や介護職は、病院や高齢者施設で患者さんと肌が触れ合う機会が多い。疥癬は施設内での集団発生がよく問題になるから、この職業歴は感染機会を示すヒントとして置かれている。
医学生医学生
皮疹の場所も、腋窩、乳房下、臍の周り、陰部と、どれも皮膚が柔らかくて隠れているところですね。
ドクタードクター
その通り。ヒゼンダニは角層の薄く柔らかい、温かい部位を好んでトンネルを掘る。腋窩、臍周囲、下腹部、陰部、大腿内側、それに指間や手首が好発部位だ。では顕微鏡写真に移ろう。丘疹から採った角層を観察すると、楕円形の胴体に短い脚がついたダニの虫体と、楕円形の虫卵が見えている。
医学生医学生
微生物学の実習でスケッチしたヒゼンダニの形とそっくりです。ということは疥癬で決まりですね。
ドクタードクター
正解。ヒゼンダニ、学名Sarcoptes scabieiが角層に寄生する疥癬だ。症状、分布、感染機会、検鏡所見のすべてがそろっている。ほかの選択肢も確認しておこう。問題文にはネコを飼っていると書いてあったね。
医学生医学生
正直、ネコノミ症に引っ張られそうになりました。ネコからうつる痒い病気というと真っ先に思いつくので。
ドクタードクター
それが出題者の仕掛けだね。ネコノミはヒトを吸血することはあっても、ヒトの皮膚に住み着くことはない。刺されると、床に近い下腿などの露出部に痒い丘疹や水疱が散在するのが典型だ。体幹の間擦部に皮疹が集まり、丘疹の中から虫体と虫卵が出てくる今回の像は説明できない。
医学生医学生
マダニ症はどうでしょう。マダニもダニの仲間ですよね。
ドクタードクター
同じダニでも性質がまるで違う。マダニは野山で皮膚に咬みついて数日かけて吸血し、満腹になると落ちる。刺された部位に肉眼で見える大きな虫体がくっついているのが特徴で、角層に潜り込んで全身に丘疹を多発させることはない。臨床的には重症熱性血小板減少症候群、つまりSFTSや日本紅斑熱、ライム病の媒介者として重要だ。
医学生医学生
シラミの2つは、寄生する場所が違うと考えればいいですか。
ドクタードクター
そう整理するとわかりやすい。ケジラミは主に陰毛に寄生して毛に卵を固着させ、性行為で感染する性感染症の一つ。陰部は痒くなるけれど、腋窩や乳房下、臍周囲まで丘疹が広がる像には合わない。コロモジラミは衣類の縫い目に潜んで吸血のときだけ皮膚に移るシラミで、衣類を長く替えられない環境で問題になり、発疹チフスや塹壕熱を媒介する。どちらも皮膚の丘疹からダニが見つかる状況とは違うね。
医学生医学生
強い夜間の痒みと柔らかい部位の丘疹で疥癬を疑って、検鏡で虫体や虫卵を見つけて確定、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。ここからは臨床で大事な点だ。疥癬は感染してから痒みが出るまで1か月ほどかかることがあり、気づいたときには家族や同僚にすでに広がっていることがある。だから同居家族や接触者も同時に診察・治療するのが原則なんだ。
医学生医学生
この患者さんの場合だと、夫とお子さんも診察が必要ということですね。治療は何を使うんですか。
ドクタードクター
内服ならイベルメクチンで、通常1週間ほどあけて再投与を検討する。外用ならフェノトリンローションなどがある。それから注意したいのが、湿疹と誤診されてステロイドを外用されてしまうケース。ステロイドは症状を一時的に隠して、かえって悪化させてしまう。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、治らない湿疹として紹介された高齢の方が実は疥癬だった、という話を聞きました。
ドクタードクター
まさに典型的なエピソードだね。もう一つ覚えておきたいのが角化型疥癬。高齢者や免疫が低下した人に起こり、寄生数が膨大で厚い灰白色の角質がつく。感染力が非常に強いから、個室隔離や寝具・衣類の熱処理などの感染対策が必要になる。施設で働く医療者にとっては、自分の身を守るうえでも知っておくべき病気なんだ。

まとめ

夜間に増悪する激しい瘙痒が続き、腋窩・臍周囲・陰部・指間など皮膚の柔らかい部位に紅色丘疹が多発する場合は疥癬を疑い、丘疹やトンネル部の角層を検鏡してヒゼンダニの虫体・虫卵を確認して確定します。医療・介護施設での接触や家族内発生は重要な手がかりで、ネコノミ(下腿の刺症で寄生はしない)、マダニ(咬着して脱落し、SFTSなどを媒介)、ケジラミ(陰毛に寄生する性感染症)、コロモジラミ(衣類に潜む)とは寄生部位や皮疹の分布で区別できます。治療はイベルメクチン内服やフェノトリン外用で、潜伏期が長いため接触者も同時に対応し、ステロイド外用は避けます。感染力の強い角化型疥癬では隔離も必要となるため、施設で働く医療者にとって確実に押さえておきたい疾患です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・38歳女性、職業は看護師(病院や介護施設で患者と接触する機会が多い)。 ・2か月前から続く全身の強い瘙痒で、最近1週間は痒みのため眠れない(夜間に増悪する痒み)。 ・皮疹は腋窩、乳房下、臍周囲、陰部の赤い丘疹。いずれも皮膚が柔らかく、衣類で覆われて温かい部位である。 ・同居家族は夫と子ども、室内でネコを飼っている。 ・丘疹から採った検体の顕微鏡写真が提示されている。

診断へのプロセス

夜間に強まる激しい痒みが数週間以上続き、腋窩・臍周囲・陰部など皮膚の柔らかい部位に丘疹が散在するという組み合わせは、疥癬の典型像である。医療従事者であることは、施設内での感染機会を示す重要な背景情報として問題文に置かれている。ネコの飼育はネコノミ刺症を連想させるための情報だが、ネコノミ刺症は主に下腿など露出部に孤立性の刺し口と丘疹・水疱をつくり、体幹の間擦部に分布する今回の像とは合わない。 決め手は顕微鏡所見である。丘疹部から採取した角層の検鏡で、楕円形の体に短い脚をもつダニの虫体と、楕円形の虫卵が確認される。これはヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)であり、疥癬と確定診断できる。

設問の考え方

「強い痒み+間擦部・柔らかい部位の丘疹+施設での接触歴」から疥癬を想起し、検鏡でヒゼンダニの虫体・虫卵を確認して確定する、という流れを押さえておけば迷わない。他の選択肢は、いずれも寄生部位や皮疹の分布、検体から見える生物の形が本例と合わない。

選択肢考察

  1. ○a.  疥癬

    ヒゼンダニが皮膚の角層にトンネル(疥癬トンネル)を掘って寄生する感染症である。夜間に増悪する激しい瘙痒、腋窩・臍周囲・陰部など柔らかい部位の紅色丘疹、医療従事者という感染機会がそろい、さらに丘疹部検体の顕微鏡写真でダニの虫体と虫卵が見られることから診断が確定する。

  2. ×b.  マダニ症

    マダニは野山などで皮膚に咬着し、数日かけて吸血したのち自然に脱落する。刺された部位に比較的大きな虫体が付着しているのが見えるのが特徴で、角層内に潜って全身に丘疹を多発させることはない。マダニはライム病、日本紅斑熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などの媒介者として重要である。本例の経過・皮疹分布・検鏡所見とは合わない。

  3. ×c.  ネコノミ症

    ネコノミはネコに寄生するノミで、ヒトを吸血することはあるが、ヒトの皮膚に住み着いて寄生することはない。刺されると下腿など床に近い露出部に、痒みの強い丘疹や水疱が散在するのが典型である。ネコの飼育歴はこの選択肢への誘導だが、体幹の間擦部に分布する皮疹や、丘疹の検体から虫体・虫卵が見つかる所見は説明できない。

  4. ×d.  ケジラミ症

    ケジラミは主に陰毛に寄生し、毛に虫卵を固着させる。主として性行為で感染するため性感染症(STI)の一つとして扱われる。陰部の痒みは生じるが、腋窩・乳房下・臍周囲にまで丘疹が広がる像は説明しにくい。診断は陰毛に付着した虫体や虫卵を肉眼・ルーペ・顕微鏡で確認して行い、皮疹の検体からダニが検出される本例とは異なる。

  5. ×e.  コロモジラミ症

    コロモジラミは衣類の縫い目などに潜み、吸血するときだけ皮膚に移るシラミで、ヒトの皮膚そのものには寄生しない。衣類が長期間交換されない環境(路上生活など)で見られ、発疹チフスや塹壕熱の媒介者となる。本例のように皮膚の丘疹部の検体からダニの虫体や虫卵が見つかることはない。

疥癬の概要

・病原体:ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei var. hominis)。雌成虫は約0.4mm程度と肉眼ではほとんど見えない。角層内にトンネルを掘り、そこに産卵する。 ・感染経路:肌と肌の直接接触が主体。寝具や衣類を介した間接接触でも感染する。病院・高齢者施設での集団発生、家族内感染、性行為による感染が多い。 ・潜伏期:約1か月程度とされ、感染してから痒みが出るまで時間がかかるため、発見時には周囲にすでに広がっていることがある。

病型

・通常疥癬:寄生数は少数。体幹、腋窩、臍周囲、下腹部、大腿内側、指間・手首などに紅色丘疹、小水疱が多発し、陰茎・陰嚢には結節(疥癬結節)ができやすい。手掌・指間などの疥癬トンネル(線状の皮疹)は診断価値が高い。痒みは激しく、夜間に増悪する。湿疹と誤診されやすい。 ・角化型疥癬(かつては痂皮型疥癬、ノルウェー疥癬と呼ばれた):高齢者や免疫低下者に生じ、寄生数が膨大となる。厚い灰白色の角質増殖がみられ、感染力が極めて強いため個室隔離などの対策が必要となる。

診断

・丘疹やトンネルの角層を採取し、KOH(水酸化カリウム)溶液などで処理して顕微鏡で観察し、虫体・虫卵(または卵の抜け殻)を確認する。 ・ダーモスコピーでトンネル先端の虫体を確認する方法も有用である。

治療と対策

・内服:イベルメクチン(体重に応じて投与し、通常1週間後に再投与を検討する)。 ・外用:フェノトリンローション、クロタミトン含有軟膏、イオウ製剤など。 ・同居家族や接触者も同時に診察・治療する。角化型では隔離、寝具・衣類の熱処理(50℃以上の熱で虫は死滅する)などの感染対策を行う。 ・ステロイド外用は症状を隠して悪化させるため避ける。

鑑別に登場した節足動物の整理

・マダニ:野外で咬着し数日で脱落。SFTS、日本紅斑熱、ライム病を媒介。 ・ネコノミ:ヒトは吸血するが寄生はしない。下腿の刺症が典型。 ・ケジラミ:陰毛に寄生。性感染症。 ・コロモジラミ:衣類に潜む。発疹チフス・塹壕熱を媒介。 ・アタマジラミ:頭髪に寄生。小児の集団感染。

POINT

・夜間に増悪する激しい瘙痒+腋窩・臍周囲・陰部・指間の丘疹+医療・介護施設の関係者や家族内発生 → 疥癬を疑う。 ・確定診断は丘疹・トンネル部の検鏡でヒゼンダニの虫体・虫卵を確認する。 ・角化型疥癬は寄生数が多く感染力が強いので隔離が必要。 ・治療はイベルメクチン内服、フェノトリンなどの外用。接触者も同時に対応し、ステロイド外用は避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。