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消化管のどこが傷むと「栄養が入らない」のか―吸収不良からCrohn病を見抜く

第105回医師国家試験 C問題 第8問

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第105回 C問題 第8問

吸収不良を伴う疾患はどれか。

  1. a.胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
  2. b.十二指腸潰瘍
  3. c.Crohn病
  4. d.大腸憩室症
  5. e.過敏性腸症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、吸収不良を伴う疾患を選ぶ問題だ。カギは「栄養素はどこで吸収されるのか」という生理学の基本。そこから各疾患の病変部位と広がりを照らし合わせていこう。まず、吸収不良とはどんな状態かな。
医学生医学生
食べたものが体に取り込まれない状態……ですよね。下痢が続くイメージがあります。
ドクタードクター
大筋はそうだね。正確には、管腔内での分解、つまり消化か、粘膜から血液やリンパへの取り込み、つまり吸収のどちらかが障害されて、栄養素が十分に入らなくなる状態だ。その結果、体重減少、脂肪便、低蛋白血症による浮腫、貧血、ビタミン欠乏などが起こり、これをまとめて吸収不良症候群と呼ぶ。では栄養素の消化吸収の主な場はどこだろう。
医学生医学生
小腸です。生理学の講義で、絨毛と微絨毛で表面積がテニスコート並みになると習いました。
ドクタードクター
その通り。だから原因は大きく、小腸粘膜が広く障害される、膵液や胆汁といった消化に必要な因子が足りない、腸管の短縮や細菌異常増殖で栄養素と粘膜の接触が妨げられる、の3つの観点で考えるといい。この視点で選択肢を見ると、どうかな。
医学生医学生
小腸に病変を作るのはCrohn病ですね。消化管のどこにでも病変ができる病気だったと思います。
ドクタードクター
正解。Crohn病は口腔から肛門までどこにでも起こりうる原因不明の慢性炎症性腸疾患で、特に回腸末端から回盲部に好発する。病変は非連続性のskip lesionで、縦走潰瘍や敷石像が特徴、そして炎症が腸壁の全層に及ぶ全層性炎症だ。
医学生医学生
病理学の講義で、潰瘍性大腸炎は粘膜中心、Crohn病は全層性で非乾酪性肉芽腫と対比して覚えました。でも、炎症があるとなぜ吸収できなくなるんでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だね。機序は一つではない。吸収上皮そのものが傷むこと、腸管のリンパ管が閉塞・拡張して脂肪や蛋白が失われること、狭窄部の口側で細菌が異常増殖すること、回腸末端の障害で胆汁酸やビタミンB12が吸収できなくなること、さらに腸管切除を繰り返して短腸症候群になることがある。
医学生医学生
回腸末端が傷むとビタミンB12が足りなくなって、大球性貧血になるんですね。
ドクタードクター
そう。ほかにも出血や吸収障害による鉄欠乏性貧血、低アルブミン血症、亜鉛などの微量元素欠乏もみられる。では他の選択肢も確認しよう。胃食道逆流症はどうかな。
医学生医学生
胸やけや呑酸の病気ですね。食道は食べ物の通り道なので、吸収には関わらないと思います。
ドクタードクター
その通り。食道は栄養素の吸収をほとんど担わないから、吸収不良は起こらない。次に十二指腸潰瘍。十二指腸は小腸の一部だけれど、どう考える?
医学生医学生
そこで少し迷いました。十二指腸は鉄やカルシウムを吸収する場所ですよね。
ドクタードクター
良いところに気づいたね。ただ十二指腸潰瘍の多くは球部に限局した小さな病変で、小腸全体の吸収面積から見ればごく一部にすぎない。問題になるのは心窩部痛や出血、穿孔、狭窄で、通常は吸収不良を来さない。病変の「部位」だけでなく「広がり」も大事なんだ。
医学生医学生
大腸憩室症は大腸の病気なので、栄養吸収とは関係ないですね。大腸は水と電解質の吸収が中心だと習いました。
ドクタードクター
正解。憩室炎や憩室出血は問題になるけれど、吸収不良は起こさない。最後に過敏性腸症候群は?
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、内視鏡で異常がないのに腹痛と下痢を繰り返す患者さんがそう診断されていました。器質的異常がないなら吸収は保たれますね。
ドクタードクター
その通り。過敏性腸症候群は腸粘膜の構造が保たれる機能性疾患だ。逆に、体重減少や貧血、低蛋白血症を伴うなら、それは器質的疾患を疑うアラームサインになる。若い人の慢性下痢で体重が落ちていたら、Crohn病を見逃さないよう注意したいね。
医学生医学生
吸収部位を押さえておくと、どこが傷んだら何が欠乏するかまで予測できそうです。
ドクタードクター
まさにそれが狙いだ。発展として、吸収不良の原因には、慢性膵炎や胃切除後のような消化障害、セリアック病やWhipple病、アミロイドーシスなどの粘膜障害、腸リンパ管拡張症のようなリンパ流障害、盲係蹄症候群のような細菌異常増殖もある。Crohn病の治療では成分栄養剤による経腸栄養療法が使われるけれど、これは低脂肪で消化をほとんど必要とせず、栄養補給と腸管安静を同時に図れるからだ。回腸末端を切除した患者さんでは、ビタミンB12の補充や胆汁酸性下痢、胆石にも気を配る必要があるよ。

まとめ

吸収不良とは消化または吸収の障害で栄養素が十分に取り込まれない状態で、体重減少、脂肪便、低蛋白血症、貧血、ビタミン欠乏などを来します。栄養素の消化吸収の中心は小腸であり、小腸粘膜の広範な障害、膵液・胆汁の不足、吸収面積の減少、細菌異常増殖が主な原因となります。Crohn病は回腸末端を中心に全層性・非連続性の病変をつくり、上皮障害やリンパ管障害、狭窄による細菌増殖、回腸末端でのビタミンB12・胆汁酸の吸収障害、腸切除による短腸症候群などから吸収不良の代表的原因となります。一方、食道や大腸の疾患、限局した十二指腸潰瘍、器質的異常のない過敏性腸症候群では通常吸収不良は起こりません。栄養素の吸収部位と病変の部位・広がりを結びつけて考えることは、栄養障害の原因推定や患者管理の基本になります。

解答・解説

正解はcです

吸収不良(malabsorption)とは、消化(管腔内での分解)または吸収(腸粘膜から血液・リンパへの取り込み)のいずれかが障害され、栄養素が十分に体内へ取り込まれなくなる状態をいう。これにより体重減少、脂肪便(脂肪性下痢)、低蛋白血症による浮腫、貧血、ビタミン欠乏などが生じ、この病態全体を吸収不良症候群と呼ぶ。 栄養素の消化・吸収の主な場は小腸(十二指腸・空腸・回腸)である。したがって「吸収不良を伴う疾患」を選ぶには、①小腸の吸収面(粘膜)が広く障害される疾患か、②膵液・胆汁など消化に必要な因子が不足する疾患か、③腸管の短縮・バイパス・細菌異常増殖などで栄養素と粘膜の接触が妨げられる疾患か、という観点で各選択肢を見ればよい。 選択肢のうち、小腸粘膜に広範な病変を生じうるのは Crohn病のみである。食道や大腸の疾患、限局した潰瘍、器質的異常を伴わない機能性疾患は、通常は吸収不良の原因とならない。

選択肢考察

  1. ×a.  胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉

    胃酸などの胃内容(ときに十二指腸液を含む)が食道へ逆流し、胸やけ・呑酸(酸っぱい液が口まで上がる感覚)や食道粘膜のびらん・潰瘍を起こす疾患である。下部食道括約筋の機能低下や食道裂孔ヘルニアなどが背景にある。食道は食物を胃へ運ぶ通路であり、栄養素の吸収はほとんど担っていないため、この疾患で吸収不良は起こらない。

  2. ×b.  十二指腸潰瘍

    胃酸・ペプシンによる攻撃と粘膜防御のバランスが崩れ、十二指腸壁(大部分は球部)に組織欠損が生じる疾患で、Helicobacter pylori 感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が主な原因である。空腹時の心窩部痛、出血(黒色便)、穿孔、狭窄が問題となる。病変は球部に限局した小範囲のものがほとんどで、小腸全体の吸収面積に比べてごく一部にすぎないため、通常は吸収不良を来さない。

  3. ○c.  Crohn病

    Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも生じうる原因不明の慢性炎症性腸疾患で、とくに回腸末端から回盲部に好発する。病変は非連続性(skip lesion)で、縦走潰瘍・敷石像を特徴とし、炎症は腸壁の全層に及ぶ(全層性炎症)。小腸に広く病変が及ぶと、①吸収上皮そのものの障害、②腸管リンパ管の閉塞・拡張による脂肪や蛋白の喪失、③狭窄部の口側での細菌異常増殖、④回腸末端の障害による胆汁酸・ビタミンB12の吸収障害、⑤腸管切除を繰り返した結果の短腸症候群、といった複数の機序で吸収不良を来す。その結果、体重減少、低アルブミン血症、脂肪便、ビタミンB12欠乏による大球性貧血、鉄欠乏性貧血、亜鉛などの微量元素欠乏がみられる。したがって吸収不良を伴う疾患として正しい。

  4. ×d.  大腸憩室症

    大腸憩室は、腸管内圧の上昇などにより大腸の粘膜・粘膜下層が筋層の弱い部分(血管貫通部など)から壁外(漿膜側)へ袋状に突出したもので、筋層を欠く仮性憩室が大部分である。単発のことも多発のこともある。日本では右側結腸に多かったが、高齢化に伴い左側(S状結腸)の憩室も増えている。合併症として憩室炎や憩室出血が問題となるが、大腸は主に水分・電解質を吸収する場であり、栄養素の吸収にはほとんど関与しないため吸収不良は起こさない。

  5. ×e.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は、腹痛が排便と関連して繰り返し起こり、便通異常(下痢・便秘・混合型)を伴うが、内視鏡や血液検査などで症状を説明する器質的異常が見つからない機能性腸疾患である。消化管運動の異常、内臓知覚過敏、心理的ストレス(脳腸相関)が関与する。腸粘膜の構造は保たれているので栄養素の吸収は障害されず、体重減少・貧血・低蛋白血症などを伴う場合はむしろ器質的疾患を疑う警告徴候(アラームサイン)となる。

栄養素の主な吸収部位

・十二指腸〜空腸上部:鉄、カルシウム、葉酸、糖質、水溶性ビタミンの多く ・空腸を中心とした小腸:蛋白質(アミノ酸)、脂肪、脂溶性ビタミン(A・D・E・K) ・回腸末端:胆汁酸(腸肝循環)、ビタミンB12(内因子と結合した形で) ・大腸:主に水・電解質(Na+ など)

吸収不良症候群の原因による整理

1. 管腔内の消化障害:慢性膵炎・膵切除後(膵外分泌不全)、胆汁分泌障害(閉塞性黄疸など)、胃切除後、Zollinger-Ellison症候群(過剰な酸による膵酵素の失活) 2. 小腸粘膜の障害:Crohn病、セリアック病、Whipple病、アミロイドーシス、放射線腸炎、乳糖不耐症(二糖類分解酵素の欠乏) 3. リンパ流の障害:腸リンパ管拡張症、悪性リンパ腫 4. 吸収面積の減少・接触時間の短縮:短腸症候群(広範な小腸切除後)、瘻孔 5. 腸内細菌の異常増殖:盲係蹄症候群(blind loop syndrome)、腸管狭窄、強皮症などによる腸管運動低下

主な症状と欠乏との対応

・脂肪吸収障害:脂肪便(白色〜灰白色でにおいが強く、水に浮く便)、脂溶性ビタミン欠乏(夜盲症、骨軟化症、出血傾向) ・蛋白吸収障害:低アルブミン血症、浮腫 ・鉄・葉酸・ビタミンB12の欠乏:貧血 ・カルシウム・ビタミンD欠乏:テタニー、骨病変

Crohn病の栄養障害

Crohn病では小腸病変の範囲が広いほど、また小腸切除の回数・長さが大きいほど吸収不良が顕著になる。回腸末端を切除した例ではビタミンB12欠乏や胆汁酸性下痢、胆汁酸プール減少による脂肪吸収障害・胆石形成がみられる。治療として成分栄養剤(エレンタール など)による経腸栄養療法が用いられるのは、低脂肪で消化をほとんど必要とせず、栄養補給と腸管安静を同時に図れるためである。

POINT

・栄養素の消化吸収の中心は小腸であり、吸収不良は小腸粘膜の広範な障害、消化液(膵液・胆汁)の不足、吸収面積の減少、腸内細菌の異常増殖などで生じる。 ・Crohn病は小腸(特に回腸末端)に全層性・非連続性の病変をつくり、吸収不良症候群の代表的原因となる。 ・回腸末端の障害ではビタミンB12と胆汁酸の吸収が障害される。 ・食道・胃・大腸の限局病変や、器質的異常のない過敏性腸症候群では吸収不良は起こらない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。