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綿棒はどこまで入れる?―「ウイルスがいる場所」から考えるインフルエンザ迅速検査の検体

第105回医師国家試験 C問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第5問

発熱で受診した患者に行うインフルエンザウイルス迅速抗原検査の検体はどれか。

  1. a.唾液
  2. b.喀痰
  3. c.鼻咽頭ぬぐい液
  4. d.尿
  5. e.血液

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、インフルエンザの迅速抗原検査でどの検体を使うかという問題だ。暗記で答えられる問題だけれど、「ウイルスはどこで増えるのか」「検査は何を検出しているのか」という原理から考えると、ほかの検査の検体選びにも応用が利くようになる。まず、迅速抗原検査がどんな仕組みか説明できるかな。
医学生医学生
イムノクロマト法で、ウイルスのタンパクを抗体で捕まえて線が出るかどうかを見る検査だったと思います。
ドクタードクター
その通り。核タンパクなどの抗原を検出して、10〜15分ほどでA型かB型かまで判定できる。ここで大事なのは、PCRのように遺伝子を増幅しないということ。つまり、検体にウイルスがどれだけ含まれているかで結果が大きく左右されるんだ。
医学生医学生
ということは、ウイルスが一番たくさんいる場所から採るのが原則ですね。インフルエンザは気道の感染症なので、喀痰でもいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
気道という発想はいいね。ただ、インフルエンザウイルスが特に活発に増えるのは上気道、なかでも鼻咽頭の粘膜上皮なんだ。だから細い綿棒を鼻腔から鼻咽頭の後壁まで入れて、粘膜をこすり取った鼻咽頭ぬぐい液が標準的な検体になる。粘膜の細胞をしっかり含むように採ることが感度を保つコツだ。
医学生医学生
臨床実習で小児科を回ったとき、子どもが泣くので素早く入れていましたが、浅いと偽陰性が増えるということですね。
ドクタードクター
そうなんだ。鼻腔ぬぐい液や鼻汁吸引液を使えるキットもあるけれど、上気道のウイルスが多い部位から採るという考え方は共通している。では喀痰はどうだろう。
医学生医学生
喀痰は下気道の分泌物なので、細菌性肺炎のグラム染色や結核の抗酸菌検査で使うものですね。
ドクタードクター
その通り。インフルエンザの主な増殖の場は上気道だし、発熱初期には痰が出ないことも多くて採取が安定しない。迅速抗原検査の検体にはしないんだ。次に唾液はどうかな。
医学生医学生
新型コロナのPCRでは唾液を使っていたので、インフルエンザでも使えそうに思えました。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだね。唾液は鼻咽頭に比べてウイルス量が少なく、唾液成分で薄まってしまう。高感度な核酸増幅検査なら唾液でも検出できる場面があるけれど、感度に限界のあるインフルエンザの迅速抗原検査では標準検体ではない。検査法と検体はセットで覚えよう。
医学生医学生
尿と血液はどうでしょう。全身症状が強いので、血中にもウイルスがいそうな気がします。
ドクタードクター
高熱や筋肉痛といった全身症状は強いけれど、ウイルスそのものは気道上皮に限局して増え、ウイルス血症はまれなんだ。だから血液や尿から抗原は検出できない。血液は急性期と回復期のペア血清で抗体価が4倍以上上がるかを見る血清学的診断に使えるけれど、結果が出るのが遅く急性期の診断には役立たない。尿中抗原といえば、CBTでよく出たのは何だった?
医学生医学生
肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原です。検体ごとに対象の病原体を整理しておくと混乱しないですね。
ドクタードクター
いい整理だ。鼻咽頭ぬぐい液はインフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、新型コロナの迅速検査、咽頭ぬぐい液はA群β溶血性レンサ球菌、糞便はロタやノロ、というふうに対応づけておこう。もう一つ臨床で大事なのは、迅速抗原検査は特異度は高いけれど感度は十分ではないことだ。
医学生医学生
陰性でもインフルエンザを否定できない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。特に発症直後、おおむね12時間以内はウイルス量が少なく偽陰性になりやすい。流行期に急な高熱、悪寒、関節痛などがそろっていれば、検査が陰性でも臨床診断で治療を始めることがある。抗インフルエンザ薬は発症後48時間以内に始めると有熱期間の短縮が期待できるから、検査のタイミングと結果の解釈の両方を意識しておきたい。
医学生医学生
外来で「さっき熱が出たばかりなので検査してください」と言われたら、偽陰性の可能性も説明する必要がありますね。
ドクタードクター
まさにそれが実臨床での大事な視点だ。検査は万能ではなく、臨床像と組み合わせて判断する道具だと覚えておこう。

まとめ

インフルエンザウイルスは上気道、とくに鼻咽頭の粘膜上皮で活発に増殖するため、迅速抗原検査には鼻腔から鼻咽頭後壁まで綿棒を挿入して得る鼻咽頭ぬぐい液を用います。迅速抗原検査は遺伝子を増幅しないため検体中のウイルス量が結果を左右し、ウイルスの少ない唾液や、下気道の喀痰、ウイルスがほとんど出てこない尿・血液は適しません。尿中抗原は肺炎球菌・レジオネラ、喀痰は細菌性肺炎・結核、ペア血清は回顧的な血清診断というように、検体と検査の対応を整理しておくことが重要です。また迅速抗原検査は感度に限界があり、特に発症直後は偽陰性になりやすいため、陰性でも臨床像から判断する姿勢が求められます。「病原体がどこで増えるか」と「検査が何を検出するか」から検体を選ぶ考え方は、あらゆる感染症診療の基本になります。

解答・解説

正解はcです

インフルエンザウイルス迅速抗原検査は、イムノクロマトグラフィー法を用いてウイルスの核タンパクなどの抗原を検出する検査である。外来で10〜15分程度で結果が得られ、A型とB型を区別できるため、日常診療で広く用いられている。 検体を選ぶ際の原則は「ウイルスが最も多く存在する部位から採る」ことである。インフルエンザウイルスは気道の上皮細胞に感染して増殖し、とくに上気道、なかでも鼻咽頭の粘膜で大量に増える。そのため、細い綿棒(スワブ)を鼻腔から鼻咽頭まで挿入し、粘膜をこすり取って得た鼻咽頭ぬぐい液が標準的な検体となる。迅速抗原検査はPCR法のように遺伝子を増幅する検査ではないため、検体中のウイルス量が結果を大きく左右する。ウイルス量が多い部位から、粘膜細胞を十分に含むように採取することが感度を保つうえで重要である。 以上より、ウイルスが少ない、または検査キットの対象外である唾液・喀痰・尿・血液は不適切であり、鼻咽頭ぬぐい液が正解である。

選択肢考察

  1. ×a.  唾液

    唾液は口腔内の分泌物であり、鼻咽頭粘膜に比べてインフルエンザウイルス量が少なく、唾液の成分によって希釈もされる。そのため迅速抗原検査の標準的な検体ではない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のPCR検査などでは唾液が検体として認められているが、インフルエンザの迅速抗原検査とは区別して覚える必要がある。

  2. ×b.  喀痰

    喀痰は下気道からの分泌物で、細菌性肺炎や結核の診断(グラム染色、培養、抗酸菌検査)に用いる検体である。インフルエンザウイルスは主に上気道で増殖するため、迅速抗原検査の検体として喀痰は用いない。また、発熱の初期には喀痰が出ないことも多く、採取も安定しない。

  3. ○c.  鼻咽頭ぬぐい液

    インフルエンザウイルスは鼻咽頭の粘膜上皮で活発に増殖するため、この部位の検体はウイルス量が多く、迅速抗原検査の感度が最も高い。綿棒を鼻腔から鼻咽頭後壁に届くまで挿入し、数回回転させて粘膜をぬぐい取る。鼻腔ぬぐい液や鼻汁吸引液を使えるキットもあるが、いずれも上気道の中でウイルスが多い部位から採るという考え方は同じである。

  4. ×d.  尿

    尿中抗原検査は、肺炎球菌やレジオネラ(血清群1)による肺炎の診断に用いられる。インフルエンザウイルスは気道に限局して増殖し、尿中にウイルス抗原はほとんど出てこないため、尿はインフルエンザ迅速抗原検査の検体にならない。

  5. ×e.  血液

    インフルエンザウイルスは気道上皮で増殖し、血中にはほとんど出てこない(ウイルス血症はまれである)。したがって血液から抗原を検出することはできない。血液は、抗体価の上昇をみる血清学的診断(急性期と回復期のペア血清で抗体価が4倍以上上昇すれば有意とする)に用いられるが、結果が出るまで時間がかかるため急性期の診断には役立たない。

インフルエンザの診断

・臨床像: 急な高熱、悪寒、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などの全身症状が強く、咳や鼻汁などの上気道症状を伴う。流行期にこれらがそろえば臨床的に強く疑われる。 ・迅速抗原検査: 鼻咽頭ぬぐい液などを用い、10〜15分程度でA型・B型を判定できる。特異度は高いが感度は十分ではなく、陰性でもインフルエンザを否定できない。 ・検査のタイミング: 発症直後(おおむね12時間以内)はウイルス量が少なく偽陰性になりやすい。臨床症状から疑いが強ければ、陰性でも臨床診断で治療を始めることがある。 ・核酸増幅検査(PCR法など): 感度が高く、確定診断や疫学調査に用いられる。

治療との関係

抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビル、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビル マルボキシル)は、発症後48時間以内に投与を始めると有熱期間を短縮する効果が期待できる。そのため早期の診断が重要となる。

検体と検査の対応(主なもの)

・鼻咽頭ぬぐい液: インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、新型コロナウイルスの迅速抗原検査 ・咽頭ぬぐい液: A群β溶血性レンサ球菌の迅速抗原検査、アデノウイルス ・尿: 肺炎球菌、レジオネラの尿中抗原 ・糞便: ロタウイルス、ノロウイルスの迅速抗原検査

POINT

・インフルエンザウイルスは上気道、とくに鼻咽頭粘膜で増殖するため、迅速抗原検査には鼻咽頭ぬぐい液を用いる。 ・迅速抗原検査は感度に限界があり、特に発症直後は偽陰性になりやすい。陰性でも否定はできない。 ・尿中抗原は肺炎球菌・レジオネラ、喀痰は細菌性肺炎・結核の検体として区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。