StudyMed医師国家試験

「誰に効いたか」で見抜く―ハイリスクアプローチの効果を測るものさし

第105回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第5問

ある集団での脳卒中の発症予防を目的として,高血圧に対する介入を行いたい。  ハイリスクアプローチを採用する場合,介入の効果に最も関係する変化はどれか。

  1. a.集団の血圧の平均値の改善
  2. b.集団の塩分摂取量の平均値の改善
  3. c.正常血圧域にある者での喫煙率の減少
  4. d.高血圧域にある者での降圧薬服用者の割合の増加
  5. e.高血圧域にあるが治療を拒否する者での脳卒中発症リスクの減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の定番、予防戦略の問題だ。脳卒中を減らすために高血圧へ介入するとき、ハイリスクアプローチを選んだら、その効果はどんな変化に表れるのか。ポイントは「誰に対する変化か」と「それが介入によって生じた変化か」の2点だよ。まず、ハイリスクアプローチとはどういう方法か説明できるかな。
医学生医学生
衛生学の講義で習いました。病気になりやすい人をスクリーニングで見つけて、その人たちに絞って介入する方法ですよね。
ドクタードクター
その通り。対になるのがポピュレーションアプローチで、リスクの高低にかかわらず集団全体に働きかけて、危険因子の分布全体を低い方へずらす方法だ。英国の疫学者Geoffrey Roseが体系化した考え方として知られている。今回の場面に当てはめると、ハイリスクアプローチの対象は誰になる?
医学生医学生
高血圧の人です。健診で見つけて、受診を勧めて治療につなげる、という流れでしょうか。
ドクタードクター
そう。だとすれば、介入がうまくいったかを最もよく表すのは、高血圧の人のうち実際に治療を受ける人が増えたかどうか。つまり高血圧域にある者での降圧薬服用者の割合の増加が正解になる。降圧によって脳卒中が減ることは多くの臨床試験で示されていて、収縮期血圧を10mmHg程度下げると脳卒中が3〜4割減るという目安もあるから、予防効果に直結する指標なんだ。
医学生医学生
でも、集団の血圧の平均値が下がるのも、効果としては一番わかりやすい気がします。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。集団全体の平均値を下げる、つまり血圧の分布全体を左にずらすのはポピュレーションアプローチの目標で、その効果指標だ。ハイリスクアプローチは集団の一部にしか介入しないから、全体の平均値への影響は限られるし、平均値の変化がこの介入の効果を直接映しているとはいえない。
医学生医学生
集団の塩分摂取量の平均値も同じ理屈ですね。減塩キャンペーンは典型的なポピュレーションアプローチだと習いました。
ドクタードクター
よく整理できているね。加工食品の食塩量を減らす取り組みなんかもそう。対象が高血圧者に限られていない点で、今回の介入の指標にはならない。では、正常血圧の人の喫煙率の減少はどうだろう。
医学生医学生
喫煙も脳卒中の危険因子なので、少しは関係ありそうに見えますが……。
ドクタードクター
危険因子であることは確かだ。ただ、対象が正常血圧域の人で、ハイリスク者ではない。しかも今回の介入は高血圧に対するものだから、正常血圧者の喫煙率は介入の効果とは関係しないんだ。
医学生医学生
最後の、治療を拒否した高血圧の人で脳卒中リスクが下がった、というのは一番紛らわしいです。対象は高血圧者なのに。
ドクタードクター
鋭いところに気づいたね。対象は合っていても、治療を拒否しているなら介入そのものが成立していない。その人たちのリスクが下がったとしても、それは生活習慣の社会的な変化や偶然の変動など、介入以外の要因によるものだ。「介入を受けた人に起きた変化か」を確認すれば外せるよ。
医学生医学生
対象がハイリスク者に限定されていて、かつ介入によってもたらされた変化かどうか。この2つで選択肢をふるいにかければいいんですね。
ドクタードクター
その通り。ここで発展知識として、2つのアプローチの長所と短所も押さえておこう。ハイリスクアプローチは対象が明確で、本人の動機付けがしやすく、一人ひとりが得る利益が大きい。一方でスクリーニングが必要で、受診につながらない人が残るし、集団全体での発症減少効果は限られる。
医学生医学生
限られるのはなぜですか。リスクの高い人を治療すれば、発症はかなり減りそうですが。
ドクタードクター
実は発症者の多くは、ごく一部の高リスク者ではなく、数の多い中等度リスクの人たちから出るからなんだ。そこでポピュレーションアプローチが活きてくる。ただしこちらは、集団全体には大きな利益があっても個人が得る利益は小さいという「予防のパラドックス」があって、個人の動機付けが弱くなりやすい。
医学生医学生
特定健診で見つかったメタボの人への特定保健指導がハイリスク、健康日本21やたばこ税の引き上げがポピュレーション、という対比で覚えておきます。
ドクタードクター
いい例の挙げ方だ。大事なのは、2つは対立するものではなく組み合わせて使うものだということ。将来、外来で高血圧の患者さんを診るのはハイリスクアプローチの最前線でもあるから、治療を中断させない工夫まで含めて意識しておいてほしい。

まとめ

集団の疾病予防には、発症リスクの高い人を選んで介入するハイリスクアプローチと、集団全体のリスク因子の分布を低い方へずらすポピュレーションアプローチがあります。脳卒中予防のために高血圧へハイリスクアプローチで介入する場合、効果を最もよく表すのは、対象である高血圧者のうち降圧薬を服用する人の割合の増加です。集団全体の血圧や食塩摂取量の平均値の改善はポピュレーションアプローチの指標であり、正常血圧者の変化や治療を拒否した人の変化は介入の効果とはいえません。ハイリスクアプローチは個人の利益が大きい一方で集団全体への効果は限られ、ポピュレーションアプローチには予防のパラドックスがあるため、両者を組み合わせることが重要です。「誰に対する変化か」「介入によって生じた変化か」という視点は、保健事業の評価を考えるうえでの基本になります。

解答・解説

正解はdです

集団の疾病予防の戦略には、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの2つがある(英国の疫学者Geoffrey Roseが体系化した考え方)。 ・ハイリスクアプローチ:疾病を発症する危険の高い人(ハイリスク者)をスクリーニングなどで選び出し、その人たちに絞って治療や指導を行う方法 ・ポピュレーションアプローチ:危険度の高低にかかわらず集団全体に働きかけ、リスク因子の分布全体を低い方へずらす方法 本問では、脳卒中予防のため高血圧に介入する場面でハイリスクアプローチを採る。この場合の対象は「高血圧域にある者」であり、介入の中身は、健診などで高血圧者を見つけて受診を勧め、降圧治療(生活指導や降圧薬)を受けさせることである。したがって、介入の効果を最もよく反映する変化は、対象である高血圧者のうちで実際に治療を受ける人が増えること、すなわち降圧薬を服用する者の割合の増加である。 判断のコツは、各選択肢について「誰に対する変化か(対象がハイリスク者に限定されているか)」と「その変化が介入によってもたらされたものか」の2点を確認することである。集団全体の平均値の変化はポピュレーションアプローチの効果指標であり、正常血圧者の変化や、介入を受け入れなかった者の変化はハイリスクアプローチの効果とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  集団の血圧の平均値の改善

    誤り。集団全体の血圧の平均値を下げること、つまり血圧分布全体を低い方へ移動させることは、ポピュレーションアプローチの目標であり、その効果指標である。ハイリスクアプローチでは高血圧者という集団の一部だけに介入するため、集団全体の平均値への影響は限られ、平均値の改善はこの介入の効果を直接反映する変化とはいえない。

  2. ×b.  集団の塩分摂取量の平均値の改善

    誤り。集団全体の食塩摂取量を減らす取り組み(減塩キャンペーン、加工食品の食塩含有量の削減など)は、典型的なポピュレーションアプローチである。ハイリスクアプローチの対象である高血圧者に限った変化ではないため、この介入の効果の指標として適切ではない。

  3. ×c.  正常血圧域にある者での喫煙率の減少

    誤り。対象が正常血圧域の者であり、高血圧というハイリスクの集団ではない。また、喫煙は脳卒中の危険因子ではあるものの、本問の介入は高血圧に対するものであるから、正常血圧者の喫煙率の変化は本問のハイリスクアプローチの効果とは関係しない。

  4. ○d.  高血圧域にある者での降圧薬服用者の割合の増加

    正しい。ハイリスクアプローチの対象である高血圧域の者に焦点を当てた指標であり、介入(高血圧者の発見、受診勧奨、治療の導入・継続の支援)が実際に治療に結びついたかを直接示す。降圧治療により脳卒中の発症リスクが低下することは多くの臨床試験で示されており(収縮期血圧を約10mmHg下げると脳卒中が3〜4割減るとされる)、降圧薬服用者の割合の増加は脳卒中予防効果に直結する変化である。

  5. ×e.  高血圧域にあるが治療を拒否する者での脳卒中発症リスクの減少

    誤り。対象は高血圧域の者だが、治療を拒否しているのだから、ハイリスクアプローチによる介入は成立していない。この人たちの脳卒中発症リスクが下がったとしても、それは介入以外の要因(集団全体の生活習慣の変化、偶然の変動など)によるものであり、ハイリスクアプローチの効果とはいえない。

ハイリスクアプローチ

・対象:危険因子を多く持つ、発症リスクの高い者 ・利点:対象が明確で、個人への介入の動機付けがしやすい。対象者一人ひとりが得る利益が大きい。費用対効果の面で効率がよい ・欠点:スクリーニングが必要。対象者の発見・受診につながらない人が残る。集団全体としての疾病減少効果は限られる(発症者の多くは、実は中等度リスクの多数の人から出るため) ・例:特定健康診査で見つかったメタボリックシンドロームの者への特定保健指導、高血圧者への受診勧奨と治療

ポピュレーションアプローチ

・対象:集団全体 ・利点:危険因子の分布全体を低リスク側へ移動させ、集団全体での発症数を大きく減らせる可能性がある ・欠点:個人が得る利益は小さく(予防のパラドックス)、個人の動機付けが弱くなりやすい ・例:減塩キャンペーン、たばこ税の引き上げや受動喫煙防止の法規制、健康日本21などの健康づくり運動

予防のパラドックス

集団全体に大きな利益をもたらす予防策は、個々人にとってはわずかな利益しかもたらさないという現象。多数の人がわずかにリスクを下げることで、集団全体の発症数は大きく減る。 両アプローチは相反するものではなく、組み合わせて用いることが重要とされる。

POINT

・ハイリスクアプローチ=リスクの高い者を選んで介入。効果はその対象者における変化(治療導入率など)でみる ・ポピュレーションアプローチ=集団全体に介入し、リスク因子の分布全体を低い方へ移す。効果は集団全体の平均値などでみる ・介入を受けていない者(正常者や治療拒否者)の変化は、ハイリスクアプローチの効果ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。