健診で見つかった白血球増多―好塩基球が教える慢性骨髄性白血病と「次の一手」
第105回医師国家試験 B問題 第45問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。健康診断で白血球増多を指摘され来院した。自覚症状は特にないという。身長168 cm,体重65 kg。体温36.6℃。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,右肋骨弓下に肝を2 cm,左肋骨弓下に脾を2 cm触知する。血液所見:赤血球475万,Hb 13.4 g/dL,Ht 43%,白血球23,000(前骨髄球2%,骨髄球5%,後骨髄球3%,桿状核好中球12%,分葉核好中球58%,好酸球6%,好塩基球4%,単球3%,リンパ球7%),血小板54万。 次に行う検査として適切なのはどれか。
- a.腹部単純CT
- b.骨髄染色体検査
- c.G-CSF濃度測定
- d.エリスロポエチン濃度測定
- e.ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
末梢血に芽球を欠き、前骨髄球から分葉核好中球まで各成熟段階の顆粒球がそろって出現する白血球増多に、好塩基球・好酸球の増加、血小板増加、脾腫を伴えば、慢性骨髄性白血病の慢性期を考えます。確定診断には骨髄の染色体検査でPh染色体t(9;22)(q34;q11)を証明し、FISH法やRT-PCR法でBCR::ABL1を検出することが必要で、腹部CTやPET、G-CSF・エリスロポエチン測定では診断は確定しません。類白血病反応との鑑別にはNAPスコア(CMLで低値)や原因疾患の有無も参考になります。治療はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬が第一選択で、BCR::ABL1の定量は治療効果の判定にも用いられます。血液像の「どの細胞が増えているか」を読み取り、病態の核心である遺伝子異常の証明へつなげる流れは、造血器腫瘍の診断全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・55歳男性。健康診断で偶然に白血球増多を指摘され、自覚症状はない。 ・軽度の肝腫大(右肋骨弓下2 cm)と脾腫(左肋骨弓下2 cm)がある。 ・赤血球475万、Hb 13.4 g/dLで貧血はない。 ・白血球23,000/μLと増加し、白血球分画では前骨髄球2%、骨髄球5%、後骨髄球3%と、通常は末梢血に出てこない幼若な顆粒球が出ている。前骨髄球から分葉核好中球まで、成熟途中の各段階の細胞がそろって見られる(芽球はない)。 ・好塩基球4%(絶対数は約920/μL)、好酸球6%(約1,380/μL)と、どちらも増加している。 ・血小板54万/μLと軽度に増加している。
診断へのプロセス
末梢血に幼若顆粒球が出現する白血球増多では、慢性骨髄性白血病(CML)と類白血病反応を鑑別する。類白血病反応とは、重症感染症、悪性腫瘍、大量出血などに反応して白血病に似た血液像を示す状態である。本例は無症状で発熱や炎症を示す所見がなく、反応性の増加を起こす原因が見当たらない。さらに、好塩基球と好酸球の増加、血小板増加、脾腫を伴っている点がCMLに特徴的である。成熟段階の各細胞がそろい、芽球を認めないことから、CMLの慢性期が最も考えられる。
設問の考え方
CMLの確定診断には、Philadelphia(Ph)染色体、すなわち9番と22番染色体の相互転座t(9;22)(q34;q11)と、それにより生じるBCR::ABL1融合遺伝子の証明が必要である。したがって、次に行うべき検査は骨髄の染色体検査である。骨髄穿刺を行えば、骨髄の細胞密度や芽球の割合(病期の判定)も同時に評価できる。
選択肢考察
- ×a. 腹部単純CT
腹部CTでは肝脾腫の程度や周囲臓器の圧排は確認できるが、それで白血球増多の原因を確定することはできない。本例の肝脾腫は触診でも確認できる軽度のもので、画像検査を急ぐ理由はない。診断にまず必要なのは腫瘍細胞の遺伝学的な性質を調べることである。
- ○b. 骨髄染色体検査
CMLを確定診断するための検査である。骨髄細胞のG分染法による染色体分析でPh染色体(t(9;22)(q34;q11))を証明すれば、CMLと確定できる。あわせてFISH法(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法)でBCR::ABL1融合遺伝子を、RT-PCR法(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)でBCR::ABL1のmRNAを検出する。RT-PCR法による定量値は治療効果(分子遺伝学的奏効)の判定にも用いる。また、Ph染色体以外の付加的な染色体異常の有無は予後や病期の判定に関わるため、治療開始前の染色体分析は重要である。
- ×c. G-CSF濃度測定
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は好中球の産生を促すサイトカインである。G-CSF産生腫瘍(肺癌など)では血中G-CSFが上昇し、反応性の好中球増加を起こすことがある。しかし本例では好塩基球・好酸球の増加、血小板増加、脾腫といったCMLを示す所見がそろっている。CMLはBCR::ABL1が作るチロシンキナーゼが常に活性化していることで、サイトカインの刺激なしに細胞が増殖する疾患であり、G-CSFを測定しても診断には結びつかない。
- ×d. エリスロポエチン濃度測定
エリスロポエチン(EPO)は赤血球の産生を促すホルモンで、主に腎臓で作られる。その測定は、赤血球増多症(真性赤血球増加症ではEPOが低値、二次性赤血球増加症では高値)の鑑別や、腎性貧血の評価に用いる。本例は赤血球数もヘモグロビンも正常で、赤血球系の異常はないため測定する意義はない。
- ×e. ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
PETは主に18F-FDG(ブドウ糖類似物質)を用いて糖代謝の盛んな病変を描出する検査で、悪性リンパ腫の病期診断や治療効果判定、固形癌の転移検索などに使われる。CMLの診断や病期の判定には用いない。本例はリンパ節腫大もなく、PETを行っても臓器腫大がわかる程度で、確定診断には役立たない。
慢性骨髄性白血病(CML)の概要
・造血幹細胞にt(9;22)(q34;q11)が生じ、BCR::ABL1融合遺伝子ができる。これが作るチロシンキナーゼが常に活性化しているため、顆粒球系を中心とした細胞が増殖する骨髄増殖性腫瘍である。 ・中高年に多く、半数近くは健康診断などで無症状のうちに見つかる。症状があれば、脾腫による腹部膨満感、全身倦怠感、体重減少などがみられる。
検査所見の特徴
・白血球増多(数万〜数十万/μL)。骨髄芽球から分葉核好中球まで各成熟段階の細胞が末梢血に出現する。急性白血病のように途中の段階の細胞が抜ける白血病裂孔は認めない。 ・好塩基球増加と好酸球増加。 ・血小板は正常から増加することが多い。 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアは低値である。類白血病反応では高値となり、両者の鑑別に役立つ。 ・血清ビタミンB12の高値、LDHの高値、尿酸の高値。 ・骨髄は著しい過形成で、M/E比(顆粒球系と赤芽球系の比)が高い。
病期
慢性期→移行期(加速期)→急性転化期(芽球期)と進行する。急性転化すると急性白血病のように芽球が増加し、予後が悪い。なお、WHO分類の第5版(2022年)では移行期の区分がなくなったが、別の国際分類(ICC)では残されている。
治療
・第一選択はBCR::ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。第1世代のイマチニブ、第2世代のニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブなどがある。さらにT315I変異に対するポナチニブや、ABL1のミリストイル結合部位に作用するアシミニブも用いられる。 ・効果判定は、血液学的奏効、細胞遺伝学的奏効(Ph染色体の消失)、分子遺伝学的奏効(RT-PCR法によるBCR::ABL1の減少)の順に深くなる。 ・TKIの登場により慢性期患者の生命予後は大きく改善し、一般人口に近づいている。一部の患者では深い分子遺伝学的奏効が長期間続いたあとにTKIの中止を試みることもある。 ・TKIに抵抗性の症例や急性転化例では、同種造血幹細胞移植を考える。
類白血病反応との鑑別
・原因疾患(重症感染症、悪性腫瘍、大量出血、溶血など)があるか ・NAPスコア:CMLでは低値、類白血病反応では高値 ・好塩基球増加や脾腫はCMLを示唆する ・Ph染色体やBCR::ABL1の有無で確定する
POINT
・末梢血に各成熟段階の顆粒球が出現する白血球増多+好塩基球・好酸球増加+血小板増加+脾腫はCMLを考える。 ・確定診断は骨髄の染色体検査によるPh染色体t(9;22)の証明と、FISH法・RT-PCR法によるBCR::ABL1の検出である。 ・NAPスコアはCMLで低値、類白血病反応で高値。 ・治療の第一選択はチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)。
