「メタボ健診」の仕組みを読み解く―誰が・誰に・何をする制度なのか
第105回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
特定健康診査・特定保健指導について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.都道府県が実施主体である。
- b.対象年齢は30歳以上である。
- c.非肥満の高血圧者には医療機関への受診勧奨が行われる。
- d.医療機関で治療中の者は特定健康診査の対象から除外される。
- e.メタボリックシンドロームのスクリーニングと指導が行われる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
特定健康診査・特定保健指導は、高齢者医療確保法に基づき、医療保険者が40〜74歳の加入者を対象に実施する制度で、都道府県は実施主体ではありません。内臓脂肪型肥満に着目してメタボリックシンドロームの該当者・予備群を拾い上げ、腹囲・BMIと追加リスクの数に応じて動機付け支援または積極的支援を行います。一方で、肥満がなくても血圧140/90mmHg以上など受診勧奨判定値を超えれば医療機関への受診が勧められ、二次性高血圧などの評価につながります。治療中の人も健診の対象ですが、高血圧症・糖尿病・脂質異常症の服薬中の人は保健指導の対象外となるなど、「健診」と「保健指導」で対象範囲が異なる点が重要です。根拠法・実施主体・対象年齢を他の健診制度と比較して整理しておくことは、公衆衛生の得点源となるだけでなく、日常診療で健診結果を活用する力にもつながります。
解答・解説
正解はc, eです
特定健康診査(特定健診)と特定保健指導の制度の骨格を問う問題である。押さえるべき要点は、根拠法、実施主体、対象者、目的、判定後の対応の5つである。 特定健診・特定保健指導は、2008年(平成20年)4月に始まった制度である。根拠法は「高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)」であり、医療保険者に実施が義務づけられている。医療保険者とは、市町村国民健康保険・健康保険組合・協会けんぽ・共済組合などを指す。 対象は40〜74歳の加入者(被保険者と被扶養者)である。目的は、内臓脂肪型肥満に着目してメタボリックシンドロームの該当者と予備群を見つけ出し、生活習慣の改善を支援することにある。これにより、糖尿病・高血圧症・脂質異常症などの生活習慣病の発症と重症化を予防し、ひいては医療費の適正化を図る。 健診の結果は、次の3つの対応に振り分けられる。 ・特定保健指導:腹囲やBMI(体格指数)で判定した肥満があり、かつ追加リスク(血糖・脂質・血圧など)がある者が対象となる。リスクの数に応じて「動機付け支援」または「積極的支援」を行う。 ・受診勧奨:肥満の有無にかかわらず、検査値が受診勧奨判定値を超える者に、医療機関の受診を勧める。 ・情報提供:受診者全員に、健診結果に応じた生活習慣の情報を提供する。 この制度の仕組みを理解していれば、正解はc・eと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 都道府県が実施主体である。
誤り。実施主体は医療保険者である。具体的には、市町村国民健康保険・国民健康保険組合・健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ)・共済組合などが該当する。市町村は国民健康保険の保険者として、その加入者に対する実施主体となる。都道府県は制度の実施主体ではない。都道府県は医療費適正化計画を策定する立場から、制度に関わる。なお、市町村が実施主体となるのは、健康増進法に基づくがん検診などである。この点は区別して覚える必要がある。
- ×b. 対象年齢は30歳以上である。
誤り。対象は、実施年度中に40〜74歳に達する医療保険加入者(被保険者・被扶養者)である。75歳以上の人は後期高齢者医療制度に加入するため、特定健診の対象にはならない。代わりに、後期高齢者医療広域連合が行う健康診査の対象となる。40歳未満については、事業主健診(労働安全衛生法に基づく定期健康診断)などで健康管理が行われる。
- ○c. 非肥満の高血圧者には医療機関への受診勧奨が行われる。
正しい。特定保健指導の対象を決めるうえでは、まず腹囲とBMIで肥満があるかどうかを判定する。そのため、肥満のない人は特定保健指導の対象にならない。しかし、血圧・血糖・脂質などの検査値が受診勧奨判定値を超えている場合には、肥満の有無にかかわらず医療機関への受診が勧められる。血圧の受診勧奨判定値は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上である。肥満を伴わない高血圧は、本態性高血圧のほか、腎血管性高血圧や原発性アルドステロン症などの内分泌性高血圧といった二次性高血圧の可能性もある。この点からも医師による評価が必要となる。
- ×d. 医療機関で治療中の者は特定健康診査の対象から除外される。
誤り。医療機関で治療中であっても、特定健康診査の対象から外れることはない。中高年では何らかの病気で通院している人が多いため、もし通院中の人を除外すると、制度の意味が大きく損なわれてしまう。健診の対象から除外されるのは、妊産婦、長期入院中の者(厚生労働大臣が定める基準では6か月以上継続して入院している者)、刑事施設に入所中の者、海外に住んでいる者、介護施設などに入所している者など、厚生労働大臣が定める者に限られる。一方、特定保健指導については、高血圧症・糖尿病・脂質異常症の治療で服薬中の者は対象外となる。これらの人は、主治医のもとで管理を受けるためである。つまり、除外の範囲は「健診」と「保健指導」で異なっていることに注意する。
- ○e. メタボリックシンドロームのスクリーニングと指導が行われる。
正しい。特定健診は内臓脂肪型肥満に注目した健診であり、一般に「メタボ健診」と呼ばれる。健診では、腹囲、BMI、血圧、血糖(空腹時血糖またはHbA1c)、脂質(中性脂肪・HDLコレステロール・LDLコレステロール)、肝機能、尿検査などを測定する。これによりメタボリックシンドロームの該当者と予備群を拾い上げ、その人たちに特定保健指導(動機付け支援・積極的支援)を行って、生活習慣の改善を促す。
特定保健指導の対象者の選び方(階層化)
ステップ1:腹囲とBMIで肥満を判定する ・腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上 → 区分A ・腹囲は基準未満だが、BMIが25以上 → 区分B ステップ2:追加リスクの数を数える ・血糖:空腹時血糖100mg/dL以上、またはHbA1c 5.6%以上 ・脂質:中性脂肪150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上、または拡張期85mmHg以上 ・喫煙歴:上の3つのリスクが1つ以上あるときに加算する ステップ3:支援レベルを決める ・区分Aで追加リスクが2つ以上 → 積極的支援 ・区分Aで追加リスクが1つ → 動機付け支援 ・区分Bで追加リスクが3つ以上 → 積極的支援 ・区分Bで追加リスクが1〜2つ → 動機付け支援 ただし、次の例外がある。 ・65〜74歳の人は、積極的支援に該当しても動機付け支援とする。 ・高血圧症・糖尿病・脂質異常症の治療薬を服用中の人は、特定保健指導の対象外とする。
動機付け支援と積極的支援の違い
・動機付け支援:原則1回の面接で行動目標を立て、一定期間後(現在は3か月以上経過後)に評価する。 ・積極的支援:初回の面接に加えて、3か月以上にわたって継続的に支援する。 2024年度からの第4期では、腹囲2cm・体重2kg減少などの成果(アウトカム)を評価する仕組みが導入された。
メタボリックシンドロームの診断基準(日本、2005年)
必須項目:腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm²以上に相当) 上記に加え、次の3項目のうち2項目以上を満たすもの ・中性脂肪150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満 ・収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上 ・空腹時血糖110mg/dL以上 ※特定保健指導の判定で使う血糖の基準(100mg/dL)とは値が異なるので注意する。
関連する健診制度の整理
・特定健診(40〜74歳):高齢者医療確保法に基づき、医療保険者が実施 ・後期高齢者健診(75歳以上):後期高齢者医療広域連合が実施(努力義務) ・がん検診など:健康増進法に基づき、市町村が実施 ・定期健康診断:労働安全衛生法に基づき、事業者が実施
POINT
・特定健診・特定保健指導の根拠法は高齢者医療確保法であり、実施主体は医療保険者である(都道府県ではない)。 ・対象は40〜74歳の加入者である。 ・内臓脂肪型肥満に着目し、メタボリックシンドロームの該当者・予備群を拾い上げて保健指導を行う制度である。 ・肥満がなくても、検査値が受診勧奨判定値を超えれば受診勧奨の対象となる(血圧は140/90mmHg以上)。 ・治療中の人も健診の対象である。ただし、高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療薬を服用中の人は、特定保健指導の対象外となる。 ・65〜74歳の人は、積極的支援に該当しても動機付け支援とする。
