StudyMed医師国家試験

「お金の悩み」が一番ではない―自殺の動機の統計が教える健康問題の重さ

第105回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第3問

全年齢を合わせた総数でみたとき,自殺の動機で最も多いのはどれか。

  1. a.家庭問題
  2. b.勤務問題
  3. c.経済・生活問題
  4. d.健康問題
  5. e.男女問題

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の統計問題で、わが国の自殺の原因・動機を問うものだ。ポイントは「イメージ」と「実際のデータ」のずれ。まず直感でどれが一番多いと思うかな。
医学生医学生
ニュースで借金や失業の話をよく見るので、経済・生活問題が一番かと思っていました。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。でも実は、全年齢の総数でみると一貫して最も多いのは健康問題なんだ。原因・動機が特定できた人の過半数に関わっていて、2位以下を大きく引き離している。
医学生医学生
健康問題というと、がんなどの身体の病気を苦にして、ということでしょうか。
ドクタードクター
身体疾患の悩みもあるけれど、中身の大部分はうつ病をはじめとする精神疾患の悩みや影響なんだ。自殺で亡くなった人の多くは、その前に何らかの精神疾患の状態にあったとされている。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、うつ病の患者さんには必ず希死念慮を確認するよう指導されたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが大事な理由だね。そもそもこの統計は警察庁の自殺統計がもとで、遺書や生前の言動などから推定できる原因・動機を分類している。2022年からは1人につき最大4つまで計上できるようになったので、各項目の割合を足すと100%を超えるんだ。
医学生医学生
では、経済・生活問題は何位なんですか。
ドクタードクター
2位であることが多い。負債や生活苦、失業、事業不振などだね。1998年に自殺者が急増して年間3万人を超えたとき、中高年男性の経済・生活問題による自殺が目立って社会問題になった。ただ、その時期を含めても総数の第1位は健康問題なんだ。
医学生医学生
家庭問題も多そうなイメージがあります。
ドクタードクター
夫婦や親子の不和、介護・看病疲れなどだね。上位には入り、年によっては経済・生活問題と2位・3位を入れ替わるけれど、1位にはならない。勤務問題はその次くらいで、仕事疲れや職場の人間関係などが含まれる。
医学生医学生
産業医の講義でストレスチェック制度を習いました。職場の問題も対策が進んでいるんですね。
ドクタードクター
そうだね。働き盛りの男性では勤務問題の比率が高まるから、職域のメンタルヘルス対策は重要だ。男女問題、現在の区分でいう交際問題は総数では少ないけれど、若年層に限ると比率が相対的に高くなる。
医学生医学生
順位をまとめると、健康問題、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題、交際問題の順で、2位と3位は入れ替わることがある、ということですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。周辺知識も押さえておこう。自殺者は男性が女性の約2倍で、10〜30歳代では死因の第1位が自殺。手段は縊首が最も多い。対策としては自殺対策基本法と自殺総合対策大綱があり、2016年の法改正で都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務づけられた。
医学生医学生
CBTの勉強でゲートキーパーという言葉も出てきました。
ドクタードクター
悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、支援につなげて見守る人のことだね。医療者はまさにその役割を担える立場にある。特に救急外来で自殺未遂者を診たら、再企図のリスクが高いので、身体の治療だけで終わらせず精神科や地域の支援につなぐことが大切だ。
医学生医学生
統計の知識が、目の前の患者さんへの声かけにつながるんですね。

まとめ

わが国の自殺の原因・動機は警察庁の自殺統計で把握されており、全年齢の総数では健康問題が一貫して第1位で、原因・動機が特定された人の過半数を占めます。その中心はうつ病などの精神疾患で、次いで身体疾患の悩みが続きます。2位以下はおおむね経済・生活問題、家庭問題、勤務問題、交際(男女)問題の順で、2位と3位は年により入れ替わります。自殺者は男性が女性の約2倍で、10〜30歳代では死因の第1位であり、自殺対策基本法や自殺総合対策大綱のもとでゲートキーパー養成や未遂者支援が進められています。うつ病の早期発見と、未遂者を精神科・地域支援へつなぐことは、すべての医療者が担える自殺予防の柱です。

解答・解説

正解はdです

わが国の自殺の原因・動機は、警察庁の自殺統計(厚生労働省が「地域における自殺の基礎資料」などとして集計・公表)で把握されている。遺書や生前の言動などから推定できる原因・動機を分類したもので、全年齢の総数でみると、健康問題が一貫して最も多い。 一般には「借金」「失業」などの経済・生活問題を思い浮かべやすいが、実際には健康問題が原因・動機の特定された自殺者の過半数に関わっており、2位以下を大きく引き離している。健康問題の中身としては、うつ病をはじめとする精神疾患によるものが大きな割合を占め、身体疾患の悩みがこれに続く。 順位はおおむね、健康問題 > 経済・生活問題 > 家庭問題 > 勤務問題 > 男女問題(交際問題)の順である。年によって経済・生活問題と家庭問題の順位が入れ替わることはあるが、健康問題が第1位である点は変わらない。 なお、2022年から統計の集計方法が変わり、1人につき最大4つまで原因・動機を計上できるようになったため、各項目の割合を合計すると100%を超える。例えば2023年では、原因・動機が特定された者のうち健康問題が12,403人(約64%)と約6割を占め、経済・生活問題(約27%)、家庭問題(約24%)、勤務問題(約15%)が続き、交際問題(旧・男女問題)は約5%にとどまった。

選択肢考察

  1. ×a.  家庭問題

    誤り。家庭問題(夫婦関係の不和、親子関係の不和、家族の将来悲観、家族の介護・看病疲れなど)は上位に入るが、第1位ではない。経済・生活問題と2位・3位を争う位置にあり、2023年では原因・動機特定者の約24%で第3位である。

  2. ×b.  勤務問題

    誤り。勤務問題(仕事疲れ、職場の人間関係、仕事の失敗、職場環境の変化など)は第4位程度であり、2023年では約15%である。働き盛りの男性で比率が高まり、過労やハラスメント対策の観点から職域のメンタルヘルス対策(ストレスチェック制度など)が進められているが、総数で最多ではない。

  3. ×c.  経済・生活問題

    誤り。経済・生活問題(負債、生活苦、失業、事業不振など)は第2位であることが多く、2023年では約27%である。1998年に自殺者数が急増して年間3万人を超えた時期には、中高年男性の経済・生活問題による自殺の増加が目立ち、社会的に注目された。しかし、その時期を含めても総数で最も多いのは健康問題である。

  4. ○d.  健康問題

    正しい。健康問題は全年齢の総数で最も多い自殺の原因・動機であり、原因・動機が特定された者の過半数(2023年では約64%、12,403人)を占める。内訳では、うつ病、統合失調症、アルコール依存症などの精神疾患の悩み・影響が大部分を占め、次いで身体の病気の悩みが多い。自殺者の多くは、亡くなる前に何らかの精神疾患の状態にあったとされ、特にうつ病の早期発見と治療が自殺予防の重要な柱となっている。高齢者では身体疾患の悩みの割合も高い。

  5. ×e.  男女問題

    誤り。男女問題(現在の統計区分では「交際問題」。失恋、結婚をめぐる悩みなど)は総数では少なく、2023年では約5%である。ただし、若年層に限ると相対的な比率が高くなる。

わが国の自殺の現状

・年間自殺者数は1998年に急増して3万人を超え、2011年まで14年連続で3万人台が続いた。その後は減少傾向となり、2010年代後半には2万人前後まで減った。2020年に11年ぶりに増加に転じ、近年も2万人をやや超える水準で推移している。 ・男性が女性の約2倍多い。 ・年齢階級別の死因では、10〜30歳代で自殺が死因の第1位を占める(若年層の死因の上位に自殺があることは先進国の中でも特徴的である)。 ・手段は縊首(首つり)が最も多い。 ・月別では春(3〜5月)に多い傾向がある。

原因・動機の区分(警察庁の自殺統計)

家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、交際問題(旧・男女問題)、学校問題、その他。

自殺対策

・自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正):自殺を個人の問題ではなく社会の問題として総合的に対策を行う。2016年改正で都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられた。 ・自殺総合対策大綱:国の自殺対策の指針。おおむね5年ごとに見直されている。 ・ゲートキーパー:悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る人。医療従事者や行政職員、一般住民にも養成が進められている。 ・自殺未遂者は再企図のリスクが高く、救急医療機関から精神科や地域の支援へつなぐことが重要である。

POINT

・自殺の原因・動機は、全年齢の総数で健康問題が第1位(原因・動機特定者の過半数) ・健康問題の中心はうつ病などの精神疾患 ・2位以下は経済・生活問題、家庭問題、勤務問題、男女(交際)問題の順(2位と3位は年により入れ替わる) ・自殺者は男性が女性の約2倍。10〜30歳代では死因の第1位

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。