「7か月」が最大のヒント―年齢で読み解く乳児の下血
第105回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
7か月の乳児の下血の原因として考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.腸重積症
- b.仮性メレナ
- c.Meckel憩室
- d.Hirschsprung病
- e.ビタミンK欠乏症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の下血は年齢によって原因疾患が大きく異なり、乳児期後半にあたる7か月児では腸重積症とMeckel憩室が代表的な原因となります。腸重積症は生後6か月〜2歳に好発し、間欠的啼泣・嘔吐・イチゴゼリー状粘血便を三主徴とし、超音波のtarget signで診断して高圧浣腸で整復を試みます。Meckel憩室は異所性胃粘膜からの胃酸による潰瘍で無痛性の大量下血をきたし、メッケルシンチで診断します。仮性メレナや新生児ビタミンK欠乏性出血症は新生児期の病態であり、Hirschsprung病は便秘・腹部膨満が主症状で下血は主症状ではありません。年齢から鑑別を絞り込む考え方は、小児救急で限られた情報から迅速に診断へ近づくための基本となります。
解答・解説
正解はa, cです
年齢で絞り込む
小児の消化管出血(吐血・下血)は、年齢によって原因疾患の頻度が大きく異なる。したがって本問では「7か月」という年齢が最大の手がかりになる。 ・新生児期(生後28日未満):仮性メレナ(母体血の嚥下)、新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ)、壊死性腸炎、新生児・乳児消化管アレルギー(ミルクアレルギー)など ・乳児期(とくに後半)〜幼児期:腸重積症、Meckel憩室、感染性腸炎(細菌性)、ミルクアレルギー性直腸結腸炎、裂肛など ・学童期以降:炎症性腸疾患、ポリープ(若年性ポリープ)、IgA血管炎、消化性潰瘍など
本問の考え方
7か月は乳児期後半であり、この時期の下血の代表は腸重積症とMeckel憩室である。腸重積症は間欠的な啼泣(腹痛)、嘔吐、イチゴゼリー状の粘血便を特徴とし、生後6か月〜2歳ごろに好発する。Meckel憩室は異所性胃粘膜から分泌される胃酸による潰瘍で無痛性の下血をきたし、2歳ごろまでの乳幼児に多い。 一方、仮性メレナと古典的なビタミンK欠乏性出血症は新生児期の病態であり、Hirschsprung病は便秘・腹部膨満が主症状で、下血は主症状ではない。よって正解はa、cである。
選択肢考察
- ○a. 腸重積症
腸重積症は、口側の腸管が肛門側の腸管に嵌入する疾患で、多くは回腸末端が結腸に入り込む回腸結腸型である。生後6か月〜2歳ごろ(とくに乳児期後半)に好発し、7か月児の下血の原因として典型的である。三主徴は間欠的腹痛(乳児では不機嫌・間欠的啼泣)、嘔吐、血便(イチゴゼリー状の粘血便)で、右上腹部にソーセージ様腫瘤を触れることがある。重積した腸管の静脈還流が障害されてうっ血・浮腫をきたし、粘膜から出血して粘液と混じることで粘血便となる。超音波検査でtarget sign(多重リング像)を認め、発症から時間が経っていなければ高圧浣腸(造影剤・空気・生理食塩水)による整復を試みる。
- ×b. 仮性メレナ
仮性メレナは、分娩時に嚥下した母体血や、授乳時に乳頭の亀裂から出た母体血を新生児が吐いたり下血したりするもので、児自身の出血ではない。したがって出生後間もない新生児期にみられ、7か月児の下血の原因とはならない。児の血液(胎児ヘモグロビン〈HbF〉が主体)か母体血(成人ヘモグロビン〈HbA〉が主体)かを、アルカリ抵抗性をみるApt試験で鑑別する(HbFはアルカリで変性しにくく赤色を保つ)。
- ○c. Meckel憩室
Meckel憩室は、胎生期の卵黄腸管(臍腸管)が閉鎖せずに残った真性憩室で、回盲弁から口側の回腸にみられる。憩室内に異所性胃粘膜が存在すると、分泌された胃酸により憩室の周囲の回腸粘膜に潰瘍を生じ、無痛性の大量下血(暗赤色〜鮮血)をきたす。症状を呈するのは2歳以下の乳幼児に多く、7か月児の下血の原因となりうる。異所性胃粘膜に集積する99mTc-pertechnetate(過テクネチウム酸)シンチグラフィ(メッケルシンチ)で診断する。治療は憩室の外科的切除である。
- ×d. Hirschsprung病
Hirschsprung病は、腸管壁内神経節細胞が肛門側から連続的に欠如する先天性疾患で、無神経節腸管が蠕動せず機能的閉塞を起こす。主症状は新生児期からの胎便排泄遅延、頑固な便秘、腹部膨満、嘔吐であり、下血は主症状ではない。ただし合併症として腸炎(Hirschsprung病関連腸炎)を起こすと、発熱や悪臭のある下痢・血便をきたすことがあり重篤化しうる点は知っておくとよい。乳児の下血の代表的な原因として挙げる疾患ではない。
- ×e. ビタミンK欠乏症
ビタミンKはプロトロンビン(第II因子)、第VII・IX・X因子の活性化(γ-カルボキシル化)に必要である。新生児はビタミンKの胎盤移行が少なく、腸内細菌叢も未熟で、母乳中の含有量も少ないため欠乏しやすい。生後1週以内に消化管出血(新生児メレナ)などを起こす新生児ビタミンK欠乏性出血症と、主に母乳栄養児で生後3週〜2か月ごろに頭蓋内出血を起こしやすい乳児ビタミンK欠乏性出血症がある。いずれもビタミンKの予防投与で激減した。7か月児では胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞や長期抗菌薬投与などによる二次性欠乏を除けばまれであり、この年齢の下血の原因としては考えにくい。
腸重積症のポイント
・好発年齢:生後6か月〜2歳ごろ、男児に多い。 ・乳幼児では多くが特発性で、ウイルス感染などによる回腸末端のリンパ濾胞(パイエル板)の腫大が先進部になると考えられている。年長児ではMeckel憩室、ポリープ、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)、悪性リンパ腫などの器質的病変が先進部となることがある。 ・診断:超音波検査でtarget sign(短軸像)、pseudo-kidney sign(長軸像)。注腸造影ではカニの爪様の陰影欠損(蟹爪状陰影)。 ・治療:全身状態が保たれ腹膜炎所見がなければ、非観血的整復(高圧浣腸)を行う。整復困難例、発症から長時間経過して腸管壊死が疑われる例、穿孔例では手術(Hutchinson手技による用手整復、腸管切除)を行う。
Meckel憩室のポイント(2の法則)
人口の約2%にみられ、回盲弁から約2フィート(約60cm)口側にあり、長さ約2インチ、症状が出るのは2歳以下が多い、異所性組織(胃粘膜・膵組織)の2種類、などとして覚えられる。合併症は下血のほか、腸重積の先進部、腸閉塞(索状物による)、憩室炎(虫垂炎に類似)などがある。
ビタミンK欠乏性出血症の予防
日本では出生時、産科退院時、1か月健診時の計3回、ビタミンK2シロップを経口投与するのが従来の方法であり、近年は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている。
下血の性状の目安
・タール便(黒色便):上部消化管(Treitz靱帯より口側)からの出血が示唆される。 ・暗赤色〜鮮血便:下部消化管、あるいは大量の上部消化管出血。 ・粘血便(イチゴゼリー状):腸重積症を想起する。
POINT
・小児の下血は年齢で原因を絞る。 ・新生児期:仮性メレナ(母体血嚥下、Apt試験で鑑別)、新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ)。 ・乳児期後半〜幼児期:腸重積症(間欠的啼泣・嘔吐・イチゴゼリー状粘血便、超音波でtarget sign)とMeckel憩室(無痛性下血、メッケルシンチで診断)。 ・Hirschsprung病の主症状は胎便排泄遅延・便秘・腹部膨満で、下血は主症状ではない(腸炎合併時には血便あり)。 ・乳児ビタミンK欠乏性出血症は生後3週〜2か月ごろの母乳栄養児に多く、頭蓋内出血が問題となる。
