まぶた・眼球・瞳孔―動眼神経が運ぶ「3種類の線維」から症候を導く
第105回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
動眼神経麻痺でみられる症候はどれか。3つ選べ。
- a.散瞳
- b.眼球陥凹
- c.眼瞼下垂
- d.眼球運動障害
- e.角膜知覚鈍麻
対話形式の解説
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ドクターまとめ
動眼神経は、上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋への運動線維、上眼瞼挙筋への運動線維、瞳孔括約筋・毛様体筋への副交感神経線維の3種類を運ぶため、麻痺すると外下方偏位を伴う眼球運動障害、高度の眼瞼下垂、散瞳(対光反射消失)が生じます。眼球陥凹は交感神経障害によるHorner症候群の所見で、縮瞳と軽度の眼瞼下垂を伴う点が対照的です。角膜知覚は三叉神経第1枝の支配であり、海綿静脈洞病変などで合併することはあっても動眼神経麻痺自体の症候ではありません。臨床では、副交感神経線維が神経の表層を走るため、散瞳を伴う動眼神経麻痺は内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などの圧迫性病変を疑って緊急に精査し、糖尿病性の虚血性麻痺では瞳孔が保たれやすいことを押さえておくと、救急の場で見逃しを防げます。
解答・解説
正解はa, c, dです
動眼神経(第Ⅲ脳神経)麻痺の症候は、動眼神経が運ぶ3種類の線維を思い出せばすべて導ける。 1. 外眼筋への運動線維: 上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋を支配する。麻痺すると内転・上転・下転が障害され、残った外直筋(外転神経支配)と上斜筋(滑車神経支配)の作用で、眼位は外下方に偏位する(外斜視)。複視も生じる。 2. 上眼瞼挙筋への運動線維: まぶたを持ち上げる筋が麻痺し、眼瞼下垂となる。瞳孔を覆うほどの高度な下垂となることが多く、患者は眉毛を挙上して代償しようとする(下垂が強いと、かえって複視を自覚しにくいこともある)。 3. 副交感神経線維: Edinger-Westphal核に起始し、毛様体神経節を経て瞳孔括約筋と毛様体筋に至る。麻痺すると散瞳し、対光反射・輻湊時の縮瞳が消失し、調節も障害される。 一方、眼球陥凹はHorner症候群(交感神経の障害)でみられる所見、角膜知覚は三叉神経第1枝(眼神経)の支配であり、いずれも動眼神経麻痺の症候ではない。 臨床的には、瞳孔の所見が原因の推定に重要である。副交感神経線維は動眼神経の表層(上内側)を走るため、外からの圧迫で早期に障害される。したがって散瞳を伴う動眼神経麻痺は、内頸動脈-後交通動脈分岐部の脳動脈瘤など圧迫性病変をまず疑い、破裂の危険があるため緊急にMRA・CTアンギオグラフィなどで精査する。これに対し、糖尿病などによる神経内部の虚血(微小血管障害)では神経の中心部が障害されやすく、瞳孔は保たれることが多い(pupil sparing)。
選択肢考察
- ○a. 散瞳
動眼神経には瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が含まれている。これが障害されると、瞳孔散大筋(交感神経支配)の作用が相対的に優位となり散瞳する。障害側では直接対光反射・間接対光反射(反対眼に光を当てたときの反応)がともに消失する。この副交感神経線維は動眼神経の表層上内側を走るため、脳動脈瘤(特に内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤)や鉤ヘルニアなどの圧迫で早期に障害されやすい。動眼神経麻痺でみられる症候であり正しい。
- ×b. 眼球陥凹
眼球陥凹は、交感神経経路の障害によるHorner症候群(縮瞳、軽度の眼瞼下垂、眼球陥凹、患側顔面の発汗低下)の徴候の一つである。Horner症候群では交感神経支配の瞼板筋(Müller筋)が麻痺して瞼裂が狭くなるため、眼球が落ちくぼんだように見える(実際の眼球後退はわずかで、見かけ上の陥凹とされる)。動眼神経麻痺では眼球陥凹は生じない。むしろ外眼筋の緊張が低下するため、わずかに眼球が突出してみえることがある。誤りである。
- ○c. 眼瞼下垂
上眼瞼挙筋は動眼神経の上枝に支配されており、麻痺すると上眼瞼を持ち上げられなくなり眼瞼下垂が生じる。完全麻痺では瞳孔を覆うほどの高度の下垂となり、前頭筋を収縮させて眉毛を挙上する代償がみられる。これに対し、Horner症候群の眼瞼下垂はMüller筋の麻痺によるもので軽度にとどまる点が鑑別に役立つ。動眼神経麻痺でみられる症候であり正しい。
- ○d. 眼球運動障害
動眼神経は6つの外眼筋のうち上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋の4つを支配する。麻痺すると内転・上転・下転が障害され、外転(外直筋:外転神経支配)と、上斜筋(滑車神経支配)による内方回旋・下転の作用は保たれる。そのため正面視で患眼は外下方に偏位し(外斜視)、両眼視で複視を訴える。動眼神経麻痺でみられる症候であり正しい。
- ×e. 角膜知覚鈍麻
角膜の知覚は三叉神経第1枝(眼神経)の枝である鼻毛様体神経・長毛様体神経が担っており、動眼神経は関与しない。角膜知覚鈍麻は三叉神経障害でみられ、角膜反射(求心路:三叉神経、遠心路:顔面神経)の低下として検出される。ただし、海綿静脈洞や上眼窩裂の病変(海綿静脈洞症候群、上眼窩裂症候群など)では動眼神経・滑車神経・外転神経とともに三叉神経第1枝も障害されるため、動眼神経麻痺と角膜知覚鈍麻が同時にみられることがある。動眼神経麻痺そのものの症候ではないため誤りである。
眼球運動に関わる脳神経と外眼筋
・動眼神経(Ⅲ): 上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋、上眼瞼挙筋、瞳孔括約筋・毛様体筋(副交感) ・滑車神経(Ⅳ): 上斜筋(内転位での下転、内方回旋)。麻痺では下方視時の複視(階段を降りるとき)と、健側への頭部傾斜がみられる。 ・外転神経(Ⅵ): 外直筋(外転)。麻痺では内斜視と外転障害。頭蓋内圧亢進でも障害されやすい。
動眼神経麻痺の主な原因
・瞳孔障害を伴う: 内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤(緊急性が高い)、鉤ヘルニア、腫瘍、海綿静脈洞病変 ・瞳孔が保たれやすい: 糖尿病性神経障害などの微小血管障害(虚血性)。眼窩部痛を伴うことが多く、数か月で自然回復することが多い。 ・中脳の病変: Weber症候群(同側動眼神経麻痺+対側片麻痺)、Benedikt症候群(同側動眼神経麻痺+対側不随意運動)
Horner症候群との比較
・動眼神経麻痺: 散瞳、高度の眼瞼下垂、眼球運動障害あり ・Horner症候群: 縮瞳、軽度の眼瞼下垂、眼球陥凹(見かけ上)、発汗低下、眼球運動障害なし
POINT
・動眼神経麻痺の三徴: 眼瞼下垂(高度)、外下方への眼位偏位を伴う眼球運動障害(内転・上転・下転障害)、散瞳(対光反射消失)。 ・眼球陥凹はHorner症候群、角膜知覚鈍麻は三叉神経第1枝の障害。 ・散瞳を伴う動眼神経麻痺 → 内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤を疑い、緊急にMRA・CTアンギオで精査。 ・糖尿病性(虚血性)動眼神経麻痺では瞳孔が保たれやすい(pupil sparing)。
