心臓は頑張っているのに足りない―高心拍出性心不全と「仲間外れ」の肺塞栓
第104回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
高心拍出性心不全をきたさないのはどれか。
- a.貧血
- b.動静脈瘻
- c.肺血栓塞栓症
- d.甲状腺機能亢進症
- e.ビタミンB1欠乏症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高心拍出性心不全は、心臓のポンプ機能は保たれているのに、組織の需要が心拍出量を上回るために生じる心不全です。原因は、末梢血管抵抗の低下(動静脈瘻、ビタミンB1欠乏症、敗血症、肝硬変など)、酸素運搬能の低下(高度貧血)、代謝亢進(甲状腺機能亢進症など)の3パターンで整理できます。肺血栓塞栓症は肺動脈の閉塞により左室への血液流入が減り、心拍出量が低下する閉塞性ショックの代表で、高心拍出性心不全の原因にはなりません。高心拍出性心不全では四肢が温かく脈圧が大きいなど低心拍出性とは異なる所見を示し、治療では原因疾患の是正が最優先となるため、病態を見極める視点が臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はcです
高心拍出性心不全とは
通常の心不全(低心拍出性心不全)は、心筋梗塞や心筋症などで心臓のポンプ機能そのものが落ち、心拍出量が低下して起こる。これに対し高心拍出性心不全は、心臓のポンプ機能は保たれているか、むしろ亢進しているにもかかわらず、全身の組織が必要とする血液量(酸素需要)がそれを上回るために生じる心不全である。心拍出量は正常上限を超えて増加している(安静時心係数がおおむね4 L/分/m2以上とされることが多い)のに、需要に追いつかない状態と理解するとよい。
病態の基本パターン
高心拍出状態を生む機序は大きく次の3つに整理できる。 1. 末梢血管抵抗の低下:動静脈瘻、ビタミンB1欠乏症(脚気)、敗血症、肝硬変など。血管床が開いて血圧を保つために心拍出量が増える。 2. 酸素運搬能の低下:貧血。1回の拍出で運べる酸素が少ないため、拍出量を増やして補う。 3. 代謝(酸素需要)の亢進:甲状腺機能亢進症、発熱など。 末梢血管抵抗の低下は腎血流の相対的低下を招き、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が活性化されて体液が貯留する。容量負荷と頻脈が長期間続くことで、最終的にうっ血を伴う心不全に至る。
本問の考え方
各選択肢が「心拍出量を増やす方向の病態」か「心拍出量を減らす方向の病態」かを判断すればよい。肺血栓塞栓症だけが、肺循環の閉塞によって左心系への血液の流入が減り、心拍出量が低下する病態(閉塞性ショックの代表)であり、高心拍出性心不全の原因にはならない。
選択肢考察
- ×a. 貧血
高心拍出性心不全をきたす。ヘモグロビンが減ると血液単位量あたりの酸素含量が下がるため、組織の酸素需要を満たそうとして心拍数と1回拍出量が増え、心拍出量が増加する。さらに組織の低酸素により末梢血管が拡張し、血液の粘稠度低下も加わって末梢血管抵抗が下がる。一般にHb 7~8 g/dL以下の高度貧血、特に慢性的な重症貧血で心不全が顕在化しやすく、既存の心疾患があるとより軽い貧血でも発症しうる。
- ×b. 動静脈瘻
高心拍出性心不全をきたす。動静脈瘻では動脈血が毛細血管を経由せずに直接静脈へ流れ込む(動脈側から静脈側への左右短絡)。そのため体血管抵抗が低下し、組織を灌流しない血液が短絡路を回る分だけ心臓はより多くの血液を拍出しなければならない。同時に静脈還流量が増えるので心臓には容量負荷がかかる。外傷性・先天性の動静脈瘻のほか、透析用に作製した内シャント(特に血流量の多いもの)、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)の肝動静脈奇形なども原因となる。短絡部を指で圧迫すると脈拍が減少する現象(Branham徴候)は、短絡が心拍出量を押し上げていることを示す所見である。
- ○c. 肺血栓塞栓症
高心拍出性心不全をきたさないので、これが正解である。肺血栓塞栓症は、主に下肢の深部静脈にできた血栓が遊離して肺動脈を閉塞する疾患である。肺血管抵抗が急上昇して右室に圧負荷がかかり、右室が拡大・機能不全に陥る(急性肺性心)。肺を通過して左房・左室に戻る血液が減るため左室の前負荷が低下し、さらに拡大した右室が心室中隔を左室側へ圧排して左室の拡張も妨げる。その結果、心拍出量は低下し、重症例では血圧低下やショックに至る。これは心臓外の血流路の閉塞による閉塞性ショックの典型であり、心拍出量が増える高心拍出性の病態とは正反対である。
- ×d. 甲状腺機能亢進症
高心拍出性心不全をきたす。甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めて酸素需要を増やすとともに、熱産生の増加に伴う皮膚血管拡張や血管平滑筋への直接作用によって末梢血管抵抗を下げる。また心筋に直接作用して心拍数と収縮力を高め、循環血漿量も増やすため、心拍出量は大きく増加する。この状態が続くと、洞性頻脈や心房細動(頻脈性不整脈による心筋障害を含む)、容量負荷が重なってうっ血性心不全を発症することがある。特に高齢者や基礎心疾患のある患者で起こりやすい。
- ×e. ビタミンB1欠乏症
高心拍出性心不全をきたす。ビタミンB1(チアミン)は、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素などの補酵素として糖の好気的代謝(TCA回路への流入)に必要である。欠乏すると好気的なATP産生が滞り、乳酸などの代謝産物やアデノシンが組織に蓄積して末梢血管が拡張し、末梢血管抵抗が低下する。これを代償するため心拍出量が増えるが、心筋自身もエネルギー不足に陥っているため心不全となる。これを脚気心(衝心脚気)といい、浮腫・頻脈・乳酸アシドーシスを伴う。急激に劇症化する病型は衝心脚気(Shoshin beriberi)と呼ばれる。アルコール多飲、偏った食事、ビタミン補充のない高カロリー輸液などが原因となり、ビタミンB1投与で速やかに改善するのが特徴である。
高心拍出性心不全の主な原因
・末梢血管抵抗の低下:動静脈瘻(外傷性、先天性、透析用内シャント、Osler病の動静脈奇形)、脚気(ビタミンB1欠乏症)、敗血症、肝硬変、Paget骨病(骨内の血流増加) ・酸素運搬能の低下:高度貧血 ・代謝亢進:甲状腺機能亢進症、発熱 ・その他:妊娠(循環血漿量増加)、肥満、骨髄増殖性疾患など
低心拍出性心不全との比較
低心拍出性心不全では末梢血管は収縮し、四肢は冷たく、脈圧は小さい。高心拍出性心不全では末梢血管が拡張しているため、四肢は温かく、脈圧が大きく(速脈・大脈)、頻脈を伴うことが多い。治療では原因疾患の是正(貧血の補正、甲状腺機能の正常化、ビタミンB1補充、シャントの閉鎖など)が最も重要で、強心薬や血管拡張薬は効果に乏しいか、かえって有害なことがある。
心不全の多様性
心不全というと左室収縮力の低下を思い浮かべがちだが、心不全患者の少なからぬ割合(おおむね半数前後)は左室駆出率が保たれている(HFpEF:左室駆出率の保たれた心不全)。拡張障害による心不全や高心拍出性心不全も念頭に置いて病態を考える必要がある。
肺血栓塞栓症の循環動態
肺動脈の閉塞 → 肺血管抵抗上昇 → 右室圧負荷・右室拡大 → 左室前負荷低下+心室中隔の左室側への偏位 → 心拍出量低下・血圧低下。心電図のSⅠQⅢTⅢ、右脚ブロック、心エコーでの右室拡大・D-shape(左室が短軸像でD字状に圧排される所見)などが右心負荷を反映する。
POINT
・高心拍出性心不全は、心拍出量が増加していても組織の需要に追いつかない状態である。 ・原因は「末梢血管抵抗低下(動静脈瘻・脚気・敗血症・肝硬変)」「酸素運搬能低下(貧血)」「代謝亢進(甲状腺機能亢進症)」で整理する。 ・肺血栓塞栓症は左心系への血液流入が減って心拍出量が低下する閉塞性ショックの代表であり、高心拍出性心不全の原因ではない。 ・動静脈瘻は動脈から静脈への左右短絡である。
