「換気扇の下なら大丈夫」は本当か―たばこの害の常識と思い込みを仕分ける
第104回医師国家試験 I問題 第1問
国試問題にチャレンジ
たばこの害について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.喫煙は食道癌の危険因子である。
- b.受動喫煙は低出生体重児出産の危険性を高める。
- c.主流煙は副流煙よりも多種の有害物質を含んでいる。
- d.換気扇の下で喫煙すれば,受動喫煙の影響はなくなる。
- e.禁煙によってたばこ関連疾患の予防効果が期待できるのは60歳未満である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
喫煙は肺癌だけでなく食道癌をはじめ多くの臓器の癌の危険因子であり、特に食道扁平上皮癌では飲酒と重なるとリスクが相乗的に高まります。受動喫煙も、妊婦の低出生体重児出産や、肺癌・虚血性心疾患・脳卒中・乳幼児突然死症候群などと関連します。副流煙は不完全燃焼で生じるため主流煙より多くの有害物質を高濃度に含み、換気扇や分煙では受動喫煙を防げず、屋内の完全禁煙が必要です。禁煙は何歳で始めても心血管疾患や癌のリスク低下、余命延長が期待できます。こうした知識は、患者や家族に根拠をもって禁煙を勧めるための基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
テーマの要点
本問は、能動喫煙(自分で吸うこと)と受動喫煙(他人のたばこの煙を吸わされること)が健康に及ぼす影響、たばこの煙の性質、禁煙の効果についての基本知識を問うている。 ・能動喫煙は、肺癌をはじめ口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・膵臓・膀胱など多くの臓器の癌、虚血性心疾患や脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの危険因子である。 ・妊婦の喫煙や受動喫煙は、低出生体重児、早産、乳幼児突然死症候群(SIDS)などの胎児・乳児への悪影響と関連する。 ・たばこの煙には、喫煙者がフィルターを通して吸い込む「主流煙」と、火のついた先端から立ち上る「副流煙」がある。周囲の人が吸い込むのは、主に副流煙と喫煙者が吐き出した呼出煙が混ざったものである。 ・受動喫煙には「これ以下なら安全」という閾値がないとされ、分煙や換気では防ぎきれない。 ・禁煙は何歳から始めても健康上の利益がある。
正解を導く考え方
主流煙と副流煙の関係、換気による対策の限界、禁煙の年齢と効果という三つの定番知識を押さえていれば、誤りの選択肢を除外できる。「影響はなくなる」「〜歳未満である」のように、効果を全面的に否定・限定する断定的な表現は疑ってかかるとよい。
選択肢考察
- ○a. 喫煙は食道癌の危険因子である。
喫煙は食道癌、特に日本人に多い扁平上皮癌の代表的な危険因子であり、飲酒と重なると危険性が相乗的に高まる。たばこ煙中の発癌物質が唾液とともに食道粘膜に接触することが一因とされる。また、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の働きが弱い人(少量の飲酒で顔が赤くなる体質)は、飲酒によって食道癌の危険性がさらに高くなる。
- ○b. 受動喫煙は低出生体重児出産の危険性を高める。
妊婦自身の喫煙が低出生体重児や早産の危険因子であることはよく知られているが、非喫煙の妊婦が夫や職場などで受動喫煙にさらされた場合にも出生体重が減少し、低出生体重児(出生体重2,500 g未満)の出産が増えることが報告されている。一酸化炭素による胎児の酸素運搬能の低下や、ニコチンの血管収縮作用による胎盤血流の減少などが機序として考えられる。そのため、妊婦本人の禁煙に加え、家族など周囲の人の禁煙も求められる。
- ×c. 主流煙は副流煙よりも多種の有害物質を含んでいる。
記述は逆である。副流煙は、たばこの先端で空気の供給が少なく温度の低い不完全燃焼の状態で発生し、フィルターも通らないため、一酸化炭素、アンモニア、ニトロソアミン類などの多くの有害物質が主流煙より高い濃度で含まれている。このため、副流煙を吸わされる受動喫煙は決して軽視できない。
- ×d. 換気扇の下で喫煙すれば,受動喫煙の影響はなくなる。
換気扇では、たばこ煙中の粒子成分やガス成分をすべて屋外に排出することはできず、煙は室内に拡散する。台所の換気扇の下で吸っても、居室の微小粒子状物質(PM2.5)濃度や同居する子どもの尿中ニコチン代謝物(コチニン)濃度が上昇することが示されている。受動喫煙には安全な閾値がないとされ、防止には屋内を完全に禁煙にすることが必要である。
- ×e. 禁煙によってたばこ関連疾患の予防効果が期待できるのは60歳未満である。
禁煙の効果に年齢制限はない。禁煙後は比較的早期から心血管疾患の発症リスクが低下しはじめ、年数とともに肺癌などのリスクも下がっていく。英国の医師を長期間追跡した研究では、60歳で禁煙した場合でも平均余命がおよそ3年延長したと報告されている。禁煙は早いほど効果が大きいが、高齢者でも禁煙する意義は十分にあり、禁煙治療の対象から外れるわけではない。
主流煙・副流煙・呼出煙
・主流煙:喫煙者がフィルターを通して口から吸い込む煙 ・副流煙:火のついた先端から立ち上る煙。低温の不完全燃焼で生じ、多くの有害物質の濃度が主流煙より高い ・呼出煙:喫煙者が吐き出した煙 受動喫煙で吸い込むのは、主に副流煙と呼出煙である。煙が消えた後も壁・衣服・家具などに残留した有害物質を吸い込む「三次喫煙(残留受動喫煙)」も問題とされている。
たばこ煙の主な有害物質
・ニコチン:依存性の本体。交感神経刺激による血管収縮・血圧上昇 ・一酸化炭素:ヘモグロビンと強く結合し酸素運搬能を低下させる ・タール:多環芳香族炭化水素など多数の発癌物質を含む ・たばこ特異的ニトロソアミン、ベンゼン、ホルムアルデヒドなど
受動喫煙と健康影響
受動喫煙との因果関係が十分に確立しているものとして、肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)がある。そのほか、小児の喘息・呼吸器感染症・中耳炎、妊娠中の受動喫煙による低出生体重などとの関連が報告されている。わが国では健康増進法の改正(2020年全面施行)により、多数の者が利用する施設での原則屋内禁煙が定められた。
禁煙の効果
禁煙後、比較的短期間で血圧・脈拍や血中一酸化炭素濃度が改善し、心血管疾患のリスクは数年で大きく低下する。肺癌のリスクは10年程度の禁煙で喫煙継続者の半分程度に下がるとされる。何歳で禁煙しても余命延長の効果がある。
禁煙治療
ニコチン依存症は治療が必要な疾患と位置付けられ、一定の条件を満たせば禁煙外来での保険診療が受けられる。薬物療法にはニコチン置換療法(パッチ、ガム)などが用いられる。
POINT
・喫煙は食道癌(特に扁平上皮癌)の危険因子であり、飲酒と重なるとリスクが相乗的に高まる。 ・妊婦の喫煙だけでなく受動喫煙も低出生体重児出産の危険性を高める。 ・副流煙は主流煙より多くの有害物質を高濃度に含む。 ・換気扇や分煙では受動喫煙は防げない。受動喫煙に安全な閾値はない。 ・禁煙は何歳で始めても健康上の利益がある。
