「右上」に聴く大動脈弁―心音の聴取部位は弁の位置と一致しない
第104回医師国家試験 H問題 第20問
国試問題にチャレンジ
心音の聴取部位の写真を別に示す。 大動脈弁領域はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心音の聴取部位は弁の解剖学的位置ではなく、音が血流に沿って伝わる方向で決まり、大動脈弁領域は胸骨右縁第2肋間、肺動脈弁領域は胸骨左縁第2肋間、三尖弁領域は胸骨左縁第4〜5肋間、僧帽弁領域は心尖部です。写真や図では被検者を正面から見るため、被検者の右側が向かって左になる点に注意が必要です。大動脈弁狭窄症の駆出性雑音は大動脈弁領域で最もよく聞こえ頸部へ放散しますが、大動脈弁閉鎖不全症の拡張早期雑音は胸骨左縁第3肋間のErb領域付近で聴取しやすく、前傾座位が有用です。低音はベル型、高音は膜型で聴き分け、体位も工夫しながら一定の順序で系統的に聴診することが、雑音の見逃しを防ぐ基本となります。
解答・解説
正解はaです
心臓の聴診で「○○弁領域」と呼ばれる部位は、その弁から生じる音や雑音が最もよく聞こえる胸壁上の場所を指す。弁そのものは胸骨の裏側に近接して並んでいるが、音は血流の向きに沿って伝わるため、各弁の聴取部位は弁の解剖学的な位置を胸壁に投影した点とは一致しない。 写真では、胸骨をはさんで上方に①(右)と②(左)、その下方の乳頭の高さ付近に③(右)と④(左)、左乳頭のやや下外側に⑤が示されている。写真は被検者を正面から見ているので、被検者の右側は写真の向かって左側になる点に注意する。 標準的な4つの聴診領域は次のとおりである。 ・大動脈弁領域: 胸骨右縁第2肋間 ・肺動脈弁領域: 胸骨左縁第2肋間 ・三尖弁領域: 胸骨左縁第4〜5肋間(胸骨左縁下部) ・僧帽弁領域: 心尖部(おおむね左第5肋間と鎖骨中線の交点付近) このほか、胸骨左縁第3肋間はErb(エルブ)領域と呼ばれる。 大動脈から駆出される血流は上行大動脈を通って右上方へ向かうため、大動脈弁由来の音は胸骨右縁の上部、すなわち第2肋間で最もよく聞こえる。写真で被検者の右胸骨縁上部にあたるのは①であり、これが大動脈弁領域である。
選択肢考察
- ○a. ①
①は被検者の胸骨右縁第2肋間にあたり、大動脈弁領域である。上行大動脈に向かう血流に乗って音が右上方へ伝わるため、ここが大動脈弁の音の最良聴取部位となる。大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音(頸部へ放散する)はここで最もよく聞こえ、高音成分が中心なので膜型で聴く。大動脈弁閉鎖不全症の拡張早期の高調な逆流性雑音も膜型で聴くが、こちらはむしろErb領域や胸骨左縁でよく聞こえることが多い。
- ×b. ②
②は胸骨左縁第2肋間で、肺動脈弁領域である。肺動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音や、肺動脈弁閉鎖不全症の拡張早期雑音(Graham Steell雑音など)を聴く部位である。Ⅱ音を構成する大動脈成分(ⅡA)と肺動脈成分(ⅡP)の分裂を評価するのにも適しており、心房中隔欠損症でみられるⅡ音の固定性分裂はここで確認する。高音成分が主体なので膜型を用いる。
- ×c. ③
③は胸骨右縁下部(第4肋間付近)にあたる。4つの標準的な聴診領域のいずれにも該当せず、特定の弁の音を最もよく聴取する部位ではない。三尖弁領域は胸骨の「左」縁下部であり、③と取り違えないように注意する。
- ×d. ④
④は胸骨左縁下部(第4〜5肋間)で、三尖弁領域である。三尖弁閉鎖不全症の収縮期逆流性雑音を膜型で聴く。この雑音は吸気で右心系への静脈還流が増えるため増強する(Rivero-Carvallo徴候)。右心系由来の低調なⅢ音はベル型で聴く。
- ×e. ⑤
⑤は心尖部で、僧帽弁領域である。僧帽弁狭窄症ではⅠ音亢進と僧帽弁開放音(opening snap)を膜型で、低調な拡張期ランブル(拡張中期雑音)と前収縮期雑音をベル型で聴く。僧帽弁閉鎖不全症の全収縮期逆流性雑音(左腋窩へ放散)は膜型で聴く。低調なⅢ音・Ⅳ音もここでベル型を用いて聴取することが多い。
聴診器の使い分け
ベル型は胸壁に軽く当てて低い音(Ⅲ音、Ⅳ音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルなど)を聴くのに用いる。膜型は胸壁にしっかり押し当てて高い音(Ⅰ音・Ⅱ音、Ⅱ音分裂、開放音、クリック、多くの収縮期雑音、大動脈弁・肺動脈弁の拡張早期逆流性雑音など)を聴くのに用いる。ベル型を強く押しつけると皮膚が膜の役割を果たし、低音が減弱して膜型に近い聴こえ方になる。
Erb領域
胸骨左縁第3肋間をErb領域と呼ぶ。大動脈弁閉鎖不全症の拡張早期雑音はこの部位を中心とした胸骨左縁で最もよく聞こえることが多く、座位で前傾・呼気止めにすると聴き取りやすくなる。
効率的な聴診の順序
心尖部(僧帽弁領域)→胸骨左縁下部(三尖弁領域)→胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)→胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域)のように、一定の順序で系統的に聴くと聞き漏らしが少ない。低音成分は心尖部で聞こえることが多いため、まず心尖部でベル型を軽く当てて低音を聴き、次に膜型で高音を聴き、その後各領域を膜型で聴いていくとよい。三尖弁疾患は頻度が低いが、胸骨左縁下部でも心尖部と同様にベル型・膜型の両方で聴くと見逃しにくい。さらに、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルは左側臥位で、大動脈弁閉鎖不全症の雑音は前傾座位で聴き取りやすくなるなど、体位の工夫も有用である。
POINT
・大動脈弁領域: 胸骨右縁第2肋間 ・肺動脈弁領域: 胸骨左縁第2肋間 ・Erb領域: 胸骨左縁第3肋間(大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音) ・三尖弁領域: 胸骨左縁第4〜5肋間 ・僧帽弁領域: 心尖部 ・聴取部位は弁の解剖学的位置とは一致しない ・写真は被検者を正面から見ているため、左右を取り違えない ・ベル型は低音、膜型は高音
