StudyMed医師国家試験

運転できなくても「自立」している?―基本的ADLと手段的ADLの境界線

第104回医師国家試験 H問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第104回 H問題 第2問

高齢者の基本的なADLの評価項目として誤っているのはどれか。

  1. a.bathing
  2. b.dressing
  3. c.driving
  4. d.eating
  5. e.toileting

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者の生活機能評価、つまりADLの問題だ。ポイントは、ADLを「基本的ADL」と「手段的ADL」の2層に分けて考えられるかどうか。英語の選択肢が並んでいるけれど、それぞれが身の回りの動作なのか、社会生活のための動作なのかを見分ければ答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
ADLというと、食事やトイレみたいな日常の動作全部を指すものだと思っていました。運転も毎日する人には日常動作ですよね。
ドクタードクター
その感覚はよくわかるし、実はそこがこの問題の狙いなんだ。基本的ADL、BADLとも言うけれど、これは食事・更衣・入浴・整容・トイレ動作・排尿排便の管理・移乗・移動のように、自分の身の回りを整えるための最低限の動作を指す。一方、手段的ADL、IADLは電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用、服薬管理、金銭管理のように、道具や判断力を使って地域で自立して暮らすための、より複雑な動作だ。
医学生医学生
なるほど。そうすると運転は外出のための手段なので、手段的ADLのほうに入るということですか。
ドクタードクター
その通り。Lawtonの手段的ADL尺度では「交通手段の利用」という項目に、自分で運転することや公共交通機関を使うことが含まれている。運転ができなくてもバスや家族の送迎で代わりがきくから、身の回りの自立とは直接は結びつかない。だから基本的ADLの評価項目としては誤り、これが正解になる。
医学生医学生
基本的ADLにも「移動」がありますよね。運転も移動の一種だと考えて混乱しそうです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。基本的ADLの移動は、平地を歩けるか、車椅子を自分で操作できるかという身体動作のことで、自動車の運転とは別物なんだ。では残りの選択肢を確認しよう。入浴はどうかな。
医学生医学生
老年医学の講義で、入浴は介助が必要になりやすい動作だと習いました。Barthel indexにも入っていたはずです。
ドクタードクター
よく覚えているね。入浴は浴槽の出入りや体を洗う動作まで含むから、バランスや筋力が落ちるとまず難しくなる。Barthel indexにもKatz indexにも入っている代表的な基本的ADLだ。更衣も同じく両方の尺度に含まれる。ボタンやファスナー、靴の着脱まで含めた身支度の動作だね。
医学生医学生
食事は少し迷いました。料理をするのは手段的ADLだった気がするので。
ドクタードクター
鋭い。そこは区別が必要で、用意された食事を口に運んで食べる動作は基本的ADL、食事を作ることは手段的ADLだ。尺度ではfeedingと表記されることが多い。トイレ動作も、トイレへの出入り、便座への移乗、衣服の上げ下げ、後始末までを含む基本的ADLで、失禁の有無は排尿・排便コントロールとして別項目で評価する。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科を回ったとき、FIMという評価もありました。あれはBarthel indexとどう違うんでしょうか。
ドクタードクター
FIMは運動項目13と認知項目5の計18項目を1〜7点で評価するもので、実際に「している」ADLを細かくとらえるのが特徴だ。Barthel indexは10項目で100点満点、Katz indexは6項目を自立か依存かで判定する。目的に応じて使い分けるんだよ。
医学生医学生
評価尺度ごとに項目を丸暗記するより、身の回りか社会生活かで分けて考えたほうが整理しやすいですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床でもう一つ大事なのは、高齢者の生活機能はふつう、より複雑な手段的ADLから落ち始め、進むと基本的ADLに及ぶという点だ。たとえば服薬管理や金銭管理ができなくなってきたことが、認知症の初期やフレイルに気づくきっかけになることも多い。
医学生医学生
外来で「最近、薬の飲み忘れが増えた」と家族が話していたら、それ自体が大事なサインになるわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから高齢者総合機能評価、CGAでは、病気だけでなく基本的ADLと手段的ADL、認知機能、気分、家族や住環境といった社会的状況までを多面的に評価して、治療やケアの方針に生かすんだ。運転についても、高齢者の免許返納の相談に乗る場面では、手段的ADLと認知機能の評価がそのまま役に立つよ。

まとめ

ADLは、食事・更衣・入浴・整容・トイレ動作・排泄管理・移乗・移動などの身の回りの動作である基本的ADLと、電話・買い物・食事の準備・家事・洗濯・交通手段の利用・服薬管理・金銭管理などの手段的ADLに分けて評価します。自動車の運転は外出の手段であり、Lawtonの尺度では交通手段の利用に含まれる手段的ADLのため、基本的ADLの評価項目ではありません。基本的ADLの代表的な尺度はBarthel index(10項目・100点満点)とKatz index(6項目)で、リハビリテーション領域ではFIMも広く使われます。生活機能の低下は手段的ADLから始まり基本的ADLへ進むことが多く、その早期の変化は認知症やフレイルに気づく手がかりになります。2つの層を区別して評価する視点は、高齢者総合機能評価や退院支援、介護サービスの調整など、高齢者診療のあらゆる場面の土台となります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

日常生活動作(ADL:activities of daily living)の評価は、高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)の中心となる項目である。ADLは大きく次の2つに分けて考える。 ・基本的ADL(BADL:basic ADL):食事、更衣、入浴、整容、排泄(トイレ動作・排尿排便の管理)、移乗、移動、階段昇降など、自分の身の回りのことを行うための最低限の動作。 ・手段的ADL(IADL:instrumental ADL):電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用(自動車の運転や公共交通機関の利用)、服薬管理、金銭管理など、地域で自立した生活を送るために必要な、より複雑で道具や判断力を要する動作。

考え方

選択肢の英語が、身の回りの動作(BADL)なのか、社会生活の中で道具を使う動作(IADL)なのかを見分ければよい。bathing(入浴)、dressing(更衣)、eating(食事)、toileting(トイレ動作)はいずれも代表的なBADLの評価指標であるBarthel indexやKatz indexに含まれる項目である。driving(自動車の運転)は外出・移動の手段であり、IADLに分類されるため、基本的ADLの評価項目ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  bathing

    bathingは入浴のことで、浴槽への出入り、シャワーの使用、体を洗う・拭くといった一連の動作を指す。Barthel index、Katz indexのいずれにも含まれる基本的ADLの項目である。高齢者では介助が必要になりやすい動作の一つである。

  2. ×b.  dressing

    dressingは更衣のことで、衣服を取り出して着る・脱ぐ、ボタンやファスナー、靴の着脱などを含めた身支度の動作を指す。Barthel index、Katz indexに含まれる基本的ADLの項目である。

  3. ○c.  driving

    drivingは自動車の運転であり、身の回りの基本動作ではなく、外出・移動の「手段」として手段的ADL(IADL)に分類される(Lawtonの尺度では「交通手段の利用」に含まれる)。運転できなくても公共交通機関や家族の送迎などで代替でき、身の回りの自立とは直接関係しない。したがって基本的ADLの評価項目としては誤りである。なお、基本的ADLの「移動」は歩行や車椅子の操作を指し、自動車の運転とは異なる。

  4. ×d.  eating

    eatingは食事のことで、用意された食事を箸やスプーンなどを使って口に運び、適切な時間内に摂取する動作を指す(Barthel index、Katz indexではfeedingと表記される)。基本的ADLの項目である。なお、食事を作ること(food preparation)は手段的ADLに分類される点と区別する。

  5. ×e.  toileting

    toiletingはトイレ動作のことで、トイレへの出入り、便座への移乗、衣服の上げ下げ、トイレットペーパーの使用、後始末などを含む。Barthel index、Katz indexに含まれる基本的ADLの項目である。排尿・排便のコントロール(失禁の有無)も別項目として評価される。

代表的な評価尺度

1. Barthel index(基本的ADL) 10項目を自立・部分介助・全介助などで点数化し、合計100点満点で評価する。 食事(feeding)、車椅子からベッドへの移乗(transfers)、整容(grooming)、トイレ動作(toilet use)、入浴(bathing)、平地歩行(mobility)、階段昇降(stairs)、更衣(dressing)、排便コントロール(bowels)、排尿コントロール(bladder)。 2. Katz index(基本的ADL) 入浴、更衣、トイレ動作、移乗、排尿・排便の自制(continence)、食事の6項目を自立・依存で評価する。これらの能力は、失われるときは入浴→更衣→トイレ…の順に、回復するときはその逆順になりやすいとされる。 3. 機能的自立度評価法(FIM:functional independence measure) セルフケア・排泄・移乗・移動の運動項目13項目と、コミュニケーション・社会的認知の認知項目5項目の計18項目を、それぞれ1〜7点で評価する(18〜126点)。実際に「している」ADLを評価する点が特徴で、リハビリテーション領域で広く用いられる。 4. Lawtonの手段的ADL尺度(IADL) 電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用(自分で運転する・公共交通機関を使うなど)、服薬管理、金銭管理の8項目。

高齢者総合機能評価(CGA)

高齢者の病気だけでなく、身体機能(BADL・IADL)、認知機能(MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなど)、気分・意欲(老年期うつ病評価尺度GDSなど)、社会的・経済的状況(家族構成、介護者、住環境、社会資源)などを多面的に評価し、治療やケアの方針に生かす手法である。

BADLとIADLの関係

一般に、高齢者の生活機能の低下はより複雑な動作であるIADLから始まり、進行するとBADLに及ぶ。そのためIADLの低下は、認知症の初期やフレイルの早期発見の手がかりとなる。

POINT

・基本的ADL(BADL):食事・更衣・入浴・整容・トイレ動作・排尿排便・移乗・移動・階段など身の回りの動作 ・手段的ADL(IADL):電話・買い物・食事の準備・家事・洗濯・交通手段(運転を含む)・服薬管理・金銭管理 ・driving(運転)はIADLであり、基本的ADLではない ・BADLの代表的尺度はBarthel index(10項目、100点満点)とKatz index(6項目)、IADLはLawtonの尺度 ・生活機能の低下はIADLから始まりBADLへ進む

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。