StudyMed医師国家試験

「治す」の先にあるもの―リハビリテーションは疾病ではなく障害と向き合う

第104回医師国家試験 G問題 第67問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第67問

リハビリテーションについて正しいのはどれか。

  1. a.介護保険では行わない。
  2. b.ゴールは医療者が決める。
  3. c.疾病の急性期には行わない。
  4. d.住居環境整備の指導は行わない。
  5. e.疾病の三次予防にはかかわらない。
  6. f.自立が期待できる患者を優先して行う。
  7. g.疾病の治癒よりも障害の軽減を目指す。
  8. h.ノーマライゼーションの概念とは相容れない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はリハビリテーションの基本理念を問う問題だ。選択肢がたくさん並んでいるけれど、「リハビリテーションは何を対象に、いつ、どこで、誰のために行うのか」という軸を一本持っていれば迷わない。まず聞きたいんだけど、リハビリテーションって一言でいうと何だと思う?
医学生医学生
筋力や関節の動きを取り戻す訓練、というイメージです。整形外科の実習でPTさんが歩行訓練をしているのをよく見ました。
ドクタードクター
それも大事な一部だね。でも語源をたどると、ラテン語で「再び適した状態にする」という意味で、日本語では「全人間的復権」と訳されることが多い。障害をもった人が身体的・精神的・社会的・職業的に、その人なりの力を発揮して再び人間らしく生きられるようにする、総合的な取り組みなんだ。
医学生医学生
訓練だけじゃなく、生活や社会参加まで含むということですね。
ドクタードクター
そう。そして一般の臨床医学との一番の違いは対象だ。内科や外科は病気そのものを診断・治療して治癒を目指す。一方リハビリテーション医学が向き合うのは、病気の結果として生じた「障害」なんだ。だから正解は「疾病の治癒よりも障害の軽減を目指す」になる。
医学生医学生
脳梗塞で麻痺が残った患者さんは、梗塞そのものは治せなくても、歩けるように、着替えられるようにしていくわけですね。
ドクタードクター
まさにそれ。機能回復訓練に加えて、残った機能を活かす代償手段、装具や福祉用具、環境の調整を組み合わせて、生活への影響を小さくする。では他の選択肢も見ていこう。「急性期には行わない」はどうかな。
医学生医学生
急性期は安静が大事なので、落ち着いてから始めるもの……と思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。安静臥床が続くと、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡などが起こる。これが廃用症候群だ。だから全身状態に配慮しながら、発症や手術の直後から早期離床を進めるのが原則なんだ。脳卒中では急性期からの開始が機能予後の改善につながると示されている。
医学生医学生
神経内科の実習で、入院翌日にはもうベッドサイドでSTさんが嚥下評価をしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい観察だ。次は制度面。介護保険ではリハビリを行わない、というのは?
医学生医学生
デイケアや訪問リハがあるので、介護保険でも行いますよね。
ドクタードクター
正解。急性期と回復期は主に医療保険、維持期(生活期)は主に介護保険で、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーション、介護老人保健施設での入所リハが提供される。住環境整備の指導を行わない、というのも誤りで、手すりの設置や段差解消、洋式トイレへの変更などを指導するし、退院前に自宅を訪問して評価することもある。介護保険では住宅改修費の支給や福祉用具の貸与も制度化されているよ。
医学生医学生
ゴールは医療者が決める、というのも違和感があります。OSCEの医療面接でも患者中心と何度も言われました。
ドクタードクター
その感覚で正しい。目標は本人がどんな生活を送りたいかを中心に設定する。医師、PT、OT、ST、看護師、MSWなどのチームは評価や予後予測を示して実現可能な目標づくりを支援する立場で、本人や家族と話し合って決めるんだ。同じ理由で、自立が期待できる患者を優先するという考えも誤り。重度障害の人でも、座位保持や介助量の軽減、拘縮・褥瘡の予防、コミュニケーション手段の確保で生活の質は上げられる。
医学生医学生
残りは三次予防とノーマライゼーションですね。公衆衛生の講義で、三次予防は再発予防や社会復帰だと習いました。
ドクタードクター
その通り。一次予防が発病の予防、二次予防が早期発見・早期治療、三次予防が発病後の悪化防止・機能回復・社会復帰で、リハビリはその中心だ。ノーマライゼーションは、障害の有無や年齢にかかわらず誰もが地域で普通の生活を送れる社会を目指す理念で、デンマークの知的障害者の処遇改善運動から生まれた。地域での生活と社会参加を目指すリハビリとは方向性が同じなんだ。
医学生医学生
なるほど、対象は障害、急性期から生活期まで切れ目なく、医療保険と介護保険の両方で、本人中心に目標を立てる。この軸に照らせば全部判断できますね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展として、障害の捉え方も押さえておこう。1980年のICIDHは機能障害、能力障害、社会的不利を一方向の階層で捉えていた。2001年のICFでは「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベルに、環境因子と個人因子が双方向に影響し合うモデルになった。環境を整えれば障害を軽くできる、という考え方が明確になったわけだ。
医学生医学生
住宅改修の指導も、ICFでいう環境因子へのアプローチなんですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床に出たら、病気を治すことに加えて「この人は退院後どう暮らすのか」を早い段階から考える習慣をつけてほしい。PTは基本動作、OTは応用動作やADL、STは言語や嚥下と、それぞれの専門職の役割を知っておくとチームで動きやすくなるよ。

まとめ

リハビリテーションは「全人間的復権」を意味し、疾病そのものの治癒ではなく、疾病によって生じた障害の軽減と生活の質の向上を目指す点で一般の治療医学と異なります。廃用症候群を防ぐため急性期から開始し、回復期・維持期まで医療保険と介護保険の両方の枠組みで切れ目なく提供され、住環境整備や社会参加の支援も含まれます。目標は本人の希望を中心に多職種チームと話し合って設定し、自立の見込みにかかわらず残存機能を最大限に活かすことを目指します。予防の3段階では三次予防の中心であり、ノーマライゼーションやICFの理念とも一致します。この基本理念を理解しておくことは、病気を治した後の患者の生活までを見据えた診療の土台になります。

解答・解説

正解はgです

問われているテーマ

リハビリテーションの基本理念と、医療・福祉の中での位置付けを問う問題である。

リハビリテーションとは

リハビリテーション(rehabilitation)は、ラテン語で「再び(re)適した状態にする(habilis)」を語源とし、「全人間的復権」と訳されることが多い。単に筋力や関節の動きを回復させる訓練ではなく、障害をもった人が身体的・精神的・社会的・職業的・経済的に、その人なりに最大限の能力を発揮して、再び人間らしく生きられるようにするための総合的な取り組みを指す。 一般の臨床医学が「疾病(病気そのもの)」を診断・治療して治癒を目指すのに対し、リハビリテーション医学が対象とするのは疾病の結果として生じた「障害」である。障害を評価し、機能回復訓練、残存機能の活用、補装具・福祉用具の導入、環境の調整などによって障害の影響を小さくし、生活の質(QOL)を高めることが目標となる。

正解を導く考え方

上記の理念を押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。リハビリテーションは、①急性期から維持期(生活期)まで切れ目なく、②医療保険と介護保険の両方の枠組みで、③住環境や社会参加まで視野に入れて、④患者本人の意思を中心に目標を定めて行われる。これらの特徴と矛盾する選択肢を除いていくと、「疾病の治癒よりも障害の軽減を目指す」が残る。

選択肢考察

  1. ×a.  介護保険では行わない。

    介護保険制度でもリハビリテーションは重要なサービスである。代表的なものに、介護老人保健施設や病院・診療所に通って受ける通所リハビリテーション(デイケア)、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪れる訪問リハビリテーションがあり、介護老人保健施設への入所中にも行われる。急性期・回復期は主に医療保険で、維持期(生活期)は主に介護保険でリハビリテーションが提供されるという役割分担がある。

  2. ×b.  ゴールは医療者が決める。

    リハビリテーションの目標は、本人がどのような生活を送りたいかという希望や価値観を中心に設定される。医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、医療ソーシャルワーカーなどのチームは、障害の評価結果や予後予測を示し、実現可能な目標を立てられるよう助言・支援する立場であり、最終的には患者本人(本人の意思表示が難しい場合は家族も含めて)と話し合って決める。医療者が一方的に決めるものではない。

  3. ×c.  疾病の急性期には行わない。

    安静臥床が続くと、筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨粗鬆症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、心肺機能低下、認知機能低下などが生じる。これらを廃用症候群(生活不活発病)という。これを防ぐため、全身状態に配慮しながら発症・手術直後の急性期から早期にリハビリテーションを開始するのが原則である(早期離床)。脳卒中などでは、急性期からのリハビリテーション開始が機能予後の改善につながることが示されている。

  4. ×d.  住居環境整備の指導は行わない。

    リハビリテーションの最終目標は、患者が家庭や地域で生活し、社会に参加できるようにすることである。そのため、手すりの設置、段差の解消、洋式トイレへの変更、車椅子が通れる通路幅の確保など、その人の障害と生活環境に合わせた住宅改修や福祉用具の導入を指導する。退院前に自宅を訪問して環境を評価することもある。介護保険では住宅改修費の支給や福祉用具の貸与も制度化されている。

  5. ×e.  疾病の三次予防にはかかわらない。

    予防医学は3段階に分けられる。一次予防は発病そのものを防ぐこと(健康増進、予防接種など)、二次予防は早期発見・早期治療で重症化を防ぐこと(検診など)、三次予防は発病後の障害の悪化防止、再発予防、機能回復、社会復帰を図ることである。リハビリテーションはまさに三次予防の中心となる取り組みである。

  6. ×f.  自立が期待できる患者を優先して行う。

    リハビリテーションは、完全な自立を達成できるかどうかにかかわらず、その人の残存機能を最大限に引き出し、少しでも生活の質を高めることを目的とする。自立が難しい重度障害者であっても、座位保持や介助量の軽減、拘縮・褥瘡の予防、コミュニケーション手段の確保などによって本人と介護者の負担を減らせる。自立の見込みの有無で対象の優先順位を決めることはない。

  7. ○g.  疾病の治癒よりも障害の軽減を目指す。

    リハビリテーション医学の対象は疾病そのものではなく、疾病によって生じた「障害」である。原因となる病気が治癒しない場合や、後遺症が残った場合でも、機能回復訓練、代償手段の獲得、補装具・福祉用具の活用、環境調整を通じて、日常生活や社会生活への影響を小さくすることを目指す。疾病の治癒を目標とする一般の治療医学との違いを端的に表した記述であり、正しい。

  8. ×h.  ノーマライゼーションの概念とは相容れない。

    ノーマライゼーションとは、障害の有無や年齢にかかわらず、すべての人が地域社会の中で普通の(ノーマルな)生活を送れるような社会をつくるという理念で、1950年代にデンマークで知的障害者の処遇改善運動から生まれた。障害者が家庭や地域で生活し社会参加することを目指すリハビリテーションは、この理念と方向性を同じくするものであり、相容れないという記述は誤りである。

リハビリテーションの4つの分野

・医学的リハビリテーション:医療機関での機能回復訓練(理学療法、作業療法、言語聴覚療法など)。 ・教育的リハビリテーション:障害児への特別支援教育など。 ・職業的リハビリテーション:職業訓練、就労支援。 ・社会的リハビリテーション:社会生活力の獲得、福祉制度の活用、社会参加の支援。

病期によるリハビリテーションの流れ

・急性期:発症・手術直後から、廃用症候群の予防と早期離床を目的に行う(主に急性期病院、医療保険)。 ・回復期:機能回復とADL(日常生活動作)の向上を集中的に図る(回復期リハビリテーション病棟など、医療保険)。 ・維持期(生活期):獲得した機能の維持と、家庭・地域での生活の継続を支える(通所・訪問リハビリテーションなど、主に介護保険)。

障害の捉え方(ICIDHからICFへ)

1980年のWHO国際障害分類(ICIDH)は、障害を機能障害(impairment)→能力障害(disability)→社会的不利(handicap)という一方向の階層で捉えた。2001年に採択された国際生活機能分類(ICF)では、人の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つのレベルで捉え、それぞれに問題が生じた状態を機能障害・活動制限・参加制約とした。さらに健康状態と、「環境因子」「個人因子」という背景因子が互いに影響し合うという双方向のモデルとなり、環境を整えることで障害が軽減できるという考え方が明確になった。住環境整備の指導もこの考え方に基づく。

予防の3段階

・一次予防:発病の予防(生活習慣の改善、予防接種、健康教育)。 ・二次予防:早期発見・早期治療(がん検診、健康診断)。 ・三次予防:発病後の重症化・再発の防止、機能回復、社会復帰(リハビリテーション)。

チーム医療

リハビリテーションは、リハビリテーション科医、理学療法士(PT:基本動作・移動能力)、作業療法士(OT:応用動作・ADL・高次脳機能)、言語聴覚士(ST:言語・構音・嚥下)、看護師、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど多職種が連携して行う。

POINT

・リハビリテーションの対象は「疾病」ではなく「障害」であり、障害の軽減とQOLの向上を目指す(全人間的復権)。 ・急性期から開始する(廃用症候群の予防、早期離床)。 ・医療保険に加え、介護保険でも通所・訪問リハビリテーションとして提供される。 ・目標は本人の意思を中心に、本人・家族と医療チームが話し合って設定する。 ・住環境整備の指導や社会参加の支援も含まれる。 ・予防の3段階のうち三次予防の中心であり、ノーマライゼーションの理念と一致する。 ・自立の見込みにかかわらず、残存機能を最大限に活かすことを目指す。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。