嗄声は窒息へのカウントダウン―蜂刺されアナフィラキシーで「手元に置く」べき器具
第104回医師国家試験 G問題 第62問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,61~63の問いに答えよ。 43歳の男性。嗄声と息苦しさとを主訴に搬入された。 現病歴:庭で草花の手入れをしていて指を蜂に刺された。数分後口渇感に続いて嗄声を生じ,息苦しさを感じた。一緒にいた家族が救急車を要請した。 既往歴:以前,蜂に刺されたことがあったが,治療を要するほどではなかった。アレルギー歴に特記すべきことはない。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。身長172 cm,体重60 kg。呼吸数24/分。脈拍112/分,整。血圧90/58 mmHg。顔面は浮腫状である。心音に異常を認めない。呼気時に喘鳴を聴取する。四肢は温かい。 検査所見:動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.50,PaO2 78 Torr,PaCO2 30 Torr,HCO3-20 mEq/L。
直ちに使えるように用意しておく器具はどれか。
- a.耳鏡
- b.検眼鏡
- c.前鼻鏡
- d.喉頭鏡
- e.胸腔鏡
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
蜂刺傷後に急速に出現した嗄声や顔面浮腫は、アナフィラキシーによる喉頭浮腫の徴候であり、進行すれば上気道閉塞による窒息に至ります。浮腫が進むほど声門の確認とチューブの挿入が難しくなるため、喉頭鏡や気管チューブ、バッグバルブマスク、吸引器などの挿管器具を直ちに使える状態で準備し、気道症状が悪化すれば早期に気管挿管を行います。挿管も換気もできない場合に備え、輪状甲状靱帯切開のセットも用意しておくことが望まれます。耳鏡・検眼鏡・前鼻鏡は診察用の器具、胸腔鏡は手術室で用いる内視鏡であり、救急の気道確保には使いません。今は保たれている酸素化や意識に安心せず、起こりうる最悪の事態から逆算して準備する姿勢は、救急診療全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はdです
病態の確認
蜂毒に一度感作された43歳男性が再び蜂に刺され、数分で口渇感・嗄声・息苦しさを生じた。顔面浮腫、呼気時喘鳴、頻呼吸(24/分)、頻脈(112/分)、血圧低下(90/58 mmHg)、温かい四肢を伴っており、IgEを介したI型アレルギーによるアナフィラキシーで、ショックに移行しつつある状態である。動脈血ガスは過換気による呼吸性アルカローシス(pH 7.50、PaCO2 30 Torr)で、PaO2は78 Torrと軽度低下にとどまり、まだ高二酸化炭素血症や高度の低酸素血症には至っていない。
注目すべき所見
嗄声は声帯・喉頭の浮腫を、顔面浮腫は同じ機序で上気道の粘膜にも浮腫が及んでいる可能性を示している。アナフィラキシーによる喉頭浮腫は分単位で急速に進行することがあり、完全な上気道閉塞(窒息)はショックと並ぶ主要な死因である。
設問の考え方
問われているのは、この患者の急変に備えて「すぐに使える状態で手元に置いておく器具」である。すなわち、今後起こりうる致死的な事態を予測し、それに対処するための器具を選ぶ。本症例で最も警戒すべきは喉頭浮腫の進行による気道閉塞であり、その対処は気管挿管による確実な気道確保である。浮腫が進んでからでは声門が見えにくく、チューブも通りにくくなるため、挿管は早めの判断が求められる。そのため、気管挿管に必要な器具(喉頭鏡、気管チューブ、バッグバルブマスク、吸引器など)をあらかじめ準備しておくことが重要になる。さらに挿管も換気もできない場合(CICV: cannot intubate, cannot ventilate)に備えて、輪状甲状靱帯切開のセットも準備しておくのが望ましい。
選択肢考察
- ×a. 耳鏡
耳鏡は外耳道と鼓膜を観察するための器具で、中耳炎や外耳炎、鼓膜穿孔などの診断に用いる。アナフィラキシーの急変時に行う気道確保や循環管理には役立たず、直ちに用意すべき器具ではない。
- ×b. 検眼鏡
検眼鏡(眼底鏡)は眼底を観察する器具で、うっ血乳頭や糖尿病網膜症、高血圧性眼底変化などの評価に用いる。アナフィラキシーで起こりうる致死的な事態(気道閉塞・ショック)への対処には使わない。
- ×c. 前鼻鏡
前鼻鏡は鼻腔の前方を広げて観察する器具で、鼻出血部位の確認や鼻茸、鼻中隔弯曲などの診察に用いる。鼻腔の観察では喉頭の状態は分からず、気道確保の処置にも使えないため、本症例で準備する必要はない。
- ○d. 喉頭鏡
喉頭鏡はブレードで舌根と喉頭蓋を持ち上げて声門を直視し、気管チューブを声門へ通すための器具である。本症例は嗄声と顔面浮腫から喉頭浮腫が始まっていると考えられ、これが進行すれば上気道が閉塞して窒息に至る。浮腫が高度になるほど声門の確認とチューブの挿入が困難になるため、気道狭窄の悪化の兆し(嗄声の増悪、吸気性喘鳴、発声困難、SpO2低下など)があれば早期に気管挿管できるよう、喉頭鏡を含む挿管器具一式を直ちに使える状態にしておく必要がある。喉頭の浮腫の程度を直視で確かめる目的にも使える。
- ×e. 胸腔鏡
胸腔鏡は、胸壁に小切開を加えて胸腔内に挿入し、胸膜や肺を観察したり手術(胸腔鏡下手術: VATS)を行ったりする内視鏡である。通常は手術室で全身麻酔・分離肺換気下に使用するもので、ベッドサイドの救急処置に用いる器具ではない。なお、救急の場で胸腔に関する処置が必要になるのは緊張性気胸などであり、その場合に準備するのは胸腔穿刺針や胸腔ドレーンである。
アナフィラキシーにおける気道管理
・喉頭浮腫(声門・声門上の浮腫)はアナフィラキシーの主な死因の一つである。嗄声、発声困難、嚥下困難、流涎、吸気性喘鳴(stridor)、口唇・舌の腫脹は気道閉塞が迫っているサインである。 ・アドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、大腿前外側部)はα1作用で粘膜浮腫を軽減し、β2作用で気管支を拡張するため、気道症状に対しても第一選択の治療である。 ・浮腫が進行すると、マスク換気も気管挿管も困難になる。気道症状が進行性であれば、経験のある医師が早期に挿管を行う。挿管チューブは通常より細めのものも用意しておく。 ・挿管も換気もできない場合は、外科的気道確保(輪状甲状靱帯切開・穿刺)が必要となる。
救急外来で準備する気道確保器具
喉頭鏡(ブレードと光源の確認)、気管チューブ(複数サイズ)とスタイレット、バッグバルブマスク、酸素、吸引器、カフ用シリンジ、声門上器具、ビデオ喉頭鏡、輪状甲状靱帯切開キットなど。
選択肢の器具の用途の整理
耳鏡: 外耳道・鼓膜 検眼鏡: 眼底 前鼻鏡: 鼻腔前部 喉頭鏡: 声門の直視、気管挿管 胸腔鏡: 胸腔内の観察・手術(手術室で使用)
POINT
・アナフィラキシーの2大死因は「ショック」と「喉頭浮腫による窒息」である。 ・嗄声・顔面浮腫は喉頭浮腫の徴候であり、急速に上気道閉塞へ進行しうる。 ・浮腫が進むと挿管が困難になるため、喉頭鏡などの挿管器具を常に準備し、気道症状が進めば早期に気管挿管する。 ・挿管・換気が不能なら輪状甲状靱帯切開による外科的気道確保を行う。
