StudyMed医師国家試験

支援で「麻痺」は治るのか?―ICFで読み解く社会的支援の守備範囲

第104回医師国家試験 G問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第5問

社会的支援(social support)の効果で誤っているのはどれか。

  1. a.ADLの向上
  2. b.QOLの向上
  3. c.死亡率の低下
  4. d.機能障害の軽減
  5. e.参加制約の軽減

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、社会的支援が何に効いて、何には直接効かないのかを問うている。カギになるのは、障害を3つのレベルに分けて考えるWHOの国際生活機能分類、つまりICFの枠組みだ。まず、社会的支援と聞いてどんなものを思い浮かべるかな。
医学生医学生
家族の介護や、介護保険のサービス、友人の励ましなんかでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。社会的支援は、家族・友人・地域・行政・医療福祉サービスなど、本人を取り巻く人間関係や社会資源から提供される支援の総称だ。中身は、共感や励ましの情緒的支援、介助や金銭・サービスの手段的支援、助言や情報提供の情報的支援、肯定的な評価を与える評価的支援に分けられる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、健康の社会的決定要因の一つとして出てきた気がします。
ドクタードクター
その通り。では本題だ。ICFでは障害を、心身機能・身体構造の問題である機能障害、課題や行為をこなす困難である活動制限、社会生活へのかかわりの困難である参加制約の3つでとらえる。さらにこれらは健康状態だけでなく、環境因子と個人因子との相互作用で決まるとされている。
医学生医学生
昔のICIDHは、機能障害から能力障害、社会的不利へと一方向でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ICFは双方向の相互作用モデルに変わった点が大きい。ここで考えてほしいのは、社会的支援がICFのどこに働きかけるかだ。
医学生医学生
周りの人やサービスなので、環境因子でしょうか。
ドクタードクター
正解。社会的支援は環境因子を改善する働きかけなんだ。たとえば脳卒中で片麻痺が残った人を考えよう。介助や福祉用具、住宅改修があれば、食事や更衣、移動といった日常生活動作はできるようになる。これはADLの向上で、ICFでは活動のレベルにあたる。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科を回ったとき、手すりの設置や段差解消で、退院後に自宅で生活できるようになった患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにそれだね。同じように、移動支援や職場の合理的配慮、就労支援があれば、通勤や就労といった社会参加も可能になる。これが参加制約の軽減だ。そして、孤立感や抑うつが和らぎ、活動や参加の機会が広がれば、生活の質、つまりQOLも高まる。QOLの向上は社会的支援の中心的な目的そのものと言える。
医学生医学生
死亡率の低下まで効果に入るのは少し意外です。そこまで言えるんですか。
ドクタードクター
これは疫学研究で示されているんだ。米国カリフォルニア州アラメダ郡の住民を追跡したBerkmanらの研究をはじめ、社会的つながりや支援が乏しい人ほど死亡率が高いという報告が多い。受診や服薬の継続、栄養や衛生の確保、ストレスの緩和、ADLが保たれることによる廃用や合併症の予防などを通じて、死亡率の低下につながると考えられている。
医学生医学生
となると、残るのは機能障害の軽減ですね。でも支えがあれば回復も早まりそうで、ちょっと迷います。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。ストレス緩和や治療継続を通じて間接的に経過が良くなる、という見方もありうる。ただICFの枠組みで考えると、麻痺や切断、視力低下といった心身機能・身体構造そのものを軽くするのは、医学的治療やリハビリテーションの機能訓練の役割だ。下肢麻痺の人に移動手段を提供しても、麻痺自体は変わらないよね。
医学生医学生
なるほど、支援は「できないこと」を補って活動や参加を広げるけれど、「体そのもの」を直すわけではない、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。だから誤っているのは機能障害の軽減になる。問題文が「誤っているのはどれか」を問う形式なのも、取り違えないよう注意しよう。
医学生医学生
下肢麻痺で整理すると、麻痺は治療と機能訓練、歩けないことは車椅子や装具・介助、通勤できないことは移動手段や職場環境の整備、という対応になるんですね。
ドクタードクター
素晴らしい整理だ。臨床では、患者さんの退院支援や外来診療でこの視点がとても役に立つ。病気そのものの治療に加えて、家族の介護力、介護保険や障害福祉サービス、地域のつながりといった環境因子を評価し、ソーシャルワーカーなど多職種と連携して支援を組み立てることが、患者さんの生活と予後を左右する。CBTやOSCEの医療面接で社会歴や家族背景を聞くのも、こうした支援の状況を把握するためなんだ。
医学生医学生
社会歴の聴取って形式的なものだと思っていましたが、治療方針にもつながっているんですね。
ドクタードクター
その通り。病気を診るだけでなく、生活を診る視点を持つことが大切だよ。

まとめ

社会的支援とは、家族・友人・地域・行政・医療福祉サービスなどから提供される情緒的・手段的・情報的・評価的な支援の総称で、ICFでは環境因子への働きかけに位置づけられます。社会的支援は、介助や福祉用具、移動支援、就労支援などを通じて活動制限・参加制約を軽減し、ADLやQOLを向上させ、疫学研究では死亡率の低下とも関連することが示されています。一方、麻痺や切断などの機能障害そのものを軽減するのは医学的治療やリハビリテーションの役割であり、社会的支援の直接の効果とはいえません。ICFは障害を機能障害・活動制限・参加制約の3レベルと背景因子の相互作用でとらえるモデルで、この整理ができると、退院支援や多職種連携など臨床で患者の生活全体を支える視点が身につきます。

解答・解説

正解はdです

社会的支援(social support)とは、家族・友人・地域・行政・医療福祉サービスなど、本人を取り巻く人間関係や社会資源から提供される支援の総称である。内容としては、情緒的支援(共感・励まし)、手段的支援(介助・金銭・サービス提供)、情報的支援(助言・情報提供)、評価的支援(肯定的な評価)などに分けられる。 本問は、社会的支援が障害のどの側面に作用するのかを、WHOの国際生活機能分類(ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health)の枠組みで考えると解きやすい。ICFでは障害を次の3つのレベルでとらえる。 ・機能障害(impairments):心身機能・身体構造の問題(例:脳卒中による片麻痺) ・活動制限(activity limitations):個人が課題や行為を遂行する際の困難(例:歩けない、着替えられない) ・参加制約(participation restrictions):社会生活・人生の場面へのかかわりの困難(例:通勤・就労ができない) さらにICFでは、これらが健康状態だけでなく「環境因子」「個人因子」との相互作用で決まるとされる。社会的支援は環境因子を改善する働きかけであり、病変そのものが残っていても、介助・補助具・移動手段・就労支援などを通じて活動制限や参加制約を軽くすることができる。 したがって、活動・参加の改善(ADL向上、参加制約の軽減)、それを通じたQOLの向上、さらに健康アウトカムとしての死亡率低下は社会的支援の効果として挙げられるが、身体の機能・構造の障害そのものを軽減するのは医学的治療やリハビリテーションの役割であり、社会的支援の直接の効果とはいえない。「誤っているのはどれか」を問う問題であることに注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  ADLの向上

    ADL(activities of daily living:日常生活動作)は食事・更衣・排泄・入浴・移動など日常の基本動作を指し、ICFでは「活動」のレベルに相当する。介護サービスや福祉用具の提供、住宅改修、家族の支援などによって、機能障害が残っていても実際にできる動作は増える。したがってADLの向上は社会的支援の効果として正しい。

  2. ×b.  QOLの向上

    QOL(quality of life:生活の質)の向上は社会的支援の中心的な目的そのものである。精神的な支えによる孤立感・抑うつの軽減、活動や社会参加の機会の拡大などを通じて、本人の満足度や生きがいが高まる。したがって効果として正しい。

  3. ×c.  死亡率の低下

    社会的つながりや支援が乏しい人ほど死亡率が高いことは、米国カリフォルニア州アラメダ郡の住民追跡研究(Berkmanら)をはじめ多くの疫学研究で示されている。支援によって受診・服薬の継続、栄養や衛生の確保、ストレスの緩和、ADL維持による廃用・合併症の予防などがもたらされ、結果として死亡率が低下すると考えられる。したがって効果として正しい。

  4. ○d.  機能障害の軽減

    機能障害は麻痺・切断・視力低下など心身機能や身体構造そのものの問題であり、これを軽減するのは治療やリハビリテーション(機能訓練)の役割である。社会的支援は本人を取り巻く環境を整えるものであり、例えば下肢麻痺の人に移動手段を提供しても麻痺自体は変わらない。したがって機能障害の軽減は社会的支援の効果とはいえず、本問の「誤っているもの」に該当する。

  5. ×e.  参加制約の軽減

    参加制約は就労・通学・地域活動・余暇などの社会生活への参加が妨げられている状態であり、環境因子の影響を強く受ける。移動支援、職場の合理的配慮、就労支援、バリアフリー化などの社会的支援により、機能障害が残存していても社会参加は可能になる。したがって効果として正しい。

ICF(国際生活機能分類、2001年WHO採択)

・前身のICIDH(国際障害分類、1980年)は「機能障害 → 能力障害 → 社会的不利」と一方向の因果で障害をとらえていた。 ・ICFでは中立的な用語で「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの生活機能を示し、それぞれに問題が生じた状態を機能障害・活動制限・参加制約とよぶ。 ・生活機能は健康状態と背景因子(環境因子・個人因子)が双方向に影響しあって決まるとする相互作用モデルである。

障害のレベルと対応の例(下肢麻痺の場合)

・機能障害:下肢の麻痺 → 治療・機能訓練で改善を図る ・活動制限:歩いて移動できない → 車椅子・装具・介助で補う ・参加制約:通勤・就労ができない → 移動手段の確保、職場環境の整備、就労支援

社会的支援の分類

情緒的支援、手段的支援、情報的支援、評価的支援。社会的ネットワーク(人とのつながりの量や構造)とあわせて、健康の社会的決定要因の一つとして重視される。

POINT

・障害はICFで機能障害・活動制限・参加制約の3レベルに整理される。 ・社会的支援は環境因子に働きかけ、活動制限・参加制約を軽減し、ADL・QOLを向上させ、死亡率低下にもつながる。 ・機能障害そのものは社会的支援では軽減されない(治療・リハビリテーションの対象)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。